第32話 閑話 店主面白い冒険者と出会う
◇◆ダルガン◆◇
妙に元気な奴らが店に来たと思ったが、特徴からしてティールが言う期待のルーキーとやらなんだろう。
黒髪の冴えない顔をした弱そうな男に、水色の頭をした黙ってれば美人な女。
どちらもここらじゃ見慣れない髪色をしているってんだから、確かにティールが言うとおり来たら分かるわな。
しかし、こいつらが本当に色々とやらかしているランク詐欺のルーキーなのだろうか。
俺にはどう見ても見た目通り、精々薬草採取しか出来なさそうな連中にしかみえねーのだが……。
それでも男が魔術師だというのであればわかるんだ。
でもよ、魔術用の杖を選んでいるのは相棒の女だけ。
男の方は先ほどからヒョイヒョイと長剣を持っては戻しを繰り返している。
いやいやいや……。
確かに中には軽魔鉄鋼や軽銀で作られた武器も混じってるがよ、それでも長剣だぞ? 気軽に片手で振り回せる物じゃねえ。
何が気に入らねえのか、さっきから武器を握っては戻し、振っては戻しを繰り返している。
と、女の方は選び終わったようだな。
ほう、トレントの魔杖か。こいつぁ多少値は張るが、魔力効率は勿論のこと、近接武器としても優れた一品だ。
魔術師の連中は魔術を放つ事しか考えねえ奴が多いからな。
詠唱が終わる前に懐に潜り込まれたら何も出来なくなっちまう。
それを解決するのがこの杖なんだが、この良さに気づける奴はそういねえ……。
そもそも見てくれが安っぽいこの杖は、握られることすら稀なんだが、姉ちゃん以外と良い勘してるじゃねえか。
『良い杖みたいだね』
と、男が満足げに言っているのが聞こえた。
まさかひと目見ただけで杖の良さを見抜いたというのか?
思わず気になり、男に『分かるのか?』と聞いてみて驚いたね。スラスラと杖の特性を答えやがった。
こいつ……この兄ちゃん、何者だ? とんだ目利きじゃねえか。
じゃあ、なんだ? さっきから店の武器を不満げに触ってたのはそのお眼鏡にかかる武器がねえからって事か?
……なんだか少し腹が立つが……確かに店に出してる分はそれなりの武器だけだからな。
身の丈に合わない武器は手に余り、結果として破滅を招くこととなる。
だからいくつかの業物は裏にしまい込んであるんだが……ひとつだけ表に出したままにしてるやつがある。
北の海域にぽつんと存在する離島、そこに住む鬼人族が使う珍しい刀と呼ばれる武器。
いや、刀自体は珍しいがヒュームや獣人でも使ってる連中はいる。
オーガが好んで使うのは刀は刀でも大太刀。
通常の刀に比べ、長く作られているのが特徴だが、厚く作られた刀身はやたらに重く、長身で豪腕なオーガの膂力無くして振ることは敵わない。
さらにそこに置いてあるのは重魔鉄鋼で作られた特注品だ。
旅のオーガを泊めてやった際に『儂にはもうこれを振れぬ。宿賃代わりに受け取ってくれるとありがたい』と無理矢理押しつけられたものだが、やたらめたらと重てえから動かすのも嫌になってそのままにしてるんだよなあ……。
いつからか、アレは冒険者共が面白半分で力試しに使うようになってたが、当然誰も振り回すことは勿論のこと、持ち上げることすら出来ねえ。
なんだか忍びなくて掃除だけはしてやってたが……あの兄ちゃん、どうやら興味を示したようだな。
『いくらだ』
持ちもしねえでよく言いやがるぜ。金を払った後に持てねえと知ったらどんな顔しやがるんだろうな?
遠回しにお勧めはしないぞと言ってみたが、どうにも聞きやがらねえ。
だったら振って見やがれ、出来たらくれてやると言ってみたら……なんてこった、軽々と振り回してやがる。
なるほど、店の武器がお眼鏡に叶わなかったわけだ。
どっからそんな力が出てるのかはわからねえが、まさかあの大太刀が武器として使われるのを見る日が来るたぁなあ……。
この大太刀は出すとこ出しゃあ金貨3枚程度は軽くつくんだが……この兄ちゃんにならただでくれてやっても後悔はねえ。
あの日、ふらりと現れたオーガが何を思って大太刀を託して行ったのかはわからねえが、もしかしたら……いつかこの店に兄ちゃん見てえな強者が現れ、必要とする事を知っていたのかも知れねえな。
まったく、これだからこの商売はやめらんねえわ。
あの大太刀を使った英雄譚を聞ける日もそう遠くないのかも知れねえなあ……って!
「おい、ちょっと待てよ!」
俺としたことがすっかり雰囲気に飲まれてお代を貰いそびれてたわ!
ったく、兄ちゃんもわざとじゃねえみてえだが……よりによって連れの姉ちゃんまで忘れて帰ることねえだろうよ……。




