119話 やるしかねえだろ戦力強化をよ
多数の重傷者が出てしまったが、不幸中の幸い、死者はゼロでこちらの大勝利と言えよう……なんて言っちゃうとあれなんだけれども、実際そんな感じなんだから良いだろう?
最も回復術はミーくんしか使えねえし、ユーリのポーションがなければ術を受ける前に死んじゃってたんだろうから、あんまり軽く言えたことじゃあないけどな。
とは言え、こちらの損害はゼロ! ゼロなんだよ! 人員も全員フル回復済みだし、村もなんだかんだでミーくんの加護のおかげで無傷なわけで、完全勝利といって良いだろうよ。
しかし、それでも気がかりはある。応援として来てくれた冒険者達、彼らの存在だ。
いや、別に彼らの素行が悪いとか、何かが気に入らないとかそういうことじゃあない。 問題なのは彼らのステータス、加護がない彼らには今後の戦いが非常にキツい物になる事は想像に容易い。
今回はまだ敵の段階が上がることはなかったが、俺の予想では次回こそ、確実に来るであろう第3ウェーブこそ、さらに段階が上がった魔物が現れるのではないかと思うのだ。
これは単なる予想だし、外れてくれれば、もう魔物の襲撃がなければ良いなと思うのだけれども、これまで放置してきたという事を考えればそうはならんだろう。
今回の戦いを思い返してみれば、これまでゴッブやオーク達が立っていた位置にヒッグ・ギッガやマンティコアが配置されていたわけだ。
まあ、彼らが何かしらの意思でそうなったとは思わんが、本来ならば強者に押されて現れる位置に彼らが居たわけですよ。
となれば、次回は彼ら、ヒッグ・ギッガ等を森から追い出した連中が押し出されて来るかも知れない。
今回応援に来てくださった冒険者達は貴重なゴールドランクや、シルバーでもゴールドに届くような連中で、たまにティールさんが零していたような甘ったれた連中ではなく、戦いこそ我が身であると考えているような、戦闘民族と言うか、ガチ勢というか……いわゆる『最近の若いやつ』じゃない、鍛えている冒険者達だ。
故に、ゴッブの強靭な外皮に負けること無く戦うことが出来、十分以上の戦果を挙げられたわけなのだが、これがマンティコアやヒッグ・ギッガ相手となればまた話は別であるし、更にその上位的存在となれば手も足も出ない状況になるのではないかと思っている。
マティアの奴ならば、それでもなんとかなりそうな気がして、それはそれで複雑な気分なのだが。
応援に来てくれた冒険者達のスペックを簡単に言うのであれば、LV10の狩人達と等しいくらいではないかと思う。
今の狩人たちはLVが50に届くかというところまで上がっていて、単体でもゴブをねじ伏せることが可能であり、ヒッグ・ギッガやマンティコアもパーティであれば討伐可能となっている。
集まってくれた冒険者の数は総勢38名。
彼らが全て狩人達と等しい、もしくは近い力をつけてくれたのであれば……根本の解決まで持ち込めるのではないか? そう思うのだ。
となれば……後は俺とミーくんの覚悟次第だ。
「というわけでだね、ミー君。二人きりの会議というわけなんだが」
「今日の議題は何かな? 明日のお昼ごはんについて?」
「だったら平和でいいんだけどね……加護のお話だよ」
冒険者達を強くする――それは簡単だ。加護の力で強化された鍛冶師やら某付与術氏やらが作った武器を装備させ、ミーくんの加護をかければおしまいなのだから。
しかし、その加護というものが問題だ。
「冒険者の人たちに加護を与えるっていうお話だよね? 私は良いと思うよ」
「そう言ってくれると思ったけれど、問題は相手が冒険者だってところだよ」
「冒険者だとなにかあったっけ……あっ、アヤさんとのお話かあ」
そうなのである。
冒険者に加護を与えるという話はアヤさんに任せる方向で話が進んでいるわけで、果たして我々が勝手にやって良いものなのだろうかと、悩ましい問題だ。
いずれ世界中の冒険者達に加護を与える予定ではあるのだが、アヤさんが考えている段取りというものは当然在るだろう。
それを狂わせるような事を今からしようとしているわけなので、少々気後れする。
「しょうがないと思うよ? 緊急時だもん。大丈夫! 私も一緒に怒られてあげるからさ、大丈夫だよ、ナツくん」
うおお……ミー君に母性を感じる……!
つうかミー君って神様じゃんか。この世界の管理者で、一番偉い存在じゃんか。
ミー君が良いって言ってるんだから良いんだよ! そうだ、アヤさんなんて!
アヤさんなんて怖く……こえぇ……。
いやまあ、流石に? 今回は事情が事情だし? 怒るようなことは無いと思うけど……ただ、無いとは思うけれど、今回加護を与える冒険者達の中から後々やらかす奴が現れちまったら……それはちょっと流石に事だしぃ……万が一悪堕ちした時……責任をとれないっていうかぁ……。
いやだってアヤさんに任せたのはその辺の理由もあるんだよ。冒険者ギルドと加護の付与を紐付けしてしまえば、悪用しているやつが何処の誰かを判別出来るようになり、対策のしようがあるわけだ。
……まてよ。
ここにギルドの人間が居るんだったわ……。
あのネコちゃん、どういう訳か覚醒してやる気マンになっているし、今いる連中の名前や素性を把握して、後からアヤさんに報告する――という方法を取れば良いような気もする……。
ギルド本部で調整中であろう案件を末端の末端のニャンコたんにお漏らししちゃう感じになるのはまずいような気もするけれど……今は有事である。
後のことは後で、ギルドのことはギルドの奴等で解決してもらおう! わはは!
そこからの我々は行動が早かった。
まず、マティアを呼び出し、今回駆けつけてきてくれた冒険者達の情報を把握できているかの確認をした。
「緊急クエストとして依頼を発注したんだからぁ……当たり前にゃあ」
戦闘が終わって気が抜けたのか、いつもどおりになんだか気怠げキャラで、そう答えてくれた。
何かが起きてしまった時のために、名簿を用意していると自慢気に言ってくださったため、それを利用させてもらおうと――
「それは好都合。これから冒険者達にちょっとした事を提案しようと思うんだが、それに乗ってくれた連中を名簿で管理しといてくれよ」
――なんてお願いした所、すっげえ嫌そうな顔でお断りされてしまった。
「にゃんでそんな面倒くさそうなことにまきこむにゃ……それにこの名簿は一応機密書類にゃよ? いくらニャツが冒険者だとは言えギルドの人間ではないあんたに間接的とは言え使わせられるわけがないにゃあ」
至極もっともである。
当たり前、当たり前なんだけれど、今は有事、ダメでもやってもらわなければいけない。 ギルドの事情だというのであれば、有効的な交渉材料があるんだ。
できれば使いたくなかったが……仕方がないな。
「マティアさあ、ギルド職員になるために研修受けてんだよなあ?」
「あったりまえにゃあ。思い出したくないから話さないけどにゃあ? 一体何の話にゃ?」
「年齢的にさあ、マミさんと同期かなあって思ったんでね。研修で顔を合わせてないかなって」
「ゲッ! マ、ママママミって、もしかしてロッパーかにゃ?」
「そう。マミ・リプラ・ロッパー。俺達掃除屋の担当職員なんだよ」
「た、たた担当職員……? ロ、ロロロロッパーと顔見知りにゃあ?」
「その様子なら知ってそうだな……何があったかは聞かねえけど。
そして我々掃除屋は……その母親、本部のアヤさんとも付き合いがあんだよなあ……」
「ぎにゃっ!? ぼ、ぼぼぼ……ヴォ……ヴォーパル・バニーとまで付き合いが……? 終わったにゃ……」
「おっ、疑わねえんだな? いつもみたいに嘘にゃ! って引っかかってこねえんだ?」
「し、信じたくにゃいのはそうにゃけど……ロッパーとヴォーパル・バニーが親子だって知ってる奴はあんまいにゃいはずにゃ……」
「ありゃ、これって秘密だったりすんの?」
「別にそんな事はにゃいけど……ロッパーは親の力を振りかざすような奴じゃないからにゃ、研修の合間の雑談にゃんかでちらっと話される程度のネタにゃ……」
……しかし、さっきからこいつ、アヤさんのことを『ヴォーパル・バニー』って呼んでやがるな……クリティカルでスッパスッパ首を狩る可愛くて怖いウサギさんの事だったと記憶してるが……これ、そう呼ばれているのが本人にバレたらおもしれえことになりそ……。
「でまあ、話を戻すけれどさ。俺がこれからやろうとしてるのはアヤさんと一緒に進めているネタでな? 彼女が関わっているっつーことで、当然ギルド本部で進めているネタなわけだ。
だもんで、外部の人間に手伝わせるわけにはいかねえし、ギルドでもある程度信用できる人物……マティアみてえな奴じゃねえと頼めねえなって」
「あ、あたしみたいにゃ人物……!? 本部の人間とやるようなお仕事をあたしに!? ……て、ていうか、ニャツ! お前本当ににゃにものなんにゃ!?」
「だから最初に言っただろ……俺は冒険者ギルドメルフ支部所属、冒険者パーティ掃除屋のナツ、ゴールドランク冒険者さ」




