118話 珍しく決めるとろくなことがねえ!
「あばばばばばばば! すいません! 調子に乗りましたアアア!! 俺にゃあせいぜい10人分が限界でした! うおおおおおおお!!!!」
話は半日前に遡る。
昨日、決意を新たにした俺は何か出来ることはないかと運搬作業の手伝いを買って出て――違うんですよ、別に運搬スキルが生えないかなとか、俺も【運搬物収納】がやっぱ欲しいなあとかちょっと思っちゃったとか全然ないんですよ。
本当ですよ?
あ、運搬スキルは芽生えませんでした。
ごほん。まあ、兎に角そうやって朝から元気に村で一汗流し、なんだか日課になりつつ在る、ミーくんとのランチに舌鼓をうっていたんですわ。
「今日はホットドッグかー。うん、美味しい! ミーくんもすっかり料理が上手くなったな」
「えっへへ、マリリさんから『いつでも嫁に行けるよ』って言われちゃったよ」
「そ、そうかい」
「う、うん」
なんて、甘酸っぱい空気を醸し出し、微笑ましそうに見られたり、舌打ちをされたりと……まあ、ほんとにいつもどおりの呑気な昼下がりって奴を演出していたんだよ。
けれどまあ、フラグってやつ? 昨日の決意がフラグになっちまったのかな。
鳴ったんですわ、鐘が。
カンカンカンカンカン! ――と、けたたましく鳴るのは危険を知らせる鐘の音、いわゆる警報だ。
「来たぞー! 西の方角、数は……すげえ大量だ! 魔物の群れがまたきたぞおおお!」
見張り塔から村人へ、村人からまた村人へとその報告が広まり、武器を振れるものは持ち場へ、そうでないものは集会場へと急ぎ移動した。
「ナツくん! 私達も行こう!」
「ああ、じゃあ手はず通りに頑張ろうか。ミー君、気をつけてな」
「うん! ナツくんも! 晩ごはん、楽しみだね!」
「そうだな! うーし! たくさんコロンを稼いでこようぜ!」
「うん! じゃ、また後でね!」
ミーくんと別れ、俺も持ち場である最前線へと向かった。
俺とミーくんの役割は遊撃だ。特に俺は最前線で少しでも敵の数を減らす重要な役割で、当然ながら射線に入ってしまう友軍の固定兵器から放たれる矢や岩などを避けながら魔物を屠るという、一見すると無茶な役割なのだが……まあ、俺ならなんとか行けるだろうと思ってる。
ミー君はもう少し内側、結界周辺で狩人達に混じっての遊撃だ。
彼女にはもう一つ大切な役割があって……と、言ってる場合じゃないな!
予想通り、今回の群れにはゴッブやオークの姿はない。連中は前回で打ち止めになったか、もしくは諦めてブルブル震えてやがるかのどちらかだ。
代わりに今回先鋒を務めているのがヒッグ・ギッガ隊とマンティコア隊。
おいおい、マンティコアは群れにならねえボッチ魔獣じゃなかったのか? おっさん、友達居たんだなあ……なんて冗談言ってる場合じゃねえや。
コイツラならば俺はまだ余裕で屠れるが、狩人たちはちいっと苦戦する相手だ。
少しでも俺が減らしてやらねえとな!
「おるあああああ! 行くぜえ! 一騎当千じゃあああ!!!」
俺の気合たっぷりの掛け声が届いたのかそうじゃないのか。けれど、それを合図にするかのように防壁からクソデカ矢やアホデカ岩等が魔物の群れをめがけて降り注ぐ。
それらは予想以上に効果を発揮し、食らった魔物共は気持ちよくホイホイと地に伏せていく。
俺も負けじと闇烏を振り、1体、また1体と片付ける。
時折ちらりと村の方を見てみれば、ミーくんや狩人たちがバサリバサリと敵を斬り伏せているのが窺える。
この様子なら今回もまた楽勝かな……なんて思っちゃいけなかったんだよな。
ここで冒頭に戻るのだ。
「あばばばばばばば! いくらなんでも多すぎんだってばよおおお! いっくらクソザコナメクジでも、こんだけいればきついって! くっそ、やめろ! まとわりつくな! 誰だ今ケツ揉んだオークは!? メスのオークとかいわねえよねえええええ!?」
打ち止めといったな? あれは気のせいだ。
小一時間ほどヒッグ・ギッガやマンティコア等の大型種を屠っていると、村からカンカンカンと鐘の音が鳴り響いた。
今度は何だと顔を上げると、東の方向からバタバタと砂煙を上げて大量のゴッブとオークがやってくる。
奴らめ、まさかそんな所から! ――と、気づいてしまった。
東の方向にはリエノがある……いや、別にリエノが落ちたとかそういうわけじゃあないだろう。
東の方向といえば、ここに来るまでの間、俺トミーくんが散々荒らしたポイントだ。
我々はいわばゴッブ達にとって天敵と言える存在だ。
きっとゴッブ達は我々から逃げ、森の西側……ククリ村周辺にやってきた。
しかし、浅場には既にヒッグ・ギッガ達が多数ひしめいていて……それに追い払われるように村へ現れた……。
村が襲われる原因を作ったのは結局我々……という事はまあ、置いといてだ。
そんな我々がゴッブ達を追い払ったわけだよ、この間。
逃げ帰ったゴッブ達は『ゲ、ゲエ! アイツラ今度はこっちに!?』と、思ったに違いない。魔物とは言え、多少の知恵は在るからな。
『じゃあ、今なら西に行けば安全ゴブ!』
なんて思ったかどうかは知らねえが、今度は逆に西に逃げ帰ったんじゃなかろうか。
すると、そっちにゃおっさんが『何しに来やがった』と待ち構えているわけだ。
『げ、げえ! オークの旦那! これには深いわけが!』
なんて言ったかどうかはまあ、わからんが……哀れゴッブはオークに追われるようにして再びこちらに逃げ帰ってきたんじゃねえかなって思う。
だってゴッブを追っかけるオークおじさんがチラホラと混じってたし……。
しかし、なんて迷惑なタイミング何だ! さすがの俺だってさあ、1時間も無双めいた動きをしてれば疲れるんだよ!?
その疲れたタイミングでアホほどゴッブやオークのおっさんが現れてみろ! 最前にいる俺はこうしてもみくちゃにされて……ダメージはあんまりねえけど、なんか気持ち悪いし、何より……。
村がやべえだろ!
ようやくゴッブ共の抱擁を振りほどき、村の方をみりゃあ、案の定大物たちに取り囲まれている。
ミーくんの魔術と狩人たちの攻撃でなんとかなっているが、懐に潜り込まれちゃバリスタなんかは使えねえ。
今直ぐ駆けつけて加勢してやりてえ所だが、こっちはこっちで溢れんばかりのゴッブ達!
だったらなるたけ急いで片付けるしかねえぜ! なんて気合を入れたタイミングでまた地響きだよ! 今度は何だ? 熊さんか? クソデカカブトムシか!? おいおい勘弁してくれよ……と、泣きそうになったけれど、直ぐにそれは嬉しい感情に置き換わった。
「おいおい……まじかよ、ありゃあ馬車の群れじゃねえか!」
東の方向から唸りを上げて向かってくるのは6台ほどの馬車。
一体何が起きてるんだと思ったが、先頭を走る馬に乗っているテッツの姿を見てその正体を察した。
応援だ……。
リエノから応援が来たんだ!
間もなく停止した馬車からは、多数の冒険者が駆け下り、それぞれが自慢の武器を片手にゴッブ達に立ち向かっていった。
しかし……加護を得ていない冒険者達が来たところで……と、ちょっぴり思ってしまったのだけれども、それは誤りであった。
俺は冒険者達をなめていた。
「こいつらはかてぇだけだ! 気を緩めないで連携すれば行けるぞ!」
「力自慢は前に出ろ! 斬れねえなら叩き潰せえ!」
ある者たちは巧みな連携で、ある者たちは力任せに。俺の想像以上の戦力としてゴブ達を次々に屠っていった。
「これは……これならば……いけるぞ!」
冒険者達の活躍になんだか疲れがすっとび、俺も闇烏を手にゴッブ達を血煙に変えていく。今更素材だコロンだなんていってられっか!
1体、10体、100体とゴッブを切り飛ばし、続いて大型種も1体、また1体と叩き潰していく。
「ナツくん!」
「ああ、ミー君無事だったか! おおい! みんな! リエノから応援が来たぞ! 後少しだ! 気合い入れろ!」
「「「「うおおおおおおお!!!」」」」
村前に集まる魔物を蹴散らし、今度は馬車の元へと向かう。
冒険者達が素晴らしい戦力であることはわかったが、流石にこの数では押されてしまうかも知れないからな。
ゴッブを斬ったり蹴り飛ばしたりしながら馬車へと急ぐと、テッツ少年までもが弓を構えて戦いに参加していた。
「テッツ!」
「ナツさん! 遅くなってごめん!」
「何いってんだ! ありがとうよ!」
「ううん! お礼はあの人にも言ってあげて! 冒険者達を集めてくれたんだ!」
テッツ少年が視線を向けた方向を見ると、そこには両手にダガーを握ったマティアが踊るようにしてゴッブを斬り飛ばしていた。
「うおおお……ネコちゃん、あんたなかなかやるじゃないの……」
「ね、ネコちゃんっていうにゃ! あったりまえにゃ! これでもギルド職員にゃんだから!」
ゴッブの肌は固く、普通の冒険者や狩人じゃあ傷一つ付けられねえはずなのに……このマティアとか言うクソネコ……いや、ネコちゃんは普通のゴブゴブの如く切り刻んでいる。
これでもギルド職員……か。
そういやマミさんやアヤさんって加護無しでも化け物見てえな人たちだったもんな……きっと冒険者ギルドの職員ってえのは、高度な戦闘力を持つ者でなければなれないヤバい職業なのかも知れねえ……。
「いや、ありがとよマティア! 良いとこあるじゃん頼りにしちゃうぜ! うっし、俺も負けちゃいられねえ! 行くぜゴブゴブ! テッツ、援護頼むぜ!」
「はい! ナツさん!」
「う、うるさいにゃ! 良いからさっさと戦うにゃ!」
そして――
冒険者達の応援によりなんとか魔物の群れを凌ぐ事に成功し、本日の防衛作戦はひとまずの終りを迎えたのであった。




