117話 備えあれば嬉しいな
魔物の襲撃――かっこよく言えばスタンピードから1週間が経過した。
あれからもチョイチョイと小さな波が押し寄せてきたが、初回と比べりゃ圧倒的に数が少なく、俺と村の戦力で簡単に対処することが出来た。
それは狩人たちの力が上昇したってのもあるけれど、何より村全体の防衛力が向上したことが大きい。
村をぐるりと囲む頑丈過ぎるほどに頑丈な防壁。
大工さんや鉱夫のおっさん達、それに万能錬金付与術師ユーリという劇薬が加わって組み上げたよくわからん素材で作られたやりすぎ感溢れる代物。
つってもどうせイベント的に来るだろうスタンピード第2ウェーブから守らなきゃならねーんだ。頑丈であれば在るほど言いだろって話で。
で、村の復興を手伝っていて、なんとも納得できねーことがあった。
それは防壁を始めとして、今回の防衛力増強のために使った素材の運搬方法だ。
鉱夫や木樵の一部に【運搬】が芽生えた連中が居て、運搬に関して色々と融通が利く様になったってのは知ってたんですがね……。
ありゃあ3日くらい前だったかな。ミーくんと二人、広場に腰掛けてサンドイッチをむしゃりむしゃりとやってたんだ。
ミーくんが料理の師であるマリリさんと二人で作ったそれは、ハムサンドもたまごサンドも、どれもこれもが美味しくって、おかずにと入っていた唐揚げっぽい料理もめちゃくちゃ旨くて……なんとも、幸せとはこういう事かと思いながら、汗水たらして働く大工さん達を応援しながらミーくんの愛情を堪能していたんだよ。
そこに現れたのが一人の青年だ。名はサッスと言ったかな。
『資材運んできましたぜー』
なんて、ニコニコとした顔で現場のオッサン共に伝えててさ、ああ、先触れに来たのかなと。この後えっちらおっちらと台車かなんかを引いた男どもがくるのかなーなんて、指ついたマヨをぺろりと舐めながら見ていたんだが……。
『おう、じゃあそこに出してくんな』
『うっす!』
なんて、気軽なやり取りの後にババババーンと、突如として目の前に巨石が現れたんだよ。
ズズン、ズズンと音を立てて現れる巨石達。
一体何事だ!? なんて野暮なことを言う俺じゃないよ? 真横で口をあんぐり開けるミー君に思わず聞いちゃったよ。
「な、なあ……ミー君……あれって、アイテムボックス……だよね? い、いつ実装したの?」
震える俺の声を聞いて再起動したミー君は首をブンブンと大きく横に振ってアワアワとそれに答える。
「わ、私は知らないよ! ま、まさかお姉ちゃんが!? ――ううん、違う。ストーレジ機能はまだアンロックされたままだよ……」
「じゃ、じゃあアレは一体……!?」
と、謎が謎を呼びそうな空気が流れた時、つーか鑑定すりゃいいじゃんかと思い出したので、サッス青年を鑑定してみた所【運搬物収納】というスキルが芽生えているのが確認できた。
どうやらそれは運搬の派生スキルのようで、日々えっちらおっちらと荷運びを続けた察す少年へのご褒美のごとく芽生えた上位スキルであったのだ。
そんな物を見てしまったのだから、俺も毎日荷運びでもしようかな? なんて思ったんだけど……。
『でもあれ、自分の物は入れられないスキルみたいだよ』
と、ミー君から言われてしまった。どういうこっちゃとスキルの説明をきちんと読んでみると……。
『自分の所有物以外限定で、ある地点からある地点までの運搬に係る物資であると認められる物のみ収納が可能』
と出た。うまくトンチを効かせられれば、どうにか誤魔化して便利に使えそうな気が線でもなかったけれど、ミー君から『もうちょっとだけ頑張ればストレージ取れそうだよ』と、嬉しい方向があったため、黙々と岩塊や大木を運ぶ俺の姿が――という事態にはならなかったのであった。
それでもちょっぴりサッス青年に嫉妬しちゃったりしたんだけどさ、彼の存在は村の強化にとって大きくてな。
資材やら素材やら食材やらを大小問わずたんまりとあっちへこっちへと持ち運べるのだから、捗るったらなかったよ。
他にも、武器や防具も大量にストックされたほか、防壁上にバリスタやカタパルトが設置され、いよいよ持って無敵の村が生まれつつあった……のだけれども。
「人だけはどうしようもならねえわな」
「人体錬成……ためしてみる?」
「ユーリは引っ込んでろ!」
そう、人が足らない。武器や防具が大量にあってもそれを使う人が圧倒的に足らないのだ。
有事に慣れば大工やら炭鉱夫やらのおっさんどもも武器を片手に戦う手はずにはなっているけれど、それでもせいぜい20人足らず。
狩人共を足した所で30人。それに俺とミーくんを足したものが今この村における戦える人間の数である。
そりゃさ、狩人たちは見違えるほどに強くなったし、村人たちだってスキルやレベルシステムのお陰でそこらの村人Aなんかよりも大分戦力になるさ。
しかし、それでも魔物の数はあまりにも多すぎる。
ミーくんの結界で押さえつつ、俺があっちへこっちへと飛んで戦うという方法でいけばとも思うけれど、恐らくそれはもうすぐ使えなくなってしまう。
これまで戦闘シーンを簡単にしすぎていた、我らの愛すべき結界が通用しない相手が現れるのでは無いか……そう思わせられる事態が直ぐそこまで来ていると気付かされてしまったのだ。
ほら、この間さ、村に駆けつけた後に結界に張り付く魔物をワシワシと倒して回ったでしょう?
アレって実はおかしいんだよ。
その時の状況がおかしいのに気づいたのは後になってからだったけれど、これまでの魔物達はミーくんの結界に張り付くなんてことは出来なかったんだ。
パチンと弾かれ、追いやられてしまう。それがミーくんの優しい結界だ。
それがゴッブやオークは弾かれず張り付いたまま、恨めしそうに中を見ていたんだよ。
そしてそれ以上にヤバいのがマンティコア。
あのおっさん、結界にめり込んでジッタバッタしてたんだけれども……結界を力づくで凹ませてるんだぞ? ヤバくない?
無印ゴブゴブ達は結界に触ることすら出来ない、上位ゴッブやオークは結界に張り付くことが出来る。そしてマンティコアは凹ませることが出来てしまう。
狩られずに放置されていた魔物が弱い順にどんどん溢れ出してきているのが今の状態。 恐らく第2、第3ウェーブとして今後も暫くの間は魔物達が溢れ出てくるはずであり、それらは徐々に強くなっていくんじゃないかと思う。
となるとミーくんの結界がヤバい。
そりゃミー君は女神様だ。時間を限定したり、範囲を狭くしたりすりゃあどんな攻撃からも守れる頑丈な結界を張れるんじゃねえかと思う。
けれど、どちらにせよ、村全域を守り切るってのは無理がある。
なのでこうして村の防御力を上げ、戦力を向上させているのだけれども……兵の数が明らかに足りなすぎるんだよなあ……。
ともあれ……だ。
無いものは無い。無い物ねだりをしていても仕方がないのだ。
幸い、俺にはオーガ呼ばわりされるほどの、人外染みた力がある……らしい。
そりゃそうだ。みんなより先にスキルシステムなんてものが芽生えて、表には見えてねえけど、スキルレベルってのが上がってるはず……だからな。
俺は勇者でも魔王でも聖女……は違うか。大賢者でもねえけどさ、そんな俺でもやれることはある。
足りねえなら……俺がその分動きゃ良い。
来なよ魔物共、俺が100人……いや、1万人分の動きを見せてやるぜ!




