116話 防衛大作戦
「じゃ、みんな集まってー 行くよー? えーい!」
「おおお……傷が!」
「ありがとう、ミューラさん!」
「ついでに腰の痛みも引いちまったよ! 凄いねミューラちゃん!」
集会場の片隅に歓喜の声が響き渡る。ミー君のエリアヒール的なアレにより、怪我をした住人たちが次々と完治しているからだ。
ユーリの薬のおかげもあって死者は出ていなかったが、それでも回復に時間がかかる程に結構な傷を負った重傷者は何人か出てしまっていた。
しかし、そんな住人達もミー君のヒールであっさり回復。
先ほどまでの悲壮感漂う集会場はどこへやら。まだ脅威が去ったわけではないけれど、ほんのりと明るい空気になりつつあった。
「さて、さっき説明した通り今はミー君の結界によって村が保護されている。
なので村の外に出なけりゃ安全と言える……んだが、いつまでもそうはいってらんねえ。
つーわけで、今後の対策会議を開こうと思うが……いいよね?」
パンパンと手を叩き、皆の視線を集めてから提案してみれば、誰からも不満の声は上がらなかった。むしろ――
「つーか、そのために戻ってきてくれたんだろ!」
「わりいけど頼りにさせて貰うぜ、ナツさん!」
「ナツさんとミューラさんが居れば勝ったようなもんだぜ! なあ、みんな!」
「「「おおおお!」」」
――なんてやたらと歓迎されているようでありました。
実際俺達は謎の力で妙に強いからな。余程下手を打たない限りは防衛出来るこったろうさ。
けれど、その次、その後、未来を見据えた長期にわたる村の防衛を考えなきゃならん。 まず、その一歩として……復興だな。
「魔物が結界で入れねえ今のうちに出来るだけ村を立て直すんだ。つっても心配すんな、ミー君が村に居るうちは結界が破られる事は無い。落ち着いて丁寧に防壁の修復などに当たってくれ」
――と、まずは目立って直さねばならぬ箇所、出来れば強化して欲しい箇所として防壁を上げた。何はともあれ村に入られない事が第一だからね。
なるべく魔物が入り込まないよう、頑丈で強固な防壁を構築して貰いたい。
そして、其れに続けるように各生産職の連中に武器や防具の強化を申請した。
それを聞いて目を輝かせたのが例の錬金っ娘、ユーリだ。
てっきりポーションをアホほど作るよ! なんて発言をするものだとばかり思ったのだが、そうではなかった。
「ふふふ。実は私、付与術という新たな領域に足を踏み入れたのであります。これは我が師、エミル・ネイツ氏ですらまだ開いていない境地……っ! このスキルがあれば――」
割愛。
なんでも、狩人共が様々な素材を持ち帰るようになり、水を得た魚のようにウッキウキで日々錬金術に精を出していたところポコッと芽生えたらしいのだが……その切っ掛けというのがまた狂っている。
なんでも『軽魔鉄鋼とゴッブの皮、それに上級ポーションをいれて錬金をしたら頑丈な身体になる薬が出来るのでは?』なんて、酷い発想から新薬を作ろうとしたところ、失敗作の良くわからない金属が錬成されてしまったらしい。
それでも挫けず、しつこく新薬の錬金に励んでいたところ……ある日ポコッと付与術が芽生えたと。
それはなにか魔術的に味方にかけてバフるようなものではなく、錬金の要領で武器に魔物素材から何かしらの特性を付与出来ると言うなかなか便利そうなスキルであった。
今までも密かに自分の持ち物に付与術をかけ、実験を繰り返していたらしいのだが、今回の件で広くデータ収集が出来ると大喜び。
それを聞いた狩人を初めとした戦闘員達は顔をしかめていたが、切れ味上昇や打撃耐性、軽量化……等々、俺からしたらベッタベタであり、彼らからすれば恐ろしく画期的な効果を聞いた途端態度が急変。
やんややんやとユーリをもてはやし始め、其れには流石のユーリもてれてれと乙女らしい表情ではにかんでいた。
普段からそういう顔をしていれば、結構モテると思いますよ。
……というわけで、武器防具作成グループにユーリを入れ、新たな装備品の作成を始めて貰う事にしたのだが、大工さんのうち何人かにも其れに加わって貰う事にした。
防壁の修繕・強化や家の修復など忙しいのにと嫌な顔をされてしまい、それもそうなんだけどと思ったけれど、デカい素材を加工するのに大工さんのスキルが生きるからな。
彼らにお願いしたのは固定型の迎撃兵器だ。
いわゆるバリスタとカタパルトである。
わーっと敵が群れでやってきた時にさ、つゆ払い的にわっとかましたら少しでも数を減らせるじゃん。
それに、空を飛ぶ魔物が現れないとも限らない。魔術師がいないこの村において頼りになるのは弓だけになるけれど、高所を狙える設計のバリスタもあればさらに心強い事だろうさ。
そんなわけで、畑違いかも知れないけれど、大工さん数名にも協力をして貰い、大型兵器の制作をして貰う事にしたのだ。
俺達の仕事じゃねえとか言われるかと思ったんだけど、
『攻城兵器も防壁に置くならそれの付属品みてえなもんだ。だったら俺らの領分だわな』と勝手に納得してくれたので助かった。
さて……俺もこうしちゃ居られねえ。軽く肩慣らしでもしてくっかね。
「じゃ、ちょっくら俺は掃除してくっからよ。ガツ達は取りあえず身体休ませときな」
「あん? 掃除だぁ……ってそう言う事かよ! ナツさん水くせえぜ、俺も行くよ」
「黙って休んでろ! ミー君の術で身体は治ってっかも知れねえが、心まではそうはいかねえ。戦いも長引けば参っちまうだろ? 今は黙って休んどけ」
「うっ……確かにここの所ろくに寝てねえからな……言われてみれば万全じゃねえや」
「そうだろそうだろ。他にも戦った連中に声かけて今は休んどけ! 明日からまた忙しくなんだからよ!」
言えば必ず『ついて行く』と言うと思ったんだよな。けど素直に引き下がってくれて良かった。こいつらの顔色、ひでえってもんじゃ無かったからな。
この村の戦力つってもたかが知れている。大方少人数でかわりばんこに寝ながら戦い続けたんだろ? そんな連中に働かせられるかってんだ。
レベルが上がって常人離れして来てんだろうけどさあ、心ってのはそう簡単には強くならないものさ。
その点俺は……その、十分に充電させて貰ったからな!
女神様から直に加護をもらったっつうかなんつうか……くそ、自分で言ってて恥ずかしくなってきた!
うおおおおおお! 恥ずかしさを霧散させるには身体を動かすに限る!
結界の縁までダッシュで来てみれば……おーおー、なかなかにキモい有様だ。
見えない壁をどうにかして抜けてやろうと、結界に張り付いては弾き返されを繰り返したら。つうか結界に触るとあんな風になるんだな。
その様子があんまりにもキモいもんだから、早々と修復に来ている大工さん達がおっかなびっくり作業してらあな。
「見ての通りの有様だが、すぐに掃除するからちょっと待っててくれよな」
「掃除? そりゃ一体……」
こてんと可愛らしく首を傾げる大工のおっさんを視界の隅に捕らえながら結界を抜ける。
魔物共は余程結界にストレスをためていたのだろうな。暢気な顔でそれを抜けて現れた俺を見て舌なめずりをしているようだぜ。
「Graaaaaaaa!」
面白みの無い咆哮を上げ、ゴブやらオークやらがワラワラと俺に向かってくる。
そう慌てんなよ。直ぐに血煙……は大工さん達が引いちゃうから、コツンとやってやっからよ!
「いくぜコロン共ぉおおおおお!!」
10コロン! お前は100コロン! そっちは220コロンくらいか?
オラオラどうした! さっきまでの勢いはどうした! おう、良いぞお前は400コロンにならあな!
クセなんすよ。魔物斃す時、頭の中でいくらになるって計算しちゃうの。
なんて嘘だけどさ。そうでもなきゃやってらんねえよ。
斃した獲物は村で使う素材や食料として使って貰うつもりだから、実際にコロンには変わらんのだけれども、今になっちゃあゴブにおっさんなんて退屈でたまらねえや。
「おらどうした!? ヒッグ・ギッガのおかわりはもう無いのか? って、居るじゃねえか!」
ヒッグ・ギッガは良い食材になるからな! 村の連中も腹ペコだろうし居れば居るだけありがてえ!
おう、今度はマンティコアのおっさんか!? へへ、結界にめり込んで動けなくなってやがるぜ! そのままお前は村の素材庫行きだ――
……
…
さ、流石に疲れた……。
気づけばもう夕方だ。暴れ回ったお陰で結界に張り付く獲物達はすっかり姿を消し……何体かは狩り逃したんだけど、怖じ気づいたのか森に逃げてっちまった。
結界を抜け、再び村に戻ると『わあ』っと大勢の歓声で迎えられた。
「ナツさん、やっぱあんたは格が違うぜ!」
「俺らもやるようになったと思ってたけどよ、くぅ、憧れちゃうね!」
「獲物を屠る度に見せる獰猛な笑み……痺れたよ!」
おーおー、モッテモテじゃねえの! おっさん共に!
どうも、この狩人を筆頭としたおっさん共は『いくらナツさんでも一人じゃあの数無理だって!』と、俺に加勢しようと出張って来ちゃったらしいんだけど……。
「これ褒め言葉で言うんだから怒るなよ……? あん時のナツさんはその……まるでオーガの戦士見てえでよ、大群を物ともしねえで勇敢に魔鉄鋼の剣を枝のように軽々と振ってて……それ見ちゃったら今の俺達が出てった所で足手まといにしかならねえって気付かされたよ」
「そうそう! あの場に出てったところで邪魔にしかならなかったよな」
「だもんで、勉強させて貰おうとここで見物してたってわけさ」
狩人以外にも、鉱夫やら農家やら大工やら……力自慢共が武器を片手に語る語る。
……いや大工さん、あんたは防壁直してくださいよ。
ともあれ。
目先の危機は取り敢えず乗り越えた……のかな?
けど、これで終わったとは思えない。明日から本格的に備えに入らねえといけないな。




