114話 はじまり
「かんぱーい」
「かんぱいっ!」
バッコンと木製ジョッキを互いに当てて、祝の美酒を飲み干すのは我々『掃除にゃ』のお二人。
今日は何のお祝いかと言えば、とうとう我々の貯金が1万コロンを越えたのであります。
金貨1枚って言っちゃうと味気ないけど、1万コロンって言うとなんかすげーってなりますよね? ならない? 円で感じるな、ドルで感じろ! 日本円で100万円だぞ、100万円! なんかの賞金としてキリが良く、結構もらえたな感ある由緒正しい額じゃねえか!
正確な手持ちのお金は1万3千800……コロンと少しって所なんだけれども、この1万コロンは帰宅用の旅費として分けて貯金していた分なので別なのです。
まあ、1万コロンじゃまだまだ全然足りねーと思いますけどね、これも一つの節目としてのささやかなお祝いなんですよ。
昇格条件がアレなので、ゴールドまで上がるのはちょっと難しそうだけれども、あの森があればコツコツとお金を稼げますからな。
しかもジワジワと敵が強くなってきているので、買取額もぐんとアップ!
この間のマンティコアなんて傷物だってのに1000コロンで売れたからな? 美味いってもんじゃあないっすわ。
そんなわけで、我々はほくほくなのでこうして祝杯をあげちゃったりなんかしちゃってるわけなんですが……呑気に祝杯なんかあげちゃってんのは我々くらいのもんなんですよね……。
程々の祝宴をした翌日、ギルドに適当な依頼でもないかしらと行ってみれば……ここ最近では当たり前のようになってしまった、暗く重い雰囲気に包まれていました。
まったく辛気臭くて嫌になっちまうんだけれども、これはまあしょうがねえんだよな。
それというのも――
「また森の依頼をうけるのにゃぁ……」
「お前無理してキャラつくんのやめろよな。最近崩壊が激しいぞ」
「うるさいにゃ! そんな事より、大丈夫なのかにゃあ? ギルドでもそろそろ探索制限をゴールドに上げようかってはにゃしが出てるくらいなのにゃ……」
「おいおい、勘弁してくれよ。俺たちゃあそこが狩場だぜ? 危なげなく狩ってきてるのはお前もっつうか、ギルドもわかってるだろうがよ」
「それはそうにゃんだけど……」
珍しくマティアが我々を心から心配してくれているのだが、それは勿論森の異変のせいだ。
我々が持ち込んでいる魔物以外にも、数々の冒険者達から『見たことがない強力な魔物』の存在が報告されていて、大型パーティ――つうか、クラン総出でかからねえと太刀打ちできねえとかで、多数の怪我人や、中には死人も出てるというのだから穏やかじゃない。
この強力な魔物が森からどんどん現れてるっつうのは、やっぱあれよな。
これまで『敵わねえから』と放ったらかしにしていた魔物達がこれ幸いとどんどこ増えて、その生息域を広げてるってのも在るんじゃないかな。
んでもって、ここまで急激に外側にはみ出してきているっていうのは……内側に何かやべえのが現れて、雑魚どもを追い払っているか、もしくは何かの意思か……。
ま、わからん事をグダグダと考えても仕方がねえ。
「つーわけで、今日は森にお花を摘みにいってくるわ。おら、さっさと受託印押すんだよ、あくしろよ!」
「……腹立たしいけれど、今はあんたの能天気さに癒やされるにゃあ……はあ、生きて返ってきにゃさいよ、べ、べつにあんたにゃんてどうでもいいんだけどにゃ!」
「なんだよ、ツンデレか? 今どき流行らねえからやめとけやめとけ」
「何言ってるかわからないけど、バカにされてる事だけはわかったにゃ! さっさといくにゃ!」
「おーこわいこわい」
というわけで、今日もミーくんを連れて森である。なんだかここ最近ずっとこのサイクルを繰り返しているので、すっかり実家感を感じるようになっちまったな、森に。
「ナツくんさ、すっかりマティアさんと仲良しになったよね」
「はあ? んなことないし! クソネコは天敵だし!」
「あはは、喧嘩するほど仲がいいっていうじゃない」
「やめてくれよ……顔を思い出すだけでイライラすんだからさあ」
「まあまあっと、ナツくん」
「ああ、早速お出ましだな」
本日最初のお相手は……マンティコアのおっさんか。コイツラも最近ちょっとだけ数を減らしてんだよな。
ゴッブはもう見かけねえし、普通のおっさんはその代わりみてえに湧くけど、それもちょっぴりエンカウント率が下がってる気がする。
もしかして我々がちょっぴり狩りすぎた影響かしら?
100万稼いで喜んだのも今は昔、既に残高は500万に届きそうだからな……。
街の脅威になるんだからさ、やりすぎて怒られるって事はないよね?
……ね?
……
…
てな感じで今日も元気に得物を担いで凱旋だ。
流石に何度もくりかえしているので、今では門にデケえ魔物が姿を表したらば俺であるということになってしまっている。
いやいやその考え方は危ないよ? いつか本当に魔物が来ちゃったらどうすんのさ。
なんか意図せず俺がオオカミ少年ムーブかましてるようでやんなっちゃうよ。
んでもって、なんだかんだで目立ってしまっているわけなので……いつしか不名誉な二つ名がこの街でも広まっていて――
「おっリトルオーガだ……」
「すげえ、今日もマンティコアを軽々と担いでやがる」
「アレ二人パーティなんだよなあ……」
「掃除にゃが戦ってるとこ見たことあるが、マジで二人で軽く屠ってたぞ」
「可愛らしいパーティ名に舐めてかかるとひでえ目に合うってわけだ」
「パーティ名にオーガって入れりゃいいのにな」
……畜生!
流石に街中で暴れるわけにはいかねえから今日の所は許してやるがよ……無闇矢鱈とその二つ名を広めやがったらただじゃ置かねえっつうか、この街で最初に言い出したアイツの顔、覚えておけばよかったぜ……!
「すうっかりここでもリトルオーガだね!」
「うう……アンマリ嬉しそうにされると困るぜ、ミー君」
「だって私は嬉しいもん! ナツくんは何処に居てもナツくんなんだなって」
「ものは言い様かよ……ま、ありがとな」
「うん!」
ホントなんでミー君はリトルオーガっていう二つ名を気に入ってしまったのか……。
あ、これ別に伏線でもなんでも無いと思いますよ。ただ単にミーくんのセンスがおかしいだけだから。
マジでマジで。
そして我々はいつもどおりギルドに行き、しかめっつらのマティアから解体室に追い払われて、マスルのおっさんにいい笑顔で迎えられ、素材を渡してレシートを貰って……すごく嫌な顔で絶妙に俺に当たるマティアん所で換金……もとい、達成報告をして。
世の中は若干物騒になってきているけれど、我々にとっては何ら変わらない日常が今日もまた終わる……そう思っていたのだが。
報告を終えた我々は夕食を摂るべく、ぷらぷらと街を練り歩き、今日は何処に入ろうかと上機嫌でお店選びをしていたのだが、それはマティアによって中断されることとなった。
「ちょ、ちょっと! ニャツ! あんた今すぐギルドに来なさい! ミュウも!」
「あん? なんだよ、ネコちゃんじゃねえか。報告漏れでもあったか? 面倒くせえから明日にしてくれ、俺らはこれから――」
「そんにゃこと言ってる場合じゃないにゃ! 村が! ククリ村が大変なのにゃ!」
「なに!?」
マティアの口から放たれた報告は、能天気な日常をぶち壊す衝撃的な一撃であった。




