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112話 ようやく掴んだ痕跡

「つーわけで、納品書をご覧いただきやがればわかる通り、森はどったんばったん大騒ぎだったんだよ」

「随分と雑な報告ねぇぇ……まあいいけどにゃ……この紙切れ見ればヤバいのわかるしぃ……」


 酷くけだるげな顔で、指先で納品書を弄びながらマティアが大きなため息をついた。

 いくら不良ギルド嬢とは言え、この報告を見たら危機感って奴を覚えたんだろうね。


 こりゃヤバいの一言で済ませられる問題じゃねえ。さっさと上に上げて対策を練るべき問題だ。


「というわけでぇ……ごくろうさまぁぁ。これが……重たいにゃぁ……報酬の30コロンと素材買取の4827コロンにゃあ……一体どこの世の中にカッパー依頼のついでにこれだけ稼ぐ奴がいるのよぉ……ああ、目の前にいるにゃあ」


「うるせえなあ。いちいち何か言わなきゃ気が済まねえのかよ! つうか、そんなヤベエ場所にカッパー派遣するアホがそれを言うのはおかしいと思いますけどねえ!?」


 ささっと目を逸らすクソネコ。


「おいこらなんで目を逸らしやがった?」

「べ、別になんでもないわあ……昇格試験の内容を不人気依頼に変えて渡したとかそんな事はないにゃぁ……」

「クソみたいなやつだけど正直だな!? 嘘下手か! つうかなんて事しやがんだ! 俺達じゃなかったら死んでただろ!」

「そうだよ! これは流石に酷いよマティアさん!」

「……悔しいけれど、お前達なら任せられるとおもったんだにゃぁ……ちっ、約束通り今日からお前達はシルバーランクにゃ。精々ゴールド目指して励むと良いにゃあ……」


 投げやりに銀色のカードを投げつけられたので、なんだかまったくありがたみが無いけれど……まあこれで割が良い依頼を受けられるようになる。


 それに、クソみたいな依頼しかなくとも、例の森で間引きがてら魔物を狩ってコロンに変えるという手もあるのだ。ククク……待ってろよスーラ大陸! 帰還の日までまた一つ近づいたぞ!


 パタパタと嬉し気に外へかけていくミー君の背中を見つめ、一人静かに決意を固める俺なのでありました。


「いいからさっさとでてけにゃあ……そこにいると邪魔にゃあ……」

「お前って奴は……空気読めよな!」

「知らないにゃあ!」


 ◇◆マティア◆◇


 あいつらもしかしてマジでゴールドランク冒険者なのかもしれないにゃ……。

 一見すると、不相応な装備に身を包んだ商家のボンボンって格好にゃのに、ぽんぽこ依頼を達成し続けるにゃんて……。


 しかもなんにゃ!? あの失礼な性格! ギルドに来る連中はマティアの気怠さがいいとかほめてくれるのに、クソネコ呼ばわりする失礼な奴は初めてにゃ……。


 お陰であいつと話してると……ちょっとずつ素が出ちゃって、この性格を作ってるとバレたら許さないにゃよ……。


 …… 配属当日から二日酔いで……それを誤魔化すためのキャラ付けが尾を引いてるのにゃ……今更バレるわけにはいかないのにゃあ……。


 しかし驚いたにゃぁ……。


 奴らなら平気だろうと、西の森に調査に行かせたけれど、想像以上の成果だったにゃ。

 まさか調査結果を持ち帰ってくるにゃんて……。


 それくらいはやるだろうと思ったけどおかしい連中にゃぁ……。


 ウチのギルドだと昇格試験の内容は担当者が決める事が出来るにゃ。

 一つ上のシルバー依頼の中から、受験者がギリ平気そうな依頼を選んで渡す。


 ニャツ達に渡した依頼は一応はシルバー依頼だけれども、今の森を考えればゴールドクラスが受けるような内容にゃ。


 けれど、そのゴールドクラスは今あんまりいにゃい。なのでシルバーに回ってきていたのだけれども、案の定だあれもうけにゃい。


 あいつらならバカだし、一応つよいみたいだし? まあ生きて帰ってくるだろうくらいに思っていたけど、ヒッグ・ギッガを担いで帰ってくるにゃんて……。


 しかし不思議にゃ。


 奴らが本当にゴールドクラスだとすれば、照会した際にきちんとデータが出てくるはずなのにゃ。


 ニャツにミュウにゃんて冒険者、ここで登録する以前に存在していにゃかったにゃ。


 ……そう言えばニャツの奴が名前が違うとか怒っていたような……。


 ……ま、まあ、どうでも良い事にゃ。アイツラはニャツにミュウ、それ以上でもそれ以下でもないにゃ。


 腕が立つなら精々街のために働くがいいにゃー。にゃーふっふっふ……ごほ、げほ……毛玉が喉に上がってきたにゃ……。


◇◆エミル◆◇


 ナツ殿達が失踪してから4ヶ月が経過した。


 各地から寄せられる情報には未だこれと言った物は無く、日付感覚が怪しいエルフ共にも流石に焦りが見えている。


「わりい、エミル。今日も大した情報がこなかったわ」

「言うなティールよ。お主が謝る事ではなかろう」

「けっ お前にそんな言葉をかけられるたぁね」

「今は喧嘩をしている時では無いからのう」

「ちげえねえ。わり、ちょっと苛ついててよ……」

「腹立たしいがお主はそれなりに仕事をしてくれているからの」


 ティールは未だメルフに戻らず、此方に残ってナツ殿達の捜索に手を貸してくれている。

 あちらでも同様の捜査が出来るのでは無いか、むしろあちらにいた方が手を広げやすいのでは無いのかと、問うて見た事があったのだが――


「逆に言えばどこに居たって良いんだよ。ちゃんと代理も置いてきたし、こっちのギルドが軌道に乗るまで居て良いことになってっからよ。

 それによ、いざ見つかったって時には俺も迎えに行きてえ。奴がどんな苦境に立たされているかわからねえからな。戦力はあるに越した事はねえだろ?」


 ――と。


 確かに。腹立たしいが、今のティールならば大抵の魔物に後れを取る事は無かろう。

 ナツ殿やミュー殿の手に余るような魔物が彼らを苦しめていた場合、戦力という物は少しでも多く送り込みたいからのう。


 我とてただ待っていたわけじゃ無い。モモと共にスキルを磨き、魔術の練度を上げていたのだ。今の我らであればナツ殿達の足手まといにならず手を貸せる、そう思うのだ。


 だから今はこうして彼らの安否を気遣いながら――


 と、バタバタと屋敷の廊下を駆ける音が聞こえてきた。

 この足音は……マミか。


 彼女らしくも無く、バターンと音を立てて力一杯ドアを開き、ハアハアと肩で息をしながら複雑な表情で此方を見た。


 そして―― 


「ゆ、有力な手がかりが……手がかりがようやく見つかりました!」


 ギルドから走ってきたのであろう、額に玉のような汗を浮かべた彼女が呼吸をするのも惜しいと言った具合に口から絞り出した言葉に我らは目を見張った。


「ナツ殿達が……見つかったのか!?」

「おい、マミ! 詳しく話せ! あいつら一体何処にいやがんだ!?」


 はあはあと少しの間、息を整えた後、マミはゆっくりと語り始めた。


「ナルガ大陸……リエノ……と、思われます」

「ナルガだぁ!? 随分と……遠くに飛ばされたもんだ」

「それは確かなのかの?」

「不確定情報ですが、私は……彼らだと思います。と言うのもですね――」


 ――マミから伝えられた話を聞き、我とティールは驚くと共に、彼らの健在を確信し、そしてどちらからとも無く、笑いがこぼれた。


 ナルガ大陸新鋭の冒険者ニャツとミュウ。名前だけ聞けば猫族のようにも聞こえるが、そのパーティ名が「掃除にゃ」で、ニャツは『リトルオーガ』と呼ばれているというのだから疑いようが無い。

 

 しかし何故そのような名前で活動しているのか。

 そのせいで今日まで存在が確認出来なかった訳なので、疑問に思いつつ少々腹も立った。


 しかし、その冒険者パーティがあっという間にシルバーまで駆け上り、他の冒険者では敵わぬような魔物をホイホイと狩って納品しているのだと聞けば、誇らしくて誇らしくて全てを許してしまう。


 彼らの事だ、きっと何か事情があって身分を隠しているのだろう。


「うーし! この『掃除にゃ』というのはナツ達で間違いねえ! おいエミル! 明日早速向かうぞ! 何でこんなふざけた名前で活動してんのか問い詰めてやらねえとな!」


 獰猛な笑みを浮かべるティール。知らぬ奴が見れば震え上がる表情だけれども、我にはわかる、これは心から喜んでおるのだ。


「しかし、ナルガとなれば……随分と時間がかかりそうだのう。他大陸など、どれだけ掛かるのか我には見当もつかぬ。転移術でいけるわけでもなかろう?」


「流石に他大陸にヒョイっと行ける陣はねえな……あの木のはまあ、別だが、ありゃどうも動かねえからなあ……ま、方法はある。つっても一ヶ月は軽く掛かっちまうが、普通に行きゃあ3ヶ月は掛かるからな。それを考えりゃよっぽど速いだろうよ」


「むう、勿体ぶりおって。まあいいわい。では我はモモに伝えてくるからの。くく、あいつも喜ぶ事だろうよ」


 ……ナツ殿達が見つかった! しかも想像通り余所でも大活躍では無いか!

 これ程嬉しい事は無い……ああ、話したい事、聞きたい事がありすぎて胸がどうにかなってしまいそうだ。


 ナツ殿、ミューラ殿! 直ぐに我らが駆けつけますからの!


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