111話 だから俺はオーガじゃねえつってんだろ!
激しいざわざわタイム……これはギルドに巨大な生ものを担いで訪れた迷惑者が現れたせいである――ってすいません、完全に俺が悪いんです。
「どうしてあんたって奴はこんなめんどくさい真似をするわけえぇ!?」
いまいち口調が安定しないクソ猫事、マティアがガン切れしながら我々の前に立ちはだかる。
おいおい勘弁してくれよ。我々だって疲れているんだ、さっさと報告をして納品をして思う存分祝杯を挙げてえんだからさあ……。
「報告より先にデカブツを処分してほしいんですけどぉお!?」
「あ、声に出てた?」
「めっちゃでてたにゃああああ!」
けだるい口調はどこへやら。やればできんじゃんってレベルでぎゃんぎゃんキビキビと俺に突っ込みを入れるクソネコの勢いに負けた我々は、ギルドの解体室へ強制的に送り込まれたのでありました。
「マティアさん、あんな風にしゃべれるんだねえ。のんびり屋さんだとばかり思ってたよ」
「元々めっちゃ毒吐く人だったじゃんか」
「そうだけどさ、もっとゆったりと毒を吐く人なのかなって」
「それはそれでアレだけどな……」
このギルドでは初となる解体室に向かうと、お国は変わってもやる事は一緒ですからね。やたらとムキムキとしたおっさん共が忙しそうに駆けずり回っておりました。
「ぬおお!? こんなところに魔獣だと!?」
驚いた声を上げるのは上半身裸……といっていいのかわからんが、モフモフとした毛をむき出しにしたイノシシ頭のおじさん。
「ああ、すいません。冒険者です。下に居ます。ヒッグ・ギッガを持ってきたらマティアの奴にこっちにいけといわれましてね」
「またあのクソネコがたらいまわしにしやがったか……って、流石にこいつはあっちじゃ無理だな。おう、お前ら手伝え!」
イノシシ系獣人の方にイノシシ系魔獣を渡す……何とも微妙な気持ちになったけれども口には出さないぞ。俺だってゴリラ呼ばわりされたらガン切れする自信があるからな。
少なくとも同じ人間族であるオーガ呼ばわりされてもイライラすんだもん。魔獣呼ばわりは屋上コースだろうよ。
「しかし……あんたこいつをよくもまあ一人で担いできたな……ヒューム……いや、あんたもしかしてオー……」
「おっとそれ以上はいけない。俺はヒュームだ。こいつが証拠のギルドカード、俺はヒューム、いいね?」
「あ、ああ……ほんとにヒュームだぜ……しかもカッパーとは驚いたね」
ヒュームどころか実はゴールドランクなんですよ……あんたもご存じのクソネコさんのせいでカッパーなんですけどね? 多分今日この後シルバーに上がるんで、今後ともヨロシクってもんですわ。
「ゴッブの耳はあっちでいいとして、鳥の素材なんかはこっちでいいんですよねー?」
「ああ、そうだ。鳥の素材って……おいおいお嬢ちゃんが持ってるのアラマ・タッマじゃねえかよ。カッパーが二人でこれを狩ったのか? 何の冗談だよこれは」
「……俺たちは元々スーラ大陸の冒険者だったんですけどね? カードの再発行をしようとしたらあたったのが例のクソネコなんですよ……それで察してもらえませんかねえ」
「……何となく理解したぜ……あいつ、色々と明らかになったらとんでもねえことになるな」
「あれでも一応世話になってるんで、首は飛ばないようにしてあげたいんですけどね……」
「ニャツさんとかいったか、あんた優しいよ……」
「いえ、ほんとはナツなんだけど腐れにゃんこが適当にニャツで登録したんですわ……」
「首の一つや二つ飛ばしてもいいんじゃねえのそれ」
「俺もそんな気がしてきた……」
このおっさんはマスルと言う名前で、失礼ながら鑑定をしてみた所43歳だという。
この国に来て初めて見かけたケモ要素多めの人達は見た目で年齢が分かりにくいからね、許しておくれ。
獲物を納品するもろもろの手続きをする際に、雑談がてら聞いてみたところによれば、ここ最近森の浅場に深部の魔物が迷い出るケースが増えているのだという。
ゴールドランクパーティであれば、なんとかゴブリン数体の討伐は出来るため、今の所は何とかなっているらしいのだが、そのゴールドランクパーティの大半がダンジョン目当てでスーラ大陸に出張しちゃっているらしく……なるほどマティアのアホがネチネチと文句を言うわけですわ。
……つうか、やっぱり冒険者っておもっくそ弱体化してんだなあ。
強化狩人達なら一人1体は軽く葬れちゃうよ? そりゃまあ、加護のちからあってのもんだけどさ。
言うても狩人のが冒険者よりも魔獣と対峙する機会が多いわけだからな。元々狩人のが強かったとも言えるんだが……しかし、冒険者がこれじゃあな。
冒険者がらみとなればアヤさんに任せるといった以上、我々が勝手に何かするわけにもいかねえし、この大陸における我々の身分はギルマスと付き合いなんかねえ単なるカッパー冒険者――うまくいけばこの後シルバーになる程度のもんだからな。
あんまり大きな行動は取れないときたもんだ。
何とかあっちと連絡がつけばいいんだけれども、それは叶わないし。
取りあえずはシルバーに上がったら依頼ついでにコツコツと間引きをするしかないですな。
「おう、査定が終わったぜ。これだけの獲物を狩れるあんたらだ、俺が偉そうな事を言うのも何だが、流石綺麗なもんだぜ。こいつが買取票だ。クソネコをびびらせてやりな」
カラカラと笑うマスル氏から渡された紙をちらりと見てみれば、4827コロンと書かれておりました。ヒャッハー! 日給48万円だ! これだから冒険者はたまらねえぜ!
やべえな、通貨単位やべえ。大銀貨4枚と銀貨8枚ですって言われるよりも、4827コロンって言われた方が現実味があってヤベエ。
そりゃ、我々はひとつの依頼で大金貨を稼ぐゴールドランク冒険者ですよ?
でもねえ、日に48万円。地球に帰ったら単なる庶民ですからね、根っこが庶民の俺には3ヶ月で2000万円って稼ぎより、日に50万円近く稼げたって言う事実の方がぐっと刺さるんだよ。
「ミー君、今日は好きなもんを好きなだけ食って好きなもんを好きなだけ飲んで好きなだけ寝ような!」
「わあい! じゃあ、流星亭の三種のチーズヒッグ・ホッグ焼きと、アマラウオの酒蒸しとー!」
「わっはっは、頼め頼め! 今日はなんでも頼め! よーし、さっそく店に向かうぞ、ミー君!」
「おー!」
「店に向かうぞじゃないわよお……報告してくれないと私も帰れないんだから、さっさとするにゃあ……」
「「あっ」」
見事なジト目で見つめるのはマティアである。
余りにも帰りが遅い我々を迎えに来たようなのだが、別に我々のせいじゃないぞ。解体課の人達が熱心に丹念に獲物の査定をして下さっていたからだぞ。別に話に盛り上がって時間が余計にかかってしまったとかじゃないんだから!
「いいから早く来るニャー!」
なんて、キャラが変わりつつあるマティアに半ば引きずられるようにギルドのホールに戻ってみれば……。
「来たぞ……リトルオーガだ……」
「なんだよリトルオーガって。あいつは単なるヒュームじゃねえか」
「バカ! 背負ってる得物を見ろ! 重魔鉄鋼だぞ!? あんなのヒュームには持てねえよ」
「じゃあ、あいつはオーガの子供ってわけか?」
「もしくは小型の種かもしんねえ……」
「だからリトルオーガ……か。なるほど上手い二つ名をつけるもんだぜ」
「へへ、一目見た時からよ、そう呼ぶのが相応しいなって思ったんだよな」
聞こえるぜえ……別に俺は地獄耳でもねえし、そういうスキルをもっているわけでもねえ……だがよ、不思議と聞こえちまうんだよなあ……その”キーワード”を言われるとよお……
「だーれがリトルオーガだ! 俺はヒュームだつってんだろ!? おう、今言ったやつ出てこい! 屋上いくぞ、屋上!?」
「ひいいいい!? な、なんで怒るんだ!?」
「わ、わかんねえが逃げんぞ!」
「まてやごるぁ!」
「待てやじゃないにゃ……ここには屋上にゃんてないしぃ……いいからさっさと報告を済ませるにゃあ……」
「そうだよナツ君。大体にしてここに来てまでリトルオーガって呼ばれるなんてすごいじゃないか。胸を張りなよ、ナツ君」
そんなきらきらとした顔で言われたら……納得はしねえけどなんも言えなくなるじゃねえか畜生。
取りあえず……なぜかやたらと誇らしげなミー君の笑顔と、さっさとしてくれと全身から滲みださせているクソネコに免じてあいつらは許してやるとするよ……。




