110話 いらんことを言うとそれはフラグに化けます
「いんちきにゃぁ……」
「うるせえ! こっちにゃ達成報告書もあるんだ、いいから黙って受理しろ!」
「ぐぬぬ……あっという間にウッドランクを脱したのはまぐれかと思ったけどお……少しはやるようだわねえ……」
「お前ほんと一回ギルマスから怒られればいいのにな」
「嫌なことをいうんじゃにゃいのお……はい、報酬の30コロンよお……こっちは納品報酬の128コロン……ねえ、半日程度の薬草採取で100コロン稼ぐなんてあんた頭おかしいんじゃないのお?」
「いつまで経っても失礼な猫ちゃんだな! いいからさっさと寄越せ!」
「ふうんだ! ほらほら受け取ったらさっさと出ていきにゃさあい。まったく邪魔なのよお!」
「なっ!?」
運命の悪戯――良いですよね、よくねえよ! クソが!
どういうわけか、ほんとどういうわけか俺が受付に行くとマティアに当たるんだよ。
しめしめクソ猫居ねえなって適当な受付のところに並ぶだろ? すると俺の番が来る頃にちょうど休憩から戻って交代しやがんだ。
だったらあいつが休憩に入った瞬間を狙えば……なんて思ってみれば、俺の番が来る頃になると何故か本来の受付嬢が何らかの要件で呼び出されたり、何かに巻き込まれて交代するはめになったりして……ギルドが組織だってわざとやってんじゃないだろうな?
――なんて疑ったこともあったけれど、どうもギルドは白だし……じゃあなんだ、神様のイタズラか!? と、思いたいところだけど、うちの可愛い神様は今日も元気に溝掃除に行ってるし。
ミー君に言わせれば『腐れ縁ってやつだよね』ってことなんだけど、それはちょっと違うぞ……こんな真似が出来るのはミー君のお姉さんくらいのもんだけど……アンマリ疑いたくないと言うか、頼むから関わってなければいいなとすら思える。
神が関わって何か起こされるって穏やかじゃないからな。
つーこた、あれか? これがフラグ様のいたずらってやつか? 全く要らんことは言わないに限るな! 今後は言動に一層気をつけていかなくては……。
そんなわけで俺はもう随分と胸糞を悪くしながら報告を続けているわけだけれども、幸いなのはミー君にはその法則が当てはまら無いということだね。
俺とミー君は『掃除にゃ』としてパーティ登録をしているけれど、なぜかマティアのアホが担当させられてしまうのは俺だけで、ミー君の担当は普通にランダムだ。
なのでミー君が嫌な思いをすることはないし、その笑顔を曇らせることもない。
なんつうかミー君には笑っててほしいからね。
今や俺の数少ない癒やしであるミー君だよ? 悲しい顔されたら溜まったもんじゃねえよ。
てなわけで、俺は今日も糞猫と悪口を言い合い、ギルドを後にしようとしたのだが……
「あー! そうにゃ! ちょっとそこのぼんくらヒューム! まちなさあい!」
「あんだよ、まだ言い足りねえのか、このマタタビキャッツが!」
「だ、誰がマタ中よ! そんな事より、良い忘れてたんだけどあんた達さあ……――」
「――はあ? 昇格試験? んな大事なこと忘れかけるとかねえわ」
「ちゃ、ちゃんと思い出せたからセーフにゃあ!」
「めんどくせえからそういう事にしてやるが……で、試験内容は何だ?」
「それはにゃあ――」
リエノ西の森の調査……ね。
リエノ西の森、これは我々にとって未知の場所ではない。懐かしきククリ村から直ぐの所に広がる大森林のことである。
この大森林は大つくだけあって広大で、リエノ近くまで伸びているため、リエノからすれば「リエノ西の森」という呼ばれ方をするようであった。
なにかこう、例えば『ムイーア大森林』みたいな名称がついてるものだとばかり思っていたのだが、この国にはそういう風情がある真似をする風習が無いようで、森は森として適当に呼ばれているらしい。
そうなると、例えば森の東に別の街なり国成が存在していた場合『リーシェ東の森』なんて呼ばれてややこしいのでは? なんてちょっと思ったけど、地球でも名称問題というものはついて回ってることを思い出したので、まあ、そういうものかと無理やり納得することにしたのでありました。
んでまあ、例の森となれば稼げる魔物とエンカウントするんじゃね? って事で、以前から目をつけてはいたのだけれども、流石に危険であるっつう事で、探索許可がシルバーランク以上に指定されていたため、我々は今日まで来ることが出来なかった。
しかし、今回は昇格試験と言う事で、特別に許可が降りたとか何とかで――
「というわけで、今日は懐かしの森の調査に来ているわけだよ、ミー君」
「そうだね、ちゃんと聞いていたもの、私だって知っているよナツくん」
昇級試験ということで、大張り切りのミー君と共に朝から森入している我々なのですが、まあ、結界を張っていない状態だと以前と変わらずゴブゴブが元気よく現れるわけで。
もしも以前の俺であれば、これが通常なのであろうと『問題なし』とレポートしちゃったことうけあいなのだけれども、今の俺はちゃーんとこれが異常であると理解しているからね。
遠く離れたポイントではきっと今日も元気にワンワン達がゴブゴブを狩ってくれていることだろうと思うのだけれども、こっちはこっちでゴブゴブまつりで、もしかして俺が思っている以上にこの森はヤバい状況なのかもしんねえなあと思いました。
俺の腰で鈍く煌く妖刀 闇烏真打……! 闇烏を模した刀をダンバさんが打ってくれたこいつがようやく真の力を発揮することとなるわけだ。ククク……腕が鳴るぜ!
ちなみに真・闇烏こと、俺が森で拾ったやけに重たい棒で作った木刀は、なんでも村のシンボルとするとかで中央広場に飾られているよ。俺が突き刺した状態でね。
正直言うと名残惜しかったけれど、こんな立派な刀を貰っちまったからな。
俺の分まで村を護ってくれと言う思いを込めて置いて来たってわけよ。
いつかアレを抜ける勇者が現れることを祈って……ってどこぞの聖剣じゃねえんだから。
そんなわけで、新たな相棒の試し切りがてら夕方までゆっくりと時間をかけ、ゴブを148体、ヒッグ・ギッガを1体、ついでにアラマ・タッマとか言う鳥さんを3体ほど狩り、街に戻ったわけですが……。
「待って! 待てって! 俺は悪いヒュームじゃないよお!」
「なっ!? やめーい! 撃ち方やめーい!」
はい。そうなんです。射られたんです。今月に入って1度目、この大陸に入って2度めなんです。
「悪い悪い! 怪我はないか? てっきり魔物が攻めてきたものだとばかり思ってな」
心より申し訳ないと言った声で俺を気遣うのは例の虎獣人、ピッコさんだ。
カッパーになって以来、依頼でお外に出るようになった我々は門番である彼と顔を合わせることが多くなり、この街では珍しいヒュームの新顔であるということが合わさって、微妙な顔見知りになっていたのであった。
「気にしないでくださいよ。こんなの担いで帰ってきた俺が常識知らずなんですから」
「……確かにそれを一人で担げるようなやつはそういないが……」
御冗談を。そのご立派なお体を見ればそれが謙遜だって流石にわかりますってば!
獣人さんってあれでしょう? 器用貧乏であるヒュームと違って俊敏さとか筋力とかでめっちゃアドバンテージとってる奴じゃないっすか。今更そんなお世辞言われても困りますって!
「今日はミー君にアラマ・タッマを持ってもらってますからね。しょうがなくですよ、しょうがなく。結構きついんですよ一人でもつのって」
ここは一つヒュームらしく言っておかねばな。正直に言えば後一体くらい持てそうな感じがあるんだけれども、獣人さんなら兎も角、ヒュームでそれはおかしいからな。
あんま変な目で見られるのも嫌だし、ここは謙遜しておかねば。
「はあ? ヒッグ・ギッガだけじゃなくてアラマ・タッマもかよ……ったく、お前らはほんとにカッパーなのか? というかそんな魔物まで浅場で出るようになったのか……。
俺も気を引き締めておかなきゃならないな。 足止めして済まなかった、報告に向かってくれ」
顔なじみとなった今、もはや顔パスである。何度かギルドカードを見せて通ったりもしたけれど、今となっちゃそれも免除。来れば『ああ、お前達か。ご苦労さん』これね。
やっぱコネっつーか、人と繋がりを作るってのは大事ね。
「ふうふう、今日もたくさん狩ったねえ、ナツくん」
「ああ、こんだけ狩れば流石に1000コロンは下らねえだろうな。今日は豪華にやろうぜ、ミー君」
「うん、そうだね! おうちに帰る資金も着々と貯まってるし、いいよね」
「ああ、いいとも!}
食い道楽の我々もお家に帰るという使命がある以上、流石に貯金優先になってるんだ。
なのでカッパーで稼げる金じゃあ、狩場の制限も会ってあんまり贅沢は出来なかったけれど、調査依頼となれば別よ。
これまでは入ることが出来なかった例の森に行くことが出来たし、高く売れそうな魔物をたんまり狩ることが出来たし。
ゴブゴブのお耳って、結構高く査定されるらしいじゃないか。こいつァ楽しみだぜえ……
なんて軽く考えていたけれど……何事もやりすぎというものはトラブルを呼ぶんだなあ、なんて後の我々は心から思うのでありました。




