109話 あー、はいはい。胸糞系展開ですね、わかります。
タイトルどおりである。いつもどおりメタい物言いをしちゃうけれど、まさにそれ、タイトル通りに胸糞悪い扱いを受けている我々なのです。
ミー君はさっきから頭がフットーしそうだよおと、聞く人が聞いたら誤解しがちな念話を送ってきていて、彼女の怒りが臨界を迎えようとしているのは明らか。
だが、待ってくれミー君。ここはもう少しだけ押さえてくれ……。
さて、どうして我々がそこまでプンスコしているのか? それは――
「だから俺達はスーラ大陸はメルフ支部で登録したゴールドクラスの冒険者で、俺はナツ、こっちはミューラ。カードを紛失したから再発行してくれって言ってるんだが?」
「はいはいぃ。寝言は寝て言いなさいにゃ。あんたみたいなひ弱なヒュームにお嬢ちゃんがゴールドお? 一体何の冗談にゃあ? 照会すればすぐに分かる嘘を吐かないでほしいもんだにゃあ」
「だから照会でもなんでもしてくれっていってるのだが?」
「お生憎様だにゃあ。目に見えてわかる嘘に付き合う暇にゃんてないしぃ……それにゴールドランク様がわざわざスーラから来るわけ無いにゃあ。あっちはここと違ってダンジョンがたーっくさんあるしぃ……うちからそっちに出稼ぎに行く連中が多くて困ってるくらいなんだにゃあ……はーい、論破ぁ」
クッ! 腹立たしい。ああ言えばこう言う。 そういう事情があるのであれば、確かに俺達の行動というか、ここに居るのはおかしいのかも知れねえ。
けど、来たくて来たんじゃねえんだぞ? お前の常識で考えんなよ! こっちにも事情ってもんがあんだからな! 言えねーけど! ああ畜生、言えねえからこんなにこじれてんだよな。 つっても言った所で信じてもらえるかはわかんねえが。
「はあ、あんたの言うことはまあわかるよ。わかるけどこっちにも事情っつうのがあんだよ。照会すりゃあ全てわかんだ、面倒かもしれんが頼むぜ」
「はあぁ……思わずクソデカため息だにゃ。じゃあさあ、ぶっちゃけちゃうけど、仮にあんたらがゴールドだとするでしょお? カードを紛失したくらいにゃ、お金も一緒に無くしたんじゃないかにゃあ……?」
「……元持ってた金は確かに今は無い。けれど無一文というわけじゃあ――」
「カードの再発行にはぁ……お金がかかるのはわかってるわよねえぇ? 稼ぎが上がる上位ランクになればなるほどそれは上がるのよお……ゴールドとなればあ一人1000コロンかかるのだけれどもぉ……持ってるのかにゃあ……? 」
「くっ!」
「うぅっ!」
「その様子じゃあ……無いみたいねぇ……まあ、冗談でもゴールドとか言わないほうがいいにゃぁ。ランクの詐称は罪、捕まるにゃ。はあ、身分証が欲しけりゃさっさと素直に登録するにゃあ……別にゴールドじゃなくてもいいでしょお……ほぉら、さっさと名前と年齢を言うにゃあ」
「ナツ、23歳だ」
「え、えとミューラ、ナツくんと同じ23歳だよ!」
「はいはい……そんにゃ大きな声で言わにゃくても聞こえてるにゃあ……」
非常に腹立たしい対応ではあったけれど、それでも一応はギルド職員としての仕事をしたマティアなるネコ娘は気怠げに懐かしきウッドランクのカードを机に滑らせるように手渡してきた。
それを受け取った俺とミー君はなんだか懐かしくなって思わず笑ってしまったのだが、受け取ったカードを良く見たらその笑いがスゥっと引っ込んでしまった。
「というわけでえ、あんたら経験者ってことだからぁ……説明はなくていいわねえ……どうしてもってなら別のやつに聞いてねえ、面倒くさいしぃ……」
「おいクソ猫待ちやがれ」
「あぁ? 何にゃ? あまり失礼な事を言うと引っ掻いてやるわよぉ……」
「俺もミー君もカードの名前が間違ってんだよ! なんだよ『ニャツ』に『ミュウ』って! 猫じゃねえんだぞ! 猫じゃ!」
「うるさいにゃあ……そう聞こえたんだからしかたないにゃ。もう登録しちゃったからおしまいにゃあ。文句言うなら自分で書類書いたらよかったのににゃあ……」
「お前が自分でさっさと書いたんじゃねえか! クソが!」
「まあまあ、ナツくんナツくん。これはこれでいいじゃない」
「……? なんだかミー君は嬉しそうだな?」
「うん。だってさ、カードも新品、名前も新品。二人でまた1から始めると思ったらさ、ちょっと楽しくなってきちゃったんだよね」
くっ! 見ろよこのミー君の無邪気な笑顔。
きっと別名義で作られたカードが呼び込むであろう様々な面倒事なんか一切考慮してねえんだぜ?
だがまあいい。今日の所はミー君の笑顔に免じて許してやるよ!
……ギルドがだいぶ混んできて視線がいてえしな!
けれど、糞猫! もう金輪際お前のところには並ばねえ! かかわってやらねーもんねー! ばーかばーか!
◇◆マティア◆◇
まったくにゃんなんだ、あのヒュームは。ただでさえ面倒なギルド業務がますますめんどくさかったにゃ。
ていうか新顔のヒュームがこの街に来たのはどれくらいぶりかにゃ?
奴らが入ってきた瞬間、冒険者の連中がざわついたから、喧嘩でも起きて面倒ににゃるかとおもったけれど、そうはならなくてホッとしたにゃ……。
にゃんでも、あのニャツとか言う男が装備している鎧が立派だからさぞかし強い冒険者なのだろうとか、腰に差してる剣を見たか? あれ重魔鉄鋼だぞオーガなんじゃないのかあいつ……なんてビクビクしながら情けにゃあ事を言ってるのが聞こえてきたけれど、そんなわけ無いにゃあ。
アレは大方商人の息子夫婦か何かで、反りが合わなくて飛び出してきたボンボンにゃ。
良くいるのよにゃあ。力がにゃあくせに誤魔化してえ……『俺はゴールドランクだ』にゃんてウソを付くやぁつ。大方、はじめてきた街で見栄を張るつもりだったんだろうけど……お生憎様だにゃ。ギルドのカードは照会すればきちんと情報が出るようになってるにゃ。
ゴールドにゃんて嘘をついた所で調べれば直ぐに――
――……本当にそうだったら、私は怒られるのかにゃ……?
嫌にゃ……メンドクサイにゃ……。
……けど万が一ということも在るにゃ……万が一があれば私はクビにされちゃうにゃ……念の為にこっそり照会してみるにゃ……。
ええと……アイツラにゃんていったかしら……確か……ニャツにミュウ、そうにゃ。その名前だったはずにゃあ……――
なんにゃ、やっぱり単なる素人にゃ……登録ギルドはここににゃってるし、やっぱりさっきがはじめてだったんじゃないか。
はあ、全く余計な心配したにゃあ……今日はディクソンでも騙して……たんまり奢らせる事にするにゃ……うにゃふふ。
◇◆ナツ◆◇
ウッドランクなのだから、ここにも例の保護措置だかなんだかで無料で泊まれる宿とか在るのかも知れないけど……逃げるように半ギレで飛び出した以上、今からまたギルドに戻るのもアレだよなあ。
まあ、今の俺達ならあっという間にウッドランクから抜け出せるだろうし、魔物を金に変えりゃあ済むことだからな。取り敢えず普通に宿を取るとするかあ。
まだちょっとムカついている俺が情けなるほど、すっかり機嫌を取り戻したミー君はニッコニコと嬉しそうに俺の隣を歩いている。
「えっへへ。今夜は何食べよっか。宿を借りるなら外食だよねえ。暫く節約しなきゃないけど、今日くらいはちょっとだけなら贅沢してもいいよねっ」
まだカードと名前のことを喜んでいるのかと思ったら違った。ガチで切り替えて食べ物のの事で頭がいっぱいだったようだ。
さすがはミー君。
「さっきちらりと宿の料金表を見たけどね、どうやら相場は素泊まり1泊10から50コロンのようだ。
現在我々の所持金は572コロン。程々の宿なら二人で30コロン。飯を考えると二人で1日60コロンはかかるだろう?」
「うう、そうだったね……私達にはお金があんまりないんだった」
「まあ、待ち給えよミー君。それでも5日は余裕で暮らせるんだ。実際は依頼を片付けて収入も入るだろうから……今日くらいは贅沢をしても良いと思うよ」
「え、ほんと!?」
「ああ、本当だとも。素泊まり30程度の宿を取るとしてだ。そうだな、本日の夕食は二人で100コロンの予算としようじゃないか」
「わあ、凄い! それだけあったらたくさん美味しいもの食べられるね!」
くう、泣けてくるね。かつてはもっと贅沢なお金の使い方をしていたというのに……銀貨1枚だよ? 銀貨1枚でここまで大喜びするとは……ミー君も成長するものだなあ。
「ねねね! 見てほらナツくん! あのお店、美味しそうだよ! 入ろうよ! ねえ!」
「待て待てミー君。まずは宿をとってからだ。じゃあそうだな、俺はそこの宿で部屋をとってくるから、ミー君は先に店行って席とっといてくれよ」
「うん! そうしよう! えへへ、分担作業ってやつだね!」
「ああうん、そうだな。じゃあ頼むぜ、ミー君」
「まっかせてよー!」
なんだかんだで街までたどり着き、1日目が緩やかに終わろうとしていく。
これからどうなることかわからないけれど……とりあえずシルバーランク目標にがんばるとしますかねー!
おのれくそねこ! 今に見ておれ! って奴だ。
……二度と関わり合いになりたくねえけど!




