108話 これがテンプレってやつか
ミー君と二人、野を駆け山を駆け時折鳥や猪を狩ったり食べたり寝たり笑ったり思い出したかのように街道を駆けて……としている内、あっという間に5日間が過ぎ去って。
割とのんびり目に移動した割には聞いていたよりもだいぶ早く見えてまいりましたよ、そう、街が!
「あれがリエノか」
「聞いていたとおり結構大きな街だね? メルフくらいあるかな?」
「どうかな、メルフのほうが少しだけ大きいかも知れないよ」
ここまで来ると街道にはちらりほらりと人の姿が見え、馬車もガタゴトと音を立てて走っているため、流石に人外染みた移動はやめ、一般的な歩行速度を意識して歩くことにした。
いつもどおりに歩けば数分の距離だったのだけれども、周りに気を使って普通に歩いたものだから街を囲む防壁が見えてから1時間もかかってようやく門まで到着した。
別に肉体的な疲れは無いのだけれども、気疲れしたと言うかなんというか。
二人揃って妙にぐったりとした顔で列に並び、そこからさらに30分。
退屈すぎて眠くなってきた頃にようやく我々の番となった。
「見かけない顔だな? 身分証を持っているか?」
強面の虎さんからそんな事を言われた。
ククリ村は犬族の村という事で、ワンワンたちとしか顔を合わせなかったけれど、このリエノは同族だけということは無く、多種多様な種族が暮らしているらしい。
ここにつくまでの間も、なぜかギルド嬢で見かけがちな猫族をはじめとして狸族や豚族、熊族に狐族と、多種多様な種族を見かけたけれど……虎族なんて種もあるんですね、門番にぴったりすぎてちょっぴりビビっちゃうわい。
「それが森で荷物をそっくり失ってしまってね。今持っているのはお世話になったククリ村の人達から頂いた物達だけで、身分証と言えるものは持っていないよ」
「私もそうでーす。隣のナツくんとは夫婦で、2ヶ月ほどククリ村でお世話になってました!」
元気よくミー君が言うと、脳天気な笑顔にコロっとやられたのか、虎さんの表情が若干和らいだ……ような気がする。だってワンワン達みたいにヒューム寄りな感じじゃなくて、虎顔のおっさん? なんだもん。表情がわかりにくいんだこれが。
「ククリ村か。そんな遠くからはるばるとやってきたわけだな。ここじゃヒュームは珍しい。だから何かあれば噂となって流れてくるはずだが……何も聞こえてこないとなれば、悪さのたぐいはしていないのだろう」
「勿論ですとも。ククリ村の人達には随分とお世話になりましたからね、悪さなんて恩知らずなこと、とてもじゃないけど出来ませんよ」
「そうかい。ガツの奴は元気でやってたか?」
「ああ、ガツの知り合いですか。彼は元気に狩人やってますよ。最近は新しい剣を手に入れて、大喜びで魔物を狩ってますわ」
「へえ、ガツがなあ。立派になるもんだな。確認のために村の事を質問させてもらったが、あんたの目に嘘は感じられんし、それを身分確認に変えさせてもらおう。ようこそリエノへ……と、いいたい所だが、保証金として100コロン出してもらうがかまわんかね。
高いように見えるが、これは規則でね。身分証がない者からは保証金として一人50コロン貰うことになっているのさ」
出たなコロン。ククリ村に居た頃に村の連中から教えてもらったこの大陸の基礎知識の中にコロンの存在はあった。
スーラ大陸では銀貨何枚だ銅貨何枚だーってやってたのに、ここだと通貨単位というものが存在しているらしく、コロンというものがそれに当たるようだ。
ただまあ、単位が在るってだけで、使われている貨幣の種類と価値は大体おんなじで、それだけは非常に助かった。
ちなみに現在求められた100コロンというのは銀貨1枚。ざっくり日本円換算で1万円。なんだかドル見たいな感覚だなってちょっぴり思った。
さて、我々は一文無し……であった。が、村を出る際に村人たちから『これまでのお礼である』と、様々な食料や素材と共にお金も頂いてしまったのだ。
少ないけれどと渡されたのは村中から少しずつカンパされたお金で672コロンもあって、なんだか申し訳ないなと思う反面、嬉しくて心がポカポカとしたのを覚えている。
街で困らないようにと受け取ったお金が早速役立つことになって、本当に村の連中には頭が上がらんね。
「じゃあ、二人分で100コロン……細かいので悪いね」
「ああ、別にかまわないさ……ん、確かに」
カンパでジャラジャラと貰ったお金なので、当然銀貨ではなく大銅貨払いだ。
お財布の中身は大半を銅貨が占めているので、それを使いたい気持ちもあったけれど、こんな所で100枚も数えて貰うのは気が引けたからな。大銅貨10枚でのお支払いにしたのさ。
「よーし、じゃあ改めてようこそリエノへ! 暫くここに滞在するならばまずは何らかのギルドに行って身分証を作ることだな。何かで出入りをする度に毎回100コロン貰うのは俺も申し訳ないんでね」
「ですね、ありがとうございます。これから冒険者ギルドに行く予定なんで、そうさせてもらいますわ。じゃあ、また!」
「またねー」
木製では在るけれど、鉄が貼り付けられて重厚な雰囲気溢れる立派な門を抜け、短めのトンネルのような通路を抜けると……そこは――
「普通の街だね」
「まあ、そうね……」
ミー君が身もふたもないことを言っているが、まあ街である。特に奇抜なこともなく、可愛らしい三角屋根がついた石造りのお家が多数並ぶ『あーファンタジーにありがちな街ね』と誰しもが言っちゃうような普通の街が広がっていた。
さて、身分証ということで、手っ取り早く冒険者ギルドに行こうかしらと、ダメ元でスマホのマップアプリで検索をしようかなと思ったら――
「ねね、あそこに在るのって冒険者ギルドだよね」
「おお、でかしたミー君」
あっさりとミー君が発見し、ご褒美に頭を撫で回すこととなった。
ミー君は『えへえへ』とだらしなく喜んでいたけれど……まあこれ見つけられないほうが間抜けだな。つまり俺は間抜けってこった。
ギルドは街の出入り口の直ぐ側にデーンと構えていた、つまりは門を潜って右を見れば直ぐそこに見つけられたのであった。
3階建ての建物の前には魔獣に剣が重なるモチーフの看板がぶら下がっていて、その下には『冒険者ギルド リエノ支部』と書かれていた。
現在の時刻は15時ちょい過ぎ。早めに帰還する冒険者達でじわりじわりと込み始める頃だろうか。
ミー君と二人、ドアを開けて中に入ると……おーおー、見慣れぬヒュームが現れたからでしょうな、暇そうにたむろしていた冒険者共がジロジロと見て来ますわ。
ヒソヒソと何か話していますけどね、粗方――
『ヒュームが何の用だよ』『ゴブリンの囮になりに来たんだろ』『ケケっチゲえねえ。弱いなりに役に立つってか』『誰かパーティに誘えよ』『俺はごめんだね。お前が行けよ』なんてケチな悪口を言ってるに違いないんだ。
そんなのに付き合っちゃうのがチート主人公なんでしょうけれど、生憎俺はそんな立派なもんじゃありませんからね。さっさと自分の用事を済ませて帰るとしましょう。
3つほど並ぶ受付を見ると、運良く一つが空いたところだったので素早くそこに潜り込んだ。
受付に居たのは眠たげな顔をした猫族のお嬢さんで、けだるげな感じでしゃべる受付嬢であった。
「ギルドへようこそお……。んで、今日は何の用事ぃ……? 新規登録ならやめたほうがいいにゃあ。あんたみたいなヒューム直ぐに死んじゃうんだからにゃあ……」
「ちょっと……――」
あんまりな物言いにミー君がプンスコと怒って言い返そうとしているが、そっとそれを止める。
ダメだよミー君。ここで言い争いイベントなんて起こしてみろ。なぜか知らんが、どんどんと場が大げさな事になっていって、最終的に『何の騒ぎだー!』なんていってギルマスが登場。そして連れて行かれるは懐かしき例の部屋! ってなるんだぞ。
よその大陸にまで来てそんなテンプレ展開はごめんだっつーの。
そんなわけで、ミー君に念話で『まあ、俺に任せてよ』と伝え、穏便に事をすすめることにした。
なんか善人ばかりの村に居たせいか……こういう態度を取られると余計に胸がムカムカとしてくるのだけれども、ここは俺が大人になれば済むことだからな。
うむ、我慢我慢!




