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107話 いわゆる別れの朝ってやつ 

 昨日『明日街に向かうよ』と、テッツ少年を始めとして顔を合わせた村人に伝えると、あっという間にそれは村中に広まって、突然のことだと言うのに昨夜は盛大にお別れ会なんてものを開かれてしまった。


 正直めっちゃ泣けたし、今こうして村人総出で見送りに来てくれてるのを見ちゃうとヤバいですね!


「ナツさん、ミューラさん。あんた方にはホント世話になったよ!」


 フガフガな村長さんに変わり、村人代表として俺に別れの言葉を言うのは狩人のガツだ。 厳ついワンワンが目に涙を浮かべながらそんな事を言うものだから、俺もなんだかちょっと目から汗が……。


「俺達を強くしてくれただけじゃねえ。水源を浄化してくれたり、村の連中に新たな力を授けてくれた。お陰で見ろよこの立派な外壁! スキルのちからが無けりゃこんなもんは作れなかった」


 現在ククリ村は木製の頑丈な壁でぐるりと覆われている。

 これまで所々に申し訳程度についていた柵と比べたら圧倒的な防御力で、これならヒッグ・ホッグ程度が迷い込んできても侵入されることはないだろうさ。


 これも【大工】や【土木】なんて都合が良いスキルをはやした男達が頑張った結果だな。

 勿論、その資材となる木材は【木樵】が芽生えたおっさんがスパスパ切り出したものであり、資材をひょいひょいと運んだのは【運搬】が芽生えた兄ちゃんの力だ。


 なんだかノリと場の勢いで村人殆どに加護を与えちまったけれど……結果的に良い方向に転んだようで何よりだよ。ほんとに。


「俺達は切っ掛けを作ってあげただけだよ。力があってもきちんと使えなければなんにもならない。これから村を守り、育てていくのは君たち、君たちの力で村はより良くなっていくんだ。

 いつか、また遊びに来るからさ、そん時に俺達がびっくりするくらい立派な村にしておいてくれよな!」


「ああ、必ずだ! 必ずやり遂げるぞ! なあ、みんな!」


「「「「おおおお!」」」」


「ミューラちゃん、元気でな」

「うん、マリリさんから習った料理、練習続けるからね!」

「ミューラ! あたいの裁縫もちゃんと続けるんだよ!」

「が、がんばるよ!」


 ミー君はミー君で女性たちから取り囲まれ、目に薄っすらと涙を浮かべている……と、ガシッと腕を誰かに掴まれた。


「ナツさん! ナツさんが行ってしまうと私の錬金トークを話す相手が居なくなるので! 正直行ってほしくはありませんが、仕方がないので見送りに来ました!」


 色気があるんだかないんだか……例の錬金お嬢さん、ユーリが目をギラギラとさせながらそんな事を言う。


「ありがとうよ、ユーリ。今度来る時は俺の仲間――魔術師であり、錬金術師であり……薬師の知識も半端ないエミルって奴を連れてくるからさ、思う存分話を――」


「え、錬金術師で魔術師でエミルって……ま、まさかエミル・ネイツ……さん……ですか!?」

「うんそうだけど……え、なに、知ってるの?」

「知ってるもなにも、私の心の師匠ですよ! 昔、村に来た商人から買ってもらったエミル・ネイツさんの著書『錬金術の調べ』は今の私を生み出した名著! 確か彼女は亡くなったのだと伺っていましたが……あ、ああ! 言わなくていいです! エミル・ネイツさんですからね! 彼女ほどの存在ならば死を乗り越えるくらいの偉業は――」

「ほらほら! ナツさん困ってんだろ! すいませんね、ナツさん!」

 

「あ、ああ……大丈夫だから! まあ、なんつか、また絶対にくるからさ! みんなも元気でな!」

「元気でねー! ナツくんと、エミルちゃんとモモちゃんも連れてきっとまた遊びにくるから! またねー! みんな!」


 なんだかとってもグダグダになりながらも……俺達はククリ村からはるか東に在るという『リエノ』という大きいらしい街を目指して歩き出した。


 背後からはまだ村人たちの声が聞こえ、ミー君は時折振り返ってはブンブンと大きく手を振っている。


 馬車で送ってくれるだの、馬車をくれるだのと言ってくれたのだけれども、そこまで迷惑はかけられんし、馬車を貰ったとしてもこの大陸は俺達のホームじゃないからな。


 どのみち街で売り払うことになるのは目に見えているのに、村の大切な馬や馬車をもらうわけには行かないよ。


 そうそう、今更だけれども、俺達が居るこの大陸……ここは予想通り古くから獣人達が数多く住む大陸で、ナルガ大陸という所であった。


 確か前にティールさんから聞いた気がするな。獣人達が開拓した大陸、ナルガ大陸。

 スマホのマップを見ると、懐かしきスーラ大陸からはるか北西に位置する大陸のようだ。


 最も、マップの殆どがモヤに包まれていてざっくりとした情報しかわからねえけどな。


 思えば遠くに来たもんだ――っつうか、来たくて来たわけじゃないけれど……、たまたまとは言え、良き縁が出来たから無駄ではなかった……と思いたい。


 半ばやらかしたようなもんだったけれど、これで生産スキルの有用性というか、一般人にスキルを与えた場合のデータが手に入ったわけだからね。


 俺は何もしてねーっつうか、ミー君の功績なのに俺もやたらと感謝されてしまって参るよなあ……あ!


 しまった。いつものアレ、お願いしてくるんだったな……。

 ま、それがなくとも十分なほど感謝されてたからな。今回くらいは別にいいかー。

 

「ナツくんどうしたの? なにか悩み事?」

「いいや。なんでも無いさ。それよりもう少し急いで歩こうぜ。目印のデカい岩までは進んでおきたいからね」

「そだね。じゃあさ、そこまで行ったら今日は私が美味しいご飯を作ってあげるね」

「おっ 楽しみだね。ミー君もだいぶ料理が上達したからなあ」

「えっへへ。一昨日とうとう【調理】スキルが芽生えたからね。ま、楽しみにしといてよ」


 こうして俺とみー君の旅は再び始まり……徒歩で、しかし普通の馬よりは随分と早い歩みでククリ村より東の街『リエノ』を目指すのでありました。


 

◇◆エミル◆◇


「今日もダメであったか……」

「ええ、ナツくん達がギルドを使えば直ぐに報告が来ると母から聞いては居ますが、まだなにも」


 あれから2ヶ月が経過した。彼らのことだ、悪いようにはなってはおらぬのだろうが、あまりにも進展が無いためただひたすらにヤキモキする。


 ギルドからなにも報告が無いということは、彼らがまだギルドに顔を出していないということだろう。


 何をするにも金は必要だ。となれば手っ取り早く仕事ができるギルドにゆくはずであるのだが、未だそれが成せていないとなると、彼らが何処かとんでもない僻地に飛ばされたという可能性が浮上する。


 奥深い森の中、砂漠のど真ん中、もしくは何処か厳しい雪原か……。

 そうなればナツ殿達が非常に苦境に立たされているかも知れぬ……ああ、何も出来ぬ我が身に頭にくるわ。


「エミルー、むずかしいかおをしてどうしたんだー?」

「む、モモか。いやな、こうしている間にもナツ殿達が人里離れた何処かで苦労しているかと思うと胸がモヤモヤとしてのう」

「そっかそっか。エミルはやさしいな!」

「仲間を気遣うのは当たり前のことではないか」

「モモはさ、なつくん達なら平気な顔で何か面白いことをしてるとおもうなー」

「面白いこととな?」

「うん! なつくんさ、どこに行ってもなにかに顔をつっこむはめになるだろー? またどこかで誰かを助けてるんじゃないかな」

「ぬ……否定できぬ……いや、であれば良いのう。少なくとも極地で死の淵に立たされていると考えるよりはよほど良い。ありがとうな、モモ。少し気が楽になったわ」

「えっへっっへー。モモのカンはよく当たるんだぞ! モモを信じて気楽にいけ気楽に!」

「ああ、そうだな。モモと――ナツ殿にミー殿を信じてどんと構えていよう!」


 ナツ殿お得意の巻き込まれか……確かに彼ならば有り得る話だ。

 モモのカンとやらで素直に安心しきるのは不味かろうが、案外的を居ているかもしれぬ。


 アヤ殿が何か手配をしていて、彼らの痕跡が見つかれば直ぐにでも()()()()()()という話であるし、我も再開の日に向けて色々と支度をしておくとしようかの。


 ナツ殿、ミー殿。どうか……息災での。


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