106話 大丈夫。多分大丈夫。悪いようにはならないよ、うん!
かくかくしかじか。
いえ、真面目に説明をしましたよ。本当ですよ。かくかくしかじかとそのまま言って不思議な顔をさせてしまうのはミー君にだけですってば。
というわけで、我ながらもう流石に手慣れた物で、ペラリペラリとスキルやレベルシステム、其れに伴うステータスの概念なんかを説明しましてね。
特に今回は非戦闘員、生産職の皆さんに加護を与えるって言うんで『スキルはこれまでの実績により初期スキルが芽生える者も居るが、今後の努力によりそれを伸ばしたり、また新たなスキルを得る事が出来る』という部分はしっかりと説明しました。
今回何も芽生えなかったり、望みのスキルじゃないものが芽生えてた――なんてイジケル人が居るかも知れませんからね。
スキルがどう芽生えどう育つかは君次第! スキルとは日頃の努力にきちんと応える裏切らない存在だ! みたいな事をノリだけで言ったらまあまあ盛り上がる盛り上がる。
わあわあと盛り上がってる中、こそっとミー君に加護を与えて貰い、うやむやの内に村人達をパワーアップさせる事に成功。
「今この時から君たちは新たな力を経て生まれ変わった! 今後も変わらぬ鍛錬に励み給え!」
我ながら偉っそうな事を言ったけれども、これがまた盛り上がる盛り上がる。
さっそくステータス画面を開き、一喜一憂をするワンワン達の中にはテッツ少年の姿もあった。
子供はダメ! なんて特に厳しく言ってなかったため、どさくさに紛れて大人達に交じり、一緒に加護を授かっちまったようだけれども……まあ一人で森までやってくるようなガッツがあるお子様だからな。
彼ならばきっと村の未来のため、素敵なスキルを身につけてくれる事だろうさ。
……ほんとは選ばれし人達、せいぜい10人前後程度に加護を与える予定が……どうしてこうなっちまったのか。
ノリで全員に加護を与えちゃったけど、やっぱこのまま『じゃあの』とはいかないよな。
取りあえずもう暫くだけ滞在して様子を見るしか無いよな……とほほ。
……
…
そして加護を与えてから一週間が経ちまして。
狩人共はもう俺の補助無くゴブをサクサクと狩れるようになりまして。
そんな彼らが安心して狩りを出来るのは村で様々なものを生産しているみなさんもおかげ。
鍛冶師のダンバはギラギラとした目がおっかない渋いおっさんで、我々の期待通りに鍛冶スキルが芽生え、半信半疑ながら打った槌からはこれまでとは比べ物にならないほどに素晴らしい武器が生み出されていた。
そのダンバの鍛冶を支えているのが村の鉱夫達。
ククリ村の近郊にはちょっとした採掘場があり、そこでわずかながら得られる鉱物は村内で利用されるほか、生成したものを年に数回街まで出荷して収入にしているのだという。
そんな彼らなので、当然【採掘】が生えたわけだけれども……彼らの報告によると、そのスキルによってぼんやりと鉱物の在り処がわかるようになったのだという。
それで今まで放置していた区画を掘り進めた所、結構な大鉱脈に当たって……しかもスキルによって採掘に関わる動作に補正がかかり、サクサクとまるで柔らかな土を掘るかのようになったため、ザクザクと多数の鉄鉱石や重魔鉄鋼、少量ながら魔法銀なんてものまでもが産出されるようになり、村の戦力上昇はもちろんの事、金銭面でも大いに貢献することになった。
そうやって掘り出された鉱物や狩人たちが持ち帰った魔物素材を防具に加工するのはハルコさんというおば……お姉さんだ。40代はお姉さん、いいね?
彼女は【縫製】スキルが芽生えたほか、これまで防具作成の真似事をしていたおかげで【防具作成術】なるまんまのスキルも芽生え、それによってより効率的に防具の製作が可能となった。
彼女が作り出す防具は街で売られているものと遜色が無いどころか、下手をすればそれを上回る出来であるということで、俺とミー君も念の為に着なさいと、立派な防具を押し付けられてしまった。
いや、とってもありがたいんだよ。ありがたいけれど、お金を払えないのに申し訳ないなって。
最も、それを口にした所で「あんたらには返せないほどの恩があるのだ」みたいなことを言われて何も言えなくなるんだけどね。
そんな彼女、ハルコさんの元には現在3名のお弟子さんがついている。
3人共全て女性で、既婚者ばかり。
なんでも彼女たちは総じて子沢山であり、家で家族の繕い物をしていたお陰で裁縫スキルが芽生えたのだと言っていた。
せっかくのスキルをなんとか村のために使えないかと、防具作成を生やすため、ハルコさんの元に弟子入りしたんだそうな。
いやほんと良い村ですよね。住人総出で村を守ろうと立ち上がっているもの。
そうそう、女性と言えばミー君に料理を教えてくださったマリリさん。
料理の鑑定結果に何か伏線というか、見え見えのフラグと言うか……何か書いてありましたけれども、当然彼女もただ単に【調理】が芽生えて終わりと言うことはなく。
なんと【薬膳調理】という上位スキルが芽生えてしまったのです。
これは中々に有能なスキルで、何らかのバフ効果を持つ料理を作成可能となる、どこのハンティングゲームだよ! ってなっちゃう感じのスキルなのです。
独身男性共のために精が出る食事を日々作っていたハルコさんらしいスキルですよね。
これと合わせて活躍するのが【錬金術】がしっかりと芽生えたユーリといううら若き女性。一見すれば黒髪眼鏡の地味な感じのお嬢さんなのですが、口を開けば出るわ出るわ、機関銃のようにワアワアと錬金トークが俺を蜂の巣にするんですよ。
いやあ、俺もうっかりしてました。
うちにはエミルという天才が居るでしょう? 仏前の小僧なんとやら、ちょいちょいとエミルのお話に付き合っているうち、俺も簡単な錬金知識は身についてるんですよ。
だもんでついうっかり『へえ、ユーリはランダランダの花を媒介にしてるんだ。だったらカックラストーンを誘発素材として使うのかな?』なんてよせばいいのに言ってしまって……。
『ナツさん! は! 錬金に! 明るいのですか? いえ! そうですよね! じゃなければ! カックラストーンを誘発剤にするという発想はでませんので! 私はですねっ! カックラストーンではなく、マリッジールを使うんですよ! 勿論、カックラストーンがあればそれに越したことはないのですが、あの石はこの辺りでは入手が難しくて! それで何か無いかって試していた所、マリッジールが近い効果を持っていることが判明して! これは学術書にも記されていないので、機会があれば発表しようと思っているんですが、そうだ! これ見てくださいよ! この間作ったポーションなのですが、何が違うかわかりますか!? 色? そう、色なんです! 触媒に使ったシュルームがですね――』
と、始まって、話しかけたのは昼過ぎだったのに開放されたのは日が傾く頃で、流石に彼女も喉がカラカラで声が枯れきっていたよ……まあなんつうかエミルと会わせたら互いに喜ぶだろうなって思うけど、混ぜるな危険の匂いもする存在なんです。
で、そんな彼女がスキルを身に着けてしまったわけなので大変です。
いやまあ良いことなんですけどね? 物には限度ッつうのがあるわけですよ。
スキルというものはざっくりと2種類ありまして【剣術】や【調理】のように、自然と良い動きをするようにサポートをするような物……所謂パッシブスキルと呼ばれるようなものと【回復術】やこの【錬金術】のように、身に付けると自然と使い方が頭に浮かび、以後は使用したいと思った時に発動する所謂アクティブスキルの2種類。
前者は特に意識すること無く発動するため便利なのですが、後者はわざわざ意識して使う必要がある分、非常に有益と言うか、ぶっちゃけチートですわ。
【鍛冶】スキルは身についたとしても、自ら槌を降り素材を叩いて武器を製造する必要がありますが【錬金術】の場合はそうではなく。
エミルがやっていた様に、作るぞー! と思えばその瞬間目の前の素材を消費して作りたいものを製造出来てしまうのだ。
勿論、それを成すためには前提知識――素材の効能やそれらの調合バランスなどを身に着けている必要があり、適当にやっても失敗作が出来てしまうわけなので、いくら錬金術が生えたとしてもいきなり「あれえ? 僕が作ったのって伝説の薬品エリクサーなんです? 簡単にできちゃうからいつもジュース代わりに飲んでたんですけど」見たいな真似は出来ないのである。
とは言え、何処かエミルを彷彿とさせる錬金おばけのユーリがそれを身に着けたわけですので、効果というか、相性は抜群! 狩人たちを手助けする回復ポーションやスタミナポーション作成はもちろんの事……ちゃっかりと言うか、そうなるんだろうなと思っていた予感どおりに【薬学】スキルまで芽生えた彼女が行う錬金術からは病に効果がある薬品まで飛び出す始末で。
リトルオーガならぬ、リトルエミルってな感じの錬金おばけが村に爆誕してしまったのであります。
まあ、背丈だけみればエミルのがよっぽどリトルだがね。
そんなユーリの薬品とマリリさんのごはんで村の狩人共は毎日派手な戦果を上げるようになり、そうしていれば当然レベルもガンガンとあがるわけで。
本日はとうとう巨大イノシシ、ヒッグ・ギッガを担いで凱旋してきたのでありました。
ここまで来れば……もう大丈夫だよな。
なんだか名残惜しいけれど、俺達はいつまでもこうしているわけには行かない。
こっちに飛ばされてからざっくり二ヶ月が過ぎちまった。
エミル達も心配しているだろうし、そろそろ腰を上げなきゃな。
そしてその晩、ミー君に『明後日村を出ようか』と伝えると、なんだかちょっとだけ悲しげな顔をした後、すぐに笑顔で『そうだね、いつまでもみんなを待たせてられないもん!』と、元気に答えてくれたのでありました。




