103話 そのころのミー君
◆◇ミー君◆◇
ナツ君達大丈夫かな? 大丈夫だよね、だってナツ君がついているんだもん!
昨夜、ナツ君から『ここの人達に加護を与えてほしい』って言われた時はびっくりしちゃった。だって、私も同じことを考えてたんだもん。
昨日ククリ村の人達から聞いた話によれば、この辺りは魔物が多く住む森が近いのに、街から遠いのと旨味が無い? とかで、冒険者たちが近づかないんだって。
そういや前に『世の中の冒険者たちがヘタレてきている』って聞いたっけ。ここの大陸? も似たような感じなのかもしれないなあ。
護ってくれる人たちがこないのに、こんな危険な場所で暮らしているんだよ?
それに最近は強い魔物達が現れ始めているっていうしさ、じゃあ狩人さんたちを強化したらいいじゃんって思ったんだ。
でもな、ナツ君がなんていうかな? ナツ君はいろいろ考えているみたいだしなって思ってたんだけど、ナツ君から言われてびっくりしたし嬉しかったな。
えへへ、なんだか通じ合ってるみたいでいいね!
「おーい、ミューラ。昨日言ってたのこっちだよー」
「あ、はーい。今行くね、マリリさーん」
ナツ君達が森のお掃除に行っている間、私は村のお掃除だ。
昨日、お礼のつもりで炊事場を浄化したらさ、びっくりされてね。
凄い凄いって褒められちゃったらなんだか嬉しくなってさ、村中回っておうちに浄化をかけて上げたんだよ。
もう、みんな大喜びで嬉しかったなあ。
別に村の人たちが不潔にしているわけじゃないんだけど、どうしても汚れって残っちゃうからね。あんまり派手にやりすぎるとナツ君から「やりすぎだ」って言われちゃうかもだけど、これくらい許してほしいな。
「じゃあ、お願いするけど……本当にできるのかい?」
「うん! 任せてよ! むしろこっちの依頼のが得意なんだから!」
マリリさんに連れてこられたのは村の外れにある泉だ。
村の中央を小さな水路が通っているんだけれども、そのお水の出所がこの泉。
水路はみんなが洗い物に使う大切なものなんだけれど、どうもここ最近お水が汚くて困ってたんだって。
確かに村を流れる水路はなんだか嫌なにおいがしていたし、あまり体に良さそうじゃない。
私は魔術でお水を出せるからそれを使っていたけれど、村の人たちは水路のお水で食器やお野菜を洗ってたからすごく気になってたんだ。
だから思わず『明日は水路を綺麗にするね』って言っちゃったんだけど……村のお姉さんたちは優しいからね。
『ミューラさんの魔術は凄いからね、お願いしちゃうけど無理はしないでね」
って言ってくれたんだ。
それで、朝にナツ君達と別れた後に村の水路を一生懸命浄化して回ってたんだけど……どうも綺麗になりきらない。
水路は綺麗になってるはずなのに、お水は臭いままで困ったなあって思ってたらマリリさんが通りかかってさ、不思議だねーって話しかけたら『ああ、水源がダメになってるからね』って教えてくれたんだよ。
そう言えばカリムでさんざん討伐したあの貝も、元はと言えば別の場所から流れ着いたんだって言ってたし、その大本を何とかしないとどうしようもないかーって案内されてきたのがこの泉なんだけど……。
「わー、結構おおきいね!」
「はは、そうだろうそうだろう。昔はもっと綺麗でね。飲み水としても大事に使われてたんだけど……どういうわけか年々汚れがひどくなっちまってね。今じゃ精々洗い物に使うくらいなのさ」
「村から近くて良い水場だもんね。じゃあ、今飲み水はどうしてるの?」
「今かい? 仕方がないから三日に一回、森にある水場まで飲料水を何人かで汲みに行ってるのさ。
ただねえ、魔物が出るやら遠いやらで……めんどくさがってここの水を使う連中もいるけれど、悪い水だからね。良く村に病人が出ちゃうんだ。全く困った連中だよ」
森の魔物は狩人さん達が強くなれば何とかなるかもしれないけれど、それはそれだよね。
森の水場がどこなのかは知らないけれど、村から森はここより遠いんだよ?
お水だって軽い物じゃないし、ここが綺麗になれば水路のお水も料理になら使えるようになるかもしれない。
そうなったら村の人たち大助かりだよね。
よーし、張り切って浄化しちゃうぞー!
「ちょっと離れててね」
「あいよ。泉で変な影を見たって話しもあるんだ、気をつけるんだよ」
心配してくれているマリリさんに軽く手を振って泉に。
うーん……なんだろうこの匂い……とっても嫌なにおいだけど……どこかで嗅いだことあるな。
とりあえず……っと。
腕まくりをして両手を泉に。触れなくても浄化は出来るけれど、こうして両手で触れた方が効果が上がるからね。
なんだか少しヌルヌルして嫌だけど……ここの泉は広いし、こうでもしないと時間ばかりかかっちゃうもん。
「えーい!」
「ひゃあ? な、なんだい?」
「あ、眩しかったらごめんなさい! 力いっぱい浄化するとこうなっちゃうんだ。少しすると収まるから……」
「いいよいいよ。もう平気さ。はー、よくわからないけれど……凄い魔術があったもんだねえ」
聖なる浄化の気……この世界風に言えば聖属性のマナって言えばいいのかな? それが私の手からお水に流れ、ゆっくりゆっくりと泉全体に広がっていく。
泉を覆っていた汚れがマナから逃げるようにお池の真ん中に集まっていって――……? そんな効果あったかな? 汚れを集めるなんてフワちゃんみたいで面白いや。
「大したもんだねえ! 岸辺にまとわりついてたブヨブヨが全部剥がれてったよ!」
なるほどね、ふよふよと流れていく汚れの様なものは泉にまとわりついていた藻かなにかなのか。
薄ーく覆ってたから、ぱっと見はそれほど汚く見えなかったし、水路にまで流れれば汚れはそこまで目立たなかったけれど……この嫌な臭いは良いものじゃないし、水路に出たからと言って薄まる物じゃない。
よーし、あと少し! これが完全に消えればきっと泉も水路も綺麗になるはず!
「綺麗に……なーーーーれ!」
「ひゃああ!? また強い光が!?」
「あ、ごめんなさい!」
少し力を籠めたらまた光があふれちゃったみたい。
でも……それだけ浄化の力が強まったって事だから……いっけええええ!
これまでよりも速い速度で黒いモヤモヤが泉の中央に向かっていく。
モヤモヤが集まっていくに従って、嫌な臭いが濃縮されて……どんどん強くなっていって……風に乗って私の鼻にダイレクトアタックを……うう、臭いよう……ってこの臭い!?
「ミューラさん、あれをみなよ!」
マリリさんの険しい声と同時にバシャーンと音を立てて大きな水柱が立ち上る。
一瞬、何かとても大きな黒い塊が見えたけれど、直ぐに私の光に覆われて消えちゃった。
そして少しだけ間を開けて再び大きな水音。
あとに残されたのは綺麗になった泉とゆっくり沈んでいく核。
私、知ってるよあの黒い奴……あれは前にナツ君とやっつけた……と言うか、知らずに浄化しちゃってた『べのむスライム』とか言う奴だよ。
シュリさんちにある妖精のお池に迷い込んだお水を腐らせるダメな魔物。
そんなのが住んでいたんだもん、お水も悪くなるわけだよ……。
……というか、犬族の人たちって結構頑丈だよね。あんなのが住んでいるお水を使ってたんだよ? ヒュームならとっくに全滅していたかもしれないな……。
ううん、犬族の人達だってあのまま使い続けていたらどうなっていたかわからないよね。ちょいちょい病人が出るって言ってたし。村全体で悪い病気が流行る……なんて事になったかも知れない。
そんな恐ろしい事が起きる前に何とか出来て良かったよ。
「凄い、凄いよミューラさん! こんなに綺麗な泉を見たのは子供の頃以来だよ!」
「えへへ、喜んでもらって嬉しいよ」
「嬉しいってもんじゃないさ! よし、村の連中呼んでくるよ! ミューラさんはここでまってな!」
「え、ちょ、ちょっとマリリさ……もー、行っちゃった」
もの凄い勢いで駆けてっちゃった。まったくしょうがない人だなあ。
でもあの喜びようは仕方がないか。この泉はもうずいぶんと長い事汚れたままだったみたいだしね。
それが綺麗になって、これからはお水が安心して楽に使えるんだから、一刻も早くみんなに教えなきゃーってなるのはしょうがないよね。だって私だってそうするもん。
……えへへ、私もナツ君に早く教えたいな。
褒めてくれたらいいなっ。




