101話 女神様の決断は
「うん? ここの狩人さん達に加護を与えるの? いいよー」
「マジかよ開幕からタイトル回収したわ」
「?????」
なんだかとってもメタい始まりだけれども、しょうがないじゃんか。
仮初めの自宅にて夕食を食べながら、それとなーく『なあ、ミー君。狩人達に加護あげちゃだめかい?』等と持ちかけたところ、あっさりオッケーされてびっくりしてしまったんだから。決断も何も無かったよ。
でも、そういえばミー君ってそう言う奴だったよな。
たまに小難しい事を考えたり言ったりはするけれど、基本的に人を疑うと言う事をせず、悪い事で無いと判断すればあっさり事を進めてしまう、そんな子なんだわ。
自惚れる訳じゃあ無いけれど、ミー君にとって俺という存在は気の置けない間柄の決して裏切る事が無いと確信している相手なのだ。
そんな俺が提案した事なのだから、きっと良い事なのだろうと、疑う事も無くあっさりと頷いてくれたのだけれども、もう少しこう、話し合いとか有るのだろうと思っていただけにアレ? ってなっちまったわけよ。
「数は10人くらいになるけど、大丈夫かな? 今後世の中に妙な影響が出ちゃったりしないかな……?」
「大丈夫じゃない? ここの人達さ、悪い人達じゃないし、ちゃんと話せば悪用しないで上手に使ってくれると思うよ。それに、私も村の人達が酷い目に遭うの嫌だもん」
ここの連中はなんだかとっても素直な奴ばかりだからな。
あんまり目立つ真似はしないように、なんて釘を刺せば理由を察して理解してくれる、そう思う。
それに、そう遠くない将来、加護の力は冒険者ギルドを中心として徐々に世界に広げていく事になるんだ。先行して一人や二人……九人……十人程度に加護を与えても……いいじゃん?
そうだ、これは実験だ、実験なのだ。
ユグドラールよりも一段階進んだレベルの実験。外部とまあまあ交流のあるレベルの田舎に加護を与えたらばどのような変化が起きるのか、その実験なのだ。
……そう言う体で報告すれば、アヤさんだって怒りゃしないだろうよ。
うん、多分、きっと……頼むから怒らないで……。
あの人マミさん以上におっかないからな……ほんと怒られなきゃ良いな。
……
…
というわけで迎えました翌朝。
我々の前にずらりと並ぶのは村の狩人11名。
今日も朝から狩りにゆくぞと言う事で集まっている訳なのですが、ワンワン達は昨日と様子が違う俺を見て不思議そうな顔をしています。
「なあナツさん。なんで奥さん連れてきてるんだ?」
誰しもが言いたかったであろう事をズバッと尋ねてきたのは狩人最年長、ガツ42歳。
ムキムキの柴犬を彷彿とさせる風貌の気の良いあんちゃん……おっさん……あんちゃんで、かわいいお子さんが二人居る。
見た目はまあまあ厳ついのだけれども、短く刈られたミルクティー色の頭にはちょこんと種族特有の犬耳が付いていて……なんだかそのギャップが可愛らしい。
「なんで連れてきた……か。実はお前達に秘密にしていた事が二つあってな……」
その言葉を聞いたワンワン達が『何言ってるんだコイツ』という顔をしているが、無視をして話しを続けていく。そうじゃないと進まねえもん。
「まず、このミー君はお前達よりも強い」
何か反論でも飛んでくるかと思ったら『なんだそんな事か』という顔をしている。なんでだよ! どう見てもミー君って強そうには見えねーじゃねえか!
「それはまあ……ナツさんと一緒に森を抜けてきたわけだしさあ……」
「つうか、ミューラさんの魔術でちぎっては投げ、ちぎっては投げって言ってただろ」
「村で魔術を使える奴つってもよ、薪に火をつけるくらいのもんだぜえ?」
「「「ミューラさんがつえーのはあったり前じゃん!」」」
そう言われてみればそうだった……。
どうも俺の周りには妖怪ばかり寄りつくため、世間の常識というか、フツウと言う物がいまいち分かっていないのだけれども、どうも魔術を攻撃に使えるまで身につけている人間はそこまで多くは無いらしいんだよな。
そりゃ冒険者になろうって言う人間にはそこそこ魔術師なる者はいるよ? それに宮廷魔術師みたいなのも居るとか聞いた。
けれど、それ以外の一般人、普通の村人さんたちにはそんな存在レア中のレア。
この手の世界お約束の、いわゆる『生活魔術』的な殺傷能力の低い魔術を使えたらそれですげーって言うレベルだ。
なので戦闘魔術を使用出来るミー君はそれだけで強者オーラぱねえって事になっちまうんだよな……参ったな、やりにくくなった。
フワが居ればアレを見せれば一発だったんだけど……しょうがねえ、強引に行くか。
「あーあーあ! 俺の言い方が悪かった、すまん。けどな、俺が言いたいのはそうじゃねえんだ。俺とミー君が強いのには理由がある。それが第2の秘密だ」
「そんなの鍛えてるからじゃねえの?」
「未踏のダンジョンに潜ってるような冒険者なんだろ?」
「そんな所で戦ってたら強くなるのはあったり前じゃん」
めんどくせえ奴らだな! 良いから話しをきけっつーんだ。
「ばっかだな、お前ら。ばっかだな!」
「なにおう! いくらナツさんでも俺らを馬鹿にすると許さねえぞ!」
「うるせえ、黙って聞け! いくら冒険者達が魔物とやりあってるつっても限度ってのはあらあな。
冒険者つってもいつもダンジョンに行くわけじゃねえ、街の雑用をしたり薬草を集めたり……そう言う仕事もあるんだ」
マジかよって顔をしているな……。
「なあ、村で冒険者に依頼出した事ねえのか?」
「村で出す事は……ねえかな?」
「俺ら見た事あんのって、商人の護衛で来る連中くらいだもんな」
「貧乏なうちらじゃ無理無理! 金貨とか払ってんだろ?」
うっわ、田舎過ぎて冒険者の情報が伝わり切れてねえ奴だコレ。噂が噂を呼んで一人歩きしてる奴だ! つうか話しがいっこも進まねえ!
面倒だったけれども、今後のためを考えて冒険者のお話を軽くしてあげました。
それも伝わりやすく、誰でも知っているような良い話しでは無く、銅貨数枚の日銭を稼ぐのもやっとな底辺冒険者が沢山居るとか、家の引っ越しを手伝って大銅貨2枚、けれどそれがどれだけ美味しい仕事として受け取られているか……とか。
そもそも最近の若い冒険者共は強い魔物と戦うのを嫌がって弱体化しているのだとか……。
夢を壊すようでアレだけれど、ここは現実を知ってもらわなければ話しが進まないのだ。
「マジかよ……だったらよ……」
「なあ、もしかして俺達の方がよっぽど……」
「ああそうだ。そりゃ、中には化け物見てえな連中も居るけどな、殆どの冒険者はそうじゃねえ。
魔物や獣を狩るお前ら狩人のがよっぽど魔物とやり合ってるだろうし、若い冒険者と比べりゃ多分ガツやカイみてえなベテラン狩人のが強いぞ」
呆然とするワンワン達。まあ気持ちは分かるぜ? 冒険者つったら、イメージ的に魔物スレイヤーみたいな、絶対強者というか、英雄的な印象が強いもんな。
ところがどっこい、そうじゃねえ。狩人達の落胆と言ったら。
「じゃあよ……リッグ・ゴッブみてえな深部の魔物を狩れるのって……」
来た来た来ましたよ。俺が求める流れ、来ました。
この流れで一部の選ばれし強者のみがそれを狩れる、その常識をぶっ壊してやるから――
「ナツさんみたいなオーガじゃねえと無理って事なのか……」
「ちっがうだろ! そうじゃねえだろ! 俺はヒューム! ヒュームだ! いい加減にしろ!」
でもよ、と俺を疑わし目に見つめるワンワン共を見ていると悲しくなってくるが……これも今だけの辛抱だ。この加護の力が世界中に広まれば俺見たいな一般人はクソ雑魚ナメクジに成り下がって、きちんとヒュームとして見て貰えるようになる筈なんだ……って目的が変わっちまってる!
「話しを戻すぞ! 俺達が強いのにはちゃんと理由がある。中でも即効性がある秘策を今日はお前達に伝授してやろうっつってんだ」
「おお……」
「マジっすかナツさん。俺もあんたみたいに」
「でも俺達にできっかな?」
「あんま頭良くねーもんな、俺達」
「方法を聞いてもちゃんとついていけねえかもしれんな……」
期待半分、疑い半分と言った所かしら。話しだけ聞けばなんだか面倒くさそうっていうか、過酷な特訓が始まりそうな感じだもんな。
けれどご安心下さい! ミー君式ブートキャンプならば、安心安全! どなたでも簡単に今より上のレベルに上がる事が出来ます!――って何か胡散臭いけどマジなんだよなあ。
「これはまだとある国のエルフ達にしか伝えてないネタなんですけどね……」
おーおー、胡散臭そうに見てくれやがる。エルフ達、見てるか? コレが普通の反応だぞ? 単純そうに見えるワンワン達ですらこれなんだぞ?
エルフって知的なイメージが強いってのに、お前らと来たらなんも疑う事無く盛り上がって加護を受け、結局なんでそうなったのか理由を聞く事すらしなかったよなあ……。
お前ら、やっぱりエルフじゃ無くて綺麗なゴリラ族だよ……。
遠き地で今日も脳まで鍛えて居るであろうエルフ共に思いを馳せながら、疑いの眼を向けるワンワン達に加護について説明をする。
理屈について今はまだ教える事は出来ないけれど、兎に角信じて欲しいと。
この力が身に付けば今よりさらに強くなれる可能性を得られ、ゴブゴブ達もひねり潰せるようになると。
この力を与えるにあたって、特に何か報酬を求める事はしないし、受けたからと言って何か不利益を被る事は無い。
とどめに『一切デメリットは無いよ』と言った瞬間、彼らは落ちた。
甘いぜワンワン達……それを信じて一体何人の人間が詐欺られて来た事か……ってそうじゃないよ? 俺達は詐欺師じゃ無いよ!? アヤシクナイヨー!
ってなわけで、ようやくお話が次の段階へと進む事ができたのでありました。




