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100話 村ですって!

 テッツ少年の信頼を勝取った我々掃除屋の2名は、彼の案内によりようやく人間の領域――彼が住んでいるという村に到着した……のだが。


「ねえね、ナツくんナツくん。どうして私達、弓を向けられているのかな?」

「良い質問だね、ミーくん。それはね――」


「おーい! みんなー! 射るな射るなー! この人達は村の恩人だぞー!」


 それはね、我々がヒッグ・ギッガの毛皮をかぶってノッシノシ歩いてきたからだろうさ。

 

 こんなん遠目に見たら、でけえイノシシのバケモンが村を襲いにやってきたようにしか見えねーだろうよ。


 だからこうして弓を向けられ――つうか射られて何本か毛皮に刺さったんだが――たのは仕方が無いことよ。


 おーい、ワンワンさんたちよー 俺たちわるいニンゲンじゃないよー。

 どうかその弓、おろしておくれー。


……


「本当に……申し訳ないことを!」

「魔獣と間違えたとはいえ、まさか恩人を射ってしまうとは……」

「あんなに勇ましく歩く魔獣等居るはずもないのに、俺達はなんて早とちりを……!」


「いやいや、我々も誤解されるようなかっこしてたわけですし、しょうが無いっすよ。頭上げて下さい、皆さん!」


 毛皮から飛び出し、緊迫する村の皆さんのもとへ駆けつけたテッツ少年のお陰で誤解を解くことに成功した我々は、間もなく村に招き入れられることとなり。


 テッツ少年から俺が盛りに盛った話を更に倍増しで盛った我々の活躍を聞いてしまった村人の皆さんは、それはそれはこちらが引くほどに深く深く頭を下げまくり、なんだか妙に熱い眼差しで我々を見つめているのでありました。


 そんでまあ、色々と誤魔化した経緯を話して自分たちを正当化しましたけれど、やっぱり罪悪感つうのはありますからね、それとなく尻拭いを……お手伝いと称してやると申し上げたところ、なんかもう崇拝されてないかってレベルで畏まられてしまったのでありました。


「森の異変を解決して下さったばかりか……暫く滞在して残党狩りまでしてくださるとか! 本当になんとお礼を申し上げたら!」


「いえいえ、乗りかかった船っていうか、ついで? みたいな感じなんで。

 それに、テッツくんから街の場所を聞いた恩もあります。どうか気にしねえで下さいよ」


「そんなものの礼でそこまでして下さるなんて! ああ、なんて素晴らしい人だ!」


 等と皆さんがまるで聖人でも見るかのような顔で我々を見つめ、何やら崇め始めている……。


 ……ひでえマッチポンプがあったもんだわ。

 村が魔物問題でピリピリしている原因は俺たちにあるわけですからね。

 自分達の尻を拭うだけのことでここまで崇められるのはなんだか申し訳ない。


 まあ、正直に本当の事を言う勇気も度胸も無いので……良心に胸をチクチク刺されながら耐えるしか無いのだけれども。



「兄ちゃんたち、こっちだよ!」


 すっかり我々に懐いたテッツ少年に案内されたのは小さな小屋である。

 この小さな村には宿屋など宿泊施設は存在しないため、滞在する数日間を過ごす仮の宿として提供されたわけだ。


 まあ、いつものアレですよね。なんか我々、宿屋に泊まるって事が無いのよねえ。

 

 今回用意してもらった小屋はこれまでの中でも群を抜いてグレードが低いワンルーム……というか、ほんと物置小屋を片付けましたって感じの素朴な物件。


 とは申しましても、今の我々は文無しですし、俺の地球産キャンプ道具も一式置いてきちゃってるからね。

 こうして屋根がある場所で寝られるってのはめちゃんこありがたいです。贅沢は敵! 敵なのです!


 ちなみにヒッグ・ギッガの毛皮等、様々な素材をどうするかちょっぴり悩んだけれど、結局面倒になって村の連中に『宿代代わりである』と押し付けてやったよ。


 彼らはなんだかひどく恐縮していたけれど、ぶっちゃけ今は邪魔にしかならねえからな。

 そりゃさ、ギルドに納品すりゃあ生活費の足しくらいにはなるし、そのつもりで回収してたんだけどさあ。


 あれを担いで街に向かってみろよ、この村の二の舞、どころか派手に緊急警報でも鳴らされて冒険者の群れに追い回された挙げ句、何故か一方的に悪い事にされて拘留されて叱られて泣いたり笑ったり出来なくされちゃうに違いない!


 そんなのごめんだっていうか、そこまで行かなくとも、何らかの面倒事が起きるのは目に見えて明らか。そんな地雷アイテムは押しつけちゃうに限るってもんですわ。


 俺は罪悪感が軽減するし、村の人達は儲かるしでwinwinとはまさにこのことね。

 

 さて、晴れて文明人に戻ることが叶った我々が次に求める物は食事であった。


 村の中央に設けられている共有の調理場を借り、村民の方々から調味料を分けて貰って、久々に文化的な食事を……念願の塩っ気がある食事を作る事が叶った。


 今日まで食ってきた野性味溢れる料理も、そりゃあ不味くは無かった。サバイバル生活を続けている内、だんだんと舌も慣れて不満も無くなっていった……けど、けどさあ。


 人間やっぱり塩分が無いと死んじゃうわけですよ。いやあ、なんだこれ、なんだこれ!

 めっちゃうめえよお!


 作った料理は直火で炙った肉に塩をかけた物と、キャベツみたいな葉物の塩スープという簡素な物だったけれど、かれこれひと月近く……塩分という物に触れていなかった我々にとって、あまりにも文明的すぎるこの料理達は余りにも美味くて……我々は泣きに泣いた。


「なづぐーん……お塩ってごんなにおいじがっだんだねえ……」

「泣くなよみーぐん……ああ、湯気が目にはいっだわ……塩うめえなあ……」

「あはは、なづぐんだって泣いでるじゃない……ぐすっ」

「やっぱ塩って……人間にとって大切な存在なんだなあ……ぐすぐす」


その晩、我々の寝顔は近年まれに見るほどに安らかだったに違いない。

 

 ――そして翌朝


 ミーくんは村のお掃除に、俺は森にゴブシバキに向かいました。


 村のワンワンなお兄さんやおじさん達を数人連れ、彼らに案内をされながらの移動でしたが、結界係であるミー君が居ないため、この森はこんなに豊かだったのか! なんて驚くレベルでゴブやゴブ、それにゴブとゴブ等がわんさか現れ、村人たちはキャアキャアと楽しげな声を上げています。


 ゴブが出るたび、闇烏でそっとひと撫でしてなんとか破裂させずに倒していたのですが、村人共ったら、やんややんやと大喝采で、なんつーか、わるい気はしねーけど、おめーらも働けよ? みたいな気持ちになりました。


 しかし――


「そうは言うがよ、ナツさん。奴らにゃ俺らの矢も剣も通らねえんだよ。一体どうしたらあの硬い皮膚を貫けるんだ?」


 なんてワンワンAが言うと、それに賛同するように周りのワンワンたちもウンウンと頷き、まるで俺がゴリラか何かのように言うではありませんか。

 

 あ、今『ゴリラじゃなくてオーガだろ』って思ったやつぶっ飛ばすかんな。


 ダメージを与える事が出来ない……か。


 そういえば、普通の冒険者では狩れない程ヤバい強さの魔物が割と普通に存在していると、なので狩られないまま放置されて居るのである、と言う物騒なお話を聞いたことがありますな。


 前も思ったけど、これってオープンワールドタイプのゲームなんかでよくあるよな。

 

 見た目はそこらの雑魚と変わらぬ鹿にしか見えないような魔物なのに、近づいてレベルを見るとやたら高レベルのヤツ。


 うっかり手を出そうものなら数秒後にはワンパンで沈められてるような、どうせ死ぬなら一撃でも! なんて思って繰り出す攻撃には無慈悲な『0』『miss』表示が。


 先程から俺が撫でくり倒しているゴブゴブ達がまさにそれってわけか。


 見た目は単なるゴブゴブの色違いにしか見えねーし、ぶっちゃけ俺もそう思ってたんだけど、どうやら上位種みたい。


 なので、ガチって人間辞めつつある冒険者達や、加護によって強化されちまった蛮族達(エルフ)見たいにダメージを与えたり、倒したりってのが出来ないわけだ。


 ていうかさ、この流れで判明した事があって、俺ちょっとホッとしてるんだけどさ、どうもゴブゴブが浅場に現れ始めたのって俺だけのせいじゃないっぽいんだよね。


 ワンワン隊のお話によれば、()()に入ってから浅場付近での目撃件数が増え始めていて、それがとうとう浅場で荒らし回るようになってしまったと。


 浅場で荒らし回るようになった原因は……まあ、心当たりが無いこともないけれど、浅場付近にまで現れるようになったのは俺たちが来る前のお話。


 目撃件数が増えたのは『今年に入ってから』ここ重要ね!


 そう、ゴブ達は俺たちが現れる前から浅場を目指して移動を始めていたのだ!

 浅場に現れたのは我々だけが原因ではなかった、ああ、それだけで少し心が軽くなるね!


 しかしこれ、喜んでもいられねーんだよな。


 状況からして、これは今後もじわりじわりと断続的にゴブ達の進撃が続くのでは無いかと思われる。


 これまで浅場に居なかった奴らがわざわざ出張って来てんだ、追われてるにしろ、餌を求めて移動しているにしろ、こうやって今日残党狩りをした所で第2第3のゴブがやってくるに違いない。

 

 今は俺が尻拭いとしてプチプチ撫でくりまわしてるからいいけれど、ここのワンワン達にはそんな真似は無理だ。逆にプチプチと撫でられかねん。


 このまま落ち着くまで護ってやりたいという気持ちはあるのだけれども、残念ながらそうも言っていられない。


 我々には大事な目標がある。


 街に行き、お金をためておうちに帰る。

 エミルとモモが待つおうちへと帰らなければいけない。


 しかしだ。


 このままこの村を放置して街に移動してしまったらばどうなるか?

 きっと武器を手に村を防衛している狩人だけでは無く、村全体が――


 ――考えるだけで恐ろしい……。


となればだ。

 

 アヤさん達に今後の管理をおまかせするような感じになっている筈のアレ……それって冒険者ギルドに関する部分でのお話だったよね……?


 ごく一部の一般人に施すのは……構わんのだろう?

小さな村だし、狩人の数だって精々10人程度だ。そう大きな影響は及ぼさないだろうさ。

 

「おい、ナツさんどうしたんだ? 随分とわるい顔で笑ってよ」

「この獰猛な笑み……まさか!」

「知っているのか、シシマル」

「ああ、前に聞いたことがある。オーガ族は獲物を倒すと気分が高揚して戦闘力が上がっていくんだって」


「ちげえから! 俺ヒュームだし、オーガじゃねえし! 悪い笑みはちょっとおもしろいこと思いついただけの事だし! 別にゴブゴブ殴って楽しくなんてなってねーから!」


「ほんとかなー?」

「うるせえ! ぶんなぐるぞ!」

「ひぇっ!」

「ナツさんに殴られたら骨ものこらねえよお!」

「かんべんしてくれよ! いよっ! 森の王者!」


「……見え透いたおべっかに騙される俺じゃねえぞ」

「よく言うわ。見ろよナツさんの嬉しそうな顔よ」

「ほんとだ口元がヒクヒクしてらあな」

 

「……お前らマジでぶん殴るからな!?」

「わー ゆるしておくれよー!」


「「「「わはははは」」」」


 まったく調子のいい連中だ。

 けれど、この人懐こく笑うワンワン共は嫌いじゃない。

 ……ケモ耳生やしたおっさん共だけど。


 穏やかに暮らす彼らが無残にやられてしまう未来なんてまっぴら御免さ。


 ミー君、悪いな。どうか俺の我が儘を聞いちゃくれないか。


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