99話 いやあ、盛った盛った!
タイトル通りですわ。いやあ、めっちゃ盛った盛った。盛りに盛って話しまくったわ。 純粋なテッツくんは、そりゃもう感激して目をキラキラとさせているし、何故かミー君まで興奮して『ナツくんってば凄いね!』なんて言っちゃってるし。
何いってんだよミー君……一緒に居たっつうか、真実を知ってるだろうに。
俺が語った内容はこんな具合だ。
……
…
『テッツにはすべて真実を話したい。なので俺達の身分から明かそうと思う』
身分、と聞いて偉い存在か何かと思ったのか、テッツが一瞬身構えたけれど、スーラ大陸はナール王国にて活動をしていた冒険者であると伝えると、ホッとした表情を浮かべた。
偉い人に何かされるってわけじゃないんだろうけど、まあそういった立場の人とのやりとりは神経使うからな……わかるぜ……。
『俺達が何故この森に居たのか……それは俺達にも良くわかっていない。
というのも、だ。とあるスーラ大陸にあるとあるダンジョンを探索中、迂闊にもトラップを踏み抜いてしまってね。眩い光に包まれたかと思ったら、この森に立っていたんだ』
ウソを付く時は真実を混ぜると上手くいく、なんて話を聞いたことが在る。
何で見たのかは忘れてしまったが、バカ正直にユグドラシルの話なんて出来ないからな。
かと言って、下手にこの大陸で活動していて、森には狩りに来たなんて言っちゃうとさ、付近の街が何処にあるのかだとか、そもそもここが何処なのかとか、そんな情報が仕入れられなくなるからな。
ここは半分ウソを混ぜて正直に話した。
転移トラップ、そういうのもあるのかと、テッツ少年は唸っていたが、我々がヒッグ・ギッガを倒せるほどの冒険者であるならば、そんな未知のトラップが在る遺跡に潜ることも在るんだろうなと、妙に感心して頷いてくれた。
かわいいぜ、テッツ少年。
『未知の場所に降り立った俺達は、まずは森を脱出しようと考えてね。野営をしながら移動をしていたんだが……ある時だ。俺達は森の異常を感じたんだ』
森の異常、俺の口からそれが出た瞬間、テッツ少年の目がギラリと光った。
彼が識りたい真実、それが語られようとしているのだ、真面目な顔にもなろう。
『あの日、数体のリッグ・ゴッブがこちらに向かって駆け寄ってくるのが見えた。
俺はそれを敵対行動と判断し、素早くそれをこの闇烏で撃破した……』
『それ、ただの木刀にしかみえねーけど……なんかすげえ武器なんだなあ』
『ああ、遺跡に突き刺さっていた魔剣でね、見た目以上に強力なの……さ!』
興が乗ったというやつだ。なんかノリで闇烏を振ったら、また罪の無い樹木を真っ二つにしてしまった……。
テッツ少年は凄い凄いとはしゃいでいるが、悪いな……これ、そこらで拾った棒をそこらの石でゴリゴリと削ったものなんですわ。
『話を戻すぞ。そしてそれを切っ掛けとするかのように、一体、また一体とリッグ・ゴッブが現れる。我々にとってそれは大した脅威ではないからね。ミー君と二人で協力をしながら片付けていったんだ』
『すげー、お姉ちゃんも強い冒険者なんだね』
『そうだよ! 魔術とかドーンってやっちゃうよ!』
『ひゃー! 今度見せてくれよな!』
『もっちろーん!』
まあ、そのドーンで今こんな状態になってるんですけどね。
『暫くそうやってゴブを狩りながら進んでいたのだが、ある時ピタリとそれが止んだ。
なんだ、打ち止めか? 一瞬だけそう思ったが、直ぐに違うと気づいた』
『へえ! どうしてなのかな?』
ミー君! 君は静かにしていてよ! 一緒に居たんでしょ! テッツくんに変な目で見られちゃうじゃないか!
『どうしてって……まあ、ミー君には言わなかったような気がするからな。
気配だよ。何か得体が知れない……強大な魔物の気配を、強者の気配を感じたんだ』
森の奥からこちらに向けられる全てを蹂躙してやろうという、圧倒的な殺気。
周囲の空気すら歪めるその悍ましい殺気は俺の頬をピリピリと刺激し、一筋縄では行かない相手がこちらに向かって居る――そう感じたんだ。
じっとテッツくんを見つめるように、声のトーンを低く落としてそう語ると……何故かミー君までブルブルと震えながら『怖いねー』なんてテッツくんに言っている。
怖いねーじゃないの! ミー君もこの後一緒に戦ったの! そういうお話するんだからやめて! お願い! 静かにしていて! ステイステイ! ミー君ステイ!
『そして……少しして奴は現れた。見た目はヒッグ・ホッグを大きくして、少し厳つくしたような姿、しかしただデカくなっただけだと油断をすれば直ぐにでも命の灯火を刈り取られてしまうだろう……実際に退治した時、俺はそう思ったね』
ヒッグ・ギッガと唐突に顔を合わせてびっくりしたのは本当。
あーこいつやべえやつだなあって思ったのもマジ。
ただ、実のところは『ブルァじゃねえよ、うるせえ』と木刀でぶん殴ったらワンパンだったので……流石にそこはそのまま言えないよ。
だからここは盛りどころだ! ミー君にも活躍してもらうんだからいらんことは言うなよ!?
『ヒッグ・ギッガの武器はその重量感たっぷりの巨体だ。あの図体から放たれる体当たり、それはもう凄まじいものでね。
それにあいつ、見た目に反して結構素早いんだ。まともにやりあえばひとたまりもない。
もし、出会ったのが森の中で無ければ楽に狩れたのかも知れないが、森はあいつにとって有利な場所、油断する事は出来なかった。そこで俺達は安全を考えあいつが疲れるのを待ったんだ』
『疲れるのを……?』
『簡単に言ってしまえばあいつと命がけの鬼ごっこをしたのさ。そりゃ、俺達だってずっと走っていたら疲れてしまう。けれど、あいつはあの図体だ。長く走るのは苦手なんじゃないかなって思ったんだよ』
これは強ち間違いとは言えない……と、思う。何かで読んだのだけれども、ヒトという生き物は持久力がやたらと高いんだそうな。
イノシシのスタミナがどれくらい在るのかはわからないし、そもそもヒッグ・ギッガは動物じゃあ無くて魔物。実際の所どうなのかは知らねえけど、こんなの言ったもん勝ちなのよ!
『そこから先は……もう、大変だったよ。幸いなことに、ヒッグ・ギッガは頭に血が上っているようでね、目前に居ながらもうまく攻撃を当てることが出来ない俺達によりイライラしてくれたのさ。
木々が茂る森の中でそうやって暴れてご覧よ、あっちへ当たり、こっちへ当たり……。
ドカンドカンと音を立てながら木々をなぎ倒す……』
『ああ! 謎の音ってヒッグ・ギッガが木に体当たりをしてた音だったんだ……』
『うむ! そんな具合にかれこれ数時間は駆け回った頃……ようやくヒッグ・ギッガの動きが鈍くなってきたんだ。これはチャンス、そこで腕をふるったのが……ミー君!』
『え? なあに?』
呼んだんじゃねーよ!
『……ミー君の魔術が火を吹いたのさ。ああ、火を吹いたというのは比喩だからな? 森で火を使ったら酷いことになる。ミー君が使ったのは氷の魔術。ヒッグ・ギッガの足元を凍らせ、地面に縫い付けてくれたのさ』
『すげえ! ねーちゃんそんな凄い魔術が使えるのか!』
『えっへん! お姉ちゃんは凄いのです!』
いや実際凄かったからね。ドカンドカンと森をあんなにしたのはほとんどミー君の魔術によるものだし。
『後はもう、一方的だったな。と言っても、ヒッグ・ギッガは堅いからな。何度も何度も闇烏で頭を殴……斬りつけ、ミー君もまた相手を牽制するため風の魔術で阻害して……
そして――とうとう勝敗は決して……見事勝利を収めた我々は、奴の毛皮を剥ぎ取り、こうしてここまでやってきた……というわけさ』
『すげー! リッグ・ゴッブをあっさり倒せちゃうのも凄いけど、こんな化け物を倒しちゃうなんてもっとすげー!』
……
…
……という話をしてしまったので、テッツ少年の目はキラリキラリと輝いて。
一応、それらしく後始末はしておくかと、ミーくんをテッツくんの護衛に残し、単身で何体かのリッグ・ゴッブくんを狩って戻ってくると、その目はますます尊敬の色に染まっていた。
村の驚異となっていたゴブゴブを狩ってきたからだというのはもちろんの事、どうも俺が居ない間にミーくんがまた要らんことを色々と話して――所謂『ナツくん自慢』をしたらしくてね……。
『さっすがリトルオーガ! オーガ族の名を冠するだけあって頼もしいな!』
なんて……憧れのヒーローを見るような目で言われちゃったよ……。
ミーくんは悪い事したと思ってねーからニッコニコだし……テッツ少年はキラッキラだし……あーーーもう! 誰も責められねえからつれえわ……。
……しかし、その轟音とやらは恐らく数日間は軽く聞こえていたと思われるのだが……特につっこみが無かったし、うやむやに出来たと思って良かろう……うむ!




