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95話 これはいつぞやの夜を思い出す

「うう……ナ、ナツくうん……起きて、ねね、起きてよう」

「ううん……だめだ、モモ……エミルとミー君は合体ロボじゃねえ……」

「何を言ってるのかな!? いいから、ねえ、お願いだよお……」

「うむ……?」


 なんだか懐かしいような、よくわからんような妙な夢を見ていた気がするが……とりあえずなんだ、何が起きたのだろう?


 眠い目をこすり――そりゃそうだ外はまだ真っ暗……深夜なのだから眠いのは当たり前――身体を起こしてみりゃあ、青い顔をしたミー君がお腹を押さえてプルプルと小刻みに震えている。


「どうしたんだい……()()()()別に毒ってわけじゃなかっただろう?」

「う、うん……多分毒とかじゃないと思うんだけど、違うんだけど、あの、あのね?」


 まったくどうしたのだろう? 毒でも無いのに今にも死にそうな顔でプルプルとしている。もしかしてミー君にだけ当たる毒……いや、アレルギーか何かあったのか?

 だったら大変だ! お医者も何も無い様な場所だぞ? 下手をしたら――


「ちがくて、あの、その……トイレ行きたいの!」

「トイレ……? あ、ああそういう……一人で行ってくりゃいいじゃんか」


 心配して損をしたと、もぞりと横になろうとしたけどそれは叶わない。ミー君がギュッと俺の袖を引いて止めたからだ。


「なんなんだい。トイレなら別にかまやしないから行っておいでよ」

「行きたいんだけど……一人で行くのが心細くって……」

「……はあ、しょうがねえなあ。じゃあ近くで待っててやるから一緒に行こうか」

「うん! えへへ、ありがとねナツくん」


 大きな何かを落としに行こうって時に浮かべる表情でも言うセリフでも無いと思うんだが……可愛らしいのに色々とぶち壊しだよ。


 洞穴を出て少し歩くと、周囲を藪に囲まれ中が見えない丁度よい空間が合った。辺りの様子を探ってみたが、どうやら魔物のたぐいは居ないようだし、ここなら安心して()()に没頭できるだろう。 

  

「うし、俺はここで見張ってるから安心して産み落としておいで」

「お、おっきいのじゃないもん!」


 プリプリと怒りながら藪に向かっていったが、ありゃうそだね。あの顔は明らかに大きな物を腹に秘めた奴特有のもんだ。


 これでも俺はこれから戦いに行くってやつの顔を幾度と無く見てきたんだ。みなまで言わんでもわかるっつーの。


 俺に妙な性癖でもあるならば、じっと耳を澄ませる所だけれども、生憎俺は割とノーマルだ。なのでなるべく音が聞こえぬよう、鼻歌でも歌って待っていることとしようじゃないか。


 ……しかし、寝てる俺を起こすまでとは……余程切羽詰まってたんだろうな。まあ、もしもアレが毒草であったならば俺もアレよりひどい顔をして飛び起きたんだろうしな。


 そして二人並んで藪でリバースってか。なんて酷い絵面だよ。


……二人仲良くリバース?


 ……森の中……二人で採った山菜……うめうめ……けれどそれは毒草で……上からも下からも滝のように……?

 弱り切って死んだような顔で眠る俺と……ミー君……?


 いやいや、待て待て。なんだこの記憶は。今日食べたのは普通の山菜だったし、現に俺はピンピンしているじゃねえか……む……?


 いや……この記憶は今日のじゃねえ……もっと古い……そうだ、次に起きたらゴブゴブのお宅訪問をしていて……隣の籠にはミー君がとらわれていて……。


 ……~~~!


「「あーーーーーーー!!!」」


 バサバサと鳥が飛ぶ音が聞こえる。誰ですか深夜の森で大声を上げた馬鹿者は。寝てた鳥さん達がびっくりしちゃったでしょうが! ……我々でした。


 思い出した、全て思い出した! そうだ、俺は俺達は……!


 ユグドラシルとかいうヤバ気なアレになにかされてここに飛ばされたんだ!


 向こうからミー君が晴れやかな顔で駆け寄ってくる。アレは記憶を取り戻したからなのか、ひねり出したからなのか……


「ナツくーん! 思い出したよー! 私って女神様でねー、ナツくんはナツくんなんだよー!」


 何か言ってることが支離滅裂なのだが……あの様子じゃミー君も思い出したようだな。


「ああ、俺も思い出したよ。くく、全く二人揃って記憶を失ってさ、森でまた出会うってどんだけ都合が良い展開なんだよ」

「あはは、そうだね。でもナツくんに助けてもらえてよかったよ。それにさ、今日の晩ごはん、なんだかあの日の様で懐かしかったよね」

「アレはあんまり良い思い出じゃないけどな……っていうか、ミー君さあ、記憶が蘇るシチュがこう、全然ロマンチックじゃないよね。藪の中で――」

「ばか! ナツ君のばか! すけべ!」

「何も言ってないじゃねえかよ! いて、痛いって!」


 なんとも、なんともしまらない。

 しかしなんとも我々らしい展開で記憶を取り戻すに至ったわけで。


 しかし、それは同時に現在置かれている状態が非常にまずいということを気付かせてくれたわけで……。


「とりあえず寝ようか、ミー君……」

「そうだね、ナツくん。難しいことは明日考えよう……」


 眠い頭で考えても良いことは一つもない。

 我々はねぐらに戻ると、朝までぐっすり眠りにつくのでありました。


 ……

 …


 新しい朝が来た! 希望、希望って何だ……。


 昨夜の汁を温め、啜りながらミー君と二人会議をする。

 スマホのマップで確認をしたところによれば、我々はユグドラールからめっちゃ遠くに飛ばされたようだ。


 うん、めっちゃ遠くだ。マップで現在地を確認した所、周囲はたっぷりとしたモヤに囲まれていて……うん、あの未踏地が見えないっていうアレね。


 地図をどんどんどんどん広域にして、世界地図レベルにしてようやく霧が晴れた場所、スーラ大陸はユグドラールとナール王国の姿を確認することが出来た。


「俺ら右端から左端に飛ばされたのか……」

「すっごい遠くに来たもんだねえ……」


 仮にアレに転移機能がついていると考えれば、こちらにもそれと同等の物があり、それにアクセスすれば帰れそうなものだけれども、目覚めた場所の近くにはそんな物はなかったし、ミー君が倒れていた場所は俺から結構離れた場所だった。


 ということは、俺達は転移装置から転移装置へ飛ばされたというわけではなさそうだ。


 考えられるのは何かの原因で転移座標がズレてしまったか、既に装置が失われて居るか……もしくは我々を侵入者と見なし、危険エリアに処分のために飛ばされたか……。

 

 ……ここは希望を持って一つ目の案を採用しよう。


 であれば、この森の何処かにあるのでは無いかと推測される。


 どうにかアレと似たような物を見つけられればいいのだけれども、アレはよくわからんエルフの秘術的なアレで隠されていたからな。こっちの大陸の物もそれに準ずる何かで隠されている可能性は高い。


 あの隠蔽はこのナツの目を持ってしても破れなかったからな……探して使うってのは現実的ではなさそうだ。


 そうなると転移装置はあてにしない方が良さそうだ。


 隔日で現実的な方法、この世界で今も使われている移動方法を使ってお家に帰るしか無いのだけれども、何にしてもまずは人がいる場所に行かなければ何も始まらないな。


「とりあえずさ、旅の支度をしようじゃないか」

「街まで出ないとどうしようもないもんねえ」


 記憶が蘇った我々は無敵である。スマホが使えることを思い出したので、何かあってもこの拠点まで迷わず帰ってこられるし、ミー君の結界があれば我々の作業を邪魔されることはない。


 というわけで、旅の支度として俺は食料調達に、ミー君は資材調達へと向かったのでありました。


……ミー君に食料やらせると毒ばっかもってくるからな……いや、少し成長してて嬉しく思ったけどさあ。相変わらずだよなあ、ほんと。


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