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94話 おや、あなたもですか。

「凄かったねえ。パーンって破裂してたよ? ねね、何やったのかな?」

「何って……闇烏(ぼう)でバシッと叩いただけなのだが。不思議だねえ」

「ねー。びっくりしちゃったよ。強いんだね、君」


 血煙に変えてやると言ったな? 比喩のつもりがまじになっちまった……なんなんこの身体……人外じゃん? もう、嫌になっちゃう!


 俺の予定ではね? ブンと振ったらバシッと当たってさ、オークのあの巨体でしょう? 吹き飛ばないまでも良いダメージが入るんだろうなって感じだったのね。


 それがね? ブンと振ったらパンと音がしてR18Gな物体があたり一面に飛び散ったの……なんでそうなったのか全くわからないし、それを見てもなんとも思わない自分にもちょっと引いたし……まあ、今目の前でニコニコしている美人さんも特に引いたりしなかったのはありがたいけどさ。


「さて、あなたは一体どうしてこんな森の中に? いやまあ、俺も人のことを言えたもんじゃないんだけれども……」


 謎のグロ耐性があるとは言え、生臭い空間に居るのは嫌だったので歩きながらヒヤリングをする。

 

 話すコマンド大事だぜ? そういう小さな積み重ねからイベントが発生して俺を文明圏に誘うんだ。森の中で数年過ごして蛮族化なんてシナリオはまっぴらごめんだ。なんとか彼女からこの辺りの情報を聞いて森を脱出してやる、そう思ったのだが――


「それがね……名前以外何も思い出せないんだよ。あ、私ミューラニュールって言います」

「これはこれはご丁寧に。素敵な名前だけど言いにくいからミーくんね。ちなみに奇遇なことに俺も似たようなもんで何でここに居るかわっかんねえ感じの者でして……真宮(まみや) 那津弥(なつや)と申します」

「むっ! なんだい、猫みたいに呼ばないでよね。私をミーくんって呼ぶなら君の事はナツくんって呼ぶけどいいよね!」


 ……?


 なんだろう、このやり取り……以前も何処かで……いや、どこか懐かしい感じがするのはあれかな、前に友達と拾った猫……確かみーちゃんって付けて一緒に可愛がったっけな。


 うちでは飼えなかったから友達の家で飼うことになったんだけど……白くてふわふわで……ああ、ミーくんは何処と無くあの猫に似ているんだな。めっちゃご飯喰いそうな顔してるしさ。


「今何か失礼な事を考えていなかったかな?」

「別にそんな事はないよ。しかし参ったな、俺も君もここが何処なのかわからないわけだ」

「そうだね、目が覚めたらさ、あそこでメインディッシュになりかけてたんだよね」

「メインディッシュて。とりあえず嫌じゃなかったら一緒に来るかい? 旅は道連れって言うしね」

「それはこっちからお願いしたいくらいだよ。えへへ、よろしくねナツくん」

「う、うん。よろしくなミー君」


 えへへとはにかんだミーくんが妙に可愛い……ではなくて、何だろうな。やっぱり何かこう、良くわからんが謎の既視感が在る。いつか何処かで……会ったことが在るのだろうか?


 しかしここは異世界……考えられるのは、彼女もまた俺と同様に異世界召喚されてしまった犠牲者であるということなのだが、それでも俺にゃあこんな美人さんと出会う機会はなかった……と思う。


 そもそも水色の髪の毛って、ズラにしろ染めているにしろ俺の生活圏ではまずお目にかかれない感じだし、そもそも日本人じゃないよね、この子。


 なんともモヤモヤするけれど『前に何処かで会ったかな?』なんて下手なナンパのようなセリフはとてもじゃないけど吐けねえわ。


 そんなわけで、何だかモヤっと気持ちが悪いまま新たな仲間とともに森をゆく俺なのでありました。


……


「さて、森を彷徨い続けている我々なのだが、今必要なものが何かわかるかい?」

「はい! 食料です!」

「正解だ。賢いな、ミーくんは」

「えへへ……」


 あれから2時間ばかり森を彷徨い続けた我々だったが、なんと文明の痕跡を発見したのだ。


 そこは小さな洞穴で、拠点として使うには申し分のない物だったのだけれども、これで今夜はここで休めるなと、喜び勇んで飛び込んで見れば……なんと煮炊きをした形跡が。


 カマドの形跡だけではなく、ボコボコになった鍋やら食器やらが転がっていて、かつてここで人間が生活していたであろう事は明らかであった。。


「これは最後に使われてから結構経っていそうだな」

「ねね、だったらさ、これ私達が使ってもいいよね?」

「そうだな。多少汚れているけど、洗えば問題ないだろうさ」


 俺もそうだが、ミー君もたいがいワイルド思考のようで、前に誰が使っていたかわからん鍋や食器を平気な顔で使おうと提案したのには驚いた。


 食器は兎も角として、鍋は作ろうと思って作れるようなもんじゃあないからね。折角見つけた戦利品を問題なく活用できるのはありがたいよ。


 まだ日暮れまで時間がある。


 細工スキルがあるので、まあ多分出来るだろうと軽いノリで試したら、思惑通りカゴが作れてしまったので、ミー君にそれをもたせ、俺は鍋や食器を持って水場へ向かった。


 この洞穴に来る途中に見つけた清流で洗い物やら水汲みやらをしつつ、その周辺で野草を摘もうってわけだ。


 調味料も何もないけれど、今の我々には鍋と食器がある。木の実なんかをそのまま食っても飢えはしのげるけれど、火を通すという安心感と、何よりも暖かい物を食えば身も心もほっこりあったまるかんな。


 しかし、釣り竿が無いのが悔しいな。異世界だぞ? 異世界フィッシングとかぜってえ楽しいじゃん。地球なら『あー、マスの類が居るんだろうね』って感じの清流だけど、異世界ならそんな法則関係ないじゃん。


『ひゃー! こいつぁスゲエ! ティニーサーペントだー!』



 みたいな感じでさ、何をつってもぬし釣り感あってきっと楽しいと思うんだよなあ……。


 なんて益体も無い事をうだうだと考えているうちに清流に到着。


 俺は川に洗い物へ、ミー君はそこらに採取へと向かった。

 ……また魔物に襲われても困るので、俺の目が届く所でだけれども。


 川砂を鍋に入れ、ザリザリゴリゴリと鍋をこする。汚れと言っても、泥や埃程度で大したものじゃあなかったので、これで十分綺麗になった。ボコボコだけれども。


 同じく何か金属で出来た食器もきれいに洗い、鍋に水を汲んでいると……やたらと嬉しそうな顔をしたミー君がたったかたったかと駆け寄ってきた。


 きっと彼女にしっぽが生えていたならブンブンと盛大に振っているに違いない、それほどにうれしそうな表情だった。


「ナツくーん! 見てこれ! すっごいでしょ! ()()()()()()()野草をたくさん摘んできたよ!」


 食べられそうなって……食べられる野草を摘んできてほしいんだけど。

 でもまあ、しょうが無いか。知識が無ければどれが食えるかわからねえし、俺みたいに【鑑定】スキルを持っているわけでも無いだろうからなあ。

 

 摘んできた野草を広げて見てみれば……なんとも日本で見たような山菜――の様なものがたんまり並んでいたのだけれども。


「これ毒、こっちも毒。これは……嘔吐下痢腹痛全部来るやっべえ奴! こっちは……催淫てダメダメ!」

「ええ……も、もしかしてさ、私が採ってきたの……全部食べられないってことかな?」


 しょんぼりとしょげかえるミー君。いやはやすげーなこの子。よくもまあ、こんだけ毒草を選んで摘んできたもんだと感心するレベルで毒ばっか。


 うん? これは――


「ごらんよミー君。ほら、これ。これはラトルの若芽で茹でると甘みが出て美味いらしい。やったじゃないか、毒草じゃないぞ! いやあミー君も成長したもんだなあ」

「え、ほんと? 私()()毒草ばかり採ってきちゃったと思ったのに……やったあ!」


 ……? 


 成長した……? どうしてそう感じたんだろう。


 ……まあいいや。薪も拾わなきゃ無いしさっさと戻ろう。


 ……

 …


 パチパチと薪がはぜる音、ふわりと立ち上るラトルの香り。

 鍋でクツクツと煮えるラトルの若芽はフワリと葉を広げ、甘い香りを漂わせている。

 鑑定によればこの若芽は煮るだけで美味いスープが作れる都合が良い野草(ほんとにそのままそう書いてあった)らしい。


 漂う香りがやたらとうまそうで、先程からミー君の腹が鳴りっぱなしだ。


「ねね、ナツくんナツくん。そろそろいいんじゃないかな?」

「あとちょっと待ちなさい」

「ぶー」


 まったく。このミー君という子はなんなんだろうな。出会ったばかりだと言うのに、壁を一切感じないと言うか遠慮がないと言うか。


 いやまあ、それが気に障るとか、嫌であるというわけではないし、むしろ心地よいと言うか、こう在る事が自然であると感じると言うか……いや何考えてんだろな。


 ……っと、そろそろいいかな。


「ようし、ミー君。お待ちかねだぞ!」

「やった! とうとう出来たんだね!?」

「なんかの秘薬か何かみたいに言うのはよしなさい。さあさ、熱い内にいただこうじゃないか」


 不思議なことに金属の椀は熱い汁を入れても持てなくなることはなく、ミー君があちあちと落として涙目になるというイベントは起きなかった。


 しかしこの子、クセで箸を渡してしまったが意外と器用に使っているな。記憶が無いみたいだけれども、以前も箸を使う文化に居たのだろうか。


 言葉が通じるから日本から飛んできた人である――と、一瞬考えたけれど俺のスキルに『言語翻訳』とやらが在るのでそれはあてに出来ない。異世界にも無理矢理こじつけたような理由で日本文化が輸入されている事も多いから、まあきっとそう言う事なんだろう。


「おいっしい! 凄いよナツくん! ナツ君のおつゆ、とってもおいひいのおおおお」

「これこれ! よしなさいミー君。その発言はその、色々と誤解を招く!」

「?????」


 いやしかし、このラトルとやらはほんとうまいな。なんと言ったら良いか、他に例えようが無いのだけれども、くどくない優しい甘みの中に旨味があり、噛みしめるごとに幸せが口内に広がっていく。


 腹が減っているのもあるんだろうけど、いやこれ美味いわ。疲れもスっと取れていくっつうか、これ自体ポーションの原料になるみたいだしな。薬膳料理って感じだわ。


「ねね、ナツくん! まだたくさんあるね?」

「ああ、おかわりもいいぞ!」

「やったあ!」


 おっと、なんだかミー君に死亡フラグを立ててしまった感じになってしまったが、うめうめ言ってないから平気だろ……多分。


 多分。

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