93話 転移……したのか?
「う……一体何が……?」
突如として眩い光に包まれたかと思ったら、次の瞬間にはここに立っていた。
サワサワとした木の葉の囁きに楽し気に歌う小鳥の囀りが合わさって最強に癒やされる……じゃなくって、癒やされてる場合じゃなくって!
一体どうして俺は森の中なんかに居るんだ?
頭をワシワシと掻きながら周囲をぐるりと見渡してみれば、悲しくなるほどの大自然。
思い当たるフシと言えば、先程俺を包みやがった謎の眩い光。
あの手の光がカタギのもんじゃねえって事は俺も理解している。およそ俺が知る常識の中であの手の光が仕込みもなしにいきなり現れることなんて無いはずだからな。
考えたくはない、考えたくはないが……これは噂のアレではなかろうか。
世に有象無象とひしめく人気コンテンツ――
――異世界転移……ッ!
一体どうして俺が選ばれちまったのかはわからねえが、釣りに行く支度をしていて気づいたらここってのはどう考えてもそうとしか思えない。
もしかしたら、異世界ではなくて地球上のどこかなのでは……なんて線も考えられなくはないけれど……悲しいかな、先程手を振りながら横切っていった謎の妖精さんを見るに、どう考えてもここはそういうアレなのだろうよ。
まったく……普通さ、こういうのって例の白い部屋とか、宇宙が見渡せる謎の空間とかに喚び出されてさあ、神様的なアレからなんやかんやとどっかでもう読みましたわそれって感じの使い古された言い訳をされた上で、これまたありがちな補填を受けてしょうがねえなあって異世界入りすんのがセオリーじゃん?
そうじゃなくてもさあ、どこかのお城やらなんやらに召喚されてさあ、上から目線でアレヤコレヤ言われた挙げ句、謎の装置で検査をされて「おおすげえ! 勇者じゃん!」とか「なんだこのごみスキルは。お前はだめだなゴミクズだ。遠回しに言うけど処分しといて」とかそういう導入があっても良さそうなもんじゃねえの。
「はあ、よくあるテンプレならさあ、こうして【ステータス】とか言えば俺のステータスが見えたりするんだろうけど、何もイベントが無かったから……ってウッソだろおい」
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名前:ナツヤ・マミヤ 年齢:23(ロック中)
二つ名:リトルオーガ
HP:☆☆☆☆ MP:☆☆☆
STR:☆☆☆☆ DEX:☆☆☆☆★
AGI:☆☆☆ INT:☆☆☆ LUK:☆☆
スキル:【言語翻訳】【鑑定】【修復】【状態異常無効※】【採取】【剣術】【調理】【細工】【目利き】【投擲】
※アルコール、及び乗物等による日常生活由来の体調不良には適応されない。
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ステータス、そう口にした瞬間、目の前にぽやんと謎のAR的な物が現れてしまった。もう少しこう……わかりやすく数値で表示して欲しいなあとは思ったけれど、それはまあ、おいといてこれで俺が異世界に居るらしいのはほぼ確定してしまったな。
しっかし、なんだこのスキルの数は。なんも身に覚えがねーっつーのに、やたらと便利そうなもんが並んでるじゃないの。
これはあれかい? 俺もなにかの主人公として世界の意思的なアレから召喚されちまったのかい? それならそうと説明が欲しかったのだけれども……つーかなんだこのリトルオーガって。まさか……転移じゃなくて転生か?
オーガ族の子供として転生して、今なにかのショックで前世の記憶を取り戻した……? おいおい勘弁してくれよ! オーガってあれじゃん、鬼さんじゃん。人っぽい見た目をしている作品もあるけれど、下手したら敵対種族じゃん? 人間の街に行ったら追い回されてしまうやつじゃん!
あー! よく見たら着てる服も異世界的なアレじゃん! 旅人の服的なアレを着てるじゃん! マジでオーガ転生しちゃったんじゃねえのこれ……。
……考えていても仕方がねえ。まずは食料やら水やらの確保に動くか……。
残念ながら今の俺は何も持っていない。
……いや、ポケットを探ったら、何故かスマホが入っていたけれど、そんなのなんの役にも立たない。つうか、なんでスマホ持ってんだ? 転生したならスマホなんて持ってるはずないじゃんな。
ううむ……オーガではないのか? あ、そうだインカメラ! インカメラで顔をみりゃいいじゃん!
くそっ、手が震える……ええい、ムービーじゃねえ! インカメラだ! インカメラボタンを押すんだよ!
緊張で震える指をなんとか宥め、ようやくインカメラを起動すると……。
「……俺がいる」
額には角なんて生えていなかったし、妙に発達した犬歯も見当たらなかった。どこからどう見ても日本人。ちゃんとした人間だった。
だったらなんでまた『リトルオーガ』なんて妙なもんが表示されてるのか謎なのだが……まあいいさ。とりあえず安心しましたよってことで、動き出すことにしよう。
……
…
森である。
歩いても歩いても森である。
【鑑定】のおかげで食べられる木の実等がわかるので、それらを適当につまみながら歩けているのは良いのだけれども、一向に人の気配というか、文明の匂いを感じない……。
俺の身体を包んでいる異世界ファンタジー感あふれるコスチュームを見るに、コールドスリープで人の居ない世に目覚めたとかそういうアレではない……と推測される。
だったら歩いていればそのうちどこかに出るとは思うのだけれども。
心強き相棒、闇烏――さっき拾った妙に黒くて重みが在る頑丈そうな棒――を振り回しながら森をゆく。
時折、何かこちらを伺うような気配を感じることも在るのだけれども、闇烏をブンブンと降ると霧散するため、おそらくは何かしらの小動物かなにかなのだろうな。
驚かしてすまない。君たちも怖いのだろうけれど、俺も怖いんだ。
……と、気持ち2時間ほど歩いた頃だろうか。かすかに、かすかに人の声が。
しかも女性の悲鳴が聞こえた。
聞き間違えとか、人恋しさに俺を惑わす幻聴かと一瞬考えたけれど、確かに
『私を食べても美味しくないよ~~~』
と、悲痛な声が聞こえる。
……これはテンプレイベント――否! 見知らぬ誰かのピンチだ!
決して声の主が女性だからとか、その後のイベントに期待しているとか、そういうアレじゃないぞ。純粋に俺の正義感が震えたから……そう、正義感からの行動だ。
地を蹴り草を散らし声の方へ、闇烏を振るい、藪を払って声の方へと急ぐ。
景色が風のように流れていく。人は極限状態になるとスゲエ力が出るとか言われているが、これはそういうアレじゃなくて普通にテンプレのアレで強化されてんだろうなあ。
「もーーー! こっちこないで! わーん! 誰かたすけてええ」
藪を飛び越え、声の元へ降り立つと……そこには薄い水色の髪と言う、如何にも異世界人であるといったコスプレでしか見られないような風貌の美人さんがオークっぽい魔物に群がられていた。
美人さんは俺に気づくと、ぱあっと表情を明るくし
「わわ! 良いところに来たね! ねね、助けて? ご飯にされちゃいそうなの!」
と、おっしゃった。ごはん……いや多分それより悲惨な感じになるんじゃないんですかね……オークっぽい連中、路地裏で女性を取り囲んでいるゴロツキみたいに下卑た表情を浮かべているし。どう考えても薄い本案件ですわこれ。
「任せてください! ……と、言いたいところだけれども、ちっと自分がどれだけやれるかわからねーんですわ。期待しないで待っててくださいよっと」
腰を低く落とし、闇烏を構えて魔物たちに向かって飛びかかる。
不思議と恐怖心は感じない。
普通に考えて、この手の状況に陥ったら戦闘経験などまず無い普通の日本人は震えて何もできなくなると思うのだけれども、なぜだか俺はそうじゃない。
初めて見たはずの魔物を見ても『カメムシが居るわ』くらいの感覚――何故か目の前の魔物がたやすく屠れる雑魚にしか見えないのだ。
もしかすれば、それはただの勘違いかもしれないが……この闇烏という心強い相棒は【剣術】スキルとやらがあるおかげか、まるで手に馴染むようだ。
ふふふ……こいつぁなんだか負ける気がしねえ! 来やがれ外道共! 血煙に変えてやるぜ!




