118:蛇巫女1
*年越しSSを短編集にUPしました*
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前回のざっくりあらすじ:レベリオの町を脱出した一行は、オアシスで休むことに。
オアシスの小さな泉に、灼熱の太陽が揺れ映る。
ダナがオルガン馬車を立ち去った時、すぐそばの木陰では、メグが動揺していた。
――どうして……なんで?
メグはセラに連れられて、誕生日を忘れていたことをラチェットに謝ろうとやってきたが、ガラナが中にいたため、馬車に入れずに、木陰に座っていた。
オルガン馬車の荷台は人が通れる程度に開けられており、ダナとラチェットの会話の声は、ガラナがいなくなるのを待っていたメグたちの元まで、聞こえていた。
――ダナさんのこと、ダナって……。
メグは、ふらふらと立ち上がると、そのままオルガン馬車を離れて行った。
セラが戸惑いながら、メグを追いかけた。
「メグさん、大丈夫ですか?」
メグはセラの問いかけに答えず、泉の反対側へ向かい、すとんと木陰に腰を落とした。
メグは膝を抱えて、悔しそうに涙を滲ませた。
――呼び捨てにする女の子は、ずっと、私だけだったのに……。
セラは気遣うように、メグの隣に腰を下ろした。
「メグさん……」
メグは唇を噛んで、じっと一点を見つめていた。
オルガン馬車では、ダナがカサンドラと話し始めた事を確認したニースが、ふぅと安堵の息を吐いた。
「ようやく休めますね……」
毛布を手に腰を下ろしたニースの呟きに、ラチェットが苦笑いを浮かべた。
「ああ……。ダナって、押しが強いよね。僕はちょっと苦手なタイプかな」
「……押しが強い?」
首を傾げたニースに、ラチェットは笑った。
「強引な部分があるってことだよ。こうしてほしいって気持ちを、真っ直ぐぶつけてくる人のことを、押しが強いって言うんだ」
ニースは話を聞いて、ふと思い当たった。
「……それって、メグみたいな人のことですか?」
ニースの言葉にラチェットは、はっとした。
「確かにそうかも……」
気まずそうなラチェットに、ニースは問いかけた。
「ラチェットさんは、メグのことも苦手なんですか?」
「いや、メグは苦手じゃない。メグは……メグは特別なんだ」
ほんのり頬を赤く染めたラチェットは、誤魔化すように毛布を掴んだ。
「僕はもう寝るよ。ニースも、寝ておいた方がいい。夜に移動するって、座長たちは言ってたから」
ニースが返事をする前に、ラチェットは毛布を枕にして寝息を立て始めた。
――ラチェットさんにとって、メグは特別なんだ。メグと仲良しなら、良かった。
ニースは安心して微笑むと、ラチェットの真似をして、ごろりと横になり目を閉じた。
ニースたちが眠り始めた頃。泉の木陰に座り、じっと考えを巡らせていたメグは、はぁと大きなため息を吐き、自嘲するように笑いながら頭を振った。
「私、何でこんなにショックを受けてるのかしら。ラチェットがダナさんと仲良くしてたって、私には関係ないじゃない」
「メグさん……?」
驚くセラに、メグは儚げに笑いかけた。
「だって、そうじゃない? ラチェットは、私のお兄ちゃんみたいなものだけど、そんなにショックを受ける必要って、ないと思うの。むしろ、家族なら二人を応援してあげるべきよね」
「え!?」
「そうよ。応援してあげればいいだけなのよ。こんなの、私らしくないわ。……うん。私らしくない。こんなの、私らしくなんかないもの」
メグは、自分に言い聞かせるように何度も呟きながら立ち上がった。そのまま馬車へ歩き出そうとするメグのスカートの裾を、セラが掴んだ。
「ちょ、ちょっと待ってください……!」
「どうしたの?」
セラは、真剣な眼差しをメグに向けた。
「本当に、それでいいんですか!?」
「……え?」
「確かにダナさんは、ラチェットさんのことが好きだと思います。でも、ラチェットさんは、メグさんのことが好きなんですよ!?」
メグは、セラの言葉にぽかんと口を開けた。
「……ラチェットが?」
「そうです!」
メグは、セラの隣に座りなおし、じっとセラの目を見つめた。
「ラチェットが私を好きって……妹としてってことよね?」
セラは唖然としながら、首を横に振った。
「ち、違いますよ!」
「じゃあ、友達として? 仕事仲間として?」
セラは怒ったように、ぷぅと頬を膨らませた。
「そうじゃないです! なんでそうなるんですか!」
メグは、戸惑ったように視線を彷徨わせた。
「で、でも……それって。そしたら、他の意味って……」
「そうですよ! なんであんなに分かりやすいのに、気づかないんですか!? てっきりメグさんは、ラチェットさんの気持ちを分かってるのに、何か事情があって知らないふりしてるんだって、私は思ってたのに!」
メグは、あり得ないとばかりに首を横に振った。
「そんなことあるわけないじゃない! だって私、ラチェットからそんなこと言われたことないわよ!」
セラはイライラした様子で、メグに問いかけた。
「それに、メグさんだって、ラチェットさんのこと、好きですよね?」
「それは……。でもそれは、お兄ちゃんとして、仲間としてで!」
「そんなはずないです!」
言い合う二人の横から、ジーナの声が響いた。
「あらー。メグちゃんたら、そーんなに鈍かったのー?」
メグとセラが、はっとして、ジーナに目を向けると、ジーナの隣には、メアリによく似た褐色肌の美しい女性が立っていた。
「あ……あの。ジーナさん、そちらの方は?」
「知らない人に、こんな話を聞かれるなんて……」
恥ずかしさで顔を真っ赤にするメグに、女性は笑いかけた。
「メグさん。知らない人だなんて、悲しいことを言わないで」
二人が、その男の声に唖然としたので、ジーナはケラケラと楽しそうに笑った。
「うふふー、大成功ねー。ジェラルドなのよー。美人さんでしょー?」
「嘘……」「信じられないわ……」
驚く二人に、ジェラルドは柔らかな笑みを向けた。
「本当ですよ。結構楽しいですね、女装って」
呆然とするメグとセラは、ジーナとジェラルドに連れられて、グスタフの馬車の隣に張られたタープへ向かった。
タープの下には、大きな布が広げられていた。
オアシスの周りは、砂漠とはいえ気温は少し低い。それに加えて、灼けつくような日差しはタープで遮られ、地面から立ち上がる熱は布で遮られていたため、日中とはいえ、暑さはいくぶんマシに感じられた。
四人は布の上に座り、水を飲みながら話をした。
「メグちゃんたちの様子が変だったから、こっそり覗いてたんだけどー。まさかあんな話を二人がしてるとは、思わなかったわー」
ジーナの言葉に、ジェラルドが頷いた。
「セラさんが年齢以上にしっかりしているのに、私は驚きました」
セラは恥ずかしそうに俯いた。
「わ、私……宿で働いてた時、色んなご夫婦や、恋人の方々を見てきましたから……」
「別に責めてるわけじゃないんです。ごめんなさいね、セラさん」
柔らかな笑みを浮かべるジェラルドは、声こそ男の声だが、どう見ても女性にしか見えなかった。
メグはジーナに呆れた目を向けた。
「私は、お母さんがジェラルドさんにこんな格好をさせる方が驚いたわよ」
メグの文句を躱すように、ジーナは、あははと笑った。
「だってー。水浴びしてるジェラルドが、あまりにも綺麗だったから、似合うと思ったのよー。筋肉質で骨格もしっかりしてるけど、線が細いからー。私の思った通りだったわー」
ジーナの言葉に納得したように、セラはジェラルドに笑いかけた。
「ジェラルドさん、本物の女の子みたいで、とっても綺麗ですよ」
憧れを抱いているような、キラキラと輝いたセラの目に、ジェラルドは微笑んだ。
「着てみたらとお誘いを受けた時は驚きましたが、こんなに開放的な気分になれるとは思いませんでした。新しい自分を見つけた気がします」
ジェラルドの感想に、ジーナは満足そうに笑った。
「それなら良かったわー。そのお洋服、私の昔の服なんだけど、良かったらあげるわー」
「頂いてもいいんですか? 意外と動きやすいので、戦闘にも使えそうですね」
ジェラルドが着ている服は、ジーナが踊り子だった時に着ていた服だ。布は軽く丈夫で、体の動きを妨げない作りになっており、ジェラルドは気に入っていた。
ジェラルドは嬉しそうに礼を言うと、メグに真剣な眼差しを向けた。
「ところで、メグさん。先ほどのお話ですが……。メグさんはラチェットさんのことを、ひとりの男としてはお好きではない、とお話されてましたよね?」
「え? ええ。そ、そうよ……」
戸惑いがちに視線を彷徨わせるメグに、セラが、ぷぅと頬を膨らませた。
「またメグさんは、そんなことを! 自分の気持ちに気づかないなんて、鈍すぎです!」
「に、鈍いって……!」
ぷんぷんと怒るセラに気圧されるメグを見て、ジーナが愉快そうに笑った。
「マルコムの言う通り、セラちゃんは容赦ないわねー。でも、私も同感よー。メグちゃん、いい加減にラチェットのことを好きだって認めなさいよー」
メグは、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「もうっ! 何なのよ、みんなして! 私は、そんなんじゃないの!」
ジェラルドが、ふふふと笑った。
「そう。それなら、私がラチェットさんを頂いても、問題ないですね?」
「「え……!?」」
固まるメグとセラに、ジーナが、あははと笑った。
「ジェラルドはねー、ラチェットとマルコムがタイプなんですってー。二人とも今は恋人がいないって、さっき話してたのよー」
「お、お母さん!? だ、ダメよ、それは!」
慌てるメグに、ジェラルドが微笑んだ。
「どうしてです? 好きじゃない殿方なら、私が頂いても問題ありませんよね?」
セラが慌てて声を挟んだ。
「で、でも! マルコムさんにはメアリさんがいますし、ラチェットさんのことは、ダナさんも好きなんですよ!?」
セラの言葉に、ジェラルドが顔をしかめた。
「ダナが……ですか?」
「は……はい」
急に困った顔をするジェラルドに、三人は不思議そうに顔を見合わせた。ジェラルドは、はぁとため息を吐いたが、ふわりと微笑んだ。
「まあ、ダナのことはいいです。メグさんはラチェットさんのことを何とも思ってない。それで充分です。
マルコムさんのことは伺ってますが、まだお付き合いはされてないんでしょう? この旅の間に、私が二人のどちらかを頂きます」
決意のこもった声で話したジェラルドの肩を、ジーナがパンと叩いた。
「その意気よー! 頑張ってー!」
「ありがとうございます」
嬉しそうに笑うジーナとジェラルドに、メグは抗議の声を上げた。
「ちょっと、お母さん!」
「何よー。メグちゃんは、関係ないでしょー? 兄弟みたいな気持ちしかないなら、ジェラルドのことを応援してあげたっていいじゃなーい」
「だ、だって、それは……!」
顔を真っ赤にして怒るメグに、ジェラルドは、ふふふと笑った。
「そんなに必死に止めなくても大丈夫ですよ、メグさん。ラチェットさんに、他に好きな人がいるなら、私が誘っても靡かないはずですから。……私は着替えてきますね。せっかくの服を汚したくないですし」
ジェラルドは立ち上がると、着替えを持ってオアシスの奥へ向かっていった。
ジェラルドを見送りながら、メグは不安な顔で呟いた。
「他に、好きな人……?」
メグの言葉に、ジーナがニヨニヨとした笑みを浮かべた。
「メグちゃーん。心配なことがあるなら、ニースくんに聞いてみたらー?」
「……ニースに?」
セラが立ち上がり、頷いた。
「そうですよ! ニースなら、ラチェットさんのことを色々知ってるはずです! 私、呼んできますね!」
「え! ちょっと、セラ……!」
セラはメグの制止を聞くことなく、オルガン馬車へと駆けていった。不安そうに視線を彷徨わせるメグを、ジーナがニヨニヨと見つめていた。




