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地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第7章 祈りの歌】
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◆《閑話〜老人たちの手紙》

お話の途中ですが、閑話を挟みます。

本編で詳しく書けなかった設定などを、会話文なしで描いております。

読み飛ばしていただいても、本編ストーリーに全く問題ありません。

 ローサへ


 ローサ、元気にしておるか。わしは元気だ。


 長生きをすると、良い事もあるもんだ。驚くなよ。わしはなんと、聖人様のお顔を見たんだ。それも、すごい近くでな。

 兵士を辞めて、ロッシーノ村の門兵となったわしが、まさかもう一度聖人様のお顔を見れるとは、思いもよらなんだ。


 以前わしは、聖人様の御姿を戦場で見たと話したことがあったろう。わしが聖人様を見たのはこれで三回目だ。

 最初は五十年前の初陣で、北の帝国との海戦の最中だった。あの時は、聖人様は敵方についておられたから、ほとんど見ることは出来なかった。

 二回目は十年前から急に激しくなった砂漠の国との戦でだ。一度だけ戦場でお見かけした御姿は、教会にある聖女様の像とそっくりだった。

 同盟国の姫君だった聖人様は、類稀な力で古代兵器を操り、見事わしらを勝利に導いてくださった


 今回の聖人様は、とてもお小さかったが、あれほどの美しい黒をお持ちの方を、再び拝めるとは思わなんだ。

 それも、今回は直接言葉まで交わす事が出来た。聖人様は大層お優しい方でのう。長生きはするもんだな。これも聖女様のお導きのおかげだて。

 しかし寄る年波には勝てん。すっかり腰も曲がってしもうて、恥ずかしい姿を、聖人様にお見せしてしもうたよ。


 そんな聖人様がな、教会で歌を歌われたんだ。もちろんわしも聞きに行った。

 この村は同盟国との国境に近くて、警備隊の兵士も多いから、悪い奴らもとんと来やせん。猪除けの柵があるぐらいで充分だから、ちょいとぐらい、わしが持ち場を離れても平気なもんなんだ。


 いやはや、しかしおったまげた。歌はお前さんが歌うのを聞いたことはあったが、聖人様のはさらに素晴らしかった。それなのに奇跡の力はないんだと。音楽だと言うんだから、これまたおったまげた。


 よほど楽しかったからか、いつの間にやら腰の痛みもひいて、すっかり背筋が伸びるようになった。奇跡の力がなくとも、楽しいといいことがあるもんだなぁ。

 また音楽を聞く機会があったらいいが、こんな辺鄙な村には旅芸人なぞ滅多に来ない。聖人様が村を発たれてから程なくして、腰はまた曲がってしもうた。

 死ぬ前にもう一度あの心躍る歌を聞きたいと思うのは、贅沢な願いかのう。

 聖女様に熱心にお祈りすれば、叶うだろうか。お前さんからも、わしがもう一度歌を聞けるように、祈っておいてくれ。


 また手紙を書くよ。元気でな。


 兄より



 ◆◇◆◇◆◇



 兄さんへ


 兄さん。手紙をありがとう。聖女様のご加護のおかげで、私も元気に過ごしているわ。


 私が住むテトラネマにも、数日前に聖人様がお見えになられたの。歌を音楽として歌われる方だったから、たぶん兄さんがお会いした聖人様と同じでしょうね。


 兄さんが手紙に書いてくれた、腰の痛みがひいた話。あれは、決して誰にも言わないでもらえるかしら。聖人様は歌の力を持たないはずなのだけれど、テトラネマでも奇跡が起きたのよ。


 私が教会へ身を捧げてから数十年経つけれど、こんな奇跡は初めて見たわ。兄さんと同じように、患者たちの痛みが消えたの。

 でもね、それがきっかけで、聖人様にご迷惑をおかけしてしまったわ。患者たちが感激のあまり、早朝から聖人様の宿に押しかけて、感謝の祈りを捧げたの。乱闘騒ぎにまでなったから、怪我人も増えて大変だったのよ。


 聖人様をお守りするために、町をお出になられる時に、テトラネマの地下道を使って頂いたのよ。まさかこんな形で地下道を使うとは思わなかった。昔、兄さんと遊んだことが、役に立ったわ。


 詳しくは書けないけれど、きっと奇跡の理由がそのうち分かると思うわ。そうなれば、兄さんの腰もまた治るかもしれないわね。

 でも、今はそれを周りには言わないでほしいの。知られてしまえば、聖人様の元へどれだけの人が押しかけてしまうか。自制の効かない強い想いは、とても危険なものだわ。私は聖人様をお守りしたいのよ。だから兄さん、お願いね。


 近いうちにロッシーノ村にも顔を出すわ。あなたの娘に、お願いしたいこともあるの。

 会えるのを楽しみにしてるわね。どうぞお元気で。


 ローサより

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