表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地に響く天の歌 〜この星に歌う喜びを〜  作者: 春日千夜
第2部 旅の一座 【第7章 祈りの歌】
110/647

86:二羽の鳥3

前回のざっくりあらすじ:バードと白い鳥の右眼に傷がついた。

 味のしない夕食の時間は、あっという間に終わりとなった。ニースたちは何を食べたのか分からないほど、二羽の事が気になっていた。

 空の皿を端に寄せ、マルコムは皆に詳しい話を始めた。


「さっき話した通り、バードが()()()鳥じゃないってのは、間違いない。調べてみたが、バードはちゃんと餌を食べてなかった。こいつは、食べるフリをしていたから、妙に啄むのが下手だったんだ」


 マルコムは、バードを呼んで口を開けさせ、筒を付けたランプで口の中を照らした。


「ほら。こいつには()()()()んだ」


 ニースたちは覗き込み、しげしげと見つめた。大きくなったバードの口の中は、見えやすかった。舌はあるが、それ以外はつるりとしており、どこにも穴のようなものが見当たらなかった。


「鳥も俺たち人間と同じように、食べ物を腹に入れたり、呼吸するための穴があるはずなんだが……。こいつらにはそれがない」

「本当だ……」

「鳥さんの口の中、私初めて見ました」


 ニースとセラは、真剣に頷いた。マルコムはランプを置いて、話を続けた。


「それにな。バードの目だが、触ってもこいつは痛がりもしない」


 マルコムは無造作にバードの瞳を撫でた。バードは身じろぎも瞬きもせずに、じっとしていた。


「触れば分かるが、こいつの目は石ころみたいに硬いんだよ」


 ニースたちは、代わる代わるそっとバードの瞳に触れる。ひびのように傷が入った青い瞳は、つるりと冷たい手触りで、滑らかな宝石のようだった。セラが不意に、呟いた。


「バードちゃんのお目々……ニースにもらった首飾りに似てるかも」


 セラは胸元から、首飾りを取り出した。バードの目と交互に見て、セラは手触りも確かめる。ニースは、横から覗き込んだ。


「本当だ。似てるね。蛍石なのかな?」


 二人の会話を横目に、ジーナが感心したように口を開いた。


「そういえばバードちゃん、前に埃まみれになった時、くしゃみもしなかったわよねー。普通の鳥じゃないから、平気だったのねー」


 ラチェットが、興味深げに呟いた。


「もしかして絵を描いたのも、バードが普通の鳥じゃないからかもしれません」

「絵を描いた?」


 グスタフが訝しげに見たので、ラチェットは頷きを返した。


「ええ。以前皇都で、バードが手紙の絵を描いたんです」

「皇都で?」

「メグたちが、パトリックさんの店に入った時ですよ。知らせる方法を悩んでたら、バードが伝書鳩のことを思い出させてくれたんです。言ってませんでした?」


 グスタフは、マルコムと顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。


「私は初耳だな」

「俺も聞いてないぞ」

「すみません……」


 身を縮めたラチェットを慰めるように、メグが笑いかけた。


「あの時はすごく助かったわ! バード、お手柄だったわね。ありがとう」

「バードちゃん、お絵かきも出来るなんてすごいね」


 メグとセラに褒められて、バードが嬉しそうにくるっぽーと鳴いた。


「みんな、バードが生身の鳥じゃないっていうのは、納得したみたいだな」


 マルコムの言葉に、グスタフが苦笑いを浮かべた。


「そうだな。義眼なのか、義手のような翼なのかは分からない。体が大きく膨らむというのも、食べもせず息もせずに生きていけるというのも謎だ。新種の鳥だという可能性も、ないとは言えないが……。そう考えるより、古代文明の機械と考えた方が自然だろう」


 ニースたちが頷くのを見て、マルコムは優しくバードを撫でた。


「俺は、こいつらのことを気に入ってる。バードたちを調べたいという学者はたくさんいるだろうが、渡すつもりはない。どういう理屈なのかは知らないが、こいつらには感情があると俺は感じてるんだ。もしバラバラにされでもしたら、寝覚めが悪くて仕方ない」


 マルコムは表情を引き締め、話を続けた。


「だが、だからといって今までのまま、というわけにもいかない。二羽とも、こんなに大きくなった。さすがにこれは目立つし、鳥籠も今のままじゃ無理だ。バードを手品に使うことも出来ない。こいつらをどうしたらいいか、みんなの意見を聞きたいんだよ」


 ニースは不安を感じて問いかけた。


「それって、バードたちを隠さないと、危ない目にあうかもしれないってことですか?」

「そうだな。その可能性は大いにある。だから、そうなる前に逃がすことも視野に入れておかないといけない。だが、こっちの鳥は怪我が直るまでは飛べない。そこが問題だな」


 セラが、悲しそうに問いかけた。


「バードちゃんと一緒にいられなくなっちゃうんですか?」

「そう決まったわけじゃないが……。元の大きさならまだしも、この大きさだと匿うにも難しいんだよ」


 ため息を吐いたマルコムに、バードがくるっぽーと鳴き、ぷるぷると身を震わせた。すると、バードが元の大きさまで、しゅるしゅると萎んでいった。


「は⁉︎ お前、小さくもなれるのか⁉︎」


 皆、唖然としていたが、ニースは笑みをこぼした。


「これなら、バードは一緒にいれますね」


 グスタフが、バードから白い鳥に目を向けた。


「そうすると、もしかしてあの鳥も小さくなれるのか?」


 皆の視線が白い鳥に向けられる。バードが呼びかけるように鳴くと、白い鳥は目を開いて立ち上がり、身を震わせた。白い鳥は、バードと同じ鳩の大きさまで、しゅるしゅると萎み、羽に巻いていた布も外れた。

 ジーナが、ぽかんと口を開けた。


「出来るみたいねー」

「嘘だろ⁉︎」


 唖然としたマルコムは、さらに目を見開き、小さくなった鳥に駆け寄った。


「傷が直ってる……」

「え⁉︎」


 ニースたちも、わらわらと白い鳥の周りへ集まった。鳥は、元気だと言うように鳥籠から出ると、ばさばさと羽ばたき、椅子の背に止まった。ラチェットが、メガネを何度もかけ直しながらじっと鳥を見つめた。


「本当だ……。意味が分からない」


 驚きを通り越したマルコムは、愉快そうに、くくくと笑った。


「なんで直ったのかはわからないが、直ったならそれでいいか。この大きさでいてくれるなら、二羽ともこのままいても構わないしな。相談しようと思ってたことが、ほとんど片付いちまった」


 はははとグスタフが笑い、マルコムの肩を叩いた。


「そうだな。私たちには難しいことは分からない。だが、わざわざこうして小さくなったということは、きっとバードたちも私たちと一緒にいたいということなんだろう。面倒を見てやれ」


 ニースは、ほっと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、バードの友達もハリカの仲間だね。良かったね、バード」


 バードは返事をするように、くるっぽーと鳴いて、白い鳥の隣に並んだ。小さくなった二羽は、形も色もよく似ており、見分けがつかないほどだった。

 メグが、しげしげと二羽を見つめた。


「本当にそっくりね。どっちがバードか分からなくなりそう」


 ジーナが、ぱんと手を叩いて、結んでいた青い髪紐を解く。さらりと落ちた、メグと同じ長い金髪を背中に回すと、髪紐をバードの片脚に結んだ。


「これでわかるわねー。あとで足環を用意してあげるから、それまではこれで我慢してねー」


 メグが笑って赤い髪紐を解き、もう一羽の鳥の脚に結んだ。


「これでお揃いね」


 二羽の鳩は脚を持ち上げて紐を見つめる。バードが嬉しそうに、くるっぽーと鳴いた。セラが、はしゃいで声をあげた。


「この子の名前は何にするんですか?」

「名前ねぇ……」


 メグは、セラと一緒に名前を考え始めた。


「ピーちゃんはどうですか?」

「ピッピでもいいんじゃないかしら?」


 ニースとラチェットも考え始めた。


「クルルっていうのは?」

「そもそも雄なのか雌なのかもわからないから、難しいな……」


 ニースたちの様子を見ていたグスタフも、声をあげた。


「鳩次郎はどうだ?」

「グスタフ。もうちょっとかっこいい名前はないのかよ」

「じゃあ、鳩子か?」


 マルコムがため息をつく中、バードがばさばさと羽ばたいた。皆がバードに視線を向けると、バードはいつもと違い、くるっくーと声を出した。マルコムには、それがまるで名前を言おうとしてるように見えた。


「バード、もしかして名前を教えようとしてるのか?」


 バードは、そうだと言うようにマルコムの前へ降り立ち、くるっくーと鳴いた。


「クルックーか?」


 バードはもう一度、くるっくーと鳴く。メグが首を傾げた。


「クルルクかしら?」


 バードはテーブルを突き、またくるっくーと鳴いた。ラチェットがメガネをくいと上げた。


「クックとか?」


 バードはイライラしたように、テーブルをコツコツと突き、くるっくーと鳴く。ニースが慌ててバードを抱えた。


「ダメだよ、バード。そんなに、コツコツと突いちゃ」


 すると、バードが急にくるっぽーと鳴いたので、ニースは驚いて手を放した。ジーナが、ぽんと手を叩いた。


「もしかして、ニースくんの今の言葉に名前があったんじゃなーい?」


 バードは椅子の背に乗ると、そうだと言わんばかりにくるっぽーと鳴いた。マルコムが、期待を込めた眼差しでニースに尋ねた。


「ニース、今なんて言った?」


 ニースは思い出すように、一言ずつ言葉を口にした。


「えっと……ダメだよ?」


 バードは鳴かない。


「そんなに?」


 バードは、くるっくーと鳴いた。


「突いちゃ?」


 バードは椅子の背を突く仕草をした。ニースは、はっとして笑みを浮かべた。


「コツコツ?」


 バードが、くるっぽーと鳴いた。グスタフが、納得したように頷いた。


「そうか。コツコツっていう名前か!」


 バードが抗議するように、グスタフの顔に飛びかかった。


「おうわ!」

「バード、やめろ!」


 マルコムが必死にバードを抑えると、グスタフが口から羽を吹き出した。


「ちゃんと羽は抜けるんだな……」


 メグが、グスタフを見て笑った。


「やだ、お父さんたら。そのままの名前なわけないじゃない。何かコツコツに近い名前なのよ」


 セラが、白い鳥に語りかけた。


「あなたは、コッコちゃん?」


 白い鳥は微動だに動かず、セラをじっと見つめた。


「じゃあ、ポッポちゃん?」

「いたっ……! バード、突くのはやめろ!」


 マルコムの腕の中で暴れるバードを、セラはちらりと横目で見ると、再び白い鳥に目を向けた。


「じゃあ、ココちゃん?」


 白い鳥は返事をしなかったが、そうだと言うように羽ばたいて、セラの肩に止まった。


「そっか! ココちゃんなんだね!」


 白い鳥の名はココに決まった。セラが嬉しそうにココを撫で、バードが嬉しそうに、くるっぽーと鳴いた。旅の一座に、バードとそっくりな鳥のココが加わった。



 ようやく落ち着いたグスタフの部屋で、ニースたちは、ゆっくりお茶を飲んだ。ふわりと漂う茶葉の香りと、ほんのり苦味の混じる味わいに、皆、ほっと肩の力を抜いた。

 バードとココは、まるでつがいのように寄り添い、椅子の背に止まっていた。二羽を羨ましそうに眺めながら、マルコムが安堵の息を吐いた。


「ようやく落ち着いたな。まさかバードが、あんなにココにご執心だとは思わなかった」

「バードとココは、つがいみたいに見えるわね」


 メグの言葉に、バードが小さく、くるっぽーと鳴いた。グスタフが、はははと笑った。


「それにしても、名前まであるとはな。それを伝えるんだから、バードは大したものだよ」


 ラチェットがカップを置いて頷いた。


「すごいことですよね。こんな機械は見たことも聞いたこともありません。これで話が出来たら、古代文明の謎も分かるんですけどね」

「話か。ここまで感情や思考があるように見えるわけだからな。そのうち話が出来るような機械が見つかるかもしれない。古代人は、いったい何をどうやって作ったんだか……」


 グスタフたちが穏やかに話す中、ニースは、ぼんやりとお茶を飲む。隣に座るセラが、はしゃぎ疲れたのか、うとうとと船を漕ぎだした。ニースはそっと、セラのカップを脇に寄せた。


「セラ、危ないよ?」

「あ……ニース? ごめんね」


 セラは寝ぼけ眼で、にへらと笑う。メグが立ち上がり、セラの肩を叩いた。


「セラ、部屋に戻りましょう。ちゃんと眠らないと、お肌に悪いわ」


 セラは頷くと、ふらふらと立ち上がった。すると、ジーナも立ち上がった。


「お湯をもっていってあげるから、体を拭いてから寝るといいわー。お風呂には明日入れると思うから、それまで我慢よー」


 ジーナはヤカンを持って、メグとセラを連れて部屋を出る。ニースたちは口々におやすみの挨拶をして見送った。

 扉が閉まると、ラチェットはマルコムに問いかけた。


「この宿にも、お風呂があるんですか?」


 マルコムはお茶を飲み、ニヤリと笑った。


「ラチェット。ここがどこの宿かわからないか?」

「どこの宿?」


 首を傾げるラチェットに、マルコムは庭を指した。


「この宿の裏に何があった?」

「教会ですね……。ああ、そういうことか!」


 ラチェットは合点がいったが、ニースはわからなかった。


「宿屋の裏が教会だと、どうなるんですか?」


 グスタフが、はははと笑った。


「ここの宿が、教会の風呂と繋がってるってことだ。マッサージは教会に頼まないと無理だが、蒸し風呂には好きな時に入れるって意味だよ。町の公衆浴場に行ってもいいが、そうするとニースが大変になるだろうからな」


 ニースは、蒸し風呂で入浴衣を着た人々が、三十回ひれ伏す様を思い浮かべて、ぷるりと身震いした。


「教会のお風呂がいいです……!」

「そうと決まれば、僕たちも部屋に戻ろう。さすがに僕も、今日は疲れたよ」


 微笑むラチェットにニースは頷くと、ぐいとお茶を飲み干した。


「グスタフさん、マルコムさん、お先に失礼します。おやすみなさい」


 ニースは、バードたちにも挨拶をして部屋を出た。窓の外には、寄り添う二羽のように、月が並んで輝いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ