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第7話 貼り紙

 ついに来てしまった、地獄の月曜日。


 楽しかった休日も一瞬で過ぎ、朝の聞き慣れたアラームで現実に引き戻された。今日から土曜日まで六連勤。ここから長い戦いの始まりだ。


 無心で準備を進め、先週よりも20分ほど早く家を出る。これは前の支店からの習慣だが、休み明けに会社に行くときは、ちょっと早く通勤して、先週までの業務と休んでいた間の業務の進展を確認している。

 スムーズに仕事に移れるのもあるが、何よりも仕事でミスして怒られたくないという思いからの行動だと思う。


 外に出ると、俺のどんよりとした気持ちとは正反対に、気持ちの良いくらいの快晴だった。


「はぁ、暑い」


「本当に暑いですねぇ」


 俺の独り言を拾ったのは、きっちりとスーツを着た黒崎さんだった。


「黒崎さん、おはようございます」


「いや、こないだも『ケンジ』でいいと言ったじゃないですか〜」


「じゃあ……ケンジさん」


「はい、湊斗さん。おはようございます」


 ケンジさんに押し切られる形で名前呼びになってしまったが、ユウコさんとアキラ君のことも下の名前で呼んでいたのでそこまでの違和感はなかった。

 ユウコさんは、メッセージアプリを開くたびに『ユウコ』と表示されるので、いつの間にか名前呼びになってしまっていた。まぁ、本人からツッコまれることも無いので、大丈夫なのだろう。


 それよりも、『湊斗』と呼ばれる方がむず痒い。

 誰かに下の名前で呼ばれるのなんていつぶりだろう。


「ケンジさんもお早いんですね」


「いえ、ぴったりじゃないですか?」


「ぴったり?」


「はい、ぴったり」


 まぁ、彼がそういうなら、きっとぴったりなんだろう。それにしても、こんなに早く出るなんてどんな仕事してるんだろう……って、俺も同じ時間に出てるんだもんな。


「ケンジさん、今週も頑張りましょうか」


「そうですね。あと六日。なんとか頑張りましょう。それじゃ、また」


 月曜の朝とは思えないほどの爽やかな表情を浮かべている彼に『また』と小さな声で返して、会社に向かった。


 ◇


「はぁ、やっと終わった」


 朝には憂鬱に思っていた月曜日。でも仕事中は忙しくて、そんなことを考える暇もなかった。

 気づいたら就業時間も大幅に過ぎ、もはやなんとも思わなくなったサービス残業を終え、帰途につく。


「明日は朝のゴミ出しと、あとは営業用資料もっかい確認しとくか」


 明日やるべきことを電車の中で逆算し、明日の分の脳のストレスを減らしておく。

 明日は明日で脳のメモリを最大限に使うのだから、今日のうちに考えられることはやっておいたほうがいい。



「ただいま〜」


 また帰ってくるはずのない挨拶をして、ネクタイを外す。

 帰りのスーパーで半額になっていた弁当とインスタントの味噌汁が今日の晩餐だ。


 仕事があると、どうしても不健康な食事に戻ってしまう。食べないよりはマシだろうが。


「ゴミまとめとくか」


 使っている書斎とリビング。それからキッチンのゴミを集める。そして、今食べ終わったものの容器たちを袋に突っ込み、玄関に置いておく。


「よし、これでOK!」


 その後、持ち帰ってきた仕事を片付けると、もうとっくに0時を回っていた。そんな時刻だと自覚すると、急に眠くなってきた。


「寝る、か」


 布団に飛び込み、扇風機を回す。今日も熱帯夜のようだ。早くこの暑さが過ぎ去ってくれないと満足に寝られない。ここ最近は暑くて目が覚めることが多い。


 それでも、日中の疲労のおかげか、目を閉じているとだんだんと眠くなってきた。


 ◇


「……あっつ」


 やはり暑さで目が覚めた俺は、テキパキと朝の準備を進める。

 早く目が覚めてしまう分、朝の準備は余裕を持って進められる。今日はゴミ出しがあるので早めに出よう。



 ゴミ捨て場に行くと、近所の奥様方が何やらヒソヒソと話している。その中に見知った顔があった。


「福田さん、どうかしたんですか?」


「……これ。最近物騒よね〜」


 福田さんが指差した電柱には、一枚の貼り紙が貼られていた。




【不審者情報】


 8月9日、午前11時頃。町会内で不審な人物が目撃されました。

 現在警察にも相談しておりますが、近隣にお住まいの皆様は、外出の際、一層の注意を払っていただけたらと思います。


 日時 8月9日(日) 午前11時頃

 場所 〇〇総合公園内

 性別 男性

 年齢 二十代〜三十代

 服装 黒いパーカーに青いジーンズ


 公園内で周囲の子供達に向かって声を掛けるなどの不審な行動が――




「ここら辺でもこういう人出るんですね?」


「いや、最近はなかったわよ。それこそ、前に――」


 そこまで言って、福田さんは口を閉じた。


「なんかありました?」


「え、あー、いえいえ。それより、会社行かなくていいの?」


「あ、すみません。そうでした。ゴミ出しに来たんでした」


「もうー、ほら、捨てとくから。先に行きなさい」


「……すみません、お願いします」


 福田さんにゴミ袋を託し、俺は会社までの道を急ぐ。


 さっきみたいな不審者情報があるなんて。もっと防犯にも気を配らないとな。


「――あれ?」


 そういえば、〇〇公園って、こないだアキラ君と行ったところじゃ……

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