↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/25

第6話 公園

 ピンポーン。


『おはようございます。黒崎でーす』


「あ、おはようございます。今行きますね」


 日曜日の朝10時前。インターホン越しに応対し、玄関に向かう。

 今日はアキラ君を預かることになっていた。と言っても2時間弱だけなので、そこまで負担ではない。


「おはようございます」


「おはようございまーす!」


 玄関を開けた俺に元気な挨拶を返してくれたのは、ユウコさんと手を繋いで立っているアキラ君だった。


「清水さん。わざわざ休みなのにすみません」


「いえいえ、本当に暇だったので」


「お昼前には迎えに来るので、それまで何とか、お願いします」


「はい。お任せください!」


 ペコリと頭を下げるユウコさん。


「ねぇねぇ、今日はお兄ちゃんと一緒なの?」


「そうよ。ママたちが帰ってくるまでいい子にできる?」


「うん! できる!」


 元気いっぱいな返事とともに、アキラ君は俺の方に寄ってきて、その小さな体を俺の足に寄せてきた。


「あら、これなら大丈夫そうですね。それじゃあ、私はそろそろ……。何かあったら連絡ください」


「分かりました」


 ユウコさんはもう一度小さく頭を下げて、玄関を後にした。



「よーし、アキラ君。何して遊ぼうか?」


 小さい子と接する機会がなさすぎて、正しい距離感が分からない。


「うーんとね、お外がいい!」


「お外かぁ。じゃあ、近くの公園に行こうか」


「うん! いく!」


 気持ちが良い返事。とりあえず嫌われてはなさそうだ。もうちょっと距離感を詰めてもいいのだろうか。



 今日に備えて、近くに公園があることはリサーチ済み。うちから歩いて5分くらいで、最近できた新しいところらしい。


 アキラ君と手を繋いで慣れない住宅街を歩いていくと、マンションの前に広い公園が見えた。最近できただけあって、よく整備されていて、俺が小さい頃に遊んでいた公園のイメージとは大違いだ。


「アキラ君、ここ来たことある?」


「ない。たぶん」


「そっか。なんか遊びたいのある?」


「うーん……シーソー!」


 アキラ君は奥の方にあるシーソーを目指して手をグイグイと引っ張る。思ったより力が強い。

 シーソーが近づいてくると、アキラ君はパッと手を離し、シーソーの片側に跨った。


「おにーちゃん、そっち!」


 アキラ君に言われるがまま反対側に跨る。俺が座ったのを見て、アキラ君は『えいっ』という声と共に地面を蹴った。

 それと同時に、ゆっくりとシーソーに体重をかける。俺とアキラ君とでは体重差がありすぎるため、しっかりと調整しないと危ない。

『お任せください!』と言った以上、怪我なんかさせたら黒崎夫妻に顔向けできない。


「おりるー!」


 5分ほどシーソーをやったあと、今度は滑り台の方に移動していった。今度は俺はお役御免のようで、近くのベンチに移動した。


「おにーちゃん見てー!」


 滑ろうとするたびに、一回一回声をかけてくる。

 かわいいなぁ、本当に。


「おにーちゃん、見てるー?」


「見てるよー!」


 小さく手を振ると、アキラ君もこっちに大きく手を振ってから滑り始める。

 気がつくと他の子供達や親御さんも増えてきて、少し恥ずかしい気もするが、笑顔のアキラ君を見ていると、周りの目もそこまで気にならなくなってきた。



 楽しい時間は早く過ぎるもので、約束の時間がだんだん近づいてきた。


「アキラ君、そろそろ帰ろうか」


「えー、もうちょっとだめ?」


「うーん、でも、ママ帰ってきちゃうよ。ママ、アキラ君がいないと悲しくて泣いちゃうかも」


「……じゃあ帰る」


 少し拗ね気味だったが、比較的素直にお願いを聞いてくれたので助かった。


 色んな遊具を一通り楽しんだアキラ君だったが、その中でたくさん話しかけてくれて、我ながらだいぶ仲良くなれたのではないかと思う。


「ねえねえ、おにいちゃんってひとり?」


「うん、そうだね。一人暮らしだよ」


 帰り道、アキラ君が純粋な眼差しで聞いてくる。


「さみしい?」


「まぁ、時々ね。でも、一人でいるのも好きだし。それに、多分これからもずっと一人だろうから」


「ううん、ひとりじゃないよ! だってね、ぼくとママとパパも一緒だよ?」


 アキラ君がギュッと手を強く握る。

 なんて優しい子なんだろう。確かに、黒崎家には引っ越してきてからお世話になりっぱなしだ。何かしてもらうというよりも、お隣さんとして、俺なんかと良い関係を築こうとしてくれている。


「確かにそうだね。ありがとう」


 こんな小さな子に励まされるとは思わなかったが、これもアキラ君の優しさなのだろう。両親の優しさをそのまま引き継いだのだろうか。



 二人で話しているうちに、いつの間にか家が近づいていた。


「よし、到着!」


 アキラ君を一旦家の中に入れて、手を洗ってもらう。さて、そろそろお昼になるが――


 ピンポーン。


「ママ来た?」


「うん、多分来たよ」


 手を洗い終わったアキラ君と共に、玄関へと向かう。

 玄関の扉を開けると、ユウコさんが一人で立っていた。


「ママー! おかえり」


「ただいま、アキラ。清水さん、ありがとうございました。何か問題はありませんでしたか?」


「いえ、全然。とってもいい子でしたよ」


「あらー、それなら良かったです」


「ママ、あのねあのね、今日ね、公園にいったの」


「そうなの〜、楽しかった?」


「うん!」


 ユウコさんが笑顔でペコリと頭を下げる。


「清水さん。今日は本当にお世話になりました」


「いえいえ。元はと言えば差し入れのお返しですから。お気になさらず」


「ありがとうございます」


 ユウコさんと軽く会話を交わしていると、アキラ君が割り込む。


「ねーねー、おにーちゃん。また遊べる?」


「うん、遊べるよ」


「じゃあ今度はね、お家がいい?」


「お家って、ここ?」


「うん!」


 ユウコさんの方を見ると、また申し訳なさそうな表情をしていた。アキラ君なら全然大歓迎だけどな。


「じゃあ、清水さん。もしかしたらまたお世話になるかもしれません……」


「ぜひぜひ。休みの日は暇なので、いつでも連絡してください」


「ありがとうございます。……それじゃ、そろそろ。改めて、今日はありがとうございました」


「こちらこそ楽しかったです。アキラ君、バイバイ」


「バイバーイ!」


 去っていく後ろ姿を見ながら、俺は家の中に戻った。

 さぁ、ちょっと寝ようかな。

 今日の一大イベントの達成感で、一気に眠気が襲ってきた。飯は……後でにしよう。


 アキラ君の言う通り、黒崎家という優しいお隣さんがいる俺は、幸せ者なのかもしれないな。敷いたままの布団に寝っ転がると、すぐに睡魔に負けてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。