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第4話 ご近所さん

「あー、頭痛ぇ」


 昨日は遅くまで飲み会だったせいで、ほぼ気絶するように眠ってしまった。

 朝になってもお酒が抜けていなくて気持ち悪い。二日酔いになるまで飲んだのなんて久しぶりだ。これから定期的にこういう飲み会があると思うと、朝から気が重くなった。


 それでも、今日は幾分か気分が軽い。その理由は待ちに待った休日が明日に控えているからだ。しかも連休。土日どちらも休みなのは、だいぶ久しぶりな気がする。


「今日は金曜か。あっ、そういえば」


 テーブルに置きっぱなしだった紙を広げる。やっぱり。今日はゴミの日だ。この町会は火曜日と金曜日に燃えるゴミの回収があるらしい。

 毎日のコンビニ飯生活のせいで、結構早いペースでゴミが溜まってしまう。


 お弁当の容器でいっぱいになった袋を片手に、いつもより少し早く家を出る。ゴミ捨て場は会社とは逆方向なので、ちょっとだけ余裕を持っといた方がいいだろう。



 ゴミ捨て場へ向かうと、既に何人かがゴミを捨てに来ていた。


「あっ、ありがとうございます」


 先に来ていた女性が、防鳥ネットを上げて待っていてくれた。


「おはようございます。最近越してこられた方ですか?」


「あっはい。今週から引っ越してきた清水といいます」


「清水さん、よろしくお願いします。私は福田と申します」


 福田と名乗ったこの女性は、四十代から五十代くらいだろうか。ラフな格好だが、落ち着いた雰囲気が振る舞いや言葉の節々から感じられた。


「今週からなら、まだまだ分からないことばかりじゃないですか?」


「そうですね。でも、黒崎さんってご家族が仲良くしてくれてて」


「黒崎……ですか?」


 それまで柔和な笑みを浮かべていた福田さんの顔が一気に引き攣った。なんかまずいことを言っただろうか。


「もしかして、お宅ってあそこのベージュのお家ですか?」


「はい、そうですけど。なんかありました……?」


 明らかに表情を曇らせた福田さんが、ゆっくりと口を開く。


「……あなたもですか」


「あなたも?」


「あー、全然気にしないでくださいね。そろそろ時間は大丈夫ですか?」


 時計に目をやると、なかなかいい時間になっていた。


「あっ、ほんとだ。じゃあ、そろそろ失礼します」


「はい。何か困ったことあったら、まずは私に相談してくださいね」


 表情がやけに真剣なのが気になったが、これで頼れるご近所さんが増えた。嬉しい限りだ。


「ありがとうございます。それじゃ、いってきます」


「はーい、行ってらっしゃい」


 ◇


 会社に行っても、福田さんの言葉が頭に引っかかっていた。


『あなたもですか』


 考えれば考えるほど、真意が掴めない。俺以外にも黒崎さんがお世話になっている人がいるのだろうか。でも、それだけだったら、あんなに険しい表情になる理由がない気がする。


「清水先輩、どうかしました?」


 顔を上げると、不思議そうな顔をした宇野がコーヒーの紙カップを差し出していた。


「あっ、ありがとな」


「なんか難しそうな顔してましたけど……なんかありました?」


「うん? あ、いやいやちょっと考え事をな。それより、そろそろ外回り行くか」


「そっすね。午後イチで予定入ってるので、そろそろ行きますか」


 宇野と一緒に営業に出たが、結局、仕事が終わるまでモヤモヤは消えないままだった。



「あー、終わったー!」


 金曜の夜7時。当たり前のように残業をこなし、やっとのことで今週の労働から解放された。と言っても、今週は引っ越し作業もあって、会社に来たのは3日だけだったが。

 来週は月曜から土曜まで働き詰めだ。月曜日には死んだ魚のような目をしているんだろうな……


 だが、目の前にはお休みが待っている。それだけで、帰り道からスキップでもしたい気分だった。


 速攻で会社を後にし、電車に揺られて家へと向かう。金曜日の夜ということで、駅の周りの飲み屋街は人だらけだったが、それを横目に、家へと歩みを早める。

 家に帰ったら何をしようか。さっさと飯を済ませて溜めてたドラマを観るか、それとも、明日の昼までぐっすり眠ってやるか。

 休日への希望に胸を膨らませていると、聞き覚えの声が聞こえた。


「おお、清水さん。なんか嬉しそうですね」


「あぁ、黒崎さん。お疲れ様です。今お帰りですか?」


「そうなんですよ。清水さんも今日はお早いんですね?」


「はい、明日から休みなので、さっさと仕事を終わらせてやろうと思って」


「あはは、休み前ってモチベーション上がりますよね」


 後頭部に手を当てながら、黒崎さんは優しく微笑んだ。初めて会った時からそうだが、いつも笑顔でいてくれるので、こちらもとても話しやすい。

 ビジネスマンとして見習わなきゃな。


「そういえば清水さん。妻から聞いたんですけど、日曜にアキラがお世話になるみたいで」


「あぁ、そうでしたね」


「せっかくの貴重な休みなのに、すみませんねぇ」


「いえいえ、小さい子と関わる機会なんてなかなかないので。こっちも楽しみです」


「それなら良かったです。妻と連絡先を交換したんですよね?」


「あ、はい。……すみません、ご主人の許可も取らずに」


 今言われて気づいたが、人妻と勝手に連絡先交換とか、普通だったらドロドロ昼ドラ展開みたいなことになってもおかしくないな。


「全然、大丈夫ですよ。これでちゃんと繋がれましたね」


 うん?


「あぁっ、そうですね」


 なんか、今のちょっと変じゃないか?


「あっじゃあ、ここで」


「あ、はい。ここで」


 気がつくと、うちの前に着いていた。ちょっとだけ違和感を抱きながら家の中に入る。

 ……まぁ、考えすぎか。


 今日の福田さんの言葉のせいでちょっと敏感になってるんだろう。


「よし、やっと休日だ! はぁー、まずはシャワー浴びちゃおう」


 スマホを置いて風呂場へ直行する。

 あー、本当に休みって最高!








 ピコン。

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