第16話 家族写真
スマホのライトで足元を照らしながら、ゆっくりと階段を降りる。思っていたよりも長く続く階段を降りきると、身体全体がひんやりとした空気に包まれた。
相変わらず真っ暗な空間を、スマホのライトの光だけを頼りに眺める。
思ったより広いのだろうか。スマホのライトだと、奥の方の壁まで照らすことはできない。
適当に眺めていると、電気のスイッチらしきものがみつかった。
スイッチを押すと、パチっという音とともに視界が明るくなった。
部屋の奥には大きめのデスクとリクライニングチェアがあり、これもまた埃を被っていた。
何かの作業部屋だったのだろうか。
デスクの上は少し散らかっているが、それ以外は物も少なく、特に面白いものもなかった。
デスクの上には、束になった書類がいくつか置かれていた。仕事に使っていたのだろうか?
重なっている書類の中に、一枚だけサイズの違う小さな紙があった。
「これは……写真?」
ところどころ変色したその写真を手に取ると、上半分が破られてしまっていた。
家族の集合写真のような構図で、四人の人が写っている。顔の部分は破れてしまっているので識別できないが、二人の大人が二人の子供を抱っこしているように見えた。
大人の方を親とするなら、お父さんとお母さんがそれぞれ……恐らく、息子さんと娘さんを抱っこしている。
背景はどこかの観光地だろうか。
やはり、大事な部分が破れてしまっていて分からない。
それより、この写真に写っているのは誰なのだろうか。
前に住んでいた人は男性の一人暮らしだったらしい。もしかしたら、単身赴任だったのだろうか?
それとも、ここはさらに前の住民の仕事場だったのだろうか?
だがさすがに、前の住民だって、このスペースの存在には気づくはずだ。気づいたなら放置しておくことはないだろう。不動産屋に頼んで処分してもらうとか……
俺だって、前の住民の情報探してなかったら、こんなスペースはさっさと片付けてもらうはずだ。
うん? 前の住民?
もし、俺の一つ前にこの家に住んでいた人が、さらに前に住んでいる人のことを探していたとしたらどうだろうか。
今の俺と同じ状況にあれば、このスペースに手をつけないでおくのも頷ける。
だとしたら、この謎はさらに前の住民にも繋がって――
「考えすぎか……」
一人悲しく呟いて、写真をデスクの上に戻した。
少し思考が発展しすぎた。
前の住民が、この地下室の存在に気づかなかったのかもしれない。
それに、鍵。俺はなぜか急に鍵が開いてここに入れたものの、前の住民がこの地下室に気付いていたとしても、鍵が開かなかったら中に入ることができない。
ただそれだけかもしれない。
結局何も解決しなかった。何なら、この写真に写っているのは誰なのかという新しい謎を生んでしまった。
他にも何かないかと色々見てみたが、特に面白いものはなかった。
「よし、戻るか」
スマホに目を向けると、大きく『17:00』と表示されていた。
せっかくの日曜日だ。あとは涼しい部屋でゴロゴロしよう。
俺は部屋の電気を消して、さっき下ってきた急な階段を上がっていく。
『……また』
「うん?」
何か聞こえたような気がして振り返る。
部屋をスマホのライトで照らしてみると、当たり前だが、誰も、何もいなかった。
気のせいか……
また階段を登る。そろそろ出口が近づいてきた。
『……あなたも』
「……ッ!」
また何かを言われたような気がして振り返る。今度は耳元で囁かれたように聞こえた。何と言われたのかは分からない。ただ、何か嫌な予感がして、俺は急いでドアを開け、階段下の収納に出た。
「ふぅ、疲れた」
今日は朝から駅前に手土産を買いに行って、そのまま結城家に。そして帰ってきてから地下室探索と、本当に盛り沢山な1日だった。
結城さんという新しい友達もできて、なかなか充実した休日だったかもしれない。
それに、黒崎家についても色々教えてもらえた。もちろん、黒崎家に直接話を聞いてみないと分からないが、あの水曜の夜の出来事は、ひとまず俺の中で消化できそうだ。
でもやっぱり、あの行動の理由を知りたかった。
そのためにも、これからも色々調べてみよう。たとえ無駄になるとしても、特に趣味もないアラサーリーマンにとってはいい暇つぶしになるはずだ。
「よし、シャワー浴びよ」
明日からの仕事に備えて、早めに夕食にしよう。そう思った俺は、軽くシャワーを浴びて、ストックしておいたカップ麺を手に取った。
正直、今日の分のHPは使い切ってしまったので、お湯に注ぐことすらできるか怪しい。
また明日からは労働が待ち構えている。ただ、来週末は土日が休みなので、また一週間、休みを目標に頑張ろう。
食べ慣れたカップ麺を無感情に流し込む。
いかにも不健康な食生活だが、改善する余裕はない。
そういえば、ケンジさんに身体を大事にしろって言われたこともあったな……
明日は黒崎家に会えるのだろうか。
会えたら……。
何を聞こうか考えていると、だんだんと眠気に襲われた。
「……寝るか」
まだまだ早い時間だったが、寝れるうちに寝ちゃった方がいいだろう。
まだぼんやりと黒崎家のことを考えながら、瞼が重たくなるのに身を任せ、俺の休日は終わりを告げた。




