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第14話 詳しい人

 ピンポーン。


 リビングに戻った俺を呼び戻すようにインターホンが鳴った。

 土曜の午後にわざわざ訪ねてくるなんて誰だろう。


 玄関へと足を運び、恐る恐る扉を開ける。


「……福田さん?」


 扉の前に姿勢よく立っていたのは、今日の朝も顔を合わせた福田さんだった。


「……どうしました?」


「突然ごめんなさいね。あのー、朝言ったことなんだけど」


「あぁ、前にここに住んでた人が――って話ですよね」


「そう。それで、朝『調べてみて』みたいなこと言っちゃったけど……何か調べてみました?」


 福田さんが少しだけ不安そうな顔を浮かべながら聞いてくる。


「うーん、まぁ少しだけ。前に住んでた方のことは……」


「何か分かった?」


「……殺人事件、だったんですよね」


 ハッとした顔を見せた福田さんは、一度小さく俯いた。


「……えぇ。分かったのはそれだけ?」


「はい、今のところは」


 福田さんの顔が心なしか緩んだ気がした。


「それで、わざわざウチに来たってことは、それなりの用事があるんですよね」


 核心をついた質問だったのか、福田さんの表情がまた固くなる。


「え、ええ。あの……黒崎家については調べてみたかしら?」


「黒崎家ですか? そうですね、調べてないわけではないですけど、あんまり情報は……」


 第一、一般人の情報がホイホイとネットで拾える訳はない。


「そう、良かったわ」


「良かった?」


「あ、いや、今のは忘れてちょうだい。それより、朝、私より詳しい人を紹介できるって言ったじゃない?」


「あぁ、はい」


「それでね……、もし清水さんが黒崎家についても気になるなら、その人を紹介したいなって思って」


「え、本当ですか」


「ええ、元々調べてみるように言ったのは私ですから。……でも、あんまり深入りはしないでね」


 今までで一番真剣な顔で福田さんが念を押す。

 その勢いに押されて『はい』と口をついて出てきた。


「じゃあ、これ、その人の連絡先。詳しいことはこの人から聞いて。事前にあなたのことは彼に連絡してるわ。急に連絡しても大丈夫よ」


 福田さんが小さく折り畳まれた紙を俺の手のひらに乗せた。


「じゃあ、私はそろそろ。お邪魔してごめんなさいね」


「いえいえ、わざわざありがとうございます」


「はい、じゃあ、お休み楽しんで」


 福田さんを見送りながら、俺はゆっくりと玄関の扉を閉め、鍵をかけた。



 リビングの扇風機の前に座り、福田さんからもらった紙を開く。


 そこには電話番号と、メッセージアプリのIDらしきものが書いてあった。


 その上に綺麗な字で『結城紘一(ゆうきこういち)』と書かれていた。

 これが福田さんの言う『彼(詳しい人)』なのだろう。


 俺は早速スマホを取り出して、IDを登録した。


 まっさらなトーク画面に最初のメッセージを打ち込む。


【湊斗】

 こんにちは

 突然の連絡失礼します

 福田さんにご紹介頂きました、清水湊斗と申します


 メッセージを送って5分ほど後、返信が返ってきた。


【紘一】

 湊斗さん、初めまして

 福田さんから話は聞いてます。メッセージだと面倒なので、都合の良い時に直接会えませんか?

 次のお休みはいつでしょうか?


【湊斗】

 明日が休みです


【紘一】

 分かりました

 もしよろしければ、明日の14時からウチで少しお話ししませんか?


【湊斗】

 ありがとうございます

 明日は特に予定がないので、結城さんがよろしければそれでお願いしたいです


【紘一】

 それじゃあ、それで

 明日お待ちしてますね。住所は下に書いておきます

 詳しいことは直接話しましょう


 住所:〇〇町3丁目□□338-2



 送られてきた住所は俺の家のすぐ近くだった。こんなに近いところに詳しい人がいたんだなぁ。


 俺はもう一度お礼のメッセージを送った。

 明日の休みが潰れるのは少し寂しいが、家にいてもモヤモヤしたままで特にやることもないので、こうやって予定が埋まるのは嬉しいことだ。


 明日さらに収穫があることを願いながら、俺は土曜日の夜を消費していった。


 ◇


 日曜日。午後二時。


 俺は大きな一軒家の前に立っていた。


 結城さんの家は本当に近く、俺の家から歩いて10分もかからなかった。


 俺は恐る恐る立派な門をくぐり、インターホンを押した。


『はーい、どちらさまですか?』


「こんにちは、清水です」


『あ、今行きますね』


 インターホン越しのやりとりを終えてすぐ、玄関の扉の向こうからドタドタと足音が聞こえてきた。


「清水さん、お待ちしてました」


「結城さん、今回はお時間を割いてくださり、ありがとうございます」


 扉から顔を覗かせたのは、優しそうな顔をした男性だった。俺より十歳ほど年上だろうか。しかし、スラっと高い身長と、ハキハキとした口調から、見た目より大分若く見えた。


「さ、どうぞどうぞ」


 結城さんに手招きされ、俺は奥の部屋へと進んでいった。


「どうぞ、掛けてください」


「ありがとうございます。あ、あとこちら。お口に合うといいのですが……」


 俺は紙袋から最近評判のお菓子屋さんのスイーツを取り出す。わざわざ午前中に駅前で買ってきたものだ。


「わざわざありがとうございます。きっと娘も喜びます」


「娘さんがいらっしゃるんですか?」


「はい、今は中学生です」


 結城さんと話していると、ドアをノックする音が3回響いた。


「あ、ちょうど娘が来たみたいです。今開けるから待ってて!」


 結城さんがドアを開けると、お盆にコーヒーカップを2つ乗せた娘さんが立っていた。


「アオイ、清水さんがお土産をくださったよ」


「うわ、これ今人気のやつじゃないですか!」


 それまでの落ち着いた雰囲気とは一転、スイーツに向けられる目線は中学生という肩書きが似合うほどキラキラしていた。


「清水さん、ありがとうございます。後でいただきます」


 結城さんは娘さんにお土産を持たせ、部屋を去らせた。


「さぁ、それじゃあ本題です。知りたいのは……黒崎家についてですよね」


「はい」


 一口コーヒーを飲み、結城さんはゆっくりと口を開いた。


「それじゃ、お話しします――」

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