第64話 その英雄、騎士団長と決意表明する
社交界準備と称し、ネンネとわたしがこっそりダンスレッスンに勤しんでいる数日の間、ソルファ様は王宮騎士団ディアス支部を訪れていました。
サウスオリーブ領での一件で、遂に闇の組織ワイルドウルフと接触し、幹部の一人と対峙するというルモーリア王国の今後を左右する大きな成果へと繋がったため、どうやら騎士団長のミルア様も色々準備をしているようで。この日は社交界シーズンを迎えるにあたり、ソルファ様とミルア様で打ち合わせをしています。
「君たちの出発に併せ、私も中央へ向けて発つ事にするよ。西はルナ・スフォルへ任せる事にする」
「はい、問題ありません」
ルモーリア王国、西のディアス領と南のサウスオリーブ領で色々と仕掛けて来たワイルドウルフ。彼等の目的はまだ分かっておらず、もし仮に何かが起きるとすれば、夏の社交界、或いはその後に控えているリファ第一王女の誕生祭のタイミングが可能性として一番高いとミルア様は判断、騎士団の主要メンバーも今回、中央の本部へと集める形で測の事態へ備えるようで。
「西の英雄ソルファ、東の戦乙女ソル、そして中央の剛健――副団長のライズ。更には、騎士団長である私ミルアが久し振りに出揃う事になる。ワイルドウルフのその四狼とやらも、表へ出ざるを得なくなるだろうね」
西支部隊長ソルファ・グランディア。東支部隊隊長ソル・スフォル。中央本部副団長ライズ・アルフォード。騎士団長ミルア・オクターヴ。
これが現王宮騎士団最高戦力と呼ばれる四名なんだそうで。たった四名で小さな国家の戦力に匹敵するとも言われる強さを誇り、その名前を知らない者は居ないと言われているみたいです。この流れで、ソルファ様と出逢う前は誰も知らなかったとは言いにくいわたしではあるのですが……。
「そうそう。君のところへ先日寄越したバルサーミも、それなりに活躍したみたいじゃないか?」
「姑息な手段や陽動はオレより奴の方が得意ですからね。肝心の戦闘はまだまだですよ」
「ハハッ。ソルファ、それでこそ君だ。バルサーミも伸びしろがある方が鍛え甲斐もあるってものさ」
「そうですね」
報告がひと段落したところでソファーへと座ったミルア様。いつの間にか用意されていた紅茶を飲み、ひと息つく。ソルファ様もミルア様へ促され、ソファーへ座り、紅茶をひと口口へ含み、ゆっくりと息を吐く。暫くし、顔をあげたソルファ様はミルア様へ聞きたかった事を尋ねます。
「団長、ひとつお聞きしてもいいでしょうか?」
「なんだい?」
「オレの婚約者であるローズ嬢の家、ゴルドー家についてです。ローズ嬢の父である、グランデ・ゴルドー伯爵については団長の方がお詳しいのではないかと」
「そうだね。私がまだ入りたての頃、彼は副団長で王家の護衛を担当していたからね。当時の彼はとても強かったんだよ?」
「ならば……どうしてそんなに強かった彼が、騎士団を辞め、今では自分の保身ばかりを考える、正義感の欠片も見えないような男に成り下がっているのですか?」
ミルア様が残りの紅茶を飲み、ゆっくりとカップをテーブルへ置きます。ゆっくりと立ち上がった騎士団長は両手を腰の後ろへ組み、窓の外を見ながら昔を思い出すかのように話し始めます。
「そうだね、私も当時は若かったからよくは知らないんだ。ただ、王宮内で暗殺事件が起きてね。その責任を負わされて退団したとは聞いているよ」
「暗殺事件……ですか。一体誰が誰を……」
「亡くなったのはとある伯爵貴族の一家全員。そして、その伯爵家出身の王宮メイド。当時、後日犯人として捕まった者が処刑されたみたいだけどね。君も知っての通り、貴族社会は闇が深いからね。その犯人も、誰かが雇った暗殺者かもしれないね」
「一家全員。よっぽどの恨みがあったのか……結局、黒幕は分からず仕舞いなんですね」
「まぁ、憶測は当時も色々飛んでいたみたいだけどね。で、話が逸れてしまったが、ゴルドー伯爵の事を聞くという事は、何かあるのかい?」
「はい。先日密偵からの報告を受けた話なんですが。ローズにはアリーシェ・ゴルドーという妹が居る筈なのですが、その子の素性が一切ゴルドー家の記録に残っていない事が分かりまして」
「ほぅ、それは興味深い」
「ローズ嬢の母親であるキャサリーナ・ゴルドー。どうやら彼女は再婚のようで、かつてはモーリア領の酒場の踊り子だったみたいです。ゴルドー卿と結婚した時には、ローズ嬢とバルサーミは育っていた……つまり……」
「ゴルドー卿は初婚ではなく、身元不明である前妻との間にアリーシェ・ゴルドーという隠し子が居た……と」
窓の外を向いていたミルア様がソルファ様へと向き直る。そして、ソルファ様は自身で予測した推測をミルア様へと告げるのです。
「団長。オレは、やはりゴルドー家は重大な何かを隠していて、ワイルドウルフが企む陰謀か何かに、ローズ嬢が巻き込まれているのではないか? そう考えています」
「成程」
わたしの知らないところでソルファ様はジウさんにゴルドー家の事、そしてわたしアリーシェの事を調べさせていたのです。わたしがその事実を知るのはもう少し先のお話です。ワイルドウルフの真の目的にまではミルア様もソルファ様も辿り着いておらず、ゴルドー家とワイルドウルフを結びつけるにはまだまだ証拠が足りない状況。ですので、ソルファ様はあくまで推測だとミルア様へ補足します。
「ソルファ。さっき……暗殺事件の話をしたね」
「ええ」
「もしかすると、主犯として処刑された男は黒幕に用意された替え玉で、犯人はまだ生きているのかもしれないよ? 例えば……そう、闇の組織の一員として」
「なっ!?」
王宮騎士団の副団長として、当時王家の警護を担当していたわたしの父親、グランデ・ゴルドー伯爵。そして、今。世間を騒がせている闇の組織、ワイルドウルフ。もしも、一連の事件が一つに繋がっているとすれば……。腕を組み思慮していたソルファ様が顔をあげ、ミルア様へ進言します。
「団長。民もローズ嬢も、これ以上危険な目に遭わせる訳にはいかない。一刻も早く彼等の真の目的を暴き、黒幕を捕まえましょう!」
「奴等の目的を暴く。私も同意見だよ。これ以上、悪事を働いてもらう訳にはいかないからね」
ワイルドウルフの四狼という存在が明らかとなり、彼等が何かを企み動き出そうとしている今こそ、闇の組織の全貌を明らかにする絶好の機会。そして、未だに姿を見せていないボス――黒幕の存在。もしかしたら、社交界や誕生祭という華やかな舞台の裏で、闇の組織と王宮騎士団。最高戦力同士が激突する日も近いのかもしれません。




