EX05 閑話サウスオリーブ ディアス部隊盗賊団アジト制圧編 後編
古城オリーヴ三階――
長い年月が経った後も大理石で出来た巨大な円柱が今も城の石壁と天井を支えている。かつての戦いの爪痕か、ところどころ壁と天井には穴が孔が開いており、穴の隙間から差し込む月灯りが回廊を照らしていた。
「ナゲット、何処だ! 出て来い」
回廊の途中にある部屋の扉を開け放ちつつ、オレは奴が潜んでいそうな場所を探していく。そして、回廊を抜けた先、見上げる程の巨大な扉がオレの前に現れる。この先は、古城オリーヴ、かつての王の間だ。周囲の罠を警戒しつつ、オレは王の間へ続く扉を開く。
朱い絨毯の敷かれた王の間の先、壇上にある二つの玉座――かつて妃の玉座へロジータ夫人、そして、王の玉座には悪趣味な髑髏の首飾りを身に着けたスキンヘッドの大男。ナゲットが鎮座していた。腕を組んだまま立ち上がる大男は、玉座の横に立て掛けていた鎖に繋がれた巨大な鉄球を手に取った。
「ロジータ夫人! 無事か! 今すぐ助けるから待っててくれ!」
オレが呼び掛けても反応がない。眠っているのか意識が朦朧としているのか、口元を半開きにして玉座へ凭れ掛っている。何か幻覚作用のある毒でも飲まされたのか……ならば、と、オレが高速移動で彼女の下へと近づこうとすると、足許へ鉄球が振り下ろされたため、素早く横へ飛んで回避する。方向転換して再びロジータ夫人へ近づこうとするが、結果は同じ。仕方ない。どうやら、先にこいつを倒さなければいけないらしい。
「心配するな。俺様はなぁ、西の英雄さんと一度殺り合ってみたかったんだよ。だから、あんたと戦っている最中は女をどうこうしねぇと約束してやる」
「小悪党の約束なんぞ信じられる訳がない。が、オレへ挑もうとする気概だけは認めてやる」
「へっ、そう来なくっちゃなっ!」
鎖に繋がれた鉄球が縦横無尽にオレの肉体を抉ろうと迫る。流石に剣で威力全てを受け止める事の出来る代物ではないらしい。鉄球の迫る方向を剣でいなす形で受け流しつつ、奴の懐へと飛び込む隙を窺う。鉄球の軌道が大きく逸れたタイミングで一気に間合いを詰め、オレは奴の肉体目掛けて剣を振るう。が、鋼鉄がぶつかる金属音と共に刀身が何かに弾かれ、背後からオレの背中を狙って迫る鉄球を屈んで回避したオレは一旦奴から距離を取った。
「柄の部分を中心にし、右側に持つ長い鎖に繋がれた鉄球……そして、左側には攻防一体となる鎖分銅。成程、ただ鉄球を振り回すだけではないらしい」
「退いたな? 英雄。どうする? 俺様の絶対防御がある限り、あんたの刃は届かないぜ?」
「そうか。ならば……これを受けるといい」
次の瞬間、ゆっくりと息を吐いたオレは、奴の鉄球が届かない距離で持っていた剣を両手で持つ。間合いへ入れないんだろう。奴の動きも止まる。
静寂。月の呼吸のみが支配する世界。そして、天井に開いた孔より一陣の風が駆け降りた瞬間、オレは持っていた剣を天高く掲げ、奴へ向かって真っすぐ振り下ろした!
「天喰らう風神」
「嘗めるナァ!」
この時、ナゲットは自身を覆う形で鉄球を高速回転させていた……が、奴が気づいたときには玉座よりも後方、王の間最奥の壁へと奴の巨体が吹き飛んでいた。斬撃を受け止めた鉄球は真っ二つに割れ、奴の肉体へ出来た縦一文字の傷痕より血飛沫が舞う。
「ソルファ様! ご無事ですか!」
「セイカか。こっちはもうすぐ終わる。それよりロジータ夫人を頼む」
天井に開いた孔より王の間へと飛び込んで来たセイカと、入口の扉よりルナ達の部隊が突入して来た。どうやら盗賊団の他の連中の制圧は終わったらしい。
「これは……ヨツユダケの毒か……すぐに解毒します!」
ルナが解毒のためロジータ夫人を抱え移動させる中、武器を失ったナゲットが何を思ったのか、屈々と嗤い出した。
「くくくく……終わりだよ、西の英雄!」
「終わりなのはお前達だ、お前は殺さずに牢屋へ連行する。お前達のボスの事を洗いざらい吐いてもらうぞ?」
「そうかい。だが、それでいいのかよ? 今日はあんたの愛しの婚約者様がお茶会に出席するんだろ? もう夜が明けるぜ?」
「なに……?」
暁天の空を照らそうと太陽が東から昇っていく最中、城の外で爆発音が聞こえる。十時の方向、恐らくオレ達が移動するための馬を待機させていた場所だ。オレの脳裏に昨日オレ達の前に現れたロジータ夫人の姿が浮かぶ。眼前のロジータ夫人はそもそもいつから浚われていた? この衰弱具合からして数日前……いや、そもそもサウスオリーブ領へ入るタイミングで馬車が盗賊団に狙われたのだとしたら……? ならば、あの時のロジータ夫人は偽物で、今日お茶会へ出席する……その狙いが先刻奴が話していた通り、ローズ嬢が狙いなのだとしたら……!?
「お前ら……!」
「餞別だ。西の英雄さんよ!」
壁の仕掛けらしきものを押した瞬間、爆発と共に天井が崩れ、瓦礫の雨が降り注ぐ! オレは皆に被害が出ないよう、息を殺して瓦礫を空中で斬り捨てていく。
「ソルファ様! 今の爆発! 大丈夫ですか!?」
「おい、誰かに馬がやられたぞ! どうするんだよ、部隊長!」
オレは合流するシンシンとバルサーミへ状況を説明する。
「なら、此処から南、マリーナリゾート手前に集落があった筈です! そこで馬を借りてソルファ様だけ向かってください!」
「すまない、シンシン。後は頼んだ!」
「ワタクシ共、密偵部隊は脚で向かいます。詰所に待機している騎士団員も連れて参ります」
「分かった。行くぞ!」
いや、ローズ嬢は大丈夫だ。分かっている。何故なら、万一に備えてジウとスミスを待機させているからだ。だが、それより許せないのは、いつも彼女が危険な目に遭っているタイミングでオレが傍に居てやれない事だ。何が西の英雄だ。一番大切な人を守れない者に英雄を名乗る資格などない。
「待っていてくれ、ローズ。今向かう!」
こうして夜明けと共にオレはローズの待つ公爵家へと引き返した。
そして、この後オレはワイルドウルフ四狼を名乗る女幹部、紅のリンダと相対するのだった。




