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図書館では声をひそめて  作者: 音鳴 凪
第四章【御統の緒】

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34. 何ができるか考える

「それで、結局僕を呼んだ先生はいませんでした」


 旧図書館の机を挟んで向かい合う柘榴(ざくろ)さんは、僕が話し終えても、しばらく何も言わなかった。


 柘榴さんの隣には、朱音(あかね)ちゃんがいつもと変わらぬ様子で立っている。そういえば、入り口で会った時に、白雪さんと何やら話していたっけ。


 ……二人が最近何を話してるのか、そのうち教えてくれると嬉しいな。


「千歳(ちとせ)君に声をかけてきた子も様子がおかしかったですし、これって……」


 あの時白雪(しらゆき)さんが僕を引き留めてくれなかったら、まんまとひとりになっちゃってたな。自分の用事に、他の人を付き合わせるなんて、ついつい遠慮しちゃう。


「白雪君。その子は君がついていくことを嫌がったんだな」


「はい。職員室の前で待つだけだと言っても、駄目だって。どうしても千歳君をひとりで行かせたいみたいでした」


「さっそく動き出しているな。久世御霊(くぜごりょう)が、君たちを引き離そうとしたのだろう。やはり白雪君がそばにいては都合が悪いようだ」


 そういえば、白雪さんの強い善性の魂が、穢れを寄せ付けないんだっけ。それって、白雪さんから放たれる光のオーラが、周りを輝かせてる感じなのかな。

 うん、すごくイメージできる。


「相手は思ったよりも焦っているのか……。今回は防げたが、ただ待ち続けるわけにはいかなくなったな」


「僕に声をかけてきた子は、また操られていたんですよね?」


「そうだろうな。君たちが離れる機会を作るために、別の者へ働きかけることも考えられる」


 僕たちが離れるまで、ああいうことを続けるつもりなんだろうか。

 もしかしたら、今度はもっと親しい子に手を出してくるかもしれない。


 ……もちろん僕には「親しい友人」はいないわけで、でも、白雪さんにはきっとたくさんいるから!


 でもほら、演劇部の深山さんや能登さん。再び前を向いて歩き出そうとしていた彼女たちが、またこんなことに巻き込まれたらと思うと、このまま様子を見ていることにも抵抗がある。


「えっと、久世御霊の居場所は、まだ分からないんですよね?」


「いくつかあてはついているが、なかなか尻尾を掴ませない」


「だったら……僕が囮になるっていうのは、どうでしょうか?」


 言った途端に、三人の目がこっちを向いた。

 そんな変なことを言ったかな?


「久世御霊は僕が目当てなんですよね。だったら、僕に近づいてきたところで、何とかできないかなって」


「何を言ってるの、千歳君」


 隣の白雪さんが眉を寄せているのを見て、少し言葉に詰まった。

 でもきっと、これこそが、僕の役目なんだと思うんだ。


「もちろん、僕に何かできるかっていうと、その、たいしたことはできないと思う」


 なんだか、自分で言ってて寂しくなるけど、格好つけてもしかたない。

 僕だって怖いものは怖いよ。それでも、僕を使えば何かできるなら、やってみたいとは思う。


「それでも、このまま傍観してるよりはいいと思うんだ」


 僕と白雪さんの視線を受けて、柘榴さんはゆっくりと頷いた。


「——千歳君の案は、検討する価値がある」


「そんな。千歳君が襲われたらどうするんですか!?」


 うーん、白雪さんにこんなに心配そうな顔をさせるなんて。

 今は無理ないことだけど、もっと安心してもらえるように頑張らないと。


「白雪君の心配はもっともだ。それについては、君も納得できるような作戦を考えよう」


「安心しろ。我もいるからな」


 そうだね、今までも朱音ちゃんには何度も助けてもらったし、そばにいてくれるなら、僕だって少しは——。


「まあ、千歳は驚くほどビビリだから、危なくなったら自分から逃げると思うが」


「あはは、朱音ちゃん……否定はできないね」


 白雪さんがいるのに、そこはもう少し言い方を考えて欲しかったよ!


「分かりました。まずは話を聞きます」


 まだ言いたいことがありそうだけど、白雪さんは朱音ちゃんの言葉にクスリと笑うと、椅子に座り直した。


「そもそも、久世御霊の居場所が分かったとしても、出てきたところで取り押さえれば済む相手ではない。祀り鎮めるには、神を迎える場へ導く必要がある」


「じゃあ、そこまで連れて行けばいいってことですね」


「最終的にはな。だがまずは、向こうから接触してくるように仕向けることが必要だ」


 わざと隙を見せて、久世御霊が僕に接触してくるのを待つ。

 あれ? でも、それって。


「柘榴さん、さっき言ってた『神を迎える場所』ってどこですか? この学校にそんな場所があるんでしょうか」


「神を迎える場、斎場はここにある」


 そう言って、柘榴さんは指を下に向けた。


「ここって、この図書館ってことですか?」


「そうだ。つまり、久世御霊をここに連れてくる、それが目的だ」


 朱音ちゃんに導かれて、柘榴さんと初めて会った場所。

 今はもう使われていない、この旧図書館に、そんな場所があったなんて。


「あの! 私にもできることはないですか?」


 話を聞いていた白雪さんが、急に立ち上がって身を乗り出した。

 その責任感の強さはさすがだけど、白雪さんに何かあったら僕も心配です。


「もちろんだ。白雪君、君にも協力してもらおう」


「ちょ、ちょっと、柘榴さん。白雪さんに危ないことさせるわけには……」


「千歳君、任せてね。私だってやればできるんだから」


 両手を握りしめて気合を入れる白雪さんの姿は、なんだか新鮮で可愛い。


 でも、あの、ちょっと顔が近いです……。


 * * *


「……じゃあ、準備ができたら、僕がひとりになる時間を作るということで」


「千歳君、先ほども言ったが、くれぐれも無理はしないように」


 そうだね、僕が変に張り切って、せっかくの作戦を台無しにしないようにしないと。

 なんでもすぐ調子に乗るのは僕の悪い癖だから。


「それまでは、二人で行動しましょうね。勝手な行動はダメよ、千歳君」


「う、うん。そうだね、もちろん」


 白雪さんと二人で過ごすのには、もう少し慣れていかないと、気持ちが持ちそうにないや。

 でも、これは僕が悪いというよりも、白雪さんと二人になって、正気でいられる人の方がおかしいって!


「あ、そういえば、何か連絡を取りたい時はどうしたらいいですか?」


「これを使うといい」


 柘榴さんが取り出したのは、古びた木でできた小さな笛だった。


「それは招霊(おがたま)の笛だ。何かあったらその笛を吹くといい。笛の音は普通の人間には聞こえないが、朱音がすぐに駆けつける」


 これを使えば、いつでも朱音ちゃんを呼び寄せられるってこと?


「おい、千歳。分かってるとは思うが、無駄に我を呼び出すんじゃないぞ」


「痛いよ! そんなことするわけないでしょ!」


 朱音ちゃんの蹴りは正確に僕のスネを狙ってきてる。

 うっかり変なことを口走ったら、命が危ないところだったよ。


 白雪さんが僕たちのやりとりを見て、ふふッという声をもらした。


 うん、やっぱり白雪さんには笑顔が似合う。


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