↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
図書館では声をひそめて  作者: 音鳴 凪
第二章【清見の面】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
14/20

14. ありがたさは見た目によらない

 ……嫌な予感がする。


 前にこの流れで出てきたのは、お札を食べてゲップをする木箱だったぞ。今度は何が出てくるんだ。


 でも、ほどなくして戻ってきた朱音ちゃんが、うやうやしく捧げ持っていたのは、一枚のお面だった。

 ちょっと拍子抜けしたけど、大丈夫かな、噛みついたりしないだろうな。


 でも、その面を見て、僕は思わず違う意味で声をあげてしまった。


「な、なんですか、この顔は」


 だって、とにかく変なのだ。

 それは真っ赤な猿の顔で、つぶらな目がぎゅっと中央に寄り、口はおちょぼ口にすぼめられている。眉だけがへの字に凛々しい形をとっていて、深刻なのか呑気なのか、まるで判断のつかない造形をしていた。


「これは、猿田彦大神(さるたひこのおおかみ)に由来する『清見(さやみ)の面』だ。これを着けた者は、人の穢れを見ることができる」


「穢れって、どう見えるんですか?」


「穢れを背負った人間は、黒いモヤを纏って見える。もしそういう人間がいれば、そいつが今回の鍵を握っているはずだ」


 なるほど、この前借りたあの鈴みたいに、今度は人の穢れを見るためのお面というわけだ。


「ただし、この面が力を発揮するのは、黄昏の間だけだ」


 柘榴さんは、面をひょいと僕に放って寄越した。慌てて受け止めると、拍子抜けするほど軽い。そして近くで見ると、いっそう変な顔だ。


「黄昏時、つまり夕方ってことですかね」


「そうだ。昼と夜の境目、誰そ彼(たそがれ)時、逢魔(おうまが)時、とも言われる時間帯。穢れの類が、最もよく透けて見える時だ」


 色々と難易度が上がってきたぞ。

 夕方の限られた時間ということもそうだけど、そもそもこのおかしな面を学校の中で被らないといけないの?


「……ぷっ」


 ほら! 白雪さんも笑いを堪えてる!

 手で口を押さえて我慢してるけど、全然隠せてないよ。


「せっかくだ、着けてみろ」


「え、今ですか? 僕が?」


「君以外に誰がいるんだ」


 戸惑う僕にはお構いなしに、柘榴さんはすっと立ち上がって距離を詰めてくると、僕の手から面を取り上げ、両手でそのまま僕の顔に押し当てた。

 後頭部に紐を回され、髪ごときゅっと結ばれる感覚が伝わってくる。


 視界が細くなって、鼻先に古い木の匂いが満ちてきて……って、目の前に柘榴さんの顔があってびっくりした。

 面の目の部分に刻まれた隙間から、柘榴さんが覗き込んでくる。


 だ、大丈夫。今僕の顔は面に覆われているわけで、表情は見えないはずだ。


「よく似合っているぞ、千歳。まったく違和感がなくて驚きだ」


「ぷっ!」


 横から覗き込んだ朱音ちゃんの言葉に、白雪さんがついに吹き出してしまった声が聞こえる。


「おい、こら! こっちを見るな!」


「あはは!」


 二人のほうに顔を向けた途端にこれだよ!

 ひどい、違和感ないんじゃなかったの……。


 視界の細い穴の向こうで、白雪さんが口元を両手で覆って、肩を小刻みに震わせているのが見えた。


「し、白雪さん?」


「ご、ごめんね、千歳君。ふふ、だって……ふふふ」


 こらえきれずに漏れた笑い声が、鈴を転がすようで大変可愛らしい。はい、問題ないです。


「黄昏時に、その面で穢れを探せ。いいな」


 柘榴さんの声だけは、あくまで真剣そのものだ。

 つまり、あれだ。僕はこの顔で、夕暮れの学校をうろつくのか。


 白雪さんのためならなんだってする、その決意が、まさかこんなに早く試されるなんて思わなかった。


* * *


 翌日の昼休み、僕と白雪さんは、校舎裏で深山(みやま)さんと落ち合った。


 白雪さんから話は通してあると聞いていたけど、初対面の、しかも別のクラスの女子と会うというだけで、僕の心臓はすでに忙しい。


「深山です。白雪ちゃんから聞きました。よろしくお願いします」


 深山さんは、僕を前にすると、勢いよく頭を下げた。


 背筋の伸びたお辞儀と、遠くまで届きそうなよく通る声。子供の頃から舞台に立ってたと白雪さんが言ってたけど、確かにそんな雰囲気だ。


 短く切り揃えた髪、ハッキリした目鼻立ち、白雪さんとはまた別な、健康的な可愛らしさ。内側から溢れ出る元気というか、エネルギーのようなものを感じる。


 うん、こんなことがない限り、交流を持つことはないであろう世界の人だな。


 頭を上げた深山さんの顔には、笑顔が浮かんでいたけど、目の下にはうっすらと隈が見えて、その笑顔も長くは持たずに萎んでしまう。


祀乃目(しのめ)です。えっと、あの、話は白雪さんから聞いてます。その、大変だね……」


 おいおい、千歳君。

 最近、白雪さんと少しばかりまともに話せるようになったからといって、油断してたんじゃないか?

 そうだね、思い出したよ、自分の会話能力の低さを――。


「それでね、深山さん」


 白雪さん、ナイスです。ありがとう。


「昨日話した通り、千歳君は、こういう困りごとの原因を探すのが得意なの。人を観察するのがとっても得意で、私も相談に乗ってもらったの」


 なんだか僕に対する過大な評価が積み上げられているような。「人間観察が得意」というところはあってるかもしれないけど、それは悲しい性であって……。


「――それでお願いなんだけど、一度、演劇部の練習を見学させてもらえないかな。どんな様子か見てみたら、何か分かるかもしれないでしょ」


 我ながら、じゃない、白雪さんながら、ずいぶんふんわりした説明だけど、お面のことも呪いのことも、深山さんには詳しく話せないから仕方ない。


 さすがに怪しまれるんじゃないかと思ったけど、深山さんは、すぐに頷きを返した。


「明後日、本番前の通し稽古があるの。部員が全員集まるし、ちょうどいいかも。二人は、演劇部に興味があるってことで、見学できるようにしておくわ」


「あ、それって、時間は何時ごろ?」


「放課後から準備を始めて……夕方くらいになると思う。終わるのは少し遅くなるけど、大丈夫?」


 夕方、つまり黄昏時だ。大丈夫どころかバッチリだ。

 これ以上ない条件に、僕は白雪さんとこっそり目を合わせた。


「じゃあ、明後日、お邪魔させてもらうね」


「正直、私、藁にでもすがりたい感じで……。えっと、千歳君もよろしくね」


 深山さんは、僕の両手を掴んでぶんぶんと振った。舞台の人は距離感が近い。

 でも、その手の力強さに、この人はまだ諦めていないんだと分かって、なんとか力になってあげたいと思った。


 あとは、当日までに考えておかないといけないことがひとつ。

 ……あの面を、どこでどうやって被るかだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。