星の誓い
「ところで、一つ聞いていいかしら?」
前を歩いていた玲が立ち止まり、振り返って俺に優しい笑みを向けた。
「そういえばあなたの名前をまだ聞いてなかったなと思って。私たちはあなたを『あの魔法少女』って呼んでるけど、ちゃんとした名前があるなら教えてほしいの」
確かに、さっきから緊迫した尋問やドタバタが続いていたせいで、これまで誰も俺の本名を尋ねてこなかったのだ。
玲の真っ直ぐな瞳で見つめられ、俺は思わず言葉に詰まった。
「あー・・・その」
頭の中で思考がフル回転する。
元サラリーマンとしての本名は「孝太郎」
しかし、今のこの姿はどう見ても中学生くらいの少女だ。
流石にこの外見で「孝太郎です」などと名乗ったら、間違いなく頭のイカれた不審者扱いされてしまう。
かといって、咄嗟に偽名なんて思いつくわけもない。
(どうしよう・・・なんて名乗ればいいんだ)
冷や汗を流しながらうーんと唸り込む俺を見て、玲は「何か言いにくい事情でもあるのかしら?」と首をかしげた。
そんな俺の肩の上で、バロンがクスクスと笑っている。
(どうしよう、何かないのか、このメルヘンな衣装と美少女の容姿に釣り合う名前が!)
必死に脳の引き出しをひっくり返したその時、ふと、昔深夜に一人で眺めていたアニメのワンシーンが脳裏に蘇った。
謎の侵略者と戦う、機動戦艦のブリッジクルーの一人。
そうだ、あの娘の見た目が・・・今の俺の姿に似ていないか?
冷や汗を拭いながら、俺は恐る恐る玲を見上げて口を開いた。
「ほしの・・・いえ、星宮ルリです」
トプッ、と心臓が跳ねるような緊張の中、絞り出した偽名。
それを聞いた玲は少しだけ目を丸くしたあと、ふっと柔らかく微笑んだ。
「星宮ルリか。可愛い、素敵な名前ね。これからよろしくね、ルリちゃん」
(ルリちゃん・・・って呼ばれたぞ。元おっさんの社畜が何やってんだろ)内心で盛大に頭を抱えつつも、とりあえず不審者として拘束される最悪の事態は回避したのだった。
無機質なコンソールがずらりと並ぶその中央に、歴戦の猛者といった風貌の男が深々と腰掛けていた。
――ジェニス極東支部司令長官、東堂烈。
鋭い眼光は、俺の全身を射抜いている。
通路の隅に控えた玲が、気まずそうにそっと耳打ちしてくれた。
「あーあの怖い顔のおじさんはね、ここ極東支部の最高責任者よ。機嫌を損ねたら一瞬で宇宙の塵だから気をつけて」
笑えない冗談に、思わず喉が鳴る。
長官は俺の姿を捉えると、ゆっくりと立ち上がった。
その威圧感は、それだけで空気を震わせる。
彼は低く、地を這うような声でいきなり問いかけてきた。
「――答えろ。君は、人類に敵対する存在か?」
瞬間、オペレーターたちの手が止まり、司令室全体の空気が氷点下まで凍りついた。
圧倒的なプレッシャー。
皮膚がヒリヒリと痛むほどの殺気。
それに飲み込まれそうになりながらも、俺は必死に長官の目を真っ直ぐに見据える。
震えを必死に押し殺し、乾いた声でハッキリと叫んだ。
「おっ・・・私は人類の味方です! 敵対する気なんてありません!」
俺の必死の答えを聞いた長官は、しばらくじっと沈黙を保っていた。――長い、長い数秒間。
だが、やがて彼はふっと厳めしい口元を緩め言い放った。
「よろしい。ならば今日から、君をジェニスの正規隊員に任命する。配属は――『チーム・ルクシオ』でよかろう」
「えっ?」
予想の斜め上を行く事態に、俺は思わず声を漏らした。
隣に立っていた玲が「やったわね、ルリちゃん!」と子供のように無邪気に飛びついてくる。
華奢な少女の身体を通して伝わってくる、柔らかさと温もりに、頭の中が真っ白になりかけた。
しかし、長官の言葉はそれで終わりではなかった。
玲の腕の中で硬直する俺を見据えながら、彼は冷徹なトーンで付け加える。
「率直に言おう。君は上層部から危険視されている。中には、『得体の知れない化け物など、今のうちに処分しろ』と声を荒げる者も少なくない。生き残りたければ・・・その力で我々を納得させてみせろ」
警告を含んだその言葉のあと、彼はふっと不敵な笑みを浮かべ、力強くこう続けた。
「だがな。案ずることはない。君の背中には、最前線で命を張る優秀な仲間たちがついている。頼もしい仲間たちと共に、この地球の青い空を守り抜いてみせろ」
長官の気概に満ちた言葉と、隣で優しく微笑んでくれる玲の温もり。
胸の内にあった不安は霧散し、代わりに不思議な勇気と、熱い希望の炎が灯るのを感じる。
――元の身体に戻る方法を探す。
その新たな目標を胸に、心の中で小さくため息をつく。
(まあ、怪しさMAXの容疑者は身近にいるが)
魔法少女・星宮ルリとしての、地球の未来を賭けた戦いが――今、本当に始ったのだ。
次回予告
ジェニスに、なし崩し的に入隊した俺。
東堂長官の真意は?そして、ネットデビュー?
次回「こんにちは人類」でFuture Go!!




