ディナーは戦いのあとで
「こうなったら・・やるしかないだろ!!」
俺が叫ぶと同時に眩い光が溢れ出し、俺の身体を包み込む。
体温が急激に上昇し、重力の感覚が消え去る。
みるみるうちに視線が高くなり、周囲の建物がミニチュアのように足元へと沈んでいく。
俺の身体は、ビルをも凌駕するほどのサイズへと巨大化を果たしたのだった。
「おおおおっ! 何度やっても、この感覚は慣れない」
光が収まり、ふと見下ろすと、そこには先ほどまで戦っていた山間の地形や、遠巻きに見守る人々や玲の姿が見えていた。
目の前には、禍々しい威圧感を放つ魔獣が咆哮をあげ威嚇してくる。
少し離れた小高い丘の上・・・
戦いの全貌を見渡せる特等席で、ひっそりとその光景を見つめる影があった。
「アレがこの星の護り手か・・・その力、見せてもらおうか」
すっぽりと黒いローブを目深に被った怪しい人物が、口元に不敵な笑みを浮かべながら静かに呟く。
「うわっ、速いっ!」
巨大化した身体でブンブンと振り回すマジカルブレードは、一撃あたれば龍魔獣に致命傷を与えるほどの凄まじい威力を秘めているはずだった。
しかし、その巨体に見合わぬ魔獣の動きに追いつけずにいた。風を切り裂いて放たれた必殺の一撃は、すべて紙一重で空を切るばかり。
そもそも、俺の戦闘経験といえば、街の治安を乱す宇宙人や、鈍重な大型異獣戦(それも偶発的なもの)ばかりだ。こんな縦横無尽に飛び回る魔獣を相手取ったことなど一度もない。
「おまけに何だこいつ!」
ガアァァァッと咆哮をあげ威嚇したかと思えば、魔獣は地面の土中に潜り込み、次の瞬間には足元からマグマのような衝撃波を伴って突き上げてくる。
かと思えば、上空へと舞い上がり、鋭い爪と高熱のブレスを頭上から雨のように浴びせてきた。
「地下から上空から、こんなの避けきれるかよっ!」
激しい攻撃のラッシュに翻弄され、防戦一方となる俺。
「バロン、どうにか出来ないのか!? このままだと、こっちの先にやられるぞ!」
バロンは、呑気に紅茶でも嗜むような口調で答える。
「ルリ慌てるな。やたら振り回しても意味がない。狙うなら、狙いすました一撃!そして、狙うところは奴の逆鱗だ」
バロンの言葉を聞いた瞬間、俺の中で何かが閃いた。
そうだ、このブレードは星光エネルギーを固定化しているもの。出力の制御次第で、形状を変化させることくらい。
「やってやろうじゃねぇか」
俺は念じるように右手に力を込める。
刀身として発光していたマジカルブレードのエネルギーがぐんと引き伸ばされ、眩い光の尾を引きながら、鋭い穂先を持つ光槍へと姿を変えた。
「マジカルランス――ッ!」
「おお、器用な真似するな。あの発想力こそが、あいつの武器かもしれないな」
珍しくバロンが感心したような声を漏らす。
これならリーチも稼げるし、ピンポイントで奴の逆鱗を穿つことができる。あとは・・・
変幻自在に形を変えた光の槍『マジカルランス』をしっかりと両手で握りしめ、俺はあえて目をゆっくりと瞑った。
「見えている視覚の情報に惑わされるな・・・」
魔獣の動きは変幻自在だ。
地下に潜って奇襲をかけたかと思えば、次の瞬間には空へと舞い上がり、猛烈な熱線を放ってくる。
目で見ようとすれば、そのトリッキーな動きにどうしても翻弄されてしまう。
だがどんなに素早く動き回る異獣であっても、強烈な一撃、あるいは次の攻撃へ移行するその瞬間には、必ず一度タメを作り動きを止めるはずだ。
研ぎ澄まされた静寂の中、全身の神経を周囲の大気の揺らぎへと集中させる。
風の裂け方、エネルギーの渦巻く気圧の変化、そして魔獣が放つ禍々しい殺気の微細なうねり。
(来るっ!)
「そこだ――っ!!」
裂帛の気合と共に、俺は全神経を研ぎ澄まして見据えた一点へと、渾身の力で突き出した。
目には見えない空気の揺らぎ、気圧の変化、そして魔獣が次に放つ圧倒的な殺気――それらすべてが頭の中で一つの線に結びつき、光の穂先が正確無比にその「急所」へと吸い込まれていく。
ゴォォォンッ!! と凄まじい衝撃音が轟いた。
光の奔流と魔獣の硬質な鱗が激突し、周囲に眩いスパークが四散する。
「っ!?」
手元に伝わってきた感触は、確かに硬い生体装甲を捉えたものだった。狙い済ました一撃は逆鱗を貫いた。
「浅いか?いや・・・」
魔獣の動きが止まり、徐々に目の光が消えていく。
ズズーーーン 土煙を上げ魔獣が倒れる。
崩壊したクレーターの底で、俺は巨大な体から元の姿へと戻り、その場に膝をついた。
荒い息を整えながら見上げると、遠巻きに避難していた人々やジェニスチームの面々から、どっと歓声と拍手が沸き起こる。
「やったぞ! 怪物に勝ったんだ!」
「すごいぞ、あの龍魔獣を倒した!」
その歓声を聞いて、俺はそこで初めて「勝ったんだ」という現実を認識した。全身の筋肉が悲鳴を上げ、冷や汗が止まらない。
「はぁ、はぁマジで死ぬかと思った。かなりヤバかった」
紙一重の勝利だった。
もし、この体に宿る誰かの記憶や戦闘のノウハウがなければ、あの変幻自在の龍魔獣のスピードについていけず、間違いなく負けていただろう。
記憶の主の存在に改めて感謝しつつ、胸を撫で下ろした。
「まだまだ甘いな護り手。だが最後の一撃は悪くはなかった。
謎の人物は、そう呟くとその場から幻のように消えた。
次回予告
龍魔獣との激闘の振り返り掲示板回
次回「掲示板2」




