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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
99/106

なんか強くなり方は選べないらしい

五匹目が倒れて、数が減った。

 

だが、まだ四匹いる。

 

サーナが二匹。

 

レオスが一匹。

 

残りの一匹が、また後ろへ回ろうとしていた。

 

「ソリスさん、もう一回!」

 

「もたない」

 

ソリスの声が、少し掠れていた。

 

風を、何度も出している。

 

魔力が、減っているのだろう。

 

一匹を止め続けるだけで、手一杯らしい。

 

その一匹が、ソリスの方へ向きを変えた。

 

後衛を狙っている。

 

魔法使いが倒れれば、風が止まる。

 

ゴブリンは、弱い。

 

だが、馬鹿ではない。

 

一番、崩したい場所を狙ってくる。

 

「ソリスさんの前に出ます!」

 

声を出して、動いた。

 

考えるより、先に足が出ていた。

 

ソリスとゴブリンの間へ。

 

石を投げる。

 

足元。

 

ゴブリンが、避ける。

 

だが、足が止まった。

 

その一瞬に、距離を詰める。

 

短剣を抜いた。

 

 

ゴブリンと、目が合った。

 

近い。

 

臭い。

 

黄色い目が、こちらを見ている。

 

知性がないわけではない。

 

獲物を、見る目だ。

 

弱い方を、狙う目。

 

棍棒が、振り上げられた。

 

遅い。

 

サーナやレオスの相手より、ずっと遅い。

 

見える。

 

どこに来るか、見える。

 

体を、横へ。

 

棍棒が、肩の横を抜けた。

 

懐に、入っている。

 

短剣の距離。

 

ここで、止まった。

 

一瞬。

 

本当に、一瞬。

 

この手を動かせば、ゴブリンが死ぬ。

 

分かっていた。

 

分かっていたのに、体が止まった。

 

首の、横。

 

そこを切れば、終わる。

 

どこを切れば、どうなるか。

 

医学が、知っている。

 

知っているから、分かる。

 

これは、練習ではない。

 

訓練用の板でも、木の的でもない。

 

生きているものを、殺す。

 

初めてだった。

 

「ヨウカ!」

 

サーナの声が、飛んだ。

 

その声で、体が動いた。

 

ゴブリンの棍棒が、また来ていた。

 

迷っている暇は、なかった。

 

短剣が、走った。

 

首の、横。

 

浅くない。

 

深く、入れた。

 

手に、感触が伝わる。

 

皮膚。

 

その下。

 

知っている構造を、自分の手で断った。

 

ゴブリンの目が、開いた。

 

それから、力が抜けた。

 

倒れる。

 

血の匂いが、広がった。

 

 

手が、震えていた。

 

硝子の日と、同じだった。

 

いや、違う。

 

あの時は、守った。

 

今は、殺した。

 

守るためだとしても、殺した。

 

自分の手で。

 

迷って、それでも、やった。

 

「ヨウカ! 大丈夫?!」

 

サーナの声。

 

顔を上げる。

 

サーナは、もう二匹とも倒していた。

 

レオスも、一匹を片づけている。

 

残りは。

 

数える。

 

戦えるゴブリンは、いない。

 

全部、倒れていた。

 

「……終わった?」

 

レオスが、息を切らして言った。

 

「戦える個体は、倒しました」

 

声が、少し掠れた。

 

まだ、手が震えている。

 

「ヨウカ、初めてだった?」

 

サーナが、静かに聞いた。

 

仕切る時とは、違う声だった。

 

「はい」

 

「そっか」

 

サーナは、それ以上聞かなかった。

 

自分の拳を見ている。

 

その拳も、汚れていた。

 

「私も、最初は震えた」

 

ぽつりと言った。

 

「慣れるもんじゃないよ、これは。慣れちゃ、だめな気もする」

 

サーナの言葉は、いつもより静かだった。

 

仕切りたがりの人が、こういうことも言うのか。

 

少しだけ、楽になった。

 

 

穴の奥から、音がした。

 

四人が、身構える。

 

だが、出てきたのは、小さなゴブリンだった。

 

子どもだ。

 

戦えない、小さな個体。

 

数匹、いた。

 

武器を、持っていない。

 

こちらを見て、動きを止めている。

 

怯えているように、見えた。

 

「……これも、やるの?」

 

レオスが、剣を握ったまま言った。

 

声が、硬い。

 

子どもを見て、迷っている。

 

俺も、迷った。

 

攫われた服を、思い出す。

 

骨を、思い出す。

 

このゴブリンたちも、育てば、同じことをする。

 

ウィルは、そう言った。

 

だが。

 

今、目の前にいるのは、武器も持たない、小さなものだった。

 

子どもたちが、後ずさる。

 

そして、穴の、もっと奥へ逃げていく。

 

森の方へ。

 

「逃げてる」

 

サーナが言った。

 

「追う?」

 

四人が、顔を見合わせた。

 

ウィルの言葉を、思い出す。

 

街道に出られなくなれば、それでいい。

 

戦える個体は、倒した。

 

巣は、機能しなくなる。

 

残ったものは、この森の奥へ逃げる。

 

街道からは、遠ざかる。

 

「……追いません」

 

俺が言った。

 

「戦う個体は、倒しました。街道の害は、なくなります」

 

「でも、育ったら」

 

レオスが言った。

 

「育つ前に、また誰かが討つのかもしれません。でも、今、逃げるものを追うのは、違う気がします」

 

言いながら、これが正しいのかは、分からなかった。

 

甘いのかもしれない。

 

ウィルなら、追えと言うのかもしれない。

 

でも、武器を持たず、逃げるものを、背中から刺すことは、できなかった。

 

サーナが、頷いた。

 

「私も、それでいい」

 

ソリスも、小さく頷いた。

 

レオスは、少し迷ってから、剣を下ろした。

 

「……分かった」

 

四人で、決めた。

 

正しいかどうかは、分からない。

 

でも、自分たちで、決めた。

 

 

巣を離れる時、頭の奥で、軽い音がした。

 

【条件を満たしました】

 

【レベル 2 → 3】

 

足が、止まりかけた。

 

レベルが、上がった。

 

入学してから、ずっと2のままだった。

 

順位戦を戦っても、上がらなかった。

 

上がったのは、今だった。

 

魔物を、倒したから。

 

自分の手で、殺したから。

 

嬉しさは、なかった。

 

ただ、事実として、上がった。

 

戦って、勝てば強くなる、というのとは、少し違う。

 

生きているものを殺すと、強くなる。

 

そういう仕組みだった。

 

知りたくなかった気もする。

 

でも、これが、冒険者の仕事だった。

 

 

野営地に戻ると、ウィルがいた。

 

四人の顔を、順に見た。

 

何も、聞かなかった。

 

だが、たぶん、分かっていた。

 

血の匂いも、疲れた顔も、震えの残る手も。

 

「終わったか」

 

「終わりました」

 

サーナが言った。

 

「戦える個体は、全部。子どもは、逃がしました」

 

ウィルは、少しだけ、間を置いた。

 

「そうか」

 

責めなかった。

 

褒めもしなかった。

 

「街道の害がなくなれば、依頼は達成だ。逃げた子どもをどうするかは、討った者が決めることだ」

 

それだけ、言った。

 

「よくやった。今日は休め」

 

初めて、ウィルが「よくやった」と言った。

 

軽い言葉ではなかった。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

手は、まだ少し震えている。

 

研修三日目。討伐=ゴブリンの巣。

戦える個体を、倒した。

私も、一匹。自分の手で。

初めて、生きているものを殺した。

 

そこで、手が止まった。

 

書くことが、うまくまとまらない。

 

硝子の日は、守った。

 

今日は、殺した。

 

守るために、殺した。

 

矛盾しているようで、していない。

 

でも、同じではない。

 

守るのと、殺すのは、同じではない。

 

手の震えは、たぶん、正しい。

 

アンナが言った。

 

震えないなら、その方が心配だと。

 

人に向けて力を使って、何も感じないなら、その方が危ないと。

 

今日、俺は、震えた。

 

だから、まだ、大丈夫なのだと思う。

 

記録板に、書き足した。

 

レベル 3。魔物を殺すと、上がる。

戦って勝つのとは、違う。生き物を、殺すと上がる。

知りたくなかった。でも、知った。

子どもは、逃がした。正しいかは、分からない。

でも、四人で決めた。

震えは、まだある。それでいい。

 

そこまで書いて、記録板を閉じた。

 

焚き火が、爆ぜた。

 

サーナは、いつもより静かだった。

 

レオスも、はしゃいでいない。

 

ソリスは、いつも通り、黙っていた。

 

四人とも、同じものを見た。

 

朝は、討伐を楽しみにしていた者もいた。

 

今は、誰も、そんな顔をしていない。

 

研修は、あと少しで終わる。

 

だが、今日のことは、たぶん、ずっと残る。


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