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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
99/170

なんか強くなり方は選べないらしい

五匹目が倒れて、数が減った。

 

だが、まだ四匹いる。

 

サーナが二匹。

 

レオスが一匹。

 

残りの一匹が、また後ろへ回ろうとしていた。

 

「ソリスさん、もう一回!」

 

「もたない」

 

ソリスの声が、少し掠れていた。

 

風を、何度も出している。

 

魔力が、減っているのだろう。

 

一匹を止め続けるだけで、手一杯らしい。

 

その一匹が、ソリスの方へ向きを変えた。

 

後衛を狙っている。

 

魔法使いが倒れれば、風が止まる。

 

ゴブリンは、弱い。

 

だが、馬鹿ではない。

 

一番、崩したい場所を狙ってくる。

 

「ソリスさんの前に出ます!」

 

声を出して、動いた。

 

考えるより、先に足が出ていた。

 

ソリスとゴブリンの間へ。

 

石を投げる。

 

足元。

 

ゴブリンが、避ける。

 

だが、足が止まった。

 

その一瞬に、距離を詰める。

 

短剣を抜いた。

 

⸻

 

ゴブリンと、目が合った。

 

近い。

 

臭い。

 

黄色い目が、こちらを見ている。

 

知性がないわけではない。

 

獲物を、見る目だ。

 

弱い方を、狙う目。

 

棍棒が、振り上げられた。

 

遅い。

 

サーナやレオスの相手より、ずっと遅い。

 

見える。

 

どこに来るか、見える。

 

体を、横へ。

 

棍棒が、肩の横を抜けた。

 

懐に、入っている。

 

短剣の距離。

 

ここで、止まった。

 

一瞬。

 

本当に、一瞬。

 

この手を動かせば、ゴブリンが死ぬ。

 

分かっていた。

 

分かっていたのに、体が止まった。

 

首の、横。

 

そこを切れば、終わる。

 

どこを切れば、どうなるか。

 

医学が、知っている。

 

知っているから、分かる。

 

死ぬところは、見たことがある。

 

七歳の時、道で灰牙鼠が出た。

 

あれは、ヨシュアが倒した。

 

俺は見ていただけだ。

 

動かなくなったものを、見ていた。

 

今は、違う。

 

見るのではない。

 

自分の手で、そうする。

 

「ヨウカ!」

 

サーナの声が、飛んだ。

 

その声で、体が動いた。

 

ゴブリンの棍棒が、また来ていた。

 

迷っている暇は、なかった。

 

短剣が、走った。

 

首の、横。

 

浅くない。

 

深く、入れた。

 

手に、感触が伝わる。

 

皮膚。

 

その下。

 

知っている構造を、自分の手で断った。

 

ゴブリンの目が、開いた。

 

それから、力が抜けた。

 

倒れる。

 

血の匂いが、広がった。

 

⸻

 

手が、震えていた。

 

硝子の日と、同じだった。

 

いや、違う。

 

あの時は、守った。

 

今は、殺した。

 

守るためだとしても、殺した。

 

自分の手で。

 

迷って、それでも、やった。

 

「ヨウカ! 大丈夫?!」

 

サーナの声。

 

顔を上げる。

 

サーナは、もう二匹とも倒していた。

 

レオスも、一匹を片づけている。

 

残りは。

 

数える。

 

戦えるゴブリンは、いない。

 

全部、倒れていた。

 

「……終わった?」

 

レオスが、息を切らして言った。

 

「戦える個体は、倒しました」

 

声が、少し掠れた。

 

まだ、手が震えている。

 

「ヨウカ、初めてだった?」

 

サーナが、静かに聞いた。

 

仕切る時とは、違う声だった。

 

「自分の手では」

 

「そっか」

 

サーナは、それ以上聞かなかった。

 

自分の拳を見ている。

 

その拳も、汚れていた。

 

「私も、最初は震えた」

 

ぽつりと言った。

 

「慣れるもんじゃないよ、これは。慣れちゃ、だめな気もする」

 

サーナの言葉は、いつもより静かだった。

 

仕切りたがりの人が、こういうことも言うのか。

 

少しだけ、楽になった。

 

⸻

 

穴の奥から、音がした。

 

四人が、身構える。

 

だが、出てきたのは、小さなゴブリンだった。

 

子どもだ。

 

戦えない、小さな個体。

 

数匹、いた。

 

武器を、持っていない。

 

こちらを見て、動きを止めている。

 

怯えているように、見えた。

 

「……これも、やるの?」

 

レオスが、剣を握ったまま言った。

 

声が、硬い。

 

子どもを見て、迷っている。

 

俺も、迷った。

 

攫われた服を、思い出す。

 

骨を、思い出す。

 

このゴブリンたちも、育てば、同じことをする。

 

ウィルは、そう言った。

 

だが。

 

今、目の前にいるのは、武器も持たない、小さなものだった。

 

子どもたちが、後ずさる。

 

そして、穴の、もっと奥へ逃げていく。

 

森の方へ。

 

「逃げてる」

 

サーナが言った。

 

「追う?」

 

四人が、顔を見合わせた。

 

ウィルの言葉を、思い出す。

 

街道に出られなくなれば、それでいい。

 

戦える個体は、倒した。

 

巣は、機能しなくなる。

 

残ったものは、この森の奥へ逃げる。

 

街道からは、遠ざかる。

 

「……追いません」

 

俺が言った。

 

「戦う個体は、倒しました。街道の害は、なくなります」

 

「でも、育ったら」

 

レオスが言った。

 

「育つ前に、また誰かが討つのかもしれません。でも、今、逃げるものを追うのは、違う気がします」

 

言いながら、これが正しいのかは、分からなかった。

 

甘いのかもしれない。

 

ウィルなら、追えと言うのかもしれない。

 

でも、武器を持たず、逃げるものを、背中から刺すことは、できなかった。

 

サーナが、頷いた。

 

「私も、それでいい」

 

ソリスも、小さく頷いた。

 

レオスは、少し迷ってから、剣を下ろした。

 

「……分かった」

 

四人で、決めた。

 

正しいかどうかは、分からない。

 

でも、自分たちで、決めた。

 

⸻

 

巣を離れる時、頭の奥で、軽い音がした。

 

【条件を満たしました】

 

【レベル 2 → 3】

 

足が、止まりかけた。

 

七歳の時と、同じ音だった。

 

あの時は、灰牙鼠だった。

 

夜、布団の中で数字が並んで、嬉しくて、嫌だった。

 

アンナは、どちらかにしなくていいと言った。

 

ヨシュアは、数字は道具だと言った。

 

今も、同じだと思う。

 

ただ、一つ違う。

 

あの時、倒したのはヨシュアだった。

 

今度は、俺だ。

 

同じ音でも、同じではなかった。

 

数字は、後で見ればいい。

 

今は、手の感触の方が残っている。

 

⸻

 

野営地に戻ると、ウィルがいた。

 

四人の顔を、順に見た。

 

何も、聞かなかった。

 

だが、たぶん、分かっていた。

 

血の匂いも、疲れた顔も、震えの残る手も。

 

「終わったか」

 

「終わりました」

 

サーナが言った。

 

「戦える個体は、全部。子どもは、逃がしました」

 

ウィルは、少しだけ、間を置いた。

 

「そうか」

 

責めなかった。

 

褒めもしなかった。

 

「街道の害がなくなれば、依頼は達成だ。逃げた子どもをどうするかは、討った者が決めることだ」

 

それだけ、言った。

 

「よくやった。今日は休め」

 

初めて、ウィルが「よくやった」と言った。

 

軽い言葉ではなかった。

 

⸻

 

夜、記録板を開いた。

 

手は、まだ少し震えている。

 

研修三日目。討伐=ゴブリンの巣。

戦える個体を、倒した。

私も、一匹。自分の手で。

七歳の時は、見ていただけだった。

 

そこで、手が止まった。

 

書くことが、うまくまとまらない。

 

硝子の日は、守った。

 

今日は、殺した。

 

守るために、殺した。

 

矛盾しているようで、していない。

 

でも、同じではない。

 

守るのと、殺すのは、同じではない。

 

手の震えは、たぶん、正しい。

 

アンナが言った。

 

震えないなら、その方が心配だと。

 

人に向けて力を使って、何も感じないなら、その方が危ないと。

 

今日、俺は、震えた。

 

だから、まだ、大丈夫なのだと思う。

 

記録板に、書き足した。

 

レベル 3。数字は後で見る。

子どもは、逃がした。正しいかは、分からない。

でも、四人で決めた。

震えは、まだある。それでいい。

 

そこまで書いて、記録板を閉じた。

 

焚き火が、爆ぜた。

 

サーナは、いつもより静かだった。

 

レオスも、はしゃいでいない。

 

ソリスは、いつも通り、黙っていた。

 

四人とも、同じものを見た。

 

朝は、討伐を楽しみにしていた者もいた。

 

今は、誰も、そんな顔をしていない。

 

研修は、あと少しで終わる。

 

だが、今日のことは、たぶん、ずっと残る。


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