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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
97/109

なんか知っていることなら言えるらしい

二日目の朝は、体が痛かった。

 

昨日、一日中しゃがんで泥をさらった。

 

腰も、腕も、普段使わない場所が固い。

 

天幕の中は、狭かった。

 

四人で寝ると、身動きが取りにくい。

 

それでも、思ったよりは眠れた。

 

疲れていたのだろう。

 

外に出ると、ウィルがもう焚き火の前にいた。

 

いつ起きたのか、分からない。

 

「起きたか」

 

「はい」

 

「飯を食ったら、二つ目だ」

 

探索。

 

昨日のうちに聞いていた。

 

「探索って、何を探すんですか」

 

サーナが聞いた。

 

「薬草だ」

 

薬草。

 

その言葉に、少しだけ反応した。

 

「この森には、薬になる草が生えてる。ギルドが買い取る。冒険者は、討伐の合間に、そういうのを集めて稼ぐ」

 

「地味ですね」

 

サーナが言った。

 

「地味だ。でも、金になる。討伐だけじゃ、食っていけない日もある」

 

ウィルは、一枚の紙を出した。

 

絵が描いてある。

 

草の絵だった。

 

「集めるのは、この三種類。それぞれ、決まった数を採ってくる」

 

紙を、地面に置いた。

 

「見分け方は、そこに描いてある。似た草もあるから、間違えるなよ」

 

それだけ言って、立ち上がった。

 

「森の東側に多い。昼までに戻れ」

 

「一緒に来ないんですか」

 

レオスが聞いた。

 

昨日と同じ質問だった。

 

「来ない」

 

昨日と同じ答えだった。

 

「迷うなよ。目印を覚えながら進め」

 

そう言って、ウィルは背を向けた。

 

「じゃあ、頑張れ」

 

足音もなく、消えた。

 

また、四人だけになった。

 

「……慣れないな、これ」

 

レオスが言った。

 

「慣れませんね」

 

だが、昨日よりは驚かなかった。

 

そういう人だと、少し分かってきた。

 

 

残された紙を、四人で覗き込んだ。

 

草の絵が、三つ。

 

それぞれに、特徴が書いてある。

 

だが、絵だけでは分かりにくい。

 

「これ、どれも同じに見えない?」

 

サーナが言った。

 

「葉っぱの形、みんな似てる」

 

「似てます」

 

「見分けられる?」

 

サーナが、俺を見た。

 

昨日、薬草の話をした。

 

覚えていたらしい。

 

紙を、もう一度見る。

 

一つ目の草。

 

葉の形。

縁のぎざぎざ。

茎の色。

 

知っている草だった。

 

「これは、リノ草です」

 

「リノ草?」

 

「熱を下げる薬になります。フィル村でも採りました」

 

「本物、見たことあるの?」

 

「あります」

 

サーナの顔が、少し明るくなった。

 

「じゃあ、任せていい?」

 

「見分けは、できると思います」

 

これは、はっきり言えた。

 

昨日の、上流の話とは違う。

 

薬草は、俺の領域だ。

 

迷わずに言えた。

 

「二つ目は?」

 

紙の、二つ目を見る。

 

「これは……たぶん、ソウ根草です。傷の膿を出す薬になります」

 

「たぶん?」

 

「本物を見れば、はっきりします。根の匂いで分かります」

 

「匂い?」

 

「独特の匂いがあります。似た草には、ないので」

 

サーナが、少し感心した顔をした。

 

「詳しいね、ほんと」

 

「村では、薬を買うより、採る方が多かったので」

 

三つ目は、少し迷った。

 

絵が、俺の知っている草と少し違う。

 

「これは、分かりません」

 

正直に言った。

 

「見たことのない草です。本物を見て、確かめます」

 

「分からないのもあるんだ」

 

「あります。知らない草を、勝手に薬だと決めるのが、一番危ないので」

 

そこは、はっきり言った。

 

薬草と毒草は、似ていることがある。

 

間違えれば、人が死ぬ。

 

知ったかぶりが、一番危ない。

 

 

森の東へ入った。

 

昨日の水路より、奥だ。

 

木が高く、下草が多い。

 

足元に、いろいろな草が生えている。

 

「うわ、草だらけ。どれがどれだか」

 

レオスが言った。

 

「探します」

 

しゃがんで、下草を見る。

 

葉の形。

茎。

生えている場所。

 

薬草は、生える場所に癖がある。

 

リノ草は、日の当たる、少し乾いた場所。

 

ソウ根草は、湿った、木の根元。

 

それを覚えていれば、闇雲に探すより早い。

 

「サーナさん、日の当たる場所を探してください。リノ草は、そういう所にあります」

 

「日の当たるとこね。分かった」

 

「レオスは、木の根元の、湿った場所を。ソウ根草があるかもしれません」

 

「湿ったとこ! 了解!」

 

「ソリスさんは……」

 

ソリスを見る。

 

何を頼むか、少し迷った。

 

無口な人に、どう指示するか。

 

「高い場所から、群れて生えている草を探してもらえますか。風で、少し上から見えませんか」

 

ソリスが、少し考えた。

 

それから、杖を上に向けた。

 

風が、上へ抜ける。

 

木の葉が揺れる。

 

ソリスが、その揺れを見ている。

 

「あっち」

 

一語だった。

 

指さした方を見る。

 

少し開けた、日の当たる場所だった。

 

行ってみる。

 

リノ草が、群れて生えていた。

 

「……見えるんですね」

 

ソリスが、小さく頷いた。

 

「風で、草の揺れ方が違う。群れてるとこは、分かる」

 

珍しく、長く喋った。

 

斥候ではないが、見つけるのがうまい。

 

風魔法の、そういう使い方もあるらしい。

 

 

リノ草は、すぐに集まった。

 

ソリスが見つけて、みんなで採る。

 

決まった数を、少し超えるくらい採った。

 

「多めに採っていいの?」

 

サーナが聞いた。

 

「傷んでいるものが混ざるので、少し多めがいいです。あと」

 

採ったリノ草を、根元から少し残して切る。

 

「根を全部抜くと、来年、生えません。上の方だけ採ります」

 

「そこまで考えるんだ」

 

「村では、来年も採るので」

 

当たり前のことだった。

 

でも、サーナは感心していた。

 

ソウ根草は、レオスが見つけた。

 

木の根元の、湿った場所。

 

「これ、匂う」

 

レオスが顔をしかめた。

 

「それです。膿を出す薬なので、匂いがあります」

 

匂いを確かめる。

 

独特の、少し土臭い匂い。

 

間違いない。

 

ソウ根草だ。

 

「合ってます」

 

「うえ、くさ」

 

「薬は、匂うものが多いです」

 

これも、採る。

 

根を使う草なので、こちらは根ごと。

 

ただし、全部は採らない。

 

群れの半分だけ。

 

残りは、残す。

 

 

問題は、三つ目だった。

 

知らない草。

 

森を歩きながら、それらしい草を探した。

 

何度か、似た草を見つけた。

 

だが、確信が持てない。

 

「これ、そうじゃない?」

 

サーナが、一つの草を指した。

 

紙の絵に、少し似ている。

 

葉の形も近い。

 

だが。

 

「待ってください」

 

しゃがんで、よく見る。

 

葉の裏を返す。

 

茎を折って、断面を見る。

 

匂いを確かめる。

 

「これは、違います」

 

「似てるけど?」

 

「葉の裏に、細かい毛があります。紙の草には、ない。あと、茎を折ると、白い汁が出ます」

 

白い汁を見せる。

 

「これが出る草は、毒のことが多いです」

 

サーナの顔が、固まった。

 

「毒?」

 

「触るくらいなら、大丈夫です。でも、口に入れると、危ないです」

 

「採らなくてよかった……」

 

「似ている草は、危ないので」

 

これが、探索で一番大事なことだった。

 

採ることではない。

 

間違えないことだ。

 

知らない草を、勝手に薬だと決めない。

 

似ているだけの草を、掴まない。

 

その少し先で、本物の三つ目を見つけた。

 

葉の裏に、毛がない。

 

茎を折っても、白い汁が出ない。

 

匂いも、毒草とは違う。

 

「これが、本物です」

 

確かめてから、採った。

 

慎重に。

 

数だけ、採った。

 

 

昼前に、野営地へ戻った。

 

三種類、全部揃っていた。

 

数も、足りている。

 

焚き火のそばに、ウィルがいた。

 

やはり、いつからいたのか分からない。

 

採ってきた草を見せる。

 

ウィルは、一つずつ確かめた。

 

リノ草。

ソウ根草。

三つ目の草。

 

それから、少しだけ手が止まった。

 

「これは、どうやって見分けた?」

 

三つ目の草だった。

 

「似た草がありました。葉の裏の毛と、茎の白い汁で、見分けました」

 

「毒草の方は、採ったか?」

 

「採っていません。触っただけです」

 

ウィルが、俺を見た。

 

少しの間、何も言わなかった。

 

それから、短く言った。

 

「よく分かってる」

 

それだけだった。

 

褒め言葉とも、違う。

 

ただ、事実を言った、という感じだった。

 

でも、悪い気はしなかった。

 

「明日は、三つ目だ」

 

ウィルが言った。

 

討伐。

 

班の空気が、変わった。

 

サーナが、少し前のめりになる。

 

「やっと、ですね」

 

「そうだ。だが、今日はもう休め。薬草採りも、体力を使う」

 

確かに、疲れていた。

 

昨日とは違う疲れだ。

 

歩いて、しゃがんで、見て、確かめて。

 

戦ってはいない。

 

でも、頭が疲れている。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

研修二日目。探索=薬草採集。

リノ草(熱冷まし)、ソウ根草(膿出し)、三つ目(名前不明・採取済み)。

似た毒草あり。葉裏の毛・茎の白い汁で見分けた。採らなかった。

根を残す。群れの半分だけ。来年のため。

 

そこまで書いて、少し考えた。

 

今日は、迷わずに言えた。

 

昨日の、上流の話とは違う。

 

薬草は、俺の領域だ。

 

見分けられる。

 

どこに生えるか、分かる。

 

どう採れば、来年も残るか、知っている。

 

班のみんなに、指示も出せた。

 

サーナさんに、日の当たる場所を。

 

レオスに、湿った場所を。

 

ソリスさんに、風で上から。

 

言えた。

 

戦う場面ではない。

 

でも、俺にしかできないことが、あった。

 

記録板に、一行足した。

 

知っていることなら、言える。知らないことは、知らないと言える。

 

書いてから、少し考える。

 

明日は、討伐だ。

 

戦う場面。

 

そこで、俺は何を言えるだろう。

 

見て、ずらして、助ける。

 

それは、一人の戦い方だ。

 

班の中で、同じことができるか。

 

まだ、分からない。

 

焚き火が、小さくなっていた。

 

サーナが、明日の討伐の話をしている。

 

レオスが、それに乗っている。

 

ソリスは、黙って火を見ていた。

 

明日で、研修の半分が終わる。

 

一番、難しいところが残っている。


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