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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
95/105

なんか組む相手は選べないらしい

入学式から、一か月が過ぎた。

 

授業は形になり、訓練の順番も覚えた。

 

一年生も、廊下で見かけることに慣れてきた。

 

最初は落ち着かなかったが、今はそういうものだと思っている。

 

その日の朝、クラリス先生が教室に入ってきた。

 

いつもより、紙を多く持っている。

 

「連絡がある」

 

教室が静かになった。

 

「二年生から、冒険者研修が始まる」

 

知らない言葉だった。

 

去年は聞かなかった。

 

「二年生と三年生が対象だ。今年も、例年通り行う」

 

教室がざわついた。

 

「研修?」

「冒険者の?」

「授業じゃなくて?」

 

クラリス先生は、ざわめきが落ちるのを待った。

 

「期間は一週間。場所は、王都近郊の森。野営だ」

 

一週間。

 

野営。

 

声が上がった。

 

「外で寝るんですか」

 

「寝る。天幕は支給される」

 

「風呂は」

 

「ない」

 

はっきりしていた。

 

何人かが顔をしかめる。

 

「内容は、実際の依頼を三つ。奉仕作業、探索、討伐だ。全部やり切ることが課題になる」

 

奉仕作業。

 

探索。

 

討伐。

 

討伐だけではない、というのが少し意外だった。

 

「引率は、冒険者ギルドから来る。学園が毎年頼んでいる方だ」

 

「先生も来るんですか」

 

「教師は拠点にいる。現場に、ずっと付いてくるわけじゃない」

 

クラリス先生は紙を持ち直した。

 

「班分けは、こちらで決める。四人一班。二年と三年の混成だ」

 

混成。

 

三年生と組む。

 

「希望は取らない。くじで決める」

 

教室が、また少しざわついた。

 

「友達と一緒がいいのに」

「知らない先輩とか、きつい」

「三年生って、順位戦出てた人たちだよな」

 

分かる。

 

俺も、少し落ち着かない。

 

「理由を言っておく」

 

クラリス先生の声が、少しだけ強くなった。

 

「冒険者は、依頼のたびに組む相手が変わる。知っている相手ばかりではない。むしろ、初めて会う者と組むことの方が多い」

 

教室が静かになる。

 

「その日に会った相手と、その日のうちに動けるか。それも技術だ」

 

その言い方は、分かりやすかった。

 

分かりやすいが、簡単ではない。

 

「班は、放課後に掲示する。以上」

 

それで、連絡は終わった。

 

 

昼の間、話題はそればかりだった。

 

「野営、何持っていく?」

「風呂ないの、無理なんだけど」

「討伐って、何と戦うんだろ」

 

リーナは、少し不安そうだった。

 

「知らない人と、一週間ですよね」

 

「はい」

 

「大丈夫でしょうか」

 

「たぶん」

 

「たぶん」

 

リーナが、俺の言い方を繰り返した。

 

「ヨウカさんも、自信ないんですね」

 

「ありません」

 

そこは、正直に言った。

 

マリベルは、いつも通りだった。

 

「私は、誰と組んでもいいわ」

 

「本当ですか」

 

「相手を見て合わせるのは、慣れてるもの」

 

商人の娘だ。

 

そういうことは、うまいのだろう。

 

エレシアは、既に持ち物を書き出していた。

 

「野営なら、替えの布と、油紙が要ります」

 

「油紙?」

 

「濡れると困るものを包みます。記録板とか」

 

それは、考えていなかった。

 

一年生の時から思っていたが、この人は準備が早い。

 

 

放課後、掲示板の前に人が集まっていた。

 

班分けが出ている。

 

人が多くて、なかなか近づけない。

 

少し待った。

 

押し合いに入る元気はない。

 

人が減ってから、前へ出る。

 

自分の名前を探した。

 

ヨウカ。

 

二年。

 

その下に、三つの名前が並んでいた。

 

レオス・ライヒ 二年

ソリス 三年

サーナ 三年

 

レオスがいる。

 

それは、少し安心した。

 

残り二人は、知らない名前だった。

 

ソリス。

 

サーナ。

 

順位戦で聞いた覚えもない。

 

去年、序列に入っていたなら、名前くらいは知っている。

 

入っていなかったのだろう。

 

それは、俺も同じだ。

 

「ヨウカ!」

 

後ろから声がした。

 

レオスだった。

 

「同じ班だな!」

 

「はい」

 

「よかったー! 全員知らない人だったらどうしようかと思った」

 

「私も思いました」

 

「だろ?」

 

レオスは、素直に嬉しそうだった。

 

「あとの二人、知ってる?」

 

「知りません」

 

「俺も」

 

三年生の名前を、二人で見上げた。

 

「どんな人だろうな」

 

「分かりません」

 

「まあ、明日会えるだろ」

 

その切り替えの早さが、レオスの良いところだ。

 

 

翌日、班ごとの顔合わせがあった。

 

訓練場の一角に、班の番号が書かれた札が立っている。

 

自分の番号を探して、そこへ行く。

 

先に、二人が立っていた。

 

一人は、女子生徒だった。

 

背は高くない。

 

だが、立ち方が違う。

 

腰が低い。

 

足の幅が広い。

 

武器を持っていない。

 

手に、布を巻いている。

 

格闘の型だ。

 

もう一人は、男子生徒だった。

 

背が高い。

 

細い。

 

杖を持っている。

 

魔法使いだろう。

 

何も言わずに、立っていた。

 

「あ、来た」

 

女子生徒が、こちらを見た。

 

「二年生?」

 

「はい」

 

「名前は?」

 

「ヨウカです」

 

「レオスです!」

 

レオスが横で声を張った。

 

「サーナ。三年」

 

名乗り方が早い。

 

それから、隣を指す。

 

「こっちがソリス。同じ三年」

 

ソリスは、小さく頷いた。

 

それだけだった。

 

「よろしくお願いします」

 

俺が言うと、ソリスはまた頷いた。

 

声は出さない。

 

「あー、この人、あんまり喋らないから」

 

サーナが言った。

 

「私も昨日初めて会ったんだけどね」

 

「初めてですか」

 

「うん。同じ学年だけど、話したことなかった」

 

そういうものらしい。

 

三年生でも、全員が知り合いというわけではない。

 

考えてみれば、当たり前だ。

 

俺だって、二年生全員を知らない。

 

「じゃ、確認する」

 

サーナが手を叩いた。

 

仕切る気らしい。

 

早い。

 

「私は格闘。前に出る。武器はなし」

 

「素手ですか」

 

「素手。あと、これ」

 

手の布を見せる。

 

「巻いてるだけ。殴る用」

 

分かりやすい。

 

「ソリスは?」

 

サーナが振ると、ソリスは短く言った。

 

「風」

 

それだけだった。

 

「……風魔法ですか」

 

俺が聞くと、また頷いた。

 

「もうちょっと喋ってくれない?」

 

サーナが言うと、ソリスは少し考えて、答えた。

 

「後ろにいる」

 

「うん、それは分かる」

 

サーナが息を吐いた。

 

だが、嫌がっている感じではなかった。

 

「レオスは?」

 

「剣です!」

 

「前?」

 

「前です!」

 

「元気だね」

 

「はい!」

 

サーナが少し笑った。

 

それから、俺を見る。

 

「ヨウカは?」

 

少し迷った。

 

何と言えばいいのか、いつも困る。

 

「短剣と、投擲です」

 

「魔法は?」

 

「光と闇を、少し」

 

「少し?」

 

「攻撃には向きません。牽制です」

 

サーナが眉を上げた。

 

「牽制」

 

「はい」

 

「珍しいこと言うね」

 

そう言われることは多い。

 

「あと、薬草と、応急処置が少しできます」

 

これは、言っておいた方がいいと思った。

 

研修に探索がある。

 

薬草の話が出るかもしれない。

 

「へえ」

 

サーナの反応は、それだけだった。

 

だが、少し目が動いた。

 

覚えたらしい。

 

仕切る人は、そういうところを見ている。

 

 

そこへ、大人が来た。

 

一人だ。

 

教師ではない。

 

体格は、大きくない。

 

むしろ細い方だ。

 

だが、歩き方が静かだった。

 

足音がほとんどしない。

 

腰に、短めの剣。

 

背に、荷。

 

装備が軽い。

 

「集まってるな」

 

声は、普通だった。

 

威圧感はない。

 

「今年も引率をやる。ウィルだ」

 

名乗りが短い。

 

「ギルドから来てる。Aランク。斥候だ」

 

Aランク。

 

その言葉に、班の空気が少し動いた。

 

「先生じゃないから、敬語はいらん。でも、指示は聞け」

 

そう言って、ウィルは四人を順に見た。

 

一人ずつ、短く。

 

だが、見られたのが分かる見方だった。

 

「格闘、剣、風、それから」

 

最後に、俺のところで止まった。

 

「……お前は、何だ?」

 

少し迷った。

 

「短剣と投擲です。魔法も少し」

 

「それだけか?」

 

「あと、薬草と応急処置を」

 

ウィルの目が、少しだけ細くなった。

 

「なるほど」

 

それだけ言って、視線を外した。

 

何かを判断された気がした。

 

だが、何を判断されたのかは分からない。

 

「一週間、外で寝る。依頼を三つやる」

 

ウィルは荷を下ろした。

 

「一つ目、奉仕作業。二つ目、探索。三つ目、討伐」

 

班の顔が、少し動いた。

 

討伐の言葉に反応したのだろう。

 

サーナが特に、はっきり反応した。

 

「順番は変えられん。全部やり切って研修終了だ」

 

「討伐が最後なんですね」

 

サーナが言った。

 

「不満か」

 

「いえ。楽しみです」

 

「そうか」

 

ウィルは、それ以上何も言わなかった。

 

だが、少しだけ間があった。

 

「言っておく」

 

ウィルの声が、少し低くなった。

 

「一つ目が一番、嫌だと思うぞ」

 

班の四人が、顔を見合わせた。

 

奉仕作業が、一番嫌。

 

何をやらされるのだろう。

 

「出発は明後日の朝。持ち物は配った紙のとおり。忘れ物は、自分が困るだけだ」

 

それで、顔合わせは終わった。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

冒険者研修。二年から。一週間。野営。

班は四人。二年と三年の混成。くじ。

同じ班:レオス(二年・剣)、サーナ(三年・格闘)、ソリス(三年・風魔法)。

サーナとソリスも、昨日が初対面。

引率:ウィル。Aランク。斥候。

課題は三つ。奉仕作業、探索、討伐。全部やり切る。

 

そこまで書いて、少し考えた。

 

知らない人と、一週間。

 

組む相手は選べない。

 

クラリス先生の言葉を思い出す。

 

その日に会った相手と、その日のうちに動けるか。

 

できるだろうか。

 

去年の順位戦は、一人だった。

 

自分で見て、自分で決めて、自分で動いた。

 

今度は、四人だ。

 

見えたことを、言わないといけない場面が来る。

 

三年生が二人いる。

 

仕切る人がいる。

 

その中で、俺が何か言えるだろうか。

 

カイルに言われたことを思い出した。

 

一人で考えすぎる、と。

 

たぶん、そこが試される。

 

記録板に、一行足した。

 

見えたら、言う。今回は、それを試す。

 

書いてから、少し笑いそうになった。

 

決意としては、地味すぎる。

 

でも、俺には、それが一番難しい。

 

記録板を閉じた。

 

明後日から、一週間。

 

外で寝る。

 

風呂はない。


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