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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
94/105

なんか今年は自分で試せるらしい

入学式の日は、朝から人が多かった。

 

講堂の前に、新入生が並んでいる。

 

親に付き添われた子。

一人で立っている子。

緊張で顔が固い子。

落ち着かず、あたりを見回している子。

 

去年の自分を思い出す。

 

あの時、俺はどんな顔をしていたのだろう。

 

たぶん、落ち着いているように見せて、内心はかなり慌てていた。

 

「ヨウカさん、あの子たち、緊張してますね」

 

リーナが小さく言った。

 

「はい」

 

「去年の私も、あんな感じでした」

 

「私もです」

 

在校生は、講堂の後方に並ぶ。

 

二年生以上が参加する決まりだ。

 

去年、俺は前に並んでいた。

 

今年は、後ろにいる。

 

それだけで、見える景色が違った。

 

 

式は、去年と同じ形式だった。

 

学園長の話。

教師の紹介。

注意事項。

 

新入生は、緊張した顔で聞いている。

 

何人かは、途中で周りを見ていた。

 

落ち着かないのだろう。

 

分かる。

 

話の内容は、あまり頭に入らない。

 

俺もそうだった。

 

式の後半で、新入生が順に名前を呼ばれた。

 

一人ずつ、短く返事をする。

 

声の大きさで、少し性格が分かる。

 

小さい声の子。

はっきりした声の子。

噛んだ子。

 

その中に、やけに元気な声が混じった。

 

「はいっ!」

 

講堂に、よく響いた。

 

何人かが、そちらを見る。

 

俺も、一瞬だけ目を向けた。

 

遠かった。

 

誰かまでは分からない。

 

ただ、緊張していない声だった。

 

そういう子もいる。

 

それだけ思って、また前を向いた。

 

 

式が終わると、新入生は解散になった。

 

講堂を出る時、人の流れが混ざる。

 

新入生と在校生が、一瞬だけ同じ場所に集まった。

 

声がたくさん聞こえる。

 

「クラスどこ?」

「魔法、何使えるの?」

「訓練場、いつから入れるんだろ」

「順位戦って、一年も出るんだよね?」

 

順位戦。

 

その言葉が、あちこちで出ていた。

 

去年、俺も同じことを聞いた。

 

「あの子たち、順位戦の話してますね」

 

リーナが言った。

 

「気になるんだと思います」

 

「私は、去年、聞くだけで怖かったです」

 

「私もです」

 

「でも、出ましたよね」

 

「出ました」

 

リーナが少し笑った。

 

「今年も、出ます」

 

「はい」

 

去年より、少し前を見ている。

 

教室に戻る道で、マリベルが言った。

 

「今年、人数多いわね。豊作の年かもしれないわ」

 

「そうですか」

 

「見てなさい。何人かは、順位戦で名前が出るわよ」

 

「毎年そうなんですか」

 

「毎年そう。去年もいたでしょう」

 

そう言って、こちらを見る。

 

「ここに」

 

「私は、強くありません」

 

「二年生を二人抜いた子が言うことじゃないわね」

 

返事に困った。

 

エレシアが、静かに続ける。

 

「今年の一年生にも、同じような方がいるかもしれません」

 

「いると思います」

 

去年の俺のように、何もできないと思っている子も。

 

正面から強い子も。

 

どちらもいるだろう。

 

 

午後、訓練場へ行った。

 

新入生の姿もあった。

 

初日から来ている子がいるらしい。

 

去年の俺も、そうだった。

 

投擲の道具を借りる。

 

いつもの木球だ。

 

一年、これを投げてきた。

 

握る。

 

投げる。

 

狙った場所に落ちる。

 

悪くない。

 

そこで、ふと手が止まった。

 

順位戦の時も、木球だった。

 

訓練場で支給されるのが、それだからだ。

 

でも、実際に戦う時、木球を持っているとは限らない。

 

腰の袋が空になれば、それで終わりだ。

 

投擲は、木球を投げるスキルではない。

 

物を投げるスキルだ。

 

なら、木球でなくてもいいはずだった。

 

足元を見る。

 

小石が落ちている。

 

拾う。

 

木球より、ずっと小さい。

 

軽い。

 

投げてみた。

 

的の手前で、大きく落ちた。

 

届かない。

 

軽すぎる。

 

同じ力で投げても、飛び方が違う。

 

もう一度。

 

今度は、強めに。

 

的の縁に当たった。

 

音が高い。

 

木球より、鋭い音がする。

 

次は、少し大きい石を探した。

 

握りが悪い。

 

形が丸くない。

 

指に引っかかる。

 

投げると、回転がかかった。

 

思っていた場所より、右へ逸れる。

 

「……なるほど」

 

声が出た。

 

形が違えば、飛び方が違う。

 

当たり前のことだ。

 

でも、木球ばかり投げていると、忘れる。

 

木球は、投げやすいように作られている。

 

丸くて、重さが揃っていて、握りやすい。

 

訓練用の道具だ。

 

戦う場所に、そんな都合のいい物は転がっていない。

 

折れた木の枝。

石。

硬い実。

道具袋の中の、何か。

 

そのあたりが現実だ。

 

枝を拾った。

 

細くて、少し長い。

 

握って、投げる。

 

真っ直ぐ飛ばない。

 

くるくる回りながら落ちた。

 

届いたが、狙った場所ではない。

 

長いものは、回る。

 

持ち方を変えてみる。

 

端ではなく、真ん中を持つ。

 

投げる。

 

回転が減った。

 

少し良い。

 

だが、まだ狙えない。

 

何度か試して、分かったことがある。

 

軽いものは、飛ばない代わりに速い。

 

重いものは、飛ぶが、遅い。

 

細長いものは、回る。

 

丸いものは、素直に飛ぶ。

 

硬いものは、跳ねる。

 

去年、ガルドさんの足元に木球を投げた。

 

土が跳ねて、踏み込みがずれた。

 

あれが、もし石だったら。

 

もっと硬い音がして、跳ね方も鋭かったかもしれない。

 

あるいは、逆に効かなかったかもしれない。

 

分からない。

 

分からないから、試す。

 

 

「何してるの?」

 

声がした。

 

振り向くと、レオスが立っていた。

 

「投げています」

 

「見りゃ分かる。なんで石?」

 

「木球が、いつもあるとは限らないので」

 

レオスが変な顔をした。

 

「そんなこと考えてんの?」

 

「はい」

 

「……お前、たまに変だよな」

 

また言われた。

 

「でも、確かにな」

 

レオスは自分の足元を見た。

 

それから、石を一つ拾う。

 

「俺もやる」

 

「剣の人ですよね」

 

「投げるくらいするだろ。武器落としたら終わりだし」

 

それは、そうかもしれない。

 

レオスが投げた。

 

的に当たらない。

 

かなり外れた。

 

「難しっ!」

 

「難しいです」

 

「お前、当たってたじゃん」

 

「二回に一回くらいです」

 

「十分すごいだろ」

 

そうだろうか。

 

去年、投擲がLV2になった。

 

上がったのは、当てたからではない。

 

置いたからだ。

 

使ったからだ。

 

今日、石や枝を投げたことも、たぶんどこかに残る。

 

すぐには数字にならなくても。

 

 

訓練場の反対側で、火が上がった。

 

大きい。

 

一瞬、そちらを見た。

 

新入生の誰かが、適性を見てもらっているのだろう。

 

初日にあれだけ出せるなら、魔力の量が多い。

 

素質がある。

 

そのまま、視線を戻した。

 

自分の訓練がある。

 

他人の火を見ていても、俺の投擲は伸びない。

 

石を拾う。

 

今度は、平たいものにした。

 

形が違えば、飛び方が違う。

 

また一つ、試すものが増えた。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

入学式。新入生が入った。

在校生として、後ろに並んだ。

 

そこまで書いて、続きを足す。

 

投擲。木球以外を投げてみた。

軽い石=速いが飛ばない。重い=飛ぶが遅い。細長い=回る。平たい=未確認。

硬いものは跳ねる。土の上なら、跳ね方が変わるはず。

木球は投げやすく作られている。実戦にそんな都合のいい物はない。

 

書きながら、少し楽しくなっていた。

 

去年は、言われたことをやるだけだった。

 

今年は、自分で試せる。

 

何を投げるか。

 

どう飛ぶか。

 

どこに置くか。

 

まだ知らないことが、いくらでもある。

 

最後に、一行足した。

 

投げられるものは、全部投げてみる。

 

記録板を閉じた。

 

窓の外は暗い。

 

明日は、平たい石を試す。


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