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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
94/163

なんか今年は自分で試せるらしい

入学式の日は、朝から人が多かった。

 

講堂の前に、新入生が並んでいる。

 

親に付き添われた子。

一人で立っている子。

緊張で顔が固い子。

落ち着かず、あたりを見回している子。

 

去年の自分を思い出す。

 

あの時、俺はどんな顔をしていたのだろう。

 

たぶん、落ち着いているように見せて、内心はかなり慌てていた。

 

「ヨウカさん、あの子たち、緊張してますね」

 

リーナが小さく言った。

 

「はい」

 

「去年の私も、あんな感じでした」

 

「私もです」

 

在校生は、講堂の後方に並ぶ。

 

二年生以上が参加する決まりだ。

 

去年、俺は前に並んでいた。

 

今年は、後ろにいる。

 

それだけで、見える景色が違った。

 

⸻

 

式は、去年と同じ形式だった。

 

学園長の話。

教師の紹介。

注意事項。

 

新入生は、緊張した顔で聞いている。

 

何人かは、途中で周りを見ていた。

 

落ち着かないのだろう。

 

分かる。

 

話の内容は、あまり頭に入らない。

 

俺もそうだった。

 

式の後半で、新入生が順に名前を呼ばれた。

 

一人ずつ、短く返事をする。

 

声の大きさで、少し性格が分かる。

 

小さい声の子。

はっきりした声の子。

噛んだ子。

 

その中に、やけに元気な声が混じった。

 

「はいっ!」

 

講堂に、よく響いた。

 

何人かが、そちらを見る。

 

俺も、一瞬だけ目を向けた。

 

遠かった。

 

誰かまでは分からない。

 

ただ、緊張していない声だった。

 

そういう子もいる。

 

それだけ思って、また前を向いた。

 

⸻

 

式が終わると、新入生は解散になった。

 

講堂を出る時、人の流れが混ざる。

 

新入生と在校生が、一瞬だけ同じ場所に集まった。

 

声がたくさん聞こえる。

 

「クラスどこ?」

「魔法、何使えるの?」

「訓練場、いつから入れるんだろ」

「順位戦って、一年も出るんだよね?」

 

順位戦。

 

その言葉が、あちこちで出ていた。

 

去年、俺も同じことを聞いた。

 

「あの子たち、順位戦の話してますね」

 

リーナが言った。

 

「気になるんだと思います」

 

「私は、去年、聞くだけで怖かったです」

 

「私もです」

 

「でも、出ましたよね」

 

「出ました」

 

リーナが少し笑った。

 

「今年も、出ます」

 

「はい」

 

去年より、少し前を見ている。

 

教室に戻る道で、マリベルが言った。

 

「今年、人数多いわね。豊作の年かもしれないわ」

 

「そうですか」

 

「見てなさい。何人かは、順位戦で名前が出るわよ」

 

「毎年そうなんですか」

 

「毎年そう。去年もいたでしょう」

 

そう言って、こちらを見る。

 

「ここに」

 

「私は、強くありません」

 

「二年生を二人抜いた子が言うことじゃないわね」

 

返事に困った。

 

エレシアが、静かに続ける。

 

「今年の一年生にも、同じような方がいるかもしれません」

 

「いると思います」

 

去年の俺のように、何もできないと思っている子も。

 

正面から強い子も。

 

どちらもいるだろう。

 

⸻

 

午後、訓練場へ行った。

 

新入生の姿もあった。

 

初日から来ている子がいるらしい。

 

去年の俺も、そうだった。

 

投擲の道具を借りる。

 

いつもの木球だ。

 

一年、これを投げてきた。

 

握る。

 

投げる。

 

狙った場所に落ちる。

 

悪くない。

 

そこで、ふと手が止まった。

 

順位戦の時も、木球だった。

 

訓練場で支給されるのが、それだからだ。

 

でも、実際に戦う時、木球を持っているとは限らない。

 

腰の袋が空になれば、それで終わりだ。

 

投擲は、木球を投げるスキルではない。

 

物を投げるスキルだ。

 

なら、木球でなくてもいいはずだった。

 

足元を見る。

 

小石が落ちている。

 

拾う。

 

木球より、ずっと小さい。

 

軽い。

 

投げてみた。

 

的の手前で、大きく落ちた。

 

届かない。

 

軽すぎる。

 

同じ力で投げても、飛び方が違う。

 

もう一度。

 

今度は、強めに。

 

的の縁に当たった。

 

音が高い。

 

木球より、鋭い音がする。

 

次は、少し大きい石を探した。

 

握りが悪い。

 

形が丸くない。

 

指に引っかかる。

 

投げると、回転がかかった。

 

思っていた場所より、右へ逸れる。

 

「……なるほど」

 

声が出た。

 

形が違えば、飛び方が違う。

 

当たり前のことだ。

 

でも、木球ばかり投げていると、忘れる。

 

木球は、投げやすいように作られている。

 

丸くて、重さが揃っていて、握りやすい。

 

訓練用の道具だ。

 

戦う場所に、そんな都合のいい物は転がっていない。

 

折れた木の枝。

石。

硬い実。

道具袋の中の、何か。

 

そのあたりが現実だ。

 

枝を拾った。

 

細くて、少し長い。

 

握って、投げる。

 

真っ直ぐ飛ばない。

 

くるくる回りながら落ちた。

 

届いたが、狙った場所ではない。

 

長いものは、回る。

 

持ち方を変えてみる。

 

端ではなく、真ん中を持つ。

 

投げる。

 

回転が減った。

 

少し良い。

 

だが、まだ狙えない。

 

何度か試して、分かったことがある。

 

軽いものは、飛ばない代わりに速い。

 

重いものは、飛ぶが、遅い。

 

細長いものは、回る。

 

丸いものは、素直に飛ぶ。

 

硬いものは、跳ねる。

 

去年、ガルドさんの足元に木球を投げた。

 

土が跳ねて、踏み込みがずれた。

 

あれが、もし石だったら。

 

もっと硬い音がして、跳ね方も鋭かったかもしれない。

 

あるいは、逆に効かなかったかもしれない。

 

分からない。

 

分からないから、試す。

 

⸻

 

「何してるの?」

 

声がした。

 

振り向くと、レオスが立っていた。

 

「投げています」

 

「見りゃ分かる。なんで石?」

 

「木球が、いつもあるとは限らないので」

 

レオスが変な顔をした。

 

「そんなこと考えてんの?」

 

「はい」

 

「……お前、たまに変だよな」

 

また言われた。

 

「でも、確かにな」

 

レオスは自分の足元を見た。

 

それから、石を一つ拾う。

 

「俺もやる」

 

「剣の人ですよね」

 

「投げるくらいするだろ。武器落としたら終わりだし」

 

それは、そうかもしれない。

 

レオスが投げた。

 

的に当たらない。

 

かなり外れた。

 

「難しっ!」

 

「難しいです」

 

「お前、当たってたじゃん」

 

「二回に一回くらいです」

 

「十分すごいだろ」

 

そうだろうか。

 

去年、投擲がLV2になった。

 

上がったのは、当てたからではない。

 

置いたからだ。

 

使ったからだ。

 

今日、石や枝を投げたことも、たぶんどこかに残る。

 

すぐには数字にならなくても。

 

⸻

 

訓練場の反対側で、火が上がった。

 

大きい。

 

一瞬、そちらを見た。

 

新入生の誰かが、適性を見てもらっているのだろう。

 

初日にあれだけ出せるなら、魔力の量が多い。

 

素質がある。

 

そのまま、視線を戻した。

 

自分の訓練がある。

 

他人の火を見ていても、俺の投擲は伸びない。

 

石を拾う。

 

今度は、平たいものにした。

 

形が違えば、飛び方が違う。

 

また一つ、試すものが増えた。

 

⸻

 

夜、記録板を開いた。

 

入学式。新入生が入った。

在校生として、後ろに並んだ。

 

そこまで書いて、続きを足す。

 

投擲。木球以外を投げてみた。

軽い石=速いが飛ばない。重い=飛ぶが遅い。細長い=回る。平たい=未確認。

硬いものは跳ねる。土の上なら、跳ね方が変わるはず。

木球は投げやすく作られている。実戦にそんな都合のいい物はない。

 

書きながら、少し楽しくなっていた。

 

去年は、言われたことをやるだけだった。

 

今年は、自分で試せる。

 

何を投げるか。

 

どう飛ぶか。

 

どこに置くか。

 

まだ知らないことが、いくらでもある。

 

最後に、一行足した。

 

投げられるものは、全部投げてみる。

 

記録板を閉じた。

 

窓の外は暗い。

 

明日は、平たい石を試す。


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