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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
93/163

なんか二年目は一人らしい

進級して、部屋が変わった。

 

一年生の間は、四人部屋だった。

 

リーナ。

マリベル。

エレシア。

そして、俺。

 

二年生からは、一人部屋になる。

 

決まりらしい。

 

理由は、いくつか説明された。

 

自習の時間が増えること。

魔法の練習で、個別の道具を置くこと。

生活の時間が、人によってずれてくること。

 

もっともらしい理由だった。

 

でも、荷物をまとめていると、少し落ち着かなかった。

 

一年間、あの部屋にいた。

 

朝、リーナに起こされた。

 

マリベルにからかわれた。

 

エレシアに、姿勢を直された。

 

夜、順位戦の話をした。

 

硝子の日の後、リーナに手が震えていたと言われた。

 

全部、あの部屋であったことだ。

 

⸻

 

荷物を運ぶ日、四人で部屋を空けた。

 

思ったより、物は少なかった。

 

一年で増えたのは、教科の道具と、練習用の武具くらいだ。

 

あとは、記録板。

 

それから、ルカにもらった木の輪。

 

机の端に立てかけていたものを、箱に入れる。

 

「それ、まだ持ってるんですね」

 

リーナが言った。

 

「はい」

 

「大事なんですね」

 

「大事です」

 

そこは、迷わない。

 

マリベルは、自分の荷物を手際よくまとめていた。

 

商人の娘だからか、片づけが速い。

 

「一人部屋、楽しみね」

 

「そうですか」

 

「静かに寝られるもの。エレシアの朝が早すぎるのよ」

 

「早くありません」

 

エレシアが、静かに言い返した。

 

「日の出と同時です」

 

「それを早いって言うのよ」

 

一年前なら、この会話に俺は入れなかった。

 

今は、少し笑える。

 

それも、一年でできたことだ。

 

⸻

 

部屋が空になると、思ったより広く見えた。

 

四人分の荷物がなくなると、ただの箱のような部屋だった。

 

最初に来た日を思い出す。

 

あの時、この部屋は、知らない場所だった。

 

知らない三人がいた。

 

どう話せばいいのか、分からなかった。

 

前世の記憶がある分、子どもらしく振る舞うのが難しかった。

 

今は、違う。

 

リーナが何を気にするか、だいたい分かる。

 

マリベルが、いつ本気で心配しているかも分かる。

 

エレシアが、静かな言葉で一番大事なことを言うことも、知っている。

 

一年、一緒にいた。

 

それだけで、これだけ変わる。

 

「なんだか、寂しいですね」

 

リーナが、空になった部屋を見て言った。

 

「寂しいですか」

 

「はい。少し」

 

「でも、離れるわけではありません」

 

「そうですけど」

 

「同じ学年です。教室も同じです。ただ、寝る部屋が別になるだけです」

 

言いながら、自分でも整理していた。

 

相部屋は、勝手に一緒だった。

 

個室は、そうではない。

 

会いたければ、会いに行く。

 

話したければ、訪ねる。

 

自動ではなくなる。

 

少し面倒だ。

 

でも、たぶん、それでいい。

 

勝手に一緒だった一年で、話せる相手になった。

 

これからは、選んで一緒にいる。

 

マリベルが、荷物を持ち上げながら言った。

 

「まあ、飽きたら集まればいいのよ」

 

「飽きる、とは」

 

「一人が寂しくなったら、ってこと」

 

「素直じゃないですね」

 

「素直に言ったら、負けた気がするもの」

 

何に負けるのかは、分からなかった。

 

でも、マリベルらしかった。

 

⸻

 

新しい部屋は、狭かった。

 

一人分だから、当然だ。

 

机。

寝台。

小さな棚。

それだけで、ほとんど埋まる。

 

窓は、一つ。

 

外は、中庭に面していた。

 

夜になれば、暗くなる。

 

人通りも、少ないだろう。

 

それを確認して、少しだけ、考えたことがあった。

 

闇の練習だ。

 

一年生の間、闇はほとんど練習できなかった。

 

四人部屋では、出せない。

 

訓練場でも、人が多くて広げられない。

 

闇は、人の近くで出すものではない。

 

だから、順位戦で使った闇は、フィル村で練習した分と、授業で少し試した分だけだった。

 

でも、この部屋なら。

 

一人だ。

 

窓の外に、人はいない。

 

夜、静かに、小さく試すくらいはできる。

 

広げるのではない。

 

薄く出して、すぐ消す。

 

どこまで保てるかを確かめる。

 

指先が冷える時間を、少しでも延ばす。

 

順位戦で、闇は一瞬しか使えなかった。

 

剣筋を少しずらすことはできても、戻されると次が間に合わなかった。

 

ディオンさんの剣が、そうだった。

 

もう少し、闇を長く保てたら。

 

もう少し、続けられたら。

 

届いたかもしれない。

 

いや、届かなかったかもしれない。

 

でも、今より近づくことはできる。

 

一人部屋は、そのための場所になる。

 

⸻

 

荷物を片づけ終えると、日が暮れていた。

 

新しい机に、記録板を置く。

 

木の輪は、棚の上に立てかけた。

 

フィル村を思い出せる場所。

 

それでいい。

 

少し座って、この一年で何ができるようになったかを考えた。

 

走ること。

 

前より、長く走れる。

 

投げること。

 

足を置く場所を消す投げ方を覚えた。

 

短剣。

 

戻りを見ることを覚えた。

 

光。

 

牽制に使えるようになった。

 

闇。

 

一瞬なら、受けて落とせる。

 

問診。

 

救護所で、少し役に立った。

 

精霊。

 

頼めば、たまに応えてくれる。

 

一つずつ思い出すと、増えてはいる。

 

でも、どれも中途半端だ。

 

去年、順位戦で分かった。

 

俺は、正面から押す戦い方ができない。

 

攻撃も、防御も、大人には届かない。

 

体格で勝てないし、火力で押せない。

 

だから、別の形になった。

 

見る。

ずらす。

助ける。

 

足を置く場所を消す。

 

目を切る。

 

一瞬、濁らせる。

 

それで、上級生に二回勝った。

 

勝ち方は、毎回違った。

 

それが、今の俺の形だ。

 

正面から一撃で押し切る戦い方では、まだない。

 

でも、この形なら、続けられる。

 

それに、光も闇も、まだ入り口な気がする。

 

今は、目を切る。

 

一瞬、濁らせる。

 

その程度だ。

 

でも、出すたびに、これで終わりとは思えなかった。

 

うまく言えない。

 

ただ、まだ奥がある気がする。

 

⸻

 

記録板を開いて、少し長めに書いた。

 

二年生。一人部屋になった。

四人部屋は終わり。でも、離れたわけではない。

 

そこまで書いて、少し考える。

 

それから、これから伸ばしたいものを、順に書いた。

 

闇。一瞬ではなく、もう少し保てるように。人を守るために使えるように。まだ奥がありそう。

光。牽制の精度を上げる。当てなくても、相手の判断を切れるように。これも、まだ入り口な気がする。

短剣。届く距離を伸ばす。腕が短い。

投擲。置く場所の精度。もうLV2になった。次を目指す。

鑑定。上げたい。ディオンさんの風刃が、いつか見えるように。

精霊。安定させたい。でも、道具にはしない。頼むなら、結果まで持つ。

救護。問診がLV2になった。医学と叡智がある。もっと、人を助けられるように。

 

書きながら、一つ気づいた。

 

どれも、正面から押す力ではない。

 

見る力。

ずらす力。

守る力。

助ける力。

 

俺が伸ばしたいのは、そういうものらしい。

 

去年は、上を見て、届かなかった。

 

ディオンさんに負けた。

 

序列には入れなかった。

 

今年は、届きたい。

 

でも、届き方は、たぶん去年と同じだ。

 

正面からではない。

 

見て、ずらして、助ける。

 

その形を、もっと磨く。

 

それが、今年の俺のやることだ。

 

最後に、一行足した。

 

今はまだ入り口。でも、続ければ、もっと先がある。

 

記録板を閉じた。

 

窓の外は、もう暗い。

 

中庭に、人の姿はない。

 

俺は立ち上がって、手のひらに、小さく闇を出した。

 

薄く。

 

影が、指先に集まる。

 

すぐに消す。

 

指先が、冷える。

 

一年前と、同じ冷たさだった。

 

でも、少しだけ、長く保てた気がした。

 

気のせいかもしれない。

 

それでも、この冷たさの奥に、まだ何かある気がした。

 

今は、届かない。

 

続ければ、届くかもしれない。

 

一人部屋の、最初の夜だった。


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