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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
93/105

なんか二年目は一人らしい

進級して、部屋が変わった。

 

一年生の間は、四人部屋だった。

 

リーナ。

マリベル。

エレシア。

そして、俺。

 

二年生からは、一人部屋になる。

 

決まりらしい。

 

理由は、いくつか説明された。

 

自習の時間が増えること。

魔法の練習で、個別の道具を置くこと。

生活の時間が、人によってずれてくること。

 

もっともらしい理由だった。

 

でも、荷物をまとめていると、少し落ち着かなかった。

 

一年間、あの部屋にいた。

 

朝、リーナに起こされた。

 

マリベルにからかわれた。

 

エレシアに、姿勢を直された。

 

夜、順位戦の話をした。

 

硝子の日の後、リーナに手が震えていたと言われた。

 

全部、あの部屋であったことだ。

 

 

荷物を運ぶ日、四人で部屋を空けた。

 

思ったより、物は少なかった。

 

一年で増えたのは、教科の道具と、練習用の武具くらいだ。

 

あとは、記録板。

 

それから、ルカにもらった木の輪。

 

机の端に立てかけていたものを、箱に入れる。

 

「それ、まだ持ってるんですね」

 

リーナが言った。

 

「はい」

 

「大事なんですね」

 

「大事です」

 

そこは、迷わない。

 

マリベルは、自分の荷物を手際よくまとめていた。

 

商人の娘だからか、片づけが速い。

 

「一人部屋、楽しみね」

 

「そうですか」

 

「静かに寝られるもの。エレシアの朝が早すぎるのよ」

 

「早くありません」

 

エレシアが、静かに言い返した。

 

「日の出と同時です」

 

「それを早いって言うのよ」

 

一年前なら、この会話に俺は入れなかった。

 

今は、少し笑える。

 

それも、一年でできたことだ。

 

 

部屋が空になると、思ったより広く見えた。

 

四人分の荷物がなくなると、ただの箱のような部屋だった。

 

最初に来た日を思い出す。

 

あの時、この部屋は、知らない場所だった。

 

知らない三人がいた。

 

どう話せばいいのか、分からなかった。

 

前世の記憶がある分、子どもらしく振る舞うのが難しかった。

 

今は、違う。

 

リーナが何を気にするか、だいたい分かる。

 

マリベルが、いつ本気で心配しているかも分かる。

 

エレシアが、静かな言葉で一番大事なことを言うことも、知っている。

 

一年、一緒にいた。

 

それだけで、これだけ変わる。

 

「なんだか、寂しいですね」

 

リーナが、空になった部屋を見て言った。

 

「寂しいですか」

 

「はい。少し」

 

「でも、離れるわけではありません」

 

「そうですけど」

 

「同じ学年です。教室も同じです。ただ、寝る部屋が別になるだけです」

 

言いながら、自分でも整理していた。

 

相部屋は、勝手に一緒だった。

 

個室は、そうではない。

 

会いたければ、会いに行く。

 

話したければ、訪ねる。

 

自動ではなくなる。

 

少し面倒だ。

 

でも、たぶん、それでいい。

 

勝手に一緒だった一年で、話せる相手になった。

 

これからは、選んで一緒にいる。

 

マリベルが、荷物を持ち上げながら言った。

 

「まあ、飽きたら集まればいいのよ」

 

「飽きる、とは」

 

「一人が寂しくなったら、ってこと」

 

「素直じゃないですね」

 

「素直に言ったら、負けた気がするもの」

 

何に負けるのかは、分からなかった。

 

でも、マリベルらしかった。

 

 

新しい部屋は、狭かった。

 

一人分だから、当然だ。

 

机。

寝台。

小さな棚。

それだけで、ほとんど埋まる。

 

窓は、一つ。

 

外は、中庭に面していた。

 

夜になれば、暗くなる。

 

人通りも、少ないだろう。

 

それを確認して、少しだけ、考えたことがあった。

 

闇の練習だ。

 

一年生の間、闇はほとんど練習できなかった。

 

四人部屋では、出せない。

 

訓練場でも、人が多くて広げられない。

 

闇は、人の近くで出すものではない。

 

だから、順位戦で使った闇は、フィル村で練習した分と、授業で少し試した分だけだった。

 

でも、この部屋なら。

 

一人だ。

 

窓の外に、人はいない。

 

夜、静かに、小さく試すくらいはできる。

 

広げるのではない。

 

薄く出して、すぐ消す。

 

反動を確かめる。

 

指先が冷える時間を、少しでも延ばす。

 

順位戦で、闇は一瞬しか使えなかった。

 

剣筋を少しずらすことはできても、戻されると次が間に合わなかった。

 

ディオンさんの剣が、そうだった。

 

もう少し、闇を長く保てたら。

 

もう少し、反動が軽かったら。

 

届いたかもしれない。

 

いや、届かなかったかもしれない。

 

でも、今より近づくことはできる。

 

一人部屋は、そのための場所になる。

 

 

荷物を片づけ終えると、日が暮れていた。

 

新しい机に、記録板を置く。

 

木の輪は、棚の上に立てかけた。

 

フィル村を思い出せる場所。

 

それでいい。

 

少し座って、この一年で何ができるようになったかを考えた。

 

走ること。

 

前より、長く走れる。

 

投げること。

 

足を置く場所を消す投げ方を覚えた。

 

短剣。

 

戻りを見ることを覚えた。

 

光。

 

牽制に使えるようになった。

 

闇。

 

一瞬なら、受けて落とせる。

 

問診。

 

救護所で、少し役に立った。

 

精霊。

 

頼めば、たまに応えてくれる。

 

一つずつ思い出すと、増えてはいる。

 

でも、どれも中途半端だ。

 

去年、順位戦で分かった。

 

俺は、正面から押す戦い方ができない。

 

攻撃も、防御も、大人には届かない。

 

体格で勝てないし、火力で押せない。

 

だから、別の形になった。

 

見る。

ずらす。

助ける。

 

足を置く場所を消す。

 

目を切る。

 

一瞬、濁らせる。

 

それで、上級生に二回勝った。

 

勝ち方は、毎回違った。

 

それが、今の俺の形だ。

 

正面から一撃で押し切る戦い方では、まだない。

 

でも、この形なら、続けられる。

 

それに、光も闇も、まだ入り口な気がする。

 

今は、目を切る。

 

一瞬、濁らせる。

 

その程度だ。

 

でも、出すたびに、これで終わりとは思えなかった。

 

うまく言えない。

 

ただ、まだ奥がある気がする。

 

 

記録板を開いて、少し長めに書いた。

 

二年生。一人部屋になった。

四人部屋は終わり。でも、離れたわけではない。

 

そこまで書いて、少し考える。

 

それから、これから伸ばしたいものを、順に書いた。

 

闇。一瞬ではなく、もう少し保てるように。反動を軽く。人を守るために使えるように。まだ奥がありそう。

光。牽制の精度を上げる。当てなくても、相手の判断を切れるように。これも、まだ入り口な気がする。

短剣。届く距離を伸ばす。腕が短い。

投擲。置く場所の精度。もうLV2になった。次を目指す。

鑑定。上げたい。ディオンさんの風刃が、いつか見えるように。

精霊。安定させたい。でも、道具にはしない。頼むなら、結果まで持つ。

救護。問診がLV2になった。医学と叡智がある。もっと、人を助けられるように。

 

書きながら、一つ気づいた。

 

どれも、正面から押す力ではない。

 

見る力。

ずらす力。

守る力。

助ける力。

 

俺が伸ばしたいのは、そういうものらしい。

 

去年は、上を見て、届かなかった。

 

ディオンさんに負けた。

 

序列には入れなかった。

 

今年は、届きたい。

 

でも、届き方は、たぶん去年と同じだ。

 

正面からではない。

 

見て、ずらして、助ける。

 

その形を、もっと磨く。

 

それが、今年の俺のやることだ。

 

最後に、一行足した。

 

今はまだ入り口。でも、続ければ、もっと先がある。

 

記録板を閉じた。

 

窓の外は、もう暗い。

 

中庭に、人の姿はない。

 

俺は立ち上がって、手のひらに、小さく闇を出した。

 

薄く。

 

影が、指先に集まる。

 

すぐに消す。

 

指先が、冷える。

 

一年前と、同じ冷たさだった。

 

でも、少しだけ、長く保てた気がした。

 

気のせいかもしれない。

 

それでも、この冷たさの奥に、まだ何かある気がした。

 

今は、届かない。

 

続ければ、届くかもしれない。

 

一人部屋の、最初の夜だった。


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