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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第七章 アレクシア学園二年生編
92/129

なんか今度は見られる側らしい

休みが明けて、学園が動き出した。

 

廊下を歩く人が増える。

 

掲示板に、新しい紙が貼られる。

 

教室の場所が変わる。

 

一年生の時と、少しだけ違う。

 

俺は二年生になった。

 

実感は、あまりない。

 

背が伸びたわけでもない。

 

いや、少しは伸びた。

 

でも、急に強くなったわけではない。

 

昨日の続きの体で、学年だけが一つ上がった。

 

「ヨウカさん、教室こっちです」

 

リーナが先に立っていた。

 

「ありがとうございます」

 

「二年生の教室、少し広いですね」

 

「そうですね」

 

新しい教室は、前より窓が大きかった。

 

光がよく入る。

 

席に着くと、外がよく見えた。

 

訓練場。

渡り廊下。

中庭。

 

一年前、あそこで色々あった。

 

そう思うと、少しだけ実感が湧いた。

 

 

マリベルとエレシアも、同じ教室だった。

 

「クラス、変わらなかったわね」

 

マリベルが席に着きながら言う。

 

「よかったです」

 

「あら、素直」

 

「知らない人ばかりだと、疲れます」

 

「それもそうね」

 

エレシアは、もう筆記具を並べていた。

 

一年経っても、この人は変わらない。

 

「レオスは?」

 

俺が聞くと、リーナが答えた。

 

「隣のクラスみたいです」

 

「そうですか」

 

「さっき、廊下で叫んでました」

 

「叫んで?」

 

「クラス離れた、って」

 

レオスらしい。

 

たぶん、後で顔を出す。

 

 

最初の集まりで、クラリス先生が入ってきた。

 

一年生の時と同じ先生だ。

 

「進級おめでとう」

 

前置きは短い。

 

去年と同じだった。

 

「二年生になった。だが、大きく変わることはない。授業がある。訓練がある。順位戦もある」

 

順位戦。

 

その言葉で、教室の空気が少し動いた。

 

去年、この教室にいた全員が、あれを経験している。

 

勝った者。

負けた者。

出なかった者。

 

それぞれの記憶がある。

 

「ただ、一つだけ変わることがある」

 

クラリス先生が続けた。

 

「もうすぐ、新入生が入る」

 

教室が、少しざわついた。

 

「君たちは、先輩になる」

 

先輩。

 

その言葉は、まだ体に馴染まない。

 

「一年前、君たちも一年生だった。上級生を見て、色々思っただろう。今度は、見られる側だ」

 

見られる側。

 

昨日、フィル村を出る馬車の中でも、同じことを考えた。

 

上を見てばかりだった。

 

これからは、後ろにも人が来る。

 

「特別なことをしろとは言わない。ただ、見られていることは、覚えておきなさい」

 

それだけ言って、クラリス先生は連絡事項に移った。

 

時間割。

教室の使い方。

順位戦までのおおまかな予定。

 

去年と同じ形式だった。

 

でも、聞いている俺は、少し違う。

 

一年前は、全部が初めてだった。

 

今は、二度目だ。

 

どこで何があるか、だいたい分かる。

 

分かるということは、慣れたということだ。

 

慣れは、悪くない。

 

だが、少しだけ怖い。

 

一年生の時の、あの分からなさを、もう持っていない。

 

 

昼休み、レオスが顔を出した。

 

「ヨウカ!」

 

「レオス」

 

「クラス離れたんだよ!」

 

「聞きました」

 

「聞いたのか」

 

「リーナから」

 

レオスは少し肩を落とした。

 

だが、すぐに戻った。

 

「まあ、いいや。飯は一緒に食えるし」

 

そういう切り替えの早さは、レオスの良いところだ。

 

「順位戦、今年も出るよな?」

 

「出ます」

 

「去年、俺、一回戦負けだったからさ」

 

レオスの声が、少し低くなった。

 

「今年は、一つは勝ちたい」

 

去年、レオスは「一撃入れたい」と言っていた。

 

今年は「一つ勝ちたい」になっている。

 

少しずつ、上を見ている。

 

「勝てると思います」

 

「なんで?」

 

「去年より、続けているので」

 

レオスが目を丸くした。

 

それから、笑った。

 

「お前、たまに変なこと言うよな」

 

「変ですか」

 

「でも、悪くない」

 

レオスは、そういう受け取り方をする。

 

だから話しやすい。

 

 

午後、訓練場へ行った。

 

新学年最初の訓練は、軽いものだった。

 

体を戻す程度。

 

休みの間に鈍った動きを、思い出す時間だ。

 

俺は木球を投げた。

 

的に当たる。

 

足元へ投げる。

 

狙った場所に落ちる。

 

村で、ヨシュアに見てもらった。

 

その時より、少し感覚が戻っている。

 

短剣も抜く。

 

軽く振る。

 

セレス先生はいなかったが、動きは覚えている。

 

入る。

置く。

止める。

引く。

 

去年、順位戦で使った形だ。

 

体が覚えている。

 

光も出してみた。

 

手のひらで丸く保つ。

 

離す。

 

弾ける。

 

去年より、形を保てる時間が少し長くなった気がした。

 

気のせいかもしれない。

 

でも、続けていれば、こういうものは少しずつ変わる。

 

闇は、出さなかった。

 

訓練場には、他の生徒もいる。

 

人の近くで広げるものではない。

 

そこは、去年と同じだ。

 

 

訓練場の端で、カリンを探した。

 

いなかった。

 

四年生は、別の時間に訓練するのかもしれない。

 

少し寂しい。

 

去年は、訓練場でよくカリンを見た。

 

盾を構える姿。

 

剣を振る姿。

 

遠くから見ているだけだった。

 

でも、今年は、少しだけ違う。

 

帰りの馬車で、話した。

 

また競える、と言われた。

 

勝てない、と返した。

 

今はね、と言われた。

 

その「今は」を、少しでも縮めたい。

 

そのためには、続けるしかない。

 

走る。

投げる。

振る。

出す。

 

去年と同じことを、続ける。

 

違うのは、去年より少しだけ遠くを見ていることだ。

 

 

夕方、寮に戻る途中で、掲示板の前を通った。

 

新しい紙が貼られていた。

 

新入生の入学式について。

 

日取り。

場所。

在校生の参加について。

 

二年生以上は、式に参加するらしい。

 

去年、俺も式に出た。

 

あの時は、緊張していた。

 

知らない場所。

知らない人。

知らない制度。

 

全部が、初めてだった。

 

今度は、迎える側だ。

 

どんな子が来るのか。

 

何人来るのか。

 

どんな魔法を使うのか。

 

分からない。

 

去年の俺のように、緊張している子もいるだろう。

 

何もできないと思い込んでいる子も、いるかもしれない。

 

逆に、自信満々の子もいるだろう。

 

色々な子が来る。

 

そう思うと、少しだけ落ち着かなかった。

 

「ヨウカさん」

 

リーナが横に来た。

 

「新入生、来ますね」

 

「はい」

 

「先輩になるの、変な感じです」

 

「私もです」

 

リーナが少し笑った。

 

「ヨウカさん、先輩っぽくなりますか?」

 

「なりません」

 

即答すると、リーナが笑った。

 

「そうですね」

 

「そこは、否定してください」

 

「だって、ヨウカさんはヨウカさんなので」

 

去年も、同じことを言われた。

 

あの時は、不思議な言い方だと思った。

 

今は、少しだけ分かる。

 

先輩になっても、俺は俺だ。

 

急に、誰かを導けるようになるわけではない。

 

できるのは、去年と同じこと。

 

見て。

聞いて。

続けること。

 

それだけだ。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

二年生、始まり。

教室が変わった。窓が大きい。

クラス、マリベル・エレシア・リーナと同じ。レオスは隣。

順位戦、今年もある。

新入生が来る。先輩になる。

 

そこまで書いて、手を止めた。

 

先輩になる。

 

言葉にすると、まだ他人事のようだった。

 

去年、俺は上ばかり見ていた。

 

カリン。

カイル。

上級生。

 

届かない場所を見ていた。

 

今も、それは変わらない。

 

届きたい場所は、まだ上にある。

 

でも、これからは、下にも人が来る。

 

見られる側になる。

 

俺は記録板に、一行だけ足した。

 

上を見ながら、後ろも見る。難しそう。

 

記録板を閉じた。

 

明日も、授業がある。

 

訓練もある。

 

そして、少ししたら、新入生が来る。

 

どんな子たちが来るのかは、まだ分からない。


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