なんか変わったところを確認されるらしい
朝。
起きた時には、もうルカがいた。
布団の横。
座っている。
じっと見ている。
「……おはようございます」
「ねえちゃ」
「はい」
「おきた」
どうやら確認は済んでいるらしい。
満足そうだった。
少し近い。
かなり近い。
「ルカ、顔が近いです」
「ねえちゃ」
返事になっていない。
でも、機嫌は良さそうだった。
襖の向こうから母さんの声が飛ぶ。
「ヨウカ起きたー? カリン来てるわよ」
思ったより早かった。
⸻
庭へ出ると、カリンがいた。
制服ではない。
村の服。
でも、盾と剣はある。
癖らしい。
カリンは俺を見る。
少しだけ視線が止まった。
「おはよう」
「おはようございます」
少し沈黙。
変な沈黙ではない。
昨日まで、同じ学園にいた。
でも、村で会うと少し違う。
距離感を測り直している感じがする。
「ちゃんと寝た?」
「かなり」
「よかった」
カリンは少し安心した顔をした。
それから、少し迷う。
珍しい。
「……少し、見たい」
「何をですか」
「今のヨウカ」
少し、言葉に詰まる。
順位戦の話はした。
でも、カリンは全部見ていたわけではない。
俺も、全部話していない。
「投げるのとか」
「ああ」
それなら分かる。
「でも、軽くです」
「うん」
「あと、危ないのはなしで」
「分かってる」
その返事が少し早かった。
たぶん、カリンも本気ではやる気がない。
確認だ。
そういう感じだった。
⸻
庭の端。
木剣。
鞘に入れた短剣。
地面には小石や小さな木片。
特別な準備は何もない。
村の庭だった。
「始める?」
カリンが盾を構える。
でも、重くない。
いつもの立ち方より少し柔らかい。
本気ではない。
ただ、見る姿勢だ。
俺も短剣を抜かない。
鞘のまま。
一歩。
カリンが前へ出る。
速くない。
でも、真っ直ぐ。
俺は地面の小石を一つ拾った。
投げる。
カリンに、ではない。
足元より少し外。
踏み込みたくなる場所。
カリンが止まった。
一瞬だけ。
盾が少し動く。
その隙に、横へ回る。
「……嫌」
カリンがぼそっと言った。
「何がですか」
「そこ」
足元を見る。
「踏みたくない」
少しだけ笑いそうになる。
効いている。
正面から崩せない相手には、こっちの方が早い。
今度は木片。
投げる。
今度は盾側。
当てるのではない。
見ないといけない場所へ。
カリンの視線が少し落ちる。
そこへ近づく。
短剣の距離。
でも、入る前に盾が来る。
重い。
押し切れない。
すぐ引く。
「前より、嫌」
カリンが言う。
「褒めていますか」
「かなり」
それは良かった。
でも。
次の瞬間。
盾が前に出る。
距離を潰される。
一歩。
もう一歩。
速い。
近い。
俺は短剣を置く。
止める。
腕。
足。
入り口。
でも。
「届かない」
カリンの木剣が、俺の肩口で止まっていた。
近距離はまだ上。
素直にそう思う。
「負けです」
「うん」
カリンは木剣を下ろした。
息は乱れていない。
俺もそこまで疲れていない。
試合ではない。
確認だった。
でも、分かったことはある。
「前と違う」
カリンが言う。
「どう違いますか」
「前は止まってた」
少しだけ考える。
たぶん、合っている。
前の俺は、見てから止まることが多かった。
今は少し違う。
見る。
置く。
動かす。
入る。
その順番になってきた。
「でも」
カリンが続ける。
「少し無茶する」
「しました?」
「する」
言い切られた。
否定できない。
順位戦でも、少し入りすぎた。
ディオン戦なんて特にそうだ。
「あと」
カリンが少しだけ視線を逸らす。
「前より、ちゃんと戦ってる」
その言い方が少し引っかかった。
「前は?」
「守られる側だった」
ああ。
そういう意味か。
少しだけ黙る。
嫌ではなかった。
むしろ、少し嬉しい。
「カリンは変わりました」
「そう?」
「強くなりました」
「ヨウカも」
短い会話だった。
でも、昨日より自然だった。
学園で、ちゃんと話せなかった分が少し埋まる。
その時。
「ねえちゃ!」
ルカの声が飛んだ。
振り向く。
走ってくる。
危ない。
俺とカリンが同時に動いた。
でも、先に動いたのはカリンだった。
すっと前へ出る。
止める。
抱き上げる。
自然だった。
あまりにも自然だった。
「危ない」
カリンが静かに言う。
怒ってはいない。
でも、真面目だった。
ルカは少しきょとんとしている。
それから、カリンを見る。
俺を見る。
「ねえちゃ」
「います」
「いた」
安心したらしい。
母さんが少し離れた場所で笑っている。
「カリン、もう完全にお姉ちゃんね」
カリンが少しだけ固まった。
「……違います」
「そう?」
「違います」
少し耳が赤い。
俺は少し笑った。
昨日から、帰ってきた感じが少しずつ増えている。
どうやら、変わったところを確認されるらしい。




