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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
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なんかまた忙しくなるらしい

村を出る朝は、よく晴れていた。

 

荷物は、来た時より少しだけ増えている。

 

アンナが持たせた保存食。

ヨシュアが手入れした短剣。

薬草の小袋。

 

それから、ルカが「持っていけ」と渡してきた木の輪。

 

断れなかった。

 

「これは、ルカのものでは」

 

「あげる」

 

「大事なものでは」

 

「あげる」

 

二回言われた。

 

本気らしい。

 

荷物の隙間に、木の輪を差した。

 

持って帰るには、少し大きい。

 

でも、置いていくのは違う気がした。

 

 

家の前に、カリンが来ていた。

 

セリアさんとレナードさんも一緒だ。

 

「ヨウカ、おはよう」

 

「おはようございます」

 

セリアさんが、俺を見て少し笑った。

 

「大きくなったわね」

 

「そうですか」

 

「夏より」

 

みんな、同じことを言う。

 

自分では分からない。

 

「カリンと、ちゃんと話せたって聞いたわ」

 

セリアさんの声は柔らかかった。

 

「はい」

 

「よかった」

 

それだけ言って、セリアさんはカリンの方を見た。

 

カリンが少し目を逸らす。

 

たぶん、昨日のうちに全部話したのだろう。

 

順位戦のことも。

 

俺と話したことも。

 

セリアさんは、何を言ったかより、何を言わなかったかを見る人だ。

 

だから、カリンが話せたなら、それで安心したのだと思う。

 

レナードさんは、カリンの荷物を一度確認していた。

 

「盾は」

 

「持った」

 

「剣は」

 

「持った」

 

「なら、いい」

 

短い。

 

ヨシュアと少し似ている。

 

父親というのは、そういうものなのかもしれない。

 

 

アンナが家から出てきた。

 

手に、小さな包みを持っている。

 

「これ、道中で食べなさい」

 

「まだ持てます」

 

「持てるうちは持ちなさい」

 

反論できない。

 

包みを受け取る。

 

温かかった。

 

たった今、作ったのだろう。

 

「ヨウカ」

 

「はい」

 

「無理はしない」

 

「はい」

 

「でも、必要な時は無理をする」

 

矛盾している。

 

でも、分かる。

 

「はい」

 

アンナが少し笑った。

 

「分かってる顔ね」

 

「分かったつもりです」

 

「それでいい」

 

アンナは俺の頭に手を置いた。

 

昨日と同じ手だった。

 

それから、ヨシュアの方を見る。

 

ヨシュアは荷物を馬車へ積む手を止めて、こちらへ来た。

 

「腕を伸ばせ」

 

「はい」

 

「まだ短い。でも、伸びる」

 

「はい」

 

「次に帰ってくる時は、もう少し伸びていろ」

 

それは、届く距離の話だった。

 

「はい」

 

ヨシュアが、俺の肩を一度だけ叩いた。

 

軽く。

 

でも、手の重さは残った。

 

 

ルカが、俺の服を掴んでいた。

 

さっきから、離さない。

 

「ねえちゃ」

 

「はい」

 

「いく?」

 

「行きます」

 

「いかないで」

 

胸の奥が、少し痛んだ。

 

膝をつく。

 

ルカと目を合わせる。

 

「また帰ってきます」

 

「いつ?」

 

「少ししたら」

 

「すぐ?」

 

すぐ、ではない。

 

でも、そう言った方がいいのかもしれない。

 

迷った。

 

「……すぐじゃない。でも、帰ってくる」

 

また、言葉が崩れた。

 

今度は、直そうとも思わなかった。

 

ルカが俺を見た。

 

それから、掴んでいた服を、少しだけ緩めた。

 

「かえってくる?」

 

「帰ってくる」

 

「やくそく?」

 

「約束」

 

ルカが頷いた。

 

まだ不安そうだった。

 

でも、手を離した。

 

木の輪は、俺の荷物の中にある。

 

「これ、ルカが投げるより上手に投げます」

 

「なげる?」

 

「はい。次に帰ってきたら、見せます」

 

「みる」

 

少しだけ、機嫌が戻った。

 

子どもは、次の約束があると強い。

 

俺は立ち上がった。

 

アンナがルカを抱き上げる。

 

ルカはアンナの腕の中から、俺を見ていた。

 

手を振る。

 

少しずれている。

 

俺も振り返した。

 

 

馬車が動き出した。

 

村が、後ろへ流れていく。

 

家。

薬草棚のある窓。

広場の平たい石。

畑。

アンナ。

ヨシュア。

ルカ。

セリアさん。

レナードさん。

 

みんな、そこにいた。

 

夏に帰った時も見た景色だ。

 

それでも、今日は少し違って見えた。

 

「ヨウカ」

 

隣で、カリンが言った。

 

「はい」

 

「泣きそう?」

 

「泣きません」

 

「そう」

 

「カリンは」

 

「私も、泣かない」

 

二人とも、窓の外を見ていた。

 

村の入り口が見えなくなるまで。

 

 

道が森に入ると、村は完全に見えなくなった。

 

馬車の揺れだけが残る。

 

「順位戦の次、どうする?」

 

カリンが聞いた。

 

「次?」

 

「来年も、ある」

 

そうだ。

 

順位戦は、来年もある。

 

今年、俺は序列外だった。

 

ディオンさんに負けた。

 

「来年は、届きたいです」

 

「序列に?」

 

「はい。あと、ディオンさんにも」

 

「風刃?」

 

「はい」

 

今は、見えなかった。

 

鑑定にも映らなかった。

 

でも、来年はどうだろう。

 

分からない。

 

分からないけれど、今よりは近づきたい。

 

「カリンは」

 

「私は、上に行く」

 

「二十一位より?」

 

「もっと上」

 

迷いがなかった。

 

「エルナ会長とか、ロデュウ先輩とか」

 

「あの人たちに?」

 

「まだ届かない。でも、行く」

 

カリンは前を見ていた。

 

その横顔は、フィル村にいた頃より、少し遠くを見ていた。

 

遠い。

 

でも、下は見ていない。

 

「私も、行きます」

 

言うと、カリンがこちらを見た。

 

「一緒に?」

 

「同じ場所ではないかもしれません。でも、行きます」

 

カリンが小さく笑った。

 

「なら、また競える」

 

「勝てませんよ」

 

「今はね」

 

今は。

 

その言い方が、少し悔しくて、少し嬉しかった。

 

 

ルーベルで、フィル村の大人たちと別れた。

 

そこから先は、また学園方面の馬車列に合流する。

 

王都へ戻る道。

 

来た時と同じ道のはずなのに、少しだけ短く感じた。

 

帰りは、いつもそうだ。

 

馬車の中で、荷物を確かめる。

 

保存食。

短剣。

薬草。

アンナの包み。

 

それから、ルカの木の輪。

 

持ってきてよかった、と思う。

 

学園の部屋に置いておけば、フィル村を思い出せる。

 

「ヨウカ」

 

カリンが言った。

 

「その輪、何?」

 

「ルカにもらいました」

 

「弟の?」

 

「はい」

 

「大事にしてるんだ」

 

「大事です」

 

そこは、迷わなかった。

 

カリンが少し笑って、また窓の外を見た。

 

 

学園が近づく頃には、日が傾いていた。

 

石畳の道。

高い塀。

見慣れた門。

 

夏の休みが終わって戻ってきた時と、同じ景色。

 

でも、あの時とは持っているものが違う。

 

順位戦を戦った。

二年生に二回勝った。

三年生に負けた。

投擲と短剣が上がった。

問診も上がった。

精霊を見抜かれた。

カリンと、ちゃんと話した。

家族に、硝子の日のことを話した。

 

夏には、どれも持っていなかった。

 

馬車が門の前で止まる。

 

「着いた」

 

カリンが先に降りた。

 

俺も続く。

 

学園の空気は、フィル村とは違う。

 

石と、人と、魔力の匂い。

 

帰ってきた、とは少し違う。

 

戻ってきた、の方が近い。

 

ここは、家ではない。

 

でも、ここでやることがある。

 

「じゃあ、また」

 

カリンが手を上げた。

 

三年生の寮は、別の棟だ。

 

「はい。また」

 

カリンが歩いていく。

 

その背中を見送ってから、俺も自分の寮へ向かった。

 

 

部屋に戻ると、リーナがいた。

 

「ヨウカさん、おかえりなさい!」

 

「ただいま戻りました」

 

マリベルも顔を上げる。

 

「あら、無事に帰ってきたのね」

 

「無事です」

 

エレシアが、静かに頷いた。

 

「おかえりなさい」

 

部屋の空気が、少しだけ緩む。

 

フィル村とは違う。

 

でも、ここにも、知っている顔がある。

 

「フィル村、どうでした?」

 

リーナが聞いた。

 

「変わっていませんでした」

 

「いいですね」

 

「はい。いいです」

 

荷物を置く。

 

木の輪を、机の端に立てかけた。

 

リーナがそれを見る。

 

「それは?」

 

「弟にもらいました」

 

「弟さん、いるんですね」

 

「はい。ルカといいます」

 

話すことは、たくさんある。

 

順位戦のこと。

家族のこと。

村の子たちのこと。

 

でも、それは少しずつでいい。

 

 

夜、記録板を開いた。

 

帰省、終了。

家族に、順位戦の話をした。勝った話も、負けた話も。

硝子の日のことも話した。手が震えたことも。

村の子どもたちに、投擲の話をした。

ルカが、木の輪をくれた。

カリンと、同じ馬車で帰ってきた。

 

そこまで書いて、手を止めた。

 

書いていないことが、一つある。

 

アンナが、「その話は、あとで」と言った。

 

父さんの、昔の話。

 

名前が勝手に歩く、と言った時の顔。

 

聞かないままだった。

 

たぶん、今はまだ聞く時ではない。

 

アンナが「あとで」と言う時は、本当にあとで話す。

 

だから、待つ。

 

記録板に、一行だけ足した。

 

まだ、聞いていないことがある。

 

記録板を閉じる。

 

明日から、また学園の日々が始まる。

 

授業。

訓練。

順位戦の、次の一年。

 

そして、少ししたら。

 

新入生が入ってくる。

 

そうか。

 

来年は、俺が先輩になるのか。

 

今まで、上を見てばかりだった。

 

カリン。

カイル。

上級生。

序列。

 

見上げる相手ばかりだった。

 

でも、下ができる。

 

後ろに、誰かが来る。

 

どう接すればいいのか、まだ分からない。

 

分からないけれど、たぶん。

 

また、忙しくなる。


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