表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第一章 フィル村幼児期編
9/34

なんか魔法は安全第一らしい

光魔法と闇魔法を覚えた。


生活魔法も覚えた。


こう聞くと、だいぶ順調に成長しているように思える。


だが、現実は違う。


俺はまだ一歳児である。


歩けない。

喋れない。

一人で水も飲めない。

眠くなれば機嫌が悪くなるし、腹が減れば普通に泣く。


そんな赤ん坊が魔法を使えるようになってきている。


これは才能ではなく、事故の前兆ではないか。


俺でもそう思う。


そして当然、アンナもそう思ったらしい。


「ヨウカ」


ある朝、アンナは真面目な顔で俺を膝に乗せた。


「今日から魔法の練習をします」


ついに来た。


魔法の練習。


光と闇の適性を持つ俺が、いよいよ本格的に魔法の道へ――


「ただし、魔法を使う練習じゃありません」


違うらしい。


アンナは俺の鼻先を軽くつついた。


「魔法を止める練習です」


「あう」


そっちか。


いや、正しい。


かなり正しい。


火花を出して家を燃やしかけ、雷の夜には闇魔法に触れ、光魔法にも反応した赤ん坊である。


このまま放置すれば、次に何をやらかすか分からない。


「本当はね、こんな小さい子に魔法を教えるものじゃないの」


アンナはため息をついた。


「でも、知らないまま暴発する方が危ないから」


正論だった。


完全に正論である。


俺は大人しく頷く代わりに、アンナの服を握った。


アンナはそれを見て、少しだけ目を細めた。


「……分かってる顔をしてるのよね」


分かっている。


かなり分かっている。


ただし、外に出ているのは服を握る動作だけである。


これで意思疎通できているとしたら、アンナの察し能力が高すぎる。


そこへヨシュアが入ってきた。


「何してるんだ?」


「ヨウカに魔法を教えるの」


「一歳に?」


ヨシュアの反応は正しい。


アンナはすぐに首を振った。


「教えるというより、安全教育よ」


「魔法の安全教育」


「そう。出すな、散らすな、疲れたらやめろ、勝手に使うな」


「それは大事だな」


ヨシュアは真顔で頷いた。


受け入れるのが早い。


「いや、待て」


ヨシュアは俺を見た。


「赤ん坊にそれを教えて通じるのか?」


アンナは俺を見た。


俺もアンナを見た。


数秒の沈黙。


アンナは言った。


「たぶん通じるわ」


「たぶんでやるな」


正論である。


だが、たぶん通じている。


そこがややこしい。



最初にやったのは、魔力を感じる練習だった。


これは前にもやった。


胸の奥にある温かさを感じる。

それを動かさない。

散らさない。

無理に押し出さない。


吸う。

吐く。

落ち着く。


アンナは俺の背中に手を添えた。


「吸って」


俺は息を吸う。


「吐いて」


息を吐く。


「魔力を動かそうとしない」


動かさない。


「出そうと思わない」


思わない。


「試したいと思わない」


思わない。


……いや、少し思う。


アンナの目が細くなった。


「今、試したいと思った顔をしたわね」


なぜ分かる。


俺は目を逸らした。


「あー」


「したのね」


ヨシュアが横で笑った。


「お前、やっぱりヨウカと会話してないか?」


「してないわよ」


「今のはしてたぞ」


「この子が分かってそうな顔をするのが悪いの」


ひどい言われようである。


確かに分かっているが。


アンナは咳払いをして、真面目な顔に戻った。


「ヨウカ。大事なのは、使えることじゃないの」


また正論が来る。


「使わないでいられること。止められること。困った時に大人を呼べること」


赤ん坊にかなり高度な説教である。


だが、内容は刺さる。


特に最後。


困った時に大人を呼べること。


前世の俺は、それが上手くなかった気がする。


困っても黙る。

分からなくても考え込む。

怖くても、平気な顔をしようとする。


そういう癖は、今世では早めに直した方がいい。


なぜなら今の俺は、平気な顔どころか、泣けば来てもらえる赤ん坊だからだ。


たぶんこれは、かなり大事な時期である。


「困ったら泣く」


アンナが言った。


「あう」


「怖かったら泣く」


「あう」


「魔力が変だと思ったら泣く」


「あう」


「面白そうだから試してみよう、は駄目」


「あ……う」


少し遅れた。


アンナが俺の頬をつついた。


「そこ、一番大事」


本当にその通りである。



昼過ぎ、カリンが来た。


いつものように木剣を持っている。


家に入るなり、カリンは俺を見て言った。


「よーか、きょう、まほう?」


情報が早い。


たぶんアンナが話したのだろう。


「魔法というより、安全のお勉強ね」


アンナが言う。


カリンは少し考えてから、俺の前に座った。


「むちゃ、だめ」


いきなり核心を突いてくる。


「あう」


分かっています。


「ひとり、だめ」


「あう」


分かっています。


「つかれたら、ねる」


「あう」


それも分かっています。


「こまったら、なく」


「あう」


これはかなり大事。


カリンは満足そうに頷いた。


「よし」


また「よし」である。


俺の人生には、カリンの「よし」がよく出てくる。


たぶん確認印だ。


ヨシュアがそれを見て、少し笑った。


「カリンの方が教師に向いてるかもな」


アンナが肩をすくめる。


「ヨウカ、カリンの言うことは素直に聞くものね」


いや、アンナの言うことも聞いている。


ただ、カリンに言われると妙に逃げ場がない。


カリンは俺の手を握った。


「よーか、あぶないこと、したら、わたし、かなしい」


それは反則である。


正論より刺さる。


誰かが悲しむ。


それを真正面から言われると、無茶をする気がかなり削がれる。


前世の俺は、自分がどうなっても仕方ないと思うところがあったかもしれない。


でも今は違う。


俺が勝手に危ないことをすれば、アンナが心配する。

ヨシュアが真剣な顔をする。

カリンが悲しむ。


それは、ちゃんと考えなければいけない。


俺はカリンの手を握り返した。


「あう」


カリンはまた頷いた。


「よし」


今日二回目の「よし」だった。



その後、アンナは俺に生活魔法を見せた。


ただし、火花ではない。


「今日は火はなし」


アンナは最初に釘を刺した。


「あう」


分かっています。


火は向いていない。

燃費が悪い。

危ない。

勝手に使わない。


これはもう覚えた。


アンナは小さな布を机に置いた。


「生活魔法には、火以外にもいろいろあるの」


そう言って、アンナは布の上に指をかざした。


布についた小さなほこりが、ふわっと浮いて端へ寄った。


「清掃」


地味。


かなり地味。


でも便利だ。


次にアンナは、濡らした布を軽く絞り、指先に魔力を通した。


布の水気が少しだけ抜ける。


「乾燥」


これも便利。


戦闘には使えないだろうが、生活ではかなり役に立つ。


「こういう魔法は、派手じゃないけど大事なの」


アンナは言った。


「火球を飛ばせても、服を乾かせなかったら風邪をひくでしょう?」


それはそう。


かなりそう。


異世界でも生活は生活である。


魔物を倒せる人間でも、濡れた服で寝れば体調を崩す。


俺は布を見つめた。


生活魔法。


地味だが、かなり現実的な魔法だ。


こういう力を軽んじる人間は、たぶん長く生き残れない。


「ヨウカは、派手な魔法より先に、こういう小さな制御を覚えた方がいいわ」


アンナは俺を見る。


「小さく出す。すぐ止める。必要な分だけ使う」


俺は声を出した。


「あう」


それはたぶん、俺に一番必要なことだ。


大きな力より、細かい制御。


誰かを救うにしても同じだ。


大きな理想を振り回す前に、目の前の傷を洗う。

火を出す前に、燃えないようにする。

助けたいと思う前に、自分が倒れないようにする。


そういうことだ。



試しに、俺も清掃の魔力に触れてみることになった。


もちろん、アンナの手の上で。


「自分で出そうとしない。私の魔力の流れを感じるだけ」


「あう」


俺はアンナの手に小さな手を重ねた。


アンナが布のほこりを少し動かす。


魔力の流れは、火とも光とも闇とも違った。


火は熱い。

光は広がる。

闇は包む。


清掃の生活魔法は、細い糸でつまむような感じだった。


ほこりを掴んで、寄せる。


それだけ。


でも難しい。


小さすぎる。


俺は少しだけ魔力を近づけた。


すると、ほこりがふわっと浮いた。


浮きすぎた。


鼻に入った。


「ぶっ」


俺はくしゃみをした。


「あっ」


アンナが慌てて布をどける。


ヨシュアが吹き出した。


「ヨウカ、掃除で自爆したな」


自爆した。


完全に自爆した。


カリンが俺の顔を覗き込む。


「よーか、へた?」


「あー!」


抗議した。


へたではない。


いや、へたである。


初めてだから仕方ない。


カリンは真面目に頷いた。


「へたなら、れんしゅう」


正論。


今日のカリンは正論が強い。


アンナは笑いながら、俺の鼻を拭いた。


「そうね。下手なら練習。危ないなら止める。これが大事」


俺は少し不服だったが、反論はできなかった。


生活魔法でさえ、細かく制御できなければ自爆する。


派手な魔法など、今の俺には早すぎる。


それはよく分かった。



夕方、俺は少し疲れて寝床に寝かされた。


今日は火も光も闇も使っていない。


ただ、魔力を感じて、生活魔法の流れに少し触れただけ。


それでも疲れた。


一歳児の体は、本当に燃費が悪い。


自分を鑑定してみる。


【ヨウカ】

状態:軽い疲労


MP:17 / 20


〈ノーマルスキル〉

観察 LV2

魔法操作 LV1

生活魔法 LV1


〈レアスキル〉

鑑定 LV1

精霊魔法 LV1

光魔法 LV1

闇魔法 LV1


〈エクストラスキル〉

医学 LV1

叡智 LV-

?? LV-


MPは少し減っている。


清掃に触れただけでも消耗するらしい。


いや、たぶん下手だからだ。


熟練すればもっと軽くなるのだろう。


こういう小さな積み重ねが大事なのだと思う。


俺は寝床から部屋を見た。


アンナが布を畳んでいる。

ヨシュアが薪を運んでいる。

カリンが木剣を抱えて、俺の隣に座っている。


この家は静かだった。


前世の家とは違う静かさだ。


怖くて黙る静けさではない。

安心して黙れる静けさ。


俺はこの場所が好きなのだと思う。


だから、壊したくない。


火花一つで燃えるかもしれない。

無茶一つで心配をかけるかもしれない。


だったら、力を覚えるなら、それ以上に止め方を覚えなければならない。


使うことより、使わないこと。


助けることより、まず危険を増やさないこと。


一歳児にしては、ずいぶん重い授業だった。


でも、たぶん必要な授業だった。


アンナが俺の様子に気づき、近づいてきた。


「眠い?」


「あう」


眠い。


かなり眠い。


アンナは俺の額を撫でた。


「今日はよく頑張ったわね」


その声が柔らかい。


カリンも隣で言った。


「よーか、えらい」


ヨシュアが笑う。


「掃除でくしゃみしてたけどな」


余計なことを言うな。


俺は抗議しようとしたが、眠気に負けた。


目が閉じる。


最後に聞こえたのは、アンナの小さな声だった。


「魔法は、あなたを危なくするためのものじゃないわ。いつか、誰かをちゃんと助けるためのものよ」


その言葉を聞きながら、俺は眠りに落ちた。


どうやら俺は、魔法の練習ではなく、魔法の安全教育を受けているらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ