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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
87/92

なんか終わった後も残るらしい

順位戦が終わった翌日。


掲示板の前には、まだ人がいた。


一位、エルナ。


二位、ロデュウ・フリードリヒ。


三位、ヤパ。


四位、ソルベ・トーレス。


五位、トルシエ・ユング。


その下に、三十位までの名前が並んでいる。


カリンの名前もある。


二十一位。


何度見ても、そこにあった。


俺の名前はない。


分かっている。


分かっているが、つい見てしまう。


ないものは、何度見てもない。


「ヨウカさん、まだ見てる」


レオスが横から覗き込んだ。


「見ています」


「カリン先輩、二十一位だもんな」


「はい」


「すごいよな」


「すごいです」


その言葉は、すぐに出た。


本当にそう思っている。


ただ、その後に少しだけ別のものが残る。


悔しさ。


羨ましさ。


嬉しさ。


全部が混ざっている。


マリベルは掲示板を眺めながら言った。


「あなたの名前も、別の意味では残ったわよ」


「残らなくていいです」


「無理ね」


「最近、そればかり言われています」


「だって無理だもの」


マリベルは肩をすくめた。


掲示板の少し離れたところで、何人かがこちらを見ている。


「二年を二人抜いた一年」


「光と闇の子」


「ディオン先輩に風刃を使わせた子」


そんな声が聞こえた。


全部、間違ってはいない。


だが、正面から言われると落ち着かない。


「序列外なのに、目立つのは変な感じですね」


俺が言うと、エレシアが真面目に頷いた。


「順位だけでは測れない評価があります」


「そういうものですか」


「はい。勝敗以外にも、誰に勝ったか、誰に負けたか、どう負けたかが残ります」


それは分かる。


かなり分かる。


俺はガルドに勝った。


ラウルにも勝った。


ディオンに負けた。


しかも、ディオンは俺に風刃を使った。


そのディオンは次で負けた。


上へ行くほど、強さの位置が少しずつ見えてくる。


順位戦は終わったのに、頭の中ではまだ試合が続いているようだった。


その時、掲示板の前のざわめきが、少し変わった。


誰かが道を空ける。


声が落ちる。


俺は顔を上げた。


エルナがいた。


今年の序列一位。


氷でロデュウの炎龍波を止めた人。


生徒会長。


その人が、まっすぐこちらへ歩いてきていた。


やめてほしい。


いや、何をやめてほしいのか分からないが、とにかくやめてほしい。


周囲の視線が、一斉に集まる。


マリベルの目が、明らかに面白がる形になった。


本当にやめてほしい。


「あなたが、ヨウカね」


エルナの声は、思ったより静かだった。


冷たいわけではない。


ただ、よく通る。


「はい」


「順位戦、見ていたわ」


その一言で、周囲がまたざわついた。


見なくていい。


本当に。


いや、見るものなのだろうけれど。


「初戦の最後。土埃の動きが、少し変だった」


息が止まりかけた。


ガルド戦。


結界の外縁へ誘導した時。


ほんの少しだけ、精霊に頼んだ。


土埃を動かしてもらった。


相手の足を掴んだわけではない。


押したわけでもない。


ただ、視線を落とす程度に。


それでも、エルナには見えていたらしい。


「普通の土魔法ではない。あなた自身の魔力だけでもない。……精霊に、触れた?」


答えに迷う。


隠したいわけではない。


でも、言葉にすると大きくなる。


ただでさえ、周りが聞いている。


「少しだけ、頼みました」


エルナは小さく頷いた。


「やっぱり」


責める声ではなかった。


でも、軽くもなかった。


「精霊魔法、と呼ばれるものに近いのかもしれないわね」


その言葉に、周囲の何人かが息を呑んだ。


精霊魔法。


聞こえた。


聞こえてしまった。


俺は少しだけ、頭を抱えたくなった。


「強いんですか」


思わず聞いてしまった。


聞いてから、少し後悔する。


エルナはすぐには答えなかった。


少しだけ考えて、俺を見る。


「使い方次第では、とても」


そこで、言葉を切った。


「でも、今のあなたのものは、強いというより不安定で珍しい。精霊は道具ではないでしょう?」


「……はい」


それは分かる。


いや、分かっているつもりだ。


頼む。


応えてもらう。


命令ではない。


道具でもない。


そこを間違えたら、たぶん危ない。


「なら、そこを間違えないことね」


エルナはそれだけ言うと、掲示板の方へ視線を移した。


そして、もう一度こちらを見る。


「来年、楽しみにしているわ」


やめてほしい。


本当にやめてほしい。


それも周りに聞こえている。


案の定、ざわめきが戻った。


「エルナ会長が声かけたぞ」


「精霊魔法って言った?」


「ヨウカ、光と闇だけじゃないのか」


「序列外だよな?」


「でも、会長が見てたって」


マリベルが、にやにやしている。


「よかったわね。有名人」


「よくないです」


「精霊魔法、ねえ」


「大きな声で言わないでください」


「私は小声よ」


「顔が小声ではありません」


マリベルは笑った。


リーナは少し心配そうにこちらを見る。


エレシアは、何かを考えるように掲示板と俺を見比べていた。


教師から呼び出しはなかった。


試合結果が変わることもない。


危険行為だと判断されたわけでもないのだろう。


それは、少しほっとすることだった。


ただ、だから自由に使っていいという意味ではない。


誰かに止められないなら、自分で止まらないといけない時もある。


精霊は道具ではない。


エルナの言葉は、思ったより重く残った。



寮に戻ってから、俺は記録板を開いた。


順位戦の記録。


上位者の技。


自分の敗北。


カリンの二十一位。


エルナに見抜かれた精霊魔法のこと。


書くべきことは多い。


でも、その前に確認したいことがあった。


鑑定。


自分を見る。


全部ではなく、変化のあったところだけを意識する。


――――――――――


ヨウカ 女 十一歳


レベル:2

状態:疲労・軽度


〈ノーマルスキル〉

観察 LV4 熟練度:244/900 → 273/900

薬草知識 LV2 熟練度:156/250

魔力操作 LV2 熟練度:204/250 → 222/250

記録 LV2 熟練度:133/250 → 151/250

応急処置 LV2 熟練度:112/250 → 126/250

衛生管理 LV2 熟練度:78/250 → 86/250

問診 LV2 熟練度:14/250

投擲 LV2 熟練度:0/250

短剣 LV2 熟練度:0/250

光魔法 LV1 熟練度:31/100 → 43/100

闇魔法 LV1 熟練度:48/100 → 64/100


〈レアスキル〉

鑑定 LV2 熟練度:38/200 → 44/200

精霊魔法 LV1 熟練度:66/100 → 69/100


――――――――――


投擲と短剣は、ディオン戦の夜に上がった。


問診は、救護所で上がった。


だから、今見えているのは新しい通知ではない。


順位戦の間に伸びたものの確認だ。


戦って伸びたもの。


聞いて、記録して伸びたもの。


見て、考えて、少しだけ進んだもの。


それが並んでいる。


投擲 LV2。


短剣 LV2。


問診 LV2。


三つとも、勝ったから上がったわけではない。


投擲は、置いたからだ。


ガルドの足元へ。


ラウルの土札へ。


ディオンの剣の戻りへ。


短剣は、届いたからではない。


届きかけたからでもない。


入る。


置く。


止める。


引く。


届かなかった場面も含めて、全部が残った。


問診は、治したからではない。


聞いたからだ。


痛む場所。


痺れ。


吐き気。


頭を打ったか。


息ができるか。


魔力を使い切った感じがあるか。


同じ質問でも、相手によって答えは違った。


それを聞いて、記録して、教師に渡した。


精霊魔法も、少しだけ進んでいる。


これは、俺の中ではもう名前が分かっている。


精霊魔法 LV1。


けれど、外から見ても普通の土魔法ではないと分かるらしい。


エルナは、それに気づいた。


気づかれるくらいには、表に出た。


それを覚えておかないといけない。


精霊は道具ではない。


勝つためだけに頼るものでもない。


頼むなら、頼んだ結果まで自分で引き受ける。


そういう距離で向き合わないと、たぶん間違える。


戦って伸びたもの。


聞いて伸びたもの。


精霊に触れて、少しだけ進んだもの。


どれも、俺の中に残っている。


少し変な感じだった。


でも、嫌ではない。


むしろ、俺らしいのかもしれない。


木球を一つ手に取る。


今すぐ投げたい気持ちが少し湧いた。


でも、やめる。


今日は休む。


疲労・軽度。


軽度と表示されているが、体感ではそこそこ重い。


たぶん、数字より気分の方が疲れている。


俺は木球を机に戻した。


休むのも、訓練のうち。


そう思うことにした。



夕方。


寮へ戻る途中の渡り廊下で、カリンを見かけた。


周りに数人の生徒がいた。


昨日の序列発表から、声をかけられることが増えたのだろう。


カリンは少し困ったように、それでも一人ずつ丁寧に返していた。


昔からそうだ。


カリンは、人を雑に扱わない。


話しかけられれば、ちゃんと聞く。


ただ、疲れる時もある。


それも分かる。


少しして、周囲の生徒が離れた。


カリンがこちらに気づく。


目が合った。


今度は、頷くだけでは終わらなかった。


カリンが歩いてくる。


俺も、少しだけ背筋を伸ばした。


学園に来てから、こうして二人でちゃんと話すのは、思っていたより少なかった。


手紙。


遠くからの視線。


試合場での頷き。


そればかりだった気がする。


「ヨウカ」


「カリン」


名前を呼ぶだけで、少し変な感じがした。


フィル村では、もっと近かった。


学園では、同じ場所にいるのに、少し遠かった。


「序列二十一位、おめでとうございます」


まず、それを言った。


言わないといけないと思った。


カリンは少しだけ目を伏せた。


「ありがとう」


それから、すぐに顔を上げる。


「でも、負けた」


「はい」


誤魔化さなかった。


カリンも、誤魔化してほしくなさそうだった。


「ロデュウさんは強かった」


「強かった。炎が、重かった」


炎が重い。


変な言い方なのに、よく分かった。


俺も見ていた。


広がる炎。


盾を押す熱。


一点に絞られた剣筋。


カリンの盾の光を越えた炎。


「でも、下がりませんでした」


俺が言うと、カリンは少しだけ苦笑した。


「下がれなかっただけかも」


「それでもです」


「ヨウカも、ディオン先輩に風刃を使わせた」


「負けました」


「でも、使わせた」


同じようなことを返された。


少しだけ、困る。


「それに、エルナ会長にも声をかけられていた」


「それは忘れてください」


「無理」


即答だった。


カリンにまで無理と言われた。


つらい。


「精霊魔法、って聞こえた」


「……少しだけです」


「危ないの?」


「使い方を間違えれば、たぶん」


カリンは真面目な顔になった。


「ヨウカは、間違えない?」


すぐには答えられなかった。


間違えない、と言い切るのは簡単だ。


でも、それはたぶん違う。


「間違えないようにします」


カリンは俺を見た。


それから、小さく頷いた。


「なら、いい」


信用されている。


それが少し重くて、少し嬉しかった。


「悔しかった?」


カリンが聞いた。


「はい」


即答だった。


「カリンもですか」


「悔しかった」


カリンも即答した。


その返事が、なぜか少し嬉しかった。


「勝ったのに?」


「序列には入った。でも、ロデュウ先輩には負けた」


「はい」


「嬉しいのと、悔しいのが一緒にある」


「分かります」


本当に分かる。


俺は序列には入っていない。


だから同じではない。


でも、少しだけ分かる。


カリンが二十一位に入ったことは嬉しい。


俺が序列外だったことは悔しい。


カリンが負けたことも悔しい。


自分が負けたことも悔しい。


何がどこに繋がっているのか、うまく分けられない。


カリンは渡り廊下の外を見た。


夕方の光が、校舎の壁に当たっている。


「盾が、少し光った」


「見えました」


「剣も」


「見えました」


「自分でも、少し分かった。守るだけじゃ、届かない。守って、前に出ないと、届かない」


カリンの声は静かだった。


でも、芯があった。


俺の頭の奥に、言葉が浮かぶ。


聖騎士。


けれど、口には出さなかった。


今の俺が見たのは、カリンの表示ではない。


盾を構えた姿。


剣に乗った光。


ロデュウの炎を受けても前へ出た足。


それだけだ。


だから、俺は別の言葉にした。


「カリンらしかったです」


カリンがこちらを見る。


「私らしい?」


「はい。守るだけじゃなくて、ちゃんと止めに行くところが」


カリンは少し黙った。


それから、小さく笑った。


「それなら、よかった」


よかった。


そう言えるほど単純ではないと思う。


でも、カリンの顔は少しだけ柔らかくなった。


「ヨウカは?」


「私は……」


少し考える。


「まだ、名前をつけられるほどの技がありません」


「技?」


「はい。大震撼とか、炎龍波とか、アブソリュートゼロとか。ああいう、自分の形になった技です」


カリンは少し笑った。


「ヨウカらしい技はあると思う」


「ありますか」


「見て、ずらして、助ける」


「技名にはしにくいですね」


「うん」


そこは同意するのか。


俺も少し笑ってしまった。


でも、嫌ではなかった。


見て、ずらして、助ける。


格好良い技名にはならない。


でも、俺がやりたいことに近い。


「来年」


カリンが言った。


「もっと上に行く」


「はい」


「ヨウカも?」


「はい。もっと届くようにします」


カリンは頷いた。


その表情は、フィル村にいた頃より少し大人びていた。


背も伸びた。


立ち姿も変わった。


盾を持つ腕も、剣を下げる姿も、昔とは違う。


でも、頷き方は知っているカリンだった。


「また話そう」


「はい」


「今度は、ちゃんと」


その言葉に、少し胸が温かくなった。


学園にいるのに、近くにいるのに、ちゃんと話せていなかった。


それを、カリンも感じていたらしい。


「はい。今度は、ちゃんと」


カリンは小さく手を上げて、寮の方へ歩いていった。


俺はその背中を見送る。


二十一位のカリン。


ロデュウに負けて悔しがるカリン。


盾と剣に光を乗せたカリン。


全部、同じカリンだ。


遠い。


でも、遠くなっただけではない。


また話せる。


そう思えた。



夜。


記録板を開く。


今日のことを書く。


エルナ会長に声をかけられた。

初戦の土埃を見られていた。

外から見ても、普通の土魔法ではないと分かるらしい。

精霊魔法。

使い方次第では強力。

でも、今の私は不安定。

精霊は道具ではない。

頼むなら、頼んだ結果まで自分で引き受ける。


少し間を空ける。


投擲 LV2。短剣 LV2。問診 LV2。

戦って伸びたもの。聞いて伸びたもの。どちらも大事。


カリンと話した。

二十一位、おめでとう。

でも、本人は悔しい。

盾と剣に光。守るだけでは届かない。守って前へ出る。

また、ちゃんと話す。


そこまで書いて、手を止めた。


順位戦は終わった。


けれど、残ったものは多い。


名前。


噂。


序列。


悔しさ。


技。


課題。


精霊魔法。


それから、次の約束。


終わったはずなのに、むしろ増えている。


俺は記録板を閉じる。


明日から、また授業がある。


走る。


投げる。


聞く。


記録する。


光を散らす。


闇を薄く張る。


精霊と、間違えない距離で向き合う。


身体を作る。


やることは、多い。


本当に多い。


でも、今はそれが少しだけ嬉しかった。


どうやら、終わった後の方が残るらしい。

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