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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
86/92

なんか今年の序列が決まったらしい

最終日の掲示板には、もう名前が少なかった。


五位決定戦。

三位決定戦。

そして、決勝。


そこに俺の名前はない。


カイルの名前もない。


カリンの名前もない。


けれど、見覚えのある名前はいくつも残っていた。


トルシエ・ユング。

ソルベ・トーレス。

ヤパ。

ロデュウ・フリードリヒ。

エルナ。


昨日まで、試合場を別物にしていた人たちだ。


「ここまで来ると、名前だけで重いですね」


俺が言うと、マリベルが掲示板を見たまま頷いた。


「ええ。誰が勝っても、変な納得があるわ」


リーナは少しだけ首を傾げた。


「でも、全員勝つわけではないんですよね」


「はい」


強い人が負ける。


もっと強い人に。


順位戦は、それを最後まで見せるらしい。


最初に呼ばれたのは、五位を決める試合だった。



トルシエ・ユングは、大槌を肩に担いで試合場に入った。


相手は五年生の剣士だった。


背が高く、剣も長い。


真正面から大槌を受ける気はないのだろう。


足を細かく動かし、最初から横へ回る構えを見せている。


トルシエは、それを見ても大きく構えを変えなかった。


大槌を下ろす。


地面に、重い音が落ちる。


「始め」


剣士が先に動いた。


速い。


大槌の正面には入らない。


斜めへ走り、トルシエの外側を取ろうとする。


大槌は重い。


振り向きが遅れれば、背中を取れる。


たぶん、そういう狙いだった。


トルシエが大槌を持ち上げる。


遅い。


だが、剣士の踏み込みが止まった。


大槌の先ではない。


地面。


トルシエの足元から、嫌な圧が広がっている。


「大震撼!」


大槌が地面を叩いた。


試合場が跳ねる。


剣士の足が、わずかに浮いた。


転ぶほどではない。


けれど、踏み込みの足がずれた。


剣の線がぶれる。


そこへ、トルシエが大槌を横へ振った。


直撃を狙ったものではない。


風圧と間合いで、剣士を外へ弾く振り。


剣士は後ろへ跳んだ。


きれいに避けた。


そう見えた瞬間、着地の場所がまた揺れた。


二撃目。


トルシエは、大槌を振り抜いた勢いのまま石突き側を地面に打ち込んでいた。


小さい大震撼。


一撃目ほど大きくない。


だが、着地に合わせるには十分だった。


剣士の膝が沈む。


トルシエが前へ出る。


大槌を振り上げる。


剣士は転がるように横へ逃げた。


逃げた先に、三撃目の振動が来る。


大槌が地面を擦った。


土が波のように横へ走る。


剣士の足がまた止まる。


トルシエは、ただ力任せに振っているわけではなかった。


一撃目で足を浮かせる。


二撃目で着地を潰す。


三撃目で逃げ道を削る。


大槌の重さで、試合場そのものを武器にしている。


剣士も粘った。


大震撼の揺れが来る前に、小さく跳ぶ。


着地をずらす。


トルシエの懐へ、一度だけ鋭く入った。


剣が胴前へ伸びる。


届く。


だが、トルシエは大槌を戻さなかった。


柄を縦に立てる。


剣が柄に当たる。


高い音。


剣士の手首が跳ねた。


その瞬間、トルシエの肩が入る。


大槌ではない。


体で押す。


剣士の体勢が崩れた。


トルシエが大槌を持ち替える。


今度は振り下ろさない。


柄の先を、相手の胸元の手前に置く。


「そこまで!」


教師の声が飛んだ。


勝者、トルシエ・ユング。


五位。


大槌は、当たれば終わり。


でも、それだけではなかった。


揺らして、止めて、逃げ道を潰す。


大きな武器なのに、試合の作り方は思ったより細かい。


俺は手の中の記録板を開きかけて、まだ閉じた。


今は書くより、見る方が先だ。



三位決定戦は、ヤパとソルベ・トーレスだった。


鞭と幻惑。


土魔法とゴーレム。


どちらも、相手にしたくない。


ソルベは開始前から、足元の土を静かに動かしていた。


反則ではない。


結界内の整地の範囲。


だが、あれはたぶん準備だ。


土を知っている者だけが分かる、わずかな下地作り。


ヤパは、いつも通り立っていた。


鞭を垂らし、力の抜けた姿勢。


何も考えていないようにも見える。


全部見ているようにも見える。


「始め」


ソルベが先に動いた。


土が立ち上がる。


人の背丈を超えるゴーレムの腕が二本。


その間に、分厚い土壁。


昨日カイルを封じた形より、さらに大きい。


逃げる場所を先に潰している。


ヤパの鞭が揺れた。


赤い薔薇の影が散る。


鞭が三本にも、五本にも見えた。


だが、ソルベは鞭を追わない。


土壁を出す。


その背後から、ゴーレムの腕が伸びる。


太い指が、土壁の縁を掴んだ。


「ウォールハンマー」


土壁が横から振られた。


壁が、槌になる。


広い。


重い。


幻も本物も、まとめて潰すような一撃。


ヤパの姿が、土壁に呑まれた。


赤い薔薇の影が潰れる。


土煙が上がる。


だが、手応えはなかった。


本物のヤパは、土壁の振り抜きよりも内側にいた。


ゴーレムの腕の影。


そんな場所に入れるはずがない。


そう思うのに、そこにいる。


鞭が、ゴーレムの手首に絡んだ。


引かない。


止めない。


ただ、添える。


ソルベが手を動かす。


ゴーレムの腕が、ヤパを払い落とそうと動く。


その瞬間、ヤパの姿が二つに増えた。


右に逃げたように見える。


左に踏み込んだようにも見える。


正面には、薔薇の花びらだけが残る。


ソルベは迷わず土を広げた。


足元を固める。


ヤパの移動先を全部潰すつもりだ。


正しい。


たぶん、かなり正しい。


けれど、ヤパは逃げていなかった。


鞭が低く走る。


狙いはソルベ本人ではない。


ウォールハンマーを振ったゴーレムの肘。


その関節のような部分。


鞭が絡む。


ヤパは引かない。


ほんの少しだけ、角度を変える。


ゴーレムの腕が振り戻される。


土壁の残骸が、別のゴーレムの肩にぶつかった。


重い音。


土が崩れる。


崩れた土を、ソルベはすぐに使おうとした。


次の壁。


次の腕。


次の足場。


だが、ヤパの薔薇の幻が、崩れた土埃に混ざって広がる。


赤い花びらが土の中に見えた。


どこまでが土埃で、どこからが幻なのか分からない。


ソルベの指が、一瞬止まった。


止まったのは本当に一瞬だった。


それだけで、ヤパには十分だった。


鞭が、今度はソルベの足元を撫でる。


当てていない。


ただ、足を置きたい場所に薔薇の影が重なる。


ソルベは踏み替える。


踏み替えた先に、ヤパがいた。


いつ入ったのか分からない。


鞭の柄が、ソルベの胸元の手前で止まる。


「そこまで!」


教師の声が響いた。


勝者、ヤパ。


三位。


俺は息を吐いた。


ソルベは強かった。


ウォールハンマーも、ゴーレムも、土の再利用も強かった。


けれど、ヤパはその大きさを邪魔に変えた。


大きいものは強い。


でも、大きいからこそ、少しずれると戻すのにも時間がかかる。


そこへ幻を混ぜる。


判断を一瞬遅らせる。


その一瞬で入る。


嫌だ。


本当に嫌な戦い方だった。


でも、三位になる理由は分かった。


ヤパは礼をして、ふわりと下がる。


勝ったのに、勝った人間の顔ではない。


散歩の途中で、少し面白いものを見つけたような顔だった。



決勝。


エルナとロデュウ・フリードリヒ。


生徒会長。


氷の魔法使い。


第二王子。


炎の剣士。


二人が結界の内側に立つ。


それだけで、試合場の温度が分かれたように感じた。


ロデュウは剣を下げている。


炎はまだ出ていない。


それでも、熱の気配がある。


エルナは静かに立っている。


冷気は見えない。


けれど、足元の土が少し締まったように見えた。


「礼」


二人が頭を下げる。


顔を上げる。


「始め」


先に動いたのは、ロデュウだった。


一歩。


その一歩で、炎が剣に乗った。


カリンを押し込んだ炎。


ヤパの幻を焼いた炎。


だが、今はそれよりも大きい。


剣を振るたびに、炎の尾が試合場を走る。


熱が前へ押し出される。


エルナは下がらない。


足元から氷が広がった。


炎が走る。


氷が迎える。


赤と白がぶつかる。


溶ける。


凍る。


砕ける。


一度で終わらない。


ロデュウの炎は、氷を溶かして道を作る。


エルナの氷は、溶けた水をまた凍らせて足場を変える。


剣が来る。


氷の板が立つ。


炎の剣が当たる。


板が砕ける。


砕けた氷が蒸気になる。


白い煙が上がる。


その煙の中から、ロデュウがさらに入った。


正面。


迷いがない。


炎の大きさに目を奪われるが、本体は剣だ。


速い。


重い。


剣筋がきれいだ。


エルナは半歩だけ横へ動いた。


大きく逃げない。


半歩。


それだけで、ロデュウの剣筋が少しずれる。


氷の線が、ロデュウの後ろへ走った。


退路を塞ぐように。


ロデュウは振り返らない。


炎を後ろへ落とす。


氷が割れる。


前へ進む。


エルナの氷が、今度は低く走った。


足首を狙うのではない。


足の置き場を奪う線。


ロデュウは踏み抜いた。


炎が地面を舐める。


氷が溶ける。


溶けた水が、すぐに凍る。


足場が滑る。


それでも、ロデュウは止まらない。


足を強く置き、剣を振る。


炎が広がる。


エルナの前に、赤い壁ができた。


氷の壁が立つ。


炎がぶつかる。


氷が割れる。


割れた欠片が、炎の中で白く光る。


エルナの指が動いた。


その欠片が、ロデュウの横へ飛ぶ。


攻撃ではない。


配置。


次の氷の起点。


ロデュウがそれを見た。


剣を返す。


炎の尾が氷片を焼く。


その間に、エルナが一歩下がる。


ただ逃げたのではない。


下がった場所に、もう霜が走っていた。


ロデュウが踏み込む先を、先に作っている。


「細かい……」


思わず呟いた。


リーナが隣で息を呑んでいる。


エルナは大きな氷を使える。


でも、それだけではない。


小さな氷片。


溶けた水。


蒸気。


砕けた壁。


全部を、次の配置に使っている。


ロデュウは、それを炎で焼きながら進む。


ただ焼くだけではない。


広げる炎で視界を奪う。


細い炎で足元を切る。


剣に纏わせた炎で、氷を砕く。


炎の形が何度も変わる。


ロデュウが低く息を吐いた。


炎が剣へ集まった。


広がっていた熱が、一本の線へ絞られていく。


「炎龍波」


剣が振られた。


炎が龍の首のようにうねる。


正面から、エルナへ走る。


大きい。


速い。


熱が形を持っている。


あれを盾で受けたカリンの腕を思い出した。


胸の奥が、少し縮む。


エルナは両手を上げた。


冷気が落ちる。


「アブソリュートゼロ」


声は静かだった。


だが、試合場の空気が変わった。


炎龍波が、鈍った。


消えたのではない。


炎の形をしたまま、動きが遅くなる。


赤い龍の首に、白い霜が走る。


炎が、氷に食われていく。


ありえないような光景だった。


ロデュウは止まらない。


炎龍波が鈍った瞬間、その横を抜けた。


大技を壁にして、自分は剣本体で入る。


強い。


炎龍波そのものも強い。


だが、それを隠れ蓑にして詰める判断がもっと怖い。


エルナの氷が足元から立ち上がる。


ロデュウは剣で砕く。


炎で溶かす。


前へ。


前へ。


あと一歩。


観覧席の空気が止まった。


届く。


そう思った瞬間、エルナの指が動いた。


砕かれた氷の欠片。


溶けて水になったもの。


白い蒸気。


ロデュウが焼いたはずのもの。


それらが、ロデュウの周りで一斉に凍った。


足元。


肘の横。


剣の下。


肩の後ろ。


全部を止めるわけではない。


ほんの少しずつ、動きを削る。


足が半拍遅れる。


剣がわずかに重くなる。


肘の線が狭くなる。


ロデュウの炎がそれを焼く。


だが、焼くために一瞬だけ炎が散る。


その一瞬で、エルナの氷の刃が立ち上がった。


鋭くはない。


試合用に丸められている。


それでも、胸元の手前。


決定打の位置。


ロデュウの剣は、あと少し届いていなかった。


「そこまで!」


教師の声が、実技場に響いた。


一瞬、誰も声を出さなかった。


ロデュウの炎がゆっくり消える。


エルナの氷が、白い霧になってほどける。


二人は、同時に息を吐いたように見えた。


「勝者、エルナ」


次の瞬間、声が爆発した。


拍手。


足音。


名前を呼ぶ声。


その全部が重なる。


エルナは静かに礼をした。


ロデュウも、深く礼を返す。


負けた顔ではあった。


だが、折れた顔ではなかった。


ロデュウは何かを短く言った。


ここからは聞こえない。


エルナが小さく頷いた。


王になりたい王子ではない。


剣を持って国を守りたい王子。


その炎を止めた氷。


今年の一位は、その氷だった。



表彰は、その日の夕方に行われた。


試合場は整えられ、結界具は止められていた。


土にはまだ、ところどころに凍った跡や焼けた跡が残っている。


完全には消えていない。


今日一日、ここで何があったのかを示していた。


上位五名が、前へ呼ばれる。


「第五位、トルシエ・ユング」


大槌の生徒が前へ出る。


「第四位、ソルベ・トーレス」


ソルベは静かに歩いた。


カイルを破った土。


エルナに止められた土。


それでも、四位。


「第三位、ヤパ」


ヤパは、やはりふわりと歩く。


四年生で、三位。


周囲のざわめきが少し変わった。


学年の上の者たちを越えて、そこに立っている。


異質だ。


「第二位、ロデュウ・フリードリヒ」


第二王子が前に出る。


炎の剣士。


決勝で敗れた人。


それでも、堂々としていた。


「第一位、エルナ」


生徒会長。


氷の魔法使い。


今年の序列一位。


エルナが前に出ると、拍手が一段大きくなった。


上位五名が並ぶ。


大槌。


土。


鞭。


炎。


氷。


方向が違う。


強さの形が違う。


でも、全員が上にいる。


俺はその列を見ながら、手の中の記録板を握っていた。


書くことはたくさんある。


でも、今はただ、見ていた。



その後、三十位までの序列が掲示された。


正式な序列。


来年度、学園内で上位者として扱われる生徒たち。


人だかりができる。


歓声。


ため息。


悔しそうな声。


喜ぶ声。


俺は少し離れて待った。


押し合いの中に入る元気はない。


レオスが先に見に行き、すぐに戻ってきた。


「カリン先輩、入ってる!」


胸が跳ねた。


「何位ですか」


「二十一位!」


二十一位。


俺は、その数字を頭の中で繰り返した。


カリン。


三年生。


二十一位。


正式な序列持ち。


すごい。


分かっていた。


カリンは強かった。


ロデュウに負けた。


でも、弱かったわけではない。


むしろ、あのロデュウに挑んで、盾の光で受けて、前へ出た。


だから、二十一位。


納得できた。


納得できるのに、遠かった。


人だかりの向こうに、カリンの姿が見えた。


誰かに声をかけられている。


祝われているのだろう。


カリンは少し困ったように、それでもきちんと頷いていた。


こちらを見た。


目が合う。


カリンは、ほんの少しだけ笑った。


大きく手を振るわけではない。


駆け寄るわけでもない。


ただ、小さく頷く。


俺も頷いた。


おめでとう。


声には出さなかった。


でも、たぶん届いたと思いたかった。


俺の名前は、序列にはない。


それでいい。


今はまだ、そこではない。


二年生には届いた。


三年生には届きかけた。


でも、序列には届かなかった。


カリンは届いた。


その事実は、少し悔しくて、かなり嬉しかった。


変な感じだった。



掲示板の前の声は、しばらく収まらなかった。


「エルナ会長、やっぱり一位か」


「ロデュウ殿下でも届かなかったな」


「ヤパ先輩、四年で三位って何なんだ」


「ソルベ先輩も強かったのに」


「トルシエ先輩の大震撼、怖かった」


「カリン先輩、二十一位だって」


「三年で?」


「盾の人だろ」


「光ったよな、盾」


その中に、俺の名前も少し混ざる。


「ヨウカは?」


「序列にはない」


「でも一年で二年二人抜きだろ」


「ディオン先輩に負けた子」


「光と闇の」


「小さいけど、変な戦い方する」


「可愛いのに怖い」


最後は余計だ。


本当に余計だ。


でも、今日はそれに反応する元気もあまりなかった。


序列。


上位五名。


三十位。


二十一位のカリン。


序列外の俺。


全部が一気に形になった。


順位戦は終わった。


俺の中では、負けた時に一度終わっていた。


でも、今日ようやく本当に終わった気がした。


夜、記録板を開いた。


少し迷って、まず一行だけ書く。


今年の序列、決定。


その下に、上位五名を書く。


一位、エルナ。氷。アブソリュートゼロ。炎龍波を止めた。

二位、ロデュウ・フリードリヒ。炎の剣士。炎龍波。前へ進む炎。

三位、ヤパ。四年生。鞭。ローズウィップ。距離と目を狂わせる。

四位、ソルベ・トーレス。土魔法、ゴーレム。ウォールハンマー。

五位、トルシエ・ユング。大槌。大震撼。


少し間を空ける。


カリン、二十一位。

盾に光。剣にも光。ロデュウ相手にも下がらなかった。


さらに下に、自分のことを書く。


ヨウカ、序列外。

二勝。三回戦敗退。

まだ届かない。


そこで手が止まった。


悔しい。


でも、それだけではない。


俺は、今日見たものを思い出す。


炎を凍らせた氷。


幻を焼いた炎。


土壁を振るうゴーレム。


大地を揺らす大槌。


薔薇のように目を惑わす鞭。


そして、二十一位に入ったカリンの盾。


全部、遠い。


でも、見えた。


見えないほど遠いわけではなかった。


俺は最後に一行だけ足した。


来年、もっと届くようにする。


記録板を閉じる。


順位戦は終わった。


けれど、学園生活は終わらない。


どうやら、今年の序列が決まったらしい。

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