表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
83/92

なんか見る側になっても忙しいらしい

俺の試合は終わった。


けれど、順位戦は終わっていない。


試合場では、次の名前が呼ばれている。


勝ち残った者たちが、結界の内側へ進む。


俺はもう、そこへ呼ばれない。


そのことが、少し変な感じだった。


さっきまで、次にどう動くかを考えていた。


今は、見る側だ。


足は重い。


腕も重い。


けれど、目だけは妙に冴えていた。


「水は?」


リーナが小さく聞いた。


「飲みました」


「なら、少し座っていてください」


「はい」


リーナはそれ以上言わなかった。


ただ、水筒を俺の近くに置いた。


何度も心配されると、少し申し訳なくなる。


でも、こうして黙って置かれると、ありがたい。


マリベルは観覧席の前の方を見ながら言った。


「ここからが面白いわよ」


「私はもう負けています」


「だから見られるのよ。勝ち残っていたら、自分のことで精一杯でしょう?」


それはそうだ。


エレシアも頷いた。


「上級生の試合を見る機会は貴重です。特に、勝ち残った方同士の試合は」


「はい」


勝てば進む。


進めば、相手は強くなる。


つまり、今から見えるのは、俺がまだ届かなかった場所の続きだ。


悔しい。


でも、見たい。


その二つは、同時にあるらしい。



少しして、救護所の方で声が上がった。


試合を終えた生徒が、肩を押さえて運ばれている。


大きな怪我ではなさそうだった。


だが、顔色が悪い。


呼吸も少し浅い。


俺は立ち上がりかけて、すぐに止まった。


もう試合には出ない。


だから、無理に動く必要はない。


でも、見るだけでいいのか。


そう思った時には、足が救護所の方へ向いていた。


「ヨウカ?」


マリベルが声をかける。


「救護所を見てきます」


「手伝うの?」


「できる範囲で」


救護所には、教師と上級生の補助役がいた。


怪我人は多い。


切り傷。


打撲。


魔力切れ。


緊張で息が乱れている一年生。


大怪我は、結界と教師が止めてくれている。


それでも、試合が続けば小さな処置は積み重なる。


俺は近くの教師に声をかけた。


「手伝えることはありますか」


教師は一瞬だけ迷い、それから俺を見た。


「君は、さっき試合に出ていた子だな」


「はい。もう敗退しています」


「疲れているだろう」


「走れません。でも、聞くことと記録ならできます」


少し間があった。


教師は、机の上の記録板を指した。


「なら、問診と記録だけ。判断は勝手にしないこと」


「はい」


それで十分だった。


俺は、肩を押さえている生徒の前にしゃがんだ。


「痛い場所を教えてください」


「肩……ここ」


「動かせますか。無理には動かさないでください」


生徒が少しだけ腕を動かす。


顔が歪む。


動きは悪い。


だが、指先は動いている。


「指先の感覚はありますか」


「ある」


「痺れは?」


「ない」


「吐き気は?」


「ない」


「頭は打ちましたか」


「打ってない」


聞いたことを記録する。


痛む場所。


動かせる範囲。


指先の感覚あり。


痺れなし。


吐き気なし。


頭部打撲なし。


判断は教師に渡す。


教師は記録を見て、短く頷いた。


「冷却。固定は軽くでいい」


「はい」


俺は布を受け取り、手を洗ってから補助に回った。


処置そのものは難しくない。


だが、順番を間違えると余計に痛い。


清潔にする。


動かしすぎない。


本人に確認する。


急がない。


試合場から歓声が上がった。


誰かが勝ったのだろう。


俺は一瞬だけそちらを見た。


見たい。


でも、目の前にも見るべきものがある。


「次の人、こちらへ」


教師の声。


俺は記録板を持ち直した。


どうやら、見る側になっても、座っているだけでは済まないらしい。



救護所にいると、試合場の音が少し遠くなる。


歓声。


結界具の音。


教師の「そこまで」という声。


武器のぶつかる音。


全部聞こえる。


でも、目の前に来る生徒たちは、それぞれ違う顔をしていた。


悔しそうな者。


泣きそうな者。


怒っている者。


ほっとしている者。


勝って来たのに、手が震えている者。


負けて来たのに、怪我の心配だけしている者。


試合は、結界の中だけで終わらない。


外へ出ても、まだ続いている。


俺は一人ずつ聞いた。


「どこが痛いですか」


「いつからですか」


「頭は打ちましたか」


「気持ち悪さはありますか」


「指先は動きますか」


「息はしにくくないですか」


「魔力を使い切った感じはありますか」


同じような質問でも、相手によって返事が違う。


声の大きさ。


目線。


呼吸。


汗。


手の冷たさ。


見ないと分からない。


聞かないと分からない。


鑑定で状態が少し浮かんでも、それだけでは足りない。


本人に聞く。


顔を見る。


動かしていいか確認する。


記録する。


教師に渡す。


それを繰り返す。


何人目かの問診を終えた時、頭の奥で小さな音がした。


【問診 LV1 熟練度:96/100 → 100/100】


【条件を満たしました】


【ノーマルスキル:問診 LV2 に上昇しました】


手が止まった。


上がった。


試合ではなく、救護所で。


少しだけ、胸の奥が落ち着いた。


負けても、できることはある。


いや、勝ち負けとは別に、やるべきことがある。


それを忘れたくなかった。


「ヨウカ」


教師に呼ばれて顔を上げる。


「はい」


「疲れているなら交代しろ」


「まだ大丈夫です」


「走るなよ」


「はい」


走れない。


というより、走る必要はない。


ここで必要なのは、速さより順番だ。



救護所の手が少し落ち着いた頃、ディオンの名前が呼ばれた。


俺は顔を上げた。


俺に勝ったディオン。


相手は四年生だった。


剣ではない。


長柄の斧を使う生徒だ。


体格が大きい。


腕も太い。


立っているだけで、重そうだった。


「見に行っていい」


救護担当の教師が言った。


「え」


「今は手が足りている。気になるんだろう」


「はい」


「終わったら戻れ。次の負傷者が来るかもしれない」


「はい」


俺は礼をして、観覧席の端へ戻った。


リーナが少し場所を空けてくれる。


マリベルは笑わずに言った。


「間に合ったわね」


「はい」


試合は始まっていた。


ディオンは、いつも通り静かに構えている。


派手ではない。


だが、剣先が揺れない。


相手の斧が、大きく振られた。


空気が鳴る。


ディオンは受けない。


半歩外す。


剣を置く。


斧の軌道をわずかにずらす。


すぐ戻る。


上手い。


やはり、強い。


俺が負けたのは、まぐれではない。


そう思うと、少し胸の奥が締まった。


ディオンは何度も斧を外した。


相手が大きく振るたび、剣を置く。


足をずらす。


無理に決めにいかない。


それでも、四年生は止まらない。


体が強い。


一度崩しても、戻りが早い。


斧の重さが、場を支配する。


ディオンが押され始めた。


結界の外縁が近づく。


「きつそうね」


マリベルが言う。


「相手が重いです」


「重い?」


「体も、武器も。剣をずらされても戻せる力があります」


斧がまた振られた。


今度は横。


ディオンは下がらない。


剣を振る。


その瞬間、空気が変わった。


風。


剣の外側に、薄い刃のようなものが纏う。


俺の肩口の手前で止まった、あれ。


風刃。


ディオンの剣が、斧の届かない位置から走った。


実際の剣は、相手の腕には届いていない。


だが、風が届いた。


四年生の袖が裂ける。


観覧席がざわついた。


「出た」


「風刃だ」


「剣、届いてなかったよな」


「風だけ伸びた?」


ディオンは止まらない。


もう一度、剣を振る。


今度は、風が細く飛んだ。


土の上に、細い裂け目が走る。


カマイタチ。


前世の知識が、頭の奥でそう言った。


風で切る。


剣に纏わせるだけではなく、飛ばせる。


さっき俺に使ったのは、その一部だったのだ。


俺は、息を吐いた。


「さっき、私に届いたのは、あれです」


リーナが少しだけ青ざめた。


「危なくないんですか」


「試合用に抑えていると思います」


そう言いながらも、背中が少し冷えた。


抑えていても、怖いものは怖い。


ディオンは風刃で距離を作った。


四年生の斧を、正面から受けずに動かす。


飛ばす風で足を止める。


纏わせる風で間合いを伸ばす。


俺に使った時より、ずっと分かりやすい。


だが、それでも四年生は崩れきらなかった。


大きな斧が地面を叩く。


土が跳ねる。


ディオンの足が止まる。


一瞬。


その一瞬で、四年生が前に出た。


重い肩が入る。


ディオンの剣が戻る。


風が纏う。


だが、遅い。


斧の柄が、ディオンの胴前で止まった。


「そこまで!」


教師の声が響く。


ディオンは負けた。


観覧席から、息を吐く音が広がる。


「あのディオンでも」


「風刃使って負けた」


「四年生、重いな」


「でも、ディオン先輩も強かったよな」


俺は無意識に手を握っていた。


ディオンは強かった。


俺に勝った相手は、ちゃんと強かった。


風刃まで使った。


それでも、さらに上には届かなかった。


序列が遠い理由が、少しだけ見えた気がした。


マリベルが静かに言った。


「層が厚いわね」


「はい」


本当に。


かなり、厚い。



救護所に戻ると、今度は魔力切れに近い生徒が座っていた。


顔が白い。


汗が多い。


手が少し冷えている。


「息は苦しいですか」


「少し」


「吐き気は」


「ない……でも、気持ち悪い」


「魔法を使った後ですか」


「最後に、連続で」


記録する。


魔力消費後。


顔色不良。


冷汗。


意識あり。


吐き気軽度。


呼吸浅め。


教師に渡す。


「横にしろ。水は少量ずつ。無理に立たせるな」


「はい」


俺は布をたたみ、頭の位置を少し整えた。


魔力切れは、単なる疲れとは違う。


身体が重いだけではなく、内側が空になる感じがある。


無理に動かせば、たぶん余計に悪くなる。


試合場から歓声が上がる。


見たい。


でも、今は手を離さない。


目の前の生徒の呼吸が少し落ち着くまで、横についていた。



次にカイルの試合があった。


救護所の教師が、また短く言った。


「行ってこい。今は足りている」


「ありがとうございます」


「戻れる位置にいろ」


「はい」


相手は四年生だった。


昨日、三年生に勝ったから、当然相手も上がる。


カイルはいつもより少しだけ静かだった。


観覧席でも、フォルデラ家の名に反応する声が増えている。


「カイル・フォルデラだ」


「昨日、三年に勝った一年だろ」


「水と風の」


「次は四年か」


俺は無意識に背筋を伸ばした。


カイルは、俺より先へ進んでいる。


それが少し悔しい。


でも、見たい。


相手の四年生は槍使いだった。


ガルドより背が高い。


槍も長い。


構えも安定している。


ガルドとは違う。


速さより、広さで支配する型に見えた。


開始の合図。


四年生の槍が、横に広く振られた。


突きではない。


まず、範囲を取る。


カイルは下がる。


足元に水が走る。


槍の石突きが、その水を叩いた。


水が跳ねる。


跳ねた水を、風が持ち上げる。


一瞬、相手の視界に細かい水が散った。


カイルの身体が横へ滑る。


速い。


ただし、逃げているだけではない。


水が、相手の足元へ細く伸びている。


四年生は気づいている。


踏み込まない。


槍を長く使い、カイルを近づけない。


上手い。


カイルの水と風に、簡単には乗らない。


「カイルさん、やりにくそう」


レオスが言った。


エレシアが答える。


「カイルさんの方が、相手の動きを利用しづらいのだと思います」


なるほど。


カイルは相手を動かすのが上手い。


でも、相手が動きすぎないなら、崩すのに時間がかかる。


槍が伸びる。


水が流れる。


風が押す。


一手ごとに、場が少しずつ変わっていく。


派手な火力ではない。


でも、見ていると分かる。


カイルは試合場そのものを作り替えている。


相手が踏める場所。


槍を振れる場所。


戻れる場所。


少しずつ減らしている。


四年生も、それを分かっている。


分かっているから、雑に踏み込まない。


二人とも、すぐには決めにいかない。


観覧席の声が少し静かになった。


見ている側にも、考える時間が必要な試合だった。


カイルが一歩入る。


槍が来る。


水が跳ねる。


風で身体が浮くように横へずれる。


槍先がかすめる。


近い。


カイルの表情がわずかに変わった。


余裕ではない。


本当に、余裕ではない。


だが、そこで笑った。


次の瞬間、水が槍の柄に絡んだ。


細い。


弱い。


すぐ切れる。


だが、切るために槍の動きが一瞬止まる。


風。


相手の足元ではなく、背中側から押す。


四年生の身体が半歩前へ流れる。


カイルが短杖を出す。


届く。


そう見えた。


だが、四年生の槍の石突きが地面を叩いた。


身体が止まる。


強い。


無理やり止めた。


カイルの短杖は胴前に届かない。


逆に、槍が返る。


カイルは水を蹴って逃げる。


間に合うか。


間に合った。


ぎりぎり。


観覧席がどよめく。


「危なっ」


「今の決まったと思った」


「四年、止まったぞ」


カイルは息を吐いた。


四年生も息が上がっている。


互いに一度、距離を取る。


それから、もう一度ぶつかった。


最後は、ほんの半歩だった。


カイルが水で足元を滑らせる。


相手は読んで、踏ん張る。


その踏ん張った足に、風が横から入る。


完全には崩れない。


だが、槍の戻りが遅れる。


カイルの短杖が、相手の胸元の手前で止まった。


「そこまで!」


勝者、カイル・フォルデラ。


観覧席が沸いた。


「四年に勝った!」


「一年だぞ」


「フォルデラ様、やばいな」


「でも、今のぎりぎりだったよな」


「相手も強かった」


カイルが息を大きく吐いた。


今度は、いつもの涼しい顔ではなかった。


汗が額に浮いている。


少しだけ肩が上下している。


それでも、勝った。


四年生に。


俺は、拍手した。


悔しい。


でも、すごい。


その両方で、手を叩いた。


カイルがこちらを見た。


目が合う。


カイルは少しだけ笑った。


たぶん、勝ったと言いたかったのだと思う。


俺は小さく頷いた。


見ました。


そう返したつもりだった。



午後、カリンの試合があった。


救護所にも、観覧席にも、少し空気が走った。


カリンはすでに何度か上級生に勝っていた。


三年生でありながら、上の学年相手に勝ち上がっている。


盾と剣。


守るだけではない前衛。


俺は、それを知っている。


でも、順位戦で見るカリンは、また違う。


相手は五年生だった。


長剣と雷の小魔法を使う生徒。


一瞬、空気がぴりっとした。


カリンは盾を構える。


剣を下げる。


目はまっすぐ相手を見ていた。


開始。


雷が走る。


細い。


速い。


カリンの盾が上がった。


盾の縁に、淡い光が走る。


雷が盾で散る。


完全に無効ではない。


カリンの腕が少し揺れる。


だが、下がらない。


相手の剣が来る。


カリンは盾で受ける。


角度を変える。


剣筋が流れる。


一歩、入る。


盾で肩を押す。


相手の姿勢が崩れる。


そこへ剣。


光が一瞬だけ乗った。


強くはない。


だが、速い。


相手が下がる。


「今、光った?」


リーナが言った。


「はい」


俺は頷いた。


見間違いではない。


カリンの剣に、淡い光が乗った。


俺の小さな光とは違う。


照らすための光でもない。


攻めるための光。


守って、踏み込み、止めるための光。


聖騎士。


その言葉が、頭の奥で浮かぶ。


もちろん、今の鑑定では見えない。


でも、カリンの動きがその言葉に近づいている気がした。


五年生は強い。


雷で牽制し、剣で崩し、距離を取る。


カリンはそれを一つずつ受ける。


受けるだけではない。


受けた後、必ず前へ出る。


盾で道を作る。


剣で相手を下がらせる。


守るために、攻める。


何度見ても、その動きはカリンらしかった。


最後、五年生の雷が大きくなった。


勝負をかけたのだろう。


盾の縁が、今度ははっきり光った。


雷が散る。


カリンの足が一歩沈む。


だが、止まらない。


前へ。


盾で押す。


相手の剣が上がる。


その下へ、カリンの剣が入った。


喉元ではない。


胸元の手前。


深くは入れない。


ただし、決定打の位置。


「そこまで!」


勝者、カリン。


観覧席が大きく沸いた。


俺は息を吐く。


遠い。


やっぱり遠い。


でも、見えないほど遠いわけではない。


そう思いたかった。


カリンが試合場を下がる。


一瞬、こちらを見る。


目が合った。


カリンは、小さく頷いた。


俺も頷く。


話したいことは、たくさんある。


でも、今はまだ試合中だ。


それに、救護所からも声がした。


戻らなければならない。


言葉は後でいい。


たぶん。



その後も、試合は続いた。


俺は観覧席と救護所を行き来した。


上級生同士の試合になると、空気が変わる。


魔法の規模が違う。


剣の速さが違う。


盾の重さが違う。


踏み込みの音が違う。


俺が二年生相手にやっていた細かい誘導も、上級生同士ではもっと速く、もっと重い。


当てる。


外す。


押す。


止める。


崩す。


その全部が、一段階上にある。


ある試合では、土で作られた小さな人形が相手の足を止めた。


別の試合では、大槌が地面を叩いただけで、結界の内側の土が波のように揺れた。


氷の魔法を使う上級生は、試合場の半分を白く染めた。


炎の剣を使う生徒は、剣筋そのものに熱を持たせていた。


鞭を使う四年生の女子は、距離感がおかしかった。


届かないはずの場所から、いつの間にか届く。


鞭だけではない。


相手が避けたはずの場所に、最初から誘導されていたように見える。


見ているだけで、目が疲れる。


救護所では、転倒した生徒の膝を洗い、打撲した腕を冷やし、魔力を使いすぎた生徒を横にした。


問診をする。


記録する。


教師に渡す。


また見る。


また戻る。


忙しい。


本当に忙しい。


「……上、遠いですね」


思わず言った。


マリベルは珍しく茶化さなかった。


「遠いわね」


リーナも小さく頷いた。


「でも、ヨウカさんも、今日見てます」


「見ているだけです」


「見て、聞いて、手伝っています」


リーナが真面目に言った。


俺は少しだけ黙った。


そうかもしれない。


今は見るしかない。


でも、見るだけではない。


聞くこともできる。


記録することもできる。


手を洗って、布を渡して、状態を確認することもできる。


負けても、できることは残っている。


それは、少しだけ救いだった。


記録板を開く。


書くことが多すぎる。


ディオン、風刃。纏わせる。飛ばす。カマイタチに近い。

風刃は鑑定に表示なし。レア以上の可能性。

ディオンを倒した四年、長柄斧。重い。崩しても戻る。

カイル、四年槍に勝利。水と風で場を作る。ぎりぎり。

カリン、五年に勝利。盾に光。剣にも光。守って前へ出る。

上級生、魔法規模が違う。結界内の支配。

大槌、地面が揺れる。

氷、場を染める。

炎剣、剣筋に熱。

鞭、距離感がおかしい。

救護、問診多数。頭部打撲、吐き気、痺れ、魔力切れ確認。

問診 LV2へ上昇。


そこまで書いて、手が止まった。


多い。


本当に、多い。


知らないことが多すぎる。


でも、それは少しだけ楽しかった。


悔しいのに。


負けたのに。


それでも、見ていると胸の奥が熱くなる。


強くなりたい。


助けたいから。


守りたいから。


知りたいから。


そして、たぶん。


もう少しだけ、届いてみたいから。


記録板を閉じる。


順位戦は、まだ終わらない。


どうやら、見る側になっても忙しいらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ