表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
78/92

なんか槍は届くから嫌らしい

組み合わせが出てから、訓練場で見るものが変わった。


木剣の音。


盾のぶつかる音。


魔法が木札を叩く音。


前から聞こえていたはずなのに、今は槍の音ばかり耳に残る。


風を裂く音が長い。


戻る音も長い。


ガルド。


槍。


掲示板にあった名前と武器が、頭から離れなかった。


投擲の時間、教師は的の前に長い棒を立てた。


棒の先には布が巻かれている。


「槍のつもりで見ろ」


生徒たちが順に投げる。


棒の向こうに的がある。


俺の番になった。


木球を握る。


距離は悪くない。


棒の右を通せば、的には当たる。


投げた。


木球は棒の横を抜け、的の端に当たった。


乾いた音が鳴る。


「当てるだけなら、それでいい」


教師が棒の根元を足で叩いた。


「槍を持つ相手は、そこに足を置く」


的ではない。


棒の根元。


踏み込む足の場所。


教師が補助役に合図する。


補助役が長い棒を持って立った。


「今度は、的ではなく足元だ」


補助役が踏み込む。


棒が伸びる。


俺は足元へ投げた。


木球は土を跳ねて、補助役の足の横を転がる。


踏み込みは止まらない。


布を巻いた棒が、胸の前まで来た。


「遅い」


「はい」


次。


補助役の膝が沈む。


足が出る前に投げる。


木球は、踏み込む場所の手前で跳ねた。


補助役の足が、外へ逃げる。


棒の線がずれた。


胸には来ない。


肩の横を抜けた。


「今のだ」


教師が言った。


「倒そうとするな。足を置く場所を消せ」


「はい」


分かりやすかった。


相手に当てるのではない。


的に当てるのでもない。


そこに足を置いたら嫌だ、という場所へ投げる。


もう一度。


補助役が踏み込む。


木球を低く投げる。


土が跳ねる。


足が止まる。


棒の先が浮く。


わずかな隙。


その一瞬で、槍がただの長い棒に見えた。


すぐに戻ってきたけれど。


短剣講習では、補助役の上級生が長い棒を持っていた。


セレス先生は短剣組を前に並ばせる。


「穂先を見るな。槍は足から来る」


その言い方は分かりやすかった。


足が出る。


腰が乗る。


手が伸びる。


その最後に、穂先が来る。


順番が来た。


補助役が踏み込む。


分かっていたのに、穂先を見た。


長い。


胸へ来る。


足が止まる。


布を巻いた棒が、胸の前で止まった。


「死んでいる」


「はい」


次は足を見る。


補助役の前足が土を踏む。


腰が前へ乗る。


棒が伸びる。


横へ出る。


袖の前を棒が通った。


近い。


近すぎる。


「逃げただけだ」


セレス先生の声が飛ぶ。


「はい」


短剣は届いていない。


ただ避けただけ。


それでは次で突かれる。


もう一度。


足を見る。


腰を見る。


棒が伸びる。


横へ動く。


短剣を出す。


届かない。


棒の柄に当たった。


乾いた音だけが残る。


「遠い」


「はい」


「その距離で振るな。次の足を残せ」


次の足。


言われて、息を吸う。


補助役が踏み込む。


俺は横へ出て、短剣を出さなかった。


棒が通る。


補助役が引く。


その時、手元が近くなった。


短剣が走る。


木の刃が、補助役の手首の外側をかすめた。


「そこだ」


セレス先生が言った。


「伸びた後も、戻る。戻る時も見る」


「はい」


槍は、来る時だけ怖いわけではない。


戻る時にも、次の攻撃へつながっている。


そう思った瞬間、次の棒が肩の前で止まった。


「考えて止まるな」


「はい」


短剣は、待ってくれない。


魔法講習では、木札が的になった。


火の生徒が札を焦がす。


水が弾ける。


風が札を鳴らす。


カイルの水の粒は、風に支えられて中央へ当たった。


札が軽く揺れる。


俺は手のひらに光を作った。


丸く保つ。


前へ離す。


木札の手前でほどける。


レヴィン先生が歩いてくる。


「強くするな」


「はい」


「顔を狙うな。見る場所の横だ」


見る場所の横。


木札ではなく、その隣。


光を離す。


小さな光が、札の横で弾けた。


近くの生徒がまばたきをする。


ほんの一瞬。


けれど、目が切れた。


「それでいい」


レヴィン先生は言った。


「倒せなくても、動きは乱れる」


もう一度。


木札の横。


踏み込む足の近く。


槍を持つ手元の外。


光が弾ける。


威力はない。


札も倒れない。


それでも、見ている場所はずらせる。


目を焼く必要はない。


瞬き一つで、槍の線が揺れるなら十分だった。


闇の膜は重かった。


木片なら落とせる。


棒に使うと、指先が冷える。


足まで遅れる。


広げすぎると、こちらが止まる。


一度だけ、棒の勢いが鈍った。


その間に下がる。


下がった先へ、次の突きが伸びてきた。


「持つな」


レヴィン先生の声が飛ぶ。


「はい」


闇は壁ではない。


一瞬、濁らせるだけ。


長く持てば、自分の足が止まる。


訓練場の隅を風が抜けた。


砂が足元を流れる。


その中に、知っている気配が混じった。


精霊。


呼べば、来てくれるかもしれない。


足元の風を押してくれるかもしれない。


光を運んでくれるかもしれない。


けれど、最初から数に入れたら、来なかった時に止まる。


俺は短剣の柄に触れた。


頼むなら、その時。


先に頼った形で構えない。


順位戦の三日前、ガルドを見た。


槍組の中にいた。


騒いでいない。


笑ってもいない。


補助役を相手に、同じ動きを繰り返している。


突く。


戻す。


払う。


足元を崩す。


突きより、戻しが速い。


近づいた相手を、柄で押し返す動きもある。


補助役が下がる。


ガルドは追わない。


槍の届く場所で止まり、次の突きを出す。


見ているだけで嫌になる。


あれは、長いだけではない。


長い場所で戦うことに慣れている。


ガルドはこちらに気づかなかった。


そのまま、槍を振り続けていた。


前日の夜、リーナが布を持ってきた。


「手に巻く用です」


厚めの布だった。


木球を握ると、感触が変わる。


滑りにくい。


「ありがとうございます」


リーナは布を見て、俺の顔を見た。


「怪我しないでください」


「はい」


軽く返せない声だった。


エレシアは記録板を閉じて言った。


「礼は忘れずに」


「はい」


「終わった後もです」


「はい」


マリベルは寝台に腰かけたまま、こちらを見る。


「不安そうね」


「不安です」


「ならいいわ」


「いいんですか」


「平気な顔をされる方が嫌よ」


そういうものかもしれない。


カイルとは廊下で会った。


「明日、見られたら見るよ」


「カイルも試合がありますからね」


「うん。だから、見られたら」


軽い言い方だった。


目は軽くなかった。


「ヨウカなら、何かするでしょ」


「何かはします」


「それでいいと思う」


短い会話だった。


それくらいが、今はありがたかった。


順位戦当日。


訓練場には白線が引かれていた。


観覧席には、一年から六年までの生徒が集まっている。


教師も多い。


治療担当の姿も見えた。


四隅には結界用の魔道具が置かれている。


いつもの場所なのに、土の色まで違って見えた。


俺の試合は、第一組の後半だった。


腰に木球の袋を下げる。


訓練用の短剣を確かめる。


手には、リーナの布を巻いた。


息を吸う。


吐く。


観覧席を見ると、レオスが手を上げていた。


リーナは両手を握っている。


マリベルは身を乗り出し、エレシアは背筋を伸ばして座っていた。


少し離れた場所に、カイルもいる。


その奥に、カリンの姿が見えた。


盾は持っていない。


今日は観覧側だ。


目が合った気がした。


カリンが小さく頷く。


足の裏に力が戻った。


名前が呼ばれる。


「ヨウカ」


白線の内側へ入る。


向かい側で、ガルドが槍を構えた。


「ガルド」


距離はある。


けれど、槍なら届く。


教師が中央に立つ。


「礼」


頭を下げる。


顔を上げた時、穂先を見そうになった。


見るのは、そこだけではない。


前足。


握り。


肩。


土を踏む音。


小さな光を、指先に沈める。


闇は一瞬だけ。


精霊の気配は、今は探さない。


教師の手が上がった。


どうやら、槍は届くから嫌らしい。


「始め」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ