表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
77/92

なんか組み合わせは容赦ないらしい

順位戦の説明から、数か月が過ぎた。


短い休みにはフィル村へ戻り、学園へ帰ってきた。


帰るたび、母さんは俺の袖口をつまんだ。


「また伸びたわね」


そう言って、針箱を出す。


最初は服の話だと思っていた。


けれど、走る時の歩幅も変わった。


短剣を構えた時、腕の先が前より遠くにある。


朝の走り込みで、息が切れるまでの時間も伸びた。


十歳の体は、俺が思うより勝手に育っている。


それだけではない。


廊下で、視線に気づくことが増えた。


光や闇の噂を見る目とは違う。


男子がこちらを見て、慌てて目を逸らす。


女子が小声で何かを言い、髪の結び目を直してくれる。


鏡の前で、襟元や前髪を見る時間が長くなった。


乱れたまま歩くのは違う。


そう思う自分にも、まだ慣れない。


その日の昼、教室前の掲示板に新しい紙が貼られた。


学年末順位戦まで、あと十日。


紙の前に人が集まる。


「もう十日かよ」


レオスの声が廊下に響いた。


リーナは掲示を見上げたまま、手を握っている。


マリベルは紙を読んで、息を吐いた。


「急に近く感じるわね」


エレシアは集合時刻を自分の記録板へ写していた。


カイルは人の後ろから掲示を見ている。


笑ってはいない。


十日。


準備を増やすには短い。


諦めるには長い。


その日の武器講習は、いつも通り始まった。


順位戦が迫っていても、授業の形は変わらない。


木剣を持つ者は木剣へ。


槍を持つ者は槍へ。


盾を選ぶ者は盾へ。


短剣組は、訓練場の端に並ぶ。


俺も木の短剣を受け取った。


セレス先生は補助役の上級生を前に出す。


「武器だけを見るな」


最初の指示は、それだけだった。


順番が来る。


上級生の木剣が肩へ向かう。


俺は刃先を追った。


追った時には、もう遅い。


木剣が肩の手前で止まる。


「死んでいる」


「はい」


「刃を追うな。先に動く場所を拾え」


次は、握りを見た。


木剣が落ちてくる前に、手首が沈む。


肩が前へ出る。


足が横へ滑った。


短剣が腰から走る。


木の刃が、補助役の手首の外側をかすめた。


当ててはいない。


本物なら、切れている。


皮膚。


その下にある腱。


深く入れば、指が動かなくなる。


頭の奥で、知識が勝手に線を引いた。


叡智が前世の記憶を引き上げる。


医学が、手首の中身を今の体へ重ねる。


嫌な見え方だった。


浅く裂けば、握りは崩れる。


深く入れば、戻らない傷になる。


「今のは生きている」


セレス先生が言った。


「浅い。狙いも悪くない」


「はい」


「傷だけ見れば手が止まる。動く場所を見ろ」


「はい」


その後は、続かなかった。


刃を追って遅れる。


浅くしようとして届かない。


深く入りすぎて腕を押さえられる。


「深い」


「遠い」


「剣を見た」


「肘が逃げた」


セレス先生の声は短い。


言われるたび、余計な力だけが削られていく。


講習が終わる頃には、指の付け根が赤くなっていた。


リーナが濡らした布を持ってくる。


「冷やしてください」


「ありがとうございます」


布を受け取ると、リーナは俺の手を見た。


「見ていて怖かったです」


「私も怖かったです」


リーナの眉が下がる。


「短剣は怖いですか」


「はい」


「怖いまま使うんですね」


「はい」


口にすると、胸の奥が重くなった。


切る場所を選ぶ。


深さを選ぶ。


それを、自分の手でやる。


マリベルは横から覗いて、笑わなかった。


「嫌そうな顔」


「嫌です」


「楽しそうにやられる方が怖いわ」


それは、そうかもしれない。


次の魔法講習では、木札を的にした。


レヴィン先生が訓練場の端に札を立てる。


火は札の表面を焦がした。


水は音を立てて弾けた。


風は札を揺らした。


カイルの水の粒は、風に支えられて中央へ当たる。


乾いた音がして、木札が揺れた。


「ヨウカ」


レヴィン先生が俺を見る。


「光を届かせろ。照らすだけで終わるな」


手のひらに光を作る。


丸く保つ。


指先から離す。


光は木札の手前でほどけた。


「形を捨てるのが早い」


もう一度。


木球を投げる時の感覚を借りる。


手だけで押さない。


体を固めない。


指先から、光が離れた。


木札の前で弾ける。


当たってはいない。


近くにいた男子が、反射でまばたきをした。


レヴィン先生が頷く。


「今のを覚えろ」


「はい」


「目を焼くな。瞬きで十分だ」


瞬き。


それだけで、相手の判断は切れる。


木札を壊す威力はない。


皮膚も裂けない。


それでも、突っ込んでくる相手の一歩が乱れれば、距離は変わる。


光は、傷を作らなくても使える。


その感覚が、手の中に残った。


放課後、教室前の廊下が騒がしくなっていた。


朝とは別の紙が掲示板に貼られている。


学年末順位戦。


第一試合組み合わせ。


レオスが自分の名前を見つけて声を上げた。


マリベルは相手の名前を見て、口元を引きつらせている。


エレシアは静かに書き写していた。


リーナは紙の前で固まっている。


俺も名前を探す。


一年生だけではない。


上級生の名前も混ざっていた。


ヨウカ。


その横に、対戦相手の名がある。


ガルド。


「槍の人ですよね」


リーナが小さく言った。


訓練場へ続く廊下の先に、槍組の生徒たちが見える。


その中に、背の高い男子がいた。


大きく話してはいない。


笑ってもいない。


訓練用の槍を持ち、足の位置を確かめている。


長い。


その一言で、目が止まった。


こちらが短剣で届く前に、向こうの槍が届く。


手元を見るには、まずその距離へ入らなければならない。


入る前に、穂先が来る。


掲示板の名前を見直す。


ガルド。


槍。


廊下のざわめきが遠くなった。


夜、記録板を開いた。


書くことは多かった。


背が伸びたこと。


視線が変わったこと。


光が瞬き一つで相手を乱せること。


短剣で見るべき場所が、刃ではなく手元だったこと。


けれど、全部は書かなかった。


今日の手首。


浅い線。


ガルド。


槍。


そこまで書いた時、薄い文字が浮かんだ。


【条件を満たしました】


【ノーマルスキル:短剣 LV1 を獲得しました】


しばらく、文字を見ていた。


短剣。


ようやく出た。


手の中に残っているのは、嬉しさではなかった。


木の刃が手首の外側をかすめた時の、嫌な感触。


浅ければ済む。


深ければ残る。


その違いを、自分で選ぶ武器。


俺は記録板に一行だけ足した。


短剣 LV1。


切る場所を選ぶ。


板を閉じても、掲示板の名前は消えなかった。


ガルド。


こちらが届く前に、槍は届く。


どうやら、組み合わせは容赦ないらしい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ