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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
73/162

なんか槍は届くから嫌らしい

組み合わせが出てから、訓練場で見るものが変わった。

 

木剣の音。

 

盾のぶつかる音。

 

魔法が木札を叩く音。

 

前から聞こえていたはずなのに、今は槍の音ばかり耳に残る。

 

風を裂く音が長い。

 

戻る音も長い。

 

ガルド。

 

槍。

 

掲示板にあった名前と武器が、頭から離れなかった。

 

⸻

 

投擲の時間、教師は的の前に長い棒を立てた。

 

棒の先には布が巻かれている。

 

「槍のつもりで見ろ」

 

生徒たちが順に投げる。

 

棒の向こうに的がある。

 

俺の番になった。

 

木球を握る。

 

距離は悪くない。

 

棒の右を通せば、的には当たる。

 

投げた。

 

木球は棒の横を抜け、的の端に当たった。

 

乾いた音が鳴る。

 

「当てるだけなら、それでいい」

 

教師が棒の根元を足で叩いた。

 

「槍を持つ相手は、そこに足を置く」

 

的ではない。

 

棒の根元。

 

踏み込む足の場所。

 

教師が補助役に合図する。

 

補助役が長い棒を持って立った。

 

「今度は、的ではなく足元だ」

 

補助役が踏み込む。

 

棒が伸びる。

 

俺は足元へ投げた。

 

木球は土を跳ねて、補助役の足の横を転がる。

 

踏み込みは止まらない。

 

布を巻いた棒が、胸の前まで来た。

 

「遅い」

 

「はい」

 

次。

 

補助役の膝が沈む。

 

足が出る前に投げる。

 

木球は、踏み込む場所の手前で跳ねた。

 

補助役の足が、外へ逃げる。

 

棒の線がずれた。

 

胸には来ない。

 

肩の横を抜けた。

 

「今のだ」

 

教師が言った。

 

「倒そうとするな。足を置く場所を消せ」

 

「はい」

 

分かりやすかった。

 

相手に当てるのではない。

 

的に当てるのでもない。

 

そこに足を置いたら嫌だ、という場所へ投げる。

 

もう一度。

 

補助役が踏み込む。

 

木球を低く投げる。

 

土が跳ねる。

 

足が止まる。

 

棒の先が浮く。

 

わずかな隙。

 

その一瞬だけ、槍がただの長い棒に見えた。

 

すぐに戻ってきたけれど。

 

⸻

 

短剣講習では、補助役の上級生が長い棒を持っていた。

 

セレス先生は短剣組を前に並ばせる。

 

「穂先を見るな。槍は足から来る」

 

その言い方は分かりやすかった。

 

足が出る。

 

腰が乗る。

 

手が伸びる。

 

その最後に、穂先が来る。

 

順番が来た。

 

補助役が踏み込む。

 

分かっていたのに、穂先を見た。

 

長い。

 

胸へ来る。

 

足が止まる。

 

布を巻いた棒が、胸の前で止まった。

 

「死んでいる」

 

「はい」

 

次は足を見る。

 

補助役の前足が土を踏む。

 

腰が前へ乗る。

 

棒が伸びる。

 

横へ出る。

 

袖の前を棒が通った。

 

近い。

 

近すぎる。

 

「逃げただけだ」

 

セレス先生の声が飛ぶ。

 

「はい」

 

短剣は届いていない。

 

ただ避けただけ。

 

それでは次で突かれる。

 

もう一度。

 

足を見る。

 

腰を見る。

 

棒が伸びる。

 

横へ動く。

 

短剣を出す。

 

届かない。

 

棒の柄に当たった。

 

乾いた音だけが残る。

 

「遠い」

 

「はい」

 

「その距離で振るな。次の足を残せ」

 

次の足。

 

言われて、息を吸う。

 

補助役が踏み込む。

 

俺は横へ出て、短剣を出さなかった。

 

棒が通る。

 

補助役が引く。

 

その時、手元が近くなった。

 

短剣が走る。

 

木の刃が、補助役の手首の外側をかすめた。

 

「そこだ」

 

セレス先生が言った。

 

「伸びた後も、戻る。戻る時も見る」

 

「はい」

 

槍は、来る時だけ怖いわけではない。

 

戻る時にも、次の攻撃へつながっている。

 

そう思った瞬間、次の棒が肩の前で止まった。

 

「考えて止まるな」

 

「はい」

 

短剣は、待ってくれない。

 

⸻

 

魔法講習では、レヴィン先生が木札の横を指した。

 

「顔を狙うな。見る場所の横だ」

 

見る場所の横。

 

木札ではなく、その隣。

 

光を離す。

 

小さな光が、札の横で弾けた。

 

近くの生徒がまばたきをする。

 

ほんの一瞬。

 

けれど、目が切れた。

 

「それでいい」

 

レヴィン先生は言った。

 

「倒せなくても、動きは乱れる」

 

もう一度。

 

木札ではなく、踏み込む足の近く。

 

槍を持つ手元の外。

 

光が弾ける。

 

威力はない。

 

札も倒れない。

 

それでも、見ている場所はずらせる。

 

目を焼く必要はない。

 

瞬き一つで槍の線が揺れるなら、それで足りる。

 

闇の膜は重かった。

 

木片なら落とせる。

 

棒に使うと、指先が冷える。

 

足まで遅れる。

 

広げすぎると、こちらが止まる。

 

一度だけ、棒の勢いが鈍った。

 

その間に下がる。

 

下がった先へ、次の突きが伸びてきた。

 

「持つな」

 

レヴィン先生の声が飛ぶ。

 

「はい」

 

闇は壁ではない。

 

一瞬、濁らせるだけ。

 

長く持てば、自分の足が止まる。

 

⸻

 

訓練場の隅を風が抜けた。

 

砂が足元を流れる。

 

その中に、知っている気配が混じった。

 

精霊。

 

呼べば、来てくれるかもしれない。

 

足元の風を押してくれるかもしれない。

 

光を運んでくれるかもしれない。

 

けれど、最初から数に入れたら、来なかった時に止まる。

 

俺は短剣の柄に触れた。

 

頼むなら、その時。

 

先に頼った形で構えない。

 

⸻

 

順位戦の三日前、ガルドを見た。

 

槍組の中にいた。

 

騒いでいない。

 

笑ってもいない。

 

補助役を相手に、同じ動きを繰り返している。

 

突く。

 

戻す。

 

払う。

 

足元を崩す。

 

突きより、戻しが速い。

 

近づいた相手を、柄で押し返す動きもある。

 

補助役が下がる。

 

ガルドは追わない。

 

槍の届く場所で止まり、次の突きを出す。

 

見ているだけで嫌になる。

 

あれは、長いだけではない。

 

長い場所で戦うことに慣れている。

 

ガルドはこちらに気づかなかった。

 

そのまま、槍を振り続けていた。

 

⸻

 

前日の夜、リーナが布を持ってきた。

 

「手に巻く用です」

 

厚めの布だった。

 

木球を握ると、感触が変わる。

 

滑りにくい。

 

「ありがとうございます」

 

リーナは布を見て、俺の顔を見た。

 

「怪我しないでください」

 

「はい」

 

軽く返せない声だった。

 

エレシアは記録板を閉じて言った。

 

「礼は忘れずに」

 

「はい」

 

「終わった後もです」

 

「はい」

 

マリベルは寝台に腰かけたまま、こちらを見る。

 

「不安そうね」

 

「不安です」

 

「ならいいわ」

 

「いいんですか」

 

「平気な顔をされる方が嫌よ」

 

そういうものかもしれない。

 

カイルとは廊下で会った。

 

「明日、見られたら見るよ」

 

「カイルも試合がありますからね」

 

「うん。だから、見られたら」

 

軽い言い方だった。

 

目は軽くなかった。

 

「ヨウカなら、何かするでしょ」

 

「何かはします」

 

「それでいいと思う」

 

短い会話だった。

 

それくらいが、今はありがたかった。

 

⸻

 

順位戦当日。

 

訓練場には白線が引かれていた。

 

観覧席には、一年から六年までの生徒が集まっている。

 

教師も多い。

 

治療担当の姿も見えた。

 

四隅には結界用の魔道具が置かれている。

 

いつもの場所なのに、土の色まで違って見えた。

 

俺の試合は、第一組の後半だった。

 

腰に木球の袋を下げる。

 

訓練用の短剣を確かめる。

 

手には、リーナの布を巻いた。

 

息を吸う。

 

吐く。

 

観覧席を見ると、レオスが手を上げていた。

 

リーナは両手を握っている。

 

マリベルは身を乗り出し、エレシアは背筋を伸ばして座っていた。

 

少し離れた場所に、カイルもいる。

 

その奥に、カリンの姿が見えた。

 

盾は持っていない。

 

今日は観覧側だ。

 

目が合った気がした。

 

カリンが小さく頷く。

 

足の裏に力が戻った。

 

名前が呼ばれる。

 

「ヨウカ」

 

白線の内側へ入る。

 

向かい側で、ガルドが槍を構えた。

 

「ガルド」

 

距離はある。

 

けれど、槍なら届く。

 

教師が中央に立つ。

 

「礼」

 

頭を下げる。

 

顔を上げた時、穂先を見そうになった。

 

見るのは、そこだけではない。

 

前足。

握り。

肩。

土を踏む音。

 

小さな光を、指先に沈める。

 

闇は一瞬だけ。

 

精霊の気配は、今は探さない。

 

教師の手が上がった。

 

「始め」


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