なんか真似はあぶないらしい
翌日の教室で、俺はたくさん声をかけられた。
席に着く前から、左右を囲まれる。
「ヨウカ、昨日カイル様と話してたよね」
「光魔法、もう一回見せて」
「明るさだけ下げるのって、どうやるの?」
鞄を机に置きたい。
椅子にも座りたい。
前にも横にも人がいる。
「魔法は、授業で」
「少しだけ」
「だめ」
思ったより強い声が出た。
声をかけてきた子が、目を丸くする。
近くにいた男子まで黙った。
俺も口を閉じる。
「……先生がいる時にする」
言い直すと、前にいた子がふっと笑った。
「分かった。授業の時ね」
「先生がよければ」
「うん。先生がよければ」
さっきより、声が柔らかくなった。
隣の男子は、まだこちらを見ている。
目が合うと、慌ててそっぽを向いた。
……なんだ?
リーナが教科書を出しながら頷く。
「私も、その方がいいと思います」
集まっていた子たちは、少しずつ離れていった。
やっと椅子に座れる。
マリベルが隣で笑っていた。
「だめ、って言った時の顔、かわいかった」
「かわいくない」
「今もかわいい」
「やめて」
近くの子が、小さく笑った。
俺は鞄を机に置く。
もう何も言わない。
最初の座学が終わり、二限目は魔法制御だった。
小訓練室へ行くと、リーナとカイルが先に来ていた。
昨日、火を大きく出した男子。
水を落とした女子。
他にも数人がこの授業を選んでいた。
担当は昨日と同じ教師だった。
机の上には、水晶板と金属板が置かれている。
「昨日、他の人の魔法を見ましたね」
教師は訓練室を見渡した。
「見て覚えるのは大事です。ですが、見ただけの魔法を教室や廊下で試してはいけません」
室内が静かになる。
「やりたいことがあるなら、この授業で言いなさい。教師の前で試すこと」
火の男子が背筋を伸ばした。
俺も、朝の教室を思い出す。
断っておいてよかった。
最初に呼ばれたのは、その火の男子だった。
今日は火が小さい。
消えそうだ。
教師が見る。
「昨日より抑えましたね」
「はい」
「火力があるのは長所です。怖がりすぎると、今度は扱えません」
男子は唇を結ぶ。
指先の火が、ゆっくりふくらんだ。
昨日ほど大きくはない。
揺れながらも、形を残している。
「それでいい」
男子の肩から力が抜けた。
次は水の女子だった。
手のひらの水は、昨日より丸い。
動かすと揺れた。
床へ落ちる前に、自分で戻す。
「今の揺れを覚えておきなさい」
教師が言う。
「落ちる前に戻せています」
「はい」
女子はほっとした顔で下がった。
「次、カイル・フォルデラ」
カイルが前へ出る。
水が浮いた。
昨日より低い位置で、小さくまとまっている。
その周りを風が回った。
水が揺れるたびに、風の向きが変わる。
見栄えより、落とさないことを優先しているのが分かった。
教師が頷く。
「低くしましたね」
「はい。高くすると、落とした時に散るので」
「よろしい」
カイルは水玉を水晶板へ移した。
石の上で静かに収まり、風と一緒に消える。
戻る途中で目が合った。
カイルは軽く笑った。
俺も笑い返す。
近くの子が、それを見ていた。
「次、ヨウカ」
前へ出る。
水晶板の前に立ち、手のひらを上げた。
昨日より、最初から見える大きさで光を出す。
手の上に、白い玉が浮かんだ。
明るさは抑える。
「昨日より良い」
教師が言う。
「はい」
「ただ、少しぼやけています」
俺は白い玉を見る。
明るさを下げた分、形まで甘くなっていた。
光を締める。
白い玉が、きれいな丸に戻った。
「それです」
教師が記録板に書く。
「大きさと明るさを分けて扱えています。次は、動かしても形を崩さないように」
「はい」
光を水晶板へ移した。
揺らさないように置き、そのまま消す。
昨日より、手の中に感覚が残った。
列へ戻ると、リーナが両手を握っていた。
「大丈夫?」
小さく聞くと、リーナは頷く。
「昨日よりは」
リーナの番になる。
手のひらに土の粒ができた。
昨日より小さい。
丸い形は保てている。
リーナは息を止めかけて、すぐ吸い直した。
教師が言う。
「そのまま。今です」
リーナは土を消した。
手の中から、すっと色が抜ける。
戻ってきたリーナの顔は明るかった。
「できました」
「うん」
「手は震えました」
「それでできたなら、いいと思う」
リーナは目を丸くして、それから笑った。
授業の終わりに、教師はもう一度だけ言った。
「人の魔法を見て、自分もやりたくなることはあります」
訓練室が静かになる。
「それ自体は悪いことではありません。ただし、魔法は遊びではありません。試すなら授業で。廊下や教室では出さないこと」
小さく返事がそろった。
「はい」
小訓練室を出ると、廊下にマリベルがいた。
壁にもたれて、こちらへ手を振る。
「お疲れ」
「待ってたの?」
「たまたま」
「本当?」
「嘘」
隠す気がない。
マリベルは俺の手を見る。
「光、今日はどうだった?」
「昨日より大きく出せた」
「おお」
「でも、少しぼやけた」
「難しいね」
「うん」
カイルが後ろから出てきた。
近くにいた生徒が、自然に道を空ける。
カイルはそれに気づいて、困った顔をした。
「ヨウカ」
「はい」
「さっきの光、分かりやすかった。明るさを下げると、丸さまで崩れるんだね」
見られていた。
「カイルの水も、落ちないように風が動いてた」
「見えてた?」
「うん」
カイルは嬉しそうに笑った。
「派手に見せるより、落とさない方が難しいんだ」
「そう見えた」
近くの子たちが、ちらちらこちらを見る。
カイルは気にしないふりをしている。
マリベルが横から囁いた。
「聞きたい人、増えるよ」
「嫌なこと言わないで」
「もう増えてると思う」
否定できなかった。
その日の夕方、寮の廊下で白い光を見た。
一年生の男子が、手のひらに小さな光を浮かべている。
周りの子が覗き込んでいた。
「さっき聞いたやつ、できる?」
「明るさだけ下げるんだろ」
「こう?」
白い光が大きくなり、ぐらついた。
俺が声をかける前に、寮監の声が飛ぶ。
「廊下で魔法を出さない」
光は消えた。
男子たちは頭を下げ、散っていく。
俺は、消えた場所を見ていた。
白さは残っていない。
手のひらだけが固くなる。
マリベルが横で呟く。
「聞いた話って、すぐ試したくなるんだね」
「魔法でやることじゃない」
「うん」
マリベルは笑わなかった。
なんか真似は危ないらしい。
次も、寮監が先に見つけるとは限らない。




