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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第五章 アレクシア学園入学編
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なんか魔法は見せ方も難しいらしい

魔法制御の授業は、石造りの訓練室で行われた。


机の上には、水晶板と薄い金属板が置かれている。


魔法担当の教師が前に立った。


「今日は威力だけを見ません」


何人かが顔を上げる。


「強く出せることは長所です。小さく保てることも長所です。ただし、最後まで扱えて初めて魔法です」


教師は水晶板を指で軽く叩いた。


「出す。保つ。弱める。消す。そこまで見ます」


最初の生徒は火だった。


指先に灯した火が、思ったより大きくなる。


近くの子が身を引いた。


火を出した本人の顔も固まる。


「慌てて消さない」


教師の声は低いが、急がせない。


「火は出ています。そこはよろしい。次は小さく」


炎が揺れながら細くなった。


最後は、指先の灯りだけになる。


「よろしい。火力があります。それは長所です」


火の生徒は、息を吐いた。


「ただし、最初の大きさでは周りが下がります。次は場所を見て出しなさい」


「はい」


次の生徒は水だった。


手のひらに作った水が、すぐ床へ落ちる。


「あっ」


「触らない。集め直しなさい」


落ちた水が、ぎこちなく丸まった。


床を少し濡らしながら、手の上へ戻る。


「落としても戻せた。次は落とさずに保つ」


「はい」


列の後ろで、マリベルが息を吐いた。


「派手じゃないのに難しそう」


「派手にする前の授業だから」


「なるほどね」


リーナは自分の手を見ていた。


緊張している。


けれど、目は逸らしていなかった。


「次、カイル・フォルデラ」


金髪の少年が前へ出る。


訓練室のざわめきが小さくなった。


カイルは教師に一礼し、手のひらを上げる。


水が浮いた。


小さな玉だった。


その周りを、風が回る。


水玉は揺れたが、崩れない。


包むというより、支えているように見えた。


カイルが指を動かすと、水玉は水晶板の上へ移った。


石の上で一度だけ回り、静かに止まる。


風も水も、同じ場所で消えた。


「よろしい。水も風も乱れていません」


「ありがとうございます」


カイルは礼をして列へ戻る。


途中で目が合った。


軽く頷かれる。


俺も頷き返した。


それだけなのに、近くの子がちらりとこちらを見る。


フォルデラ家の名前は、やはり軽くないらしい。


「次、ヨウカ」


俺は前へ出た。


水晶板の前に立つ。


「光を」


「はい」


手のひらに、白い光を出した。


爪の先ほどの光。


揺れない。


眩しくもない。


教師は少し待つ。


「ヨウカ、それでは記録しにくい」


「はい」


「もう少し見せる大きさで」


俺は光を広げた。


手のひらに乗る玉くらい。


白さが水晶板に映る。


近くの生徒が目を細めたので、形は残したまま明るさだけ落とす。


教師の眉が動いた。


「今の調整は?」


「眩しそうだったので」


「よろしい。大きさと明るさを分けられています」


「はい」


光を水晶板の上へ移す。


丸い形を保つ。


強くしすぎない。


薄くしすぎない。


消す時は、端から白さを抜いた。


水晶板の上に残っていた光が、ゆっくり消える。


教師が記録板に書き込む。


「制御は良い。もう少し見せる大きさで始めなさい」


「はい」


それ以上は言われなかった。


列へ戻ると、マリベルがこちらを見る。


「小さすぎって言われてた」


「聞こえてた」


「聞こえるよ。前だし」


「言わなくていい」


リーナが口元を押さえた。


エレシアは水晶板の方を向いたまま言う。


「消し方は綺麗でした」


「ありがとう」


「最初は、本当に小さかったです」


「……はい」


そこは言い返せなかった。


リーナの番になった。


手のひらに土の粒を作る。


粒はすぐ崩れ、粉になって落ちた。


リーナの肩が跳ねる。


「すみません」


「謝らなくていい。もう一度」


教師が粉を払う。


二回目。


土の粒は、短い間だけ形を保った。


崩れる前に、リーナが自分で消す。


「今の方がいい」


教師が頷く。


リーナは戻ってきて、胸の前で手を握った。


「消せました」


「うん」


「手が震えました」


「でも、止められた」


リーナは目を丸くして、それから笑った。


授業が進むにつれて、訓練室にはいろいろなものが残った。


火の熱。


濡れた石の匂い。


土の粉っぽさ。


風で擦れた紙の音。


教師は怒鳴らない。


出しすぎた子も、小さすぎた子も、途中で止める。


「今の大きさは長所です」


「止め方が雑です」


「周りを見なさい」


「消すまで気を抜かない」


強い魔法は褒められた。


小さく保つ魔法も褒められた。


けれど、止められないものは何度もやり直しになった。


授業が終わり、廊下へ出る。


石の部屋から出ると、音が広がった。


マリベルが伸びをする。


「魔法って、思ったより地味に疲れるね」


「見てただけでは?」


「見てても疲れるものは疲れるよ」


その横を、カイルが歩いてきた。


何人かが道を空ける。


カイルはそれに気づいて、少し困った顔をした。


「ヨウカ」


名前を呼ばれた。


周りの目が動く。


「はい」


「さっきの光、見やすかった」


「最初は小さすぎたけど」


「その後。眩しそうにした子がいた時、明るさだけ落としたでしょう」


見られていた。


「カイルの水と風も、崩れてなかった」


言ってから、少し迷う。


呼び捨てでよかったのか分からない。


カイルは、そこで笑った。


「カイルでいいよ。同じ新入生だし」


近くの生徒が目を丸くした。


カイルは気にしないふりをしている。


「僕も、風を強くしすぎると水が散る。今日はうまくいっただけ」


「うまくいっただけ、には見えなかった」


「それは、ありがとう」


カイルは少し嬉しそうに言った。


それから、声を落とす。


「フォルデラって呼ばれるより、カイルの方が楽なんだ」


「じゃあ、カイル」


「うん」


短いやり取りだった。


それでも、周りには十分だったらしい。


廊下の端で、誰かが小さく名前を繰り返した。


カイル。


ヨウカ。


また何かが歩き出しそうな気配がした。


マリベルが横から囁く。


「噂の種が増えたね」


「増やした覚えはない」


「種って、落ちる時は勝手に落ちるよ」


嫌な言い方だった。


けれど、否定できなかった。


授業の終わりに、希望札が返された。


投擲の横には、前の書き込み。


短剣の横には、刃先に迷い。


魔法の欄には、新しい文字がある。


光――制御良好。出し始めが小さい。


俺は札を畳んだ。


強く出せばいいわけではない。


小さく出せばいいわけでもない。


なんか魔法は見せ方も難しいらしい。


掌の奥に、消した光の感覚が残っていた。

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