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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
72/165

なんか組み合わせは容赦ないらしい

順位戦の説明から、数か月が過ぎた。

 

短い休みにはフィル村へ戻り、学園へ帰ってきた。

 

帰るたび、アンナは俺の袖口をつまんだ。

 

「また伸びたわね」

 

そう言って、針箱を出す。

 

最初は服の話だと思っていた。

 

けれど、走る時の歩幅も変わった。

 

短剣を構えた時、腕の先が前より遠くにある。

 

朝の走り込みで、息が切れるまでの時間も伸びた。

 

十歳の体は、俺が思うより勝手に育っている。

 

それだけではない。

 

廊下で、視線に気づくことが増えた。

 

光や闇の噂を見る目とは違う。

 

男子がこちらを見て、慌てて目を逸らす。

 

女子が小声で何かを言い、髪の結び目を直してくれる。

 

鏡の前で、襟元や前髪を見る時間が長くなった。

 

乱れたまま歩くのは違う。

 

そう思う自分にも、まだ慣れない。

 

⸻

 

その日の昼、教室前の掲示板に新しい紙が貼られた。

 

学年末順位戦まで、あと十日。

 

紙の前に人が集まる。

 

「もう十日かよ」

 

レオスの声が廊下に響いた。

 

リーナは掲示を見上げたまま、手を握っている。

 

マリベルは紙を読んで、息を吐いた。

 

「急に近く感じるわね」

 

エレシアは集合時刻を自分の記録板へ写していた。

 

カイルは人の後ろから掲示を見ている。

 

笑ってはいない。

 

十日。

 

準備を増やすには短い。

 

諦めるには長い。

 

⸻

 

その日の武器講習は、いつも通り始まった。

 

順位戦が迫っていても、授業の形は変わらない。

 

木剣を持つ者は木剣へ。

 

槍を持つ者は槍へ。

 

盾を選ぶ者は盾へ。

 

短剣組は、訓練場の端に並ぶ。

 

俺も木の短剣を受け取った。

 

セレス先生は補助役の上級生を前に出す。

 

「武器だけを見るな」

 

最初の指示は、それだけだった。

 

順番が来る。

 

上級生の木剣が肩へ向かう。

 

俺は刃先を追った。

 

追った時には、もう遅い。

 

木剣が肩の手前で止まる。

 

「死んでいる」

 

「はい」

 

「刃を追うな。先に動く場所を拾え」

 

次は、握りを見た。

 

木剣が落ちてくる前に、手首が沈む。

 

肩が前へ出る。

 

足が横へ滑った。

 

短剣が腰から走る。

 

木の刃が、補助役の手首の外側をかすめた。

 

当ててはいない。

 

本物なら、切れている。

 

皮膚。

 

その下にある腱。

 

深く入れば、指が動かなくなる。

 

頭の奥で、知識が勝手に線を引いた。

 

叡智が前世の記憶を引き上げる。

 

医学が、手首の中身を今の体へ重ねる。

 

嫌な見え方だった。

 

浅く裂けば、握りは崩れる。

 

深く入れば、戻らない傷になる。

 

「今のは生きている」

 

セレス先生が言った。

 

「浅い。狙いも悪くない」

 

「はい」

 

「傷だけ見れば手が止まる。動く場所を見ろ」

 

「はい」

 

その後は、続かなかった。

 

刃を追って遅れる。

 

浅くしようとして届かない。

 

深く入りすぎて腕を押さえられる。

 

「深い」

 

「遠い」

 

「剣を見た」

 

「肘が逃げた」

 

セレス先生の声は短い。

 

言われるたび、余計な力だけが削られていく。

 

講習が終わる頃には、指の付け根が赤くなっていた。

 

⸻

 

リーナが濡らした布を持ってくる。

 

「冷やしてください」

 

「ありがとうございます」

 

布を受け取ると、リーナは俺の手を見た。

 

「見ていて怖かったです」

 

「私も怖かったです」

 

リーナの眉が下がる。

 

「短剣は怖いですか」

 

「はい」

 

「怖いまま使うんですね」

 

「はい」

 

口にすると、胸の奥が重くなった。

 

切る場所を選ぶ。

 

深さを選ぶ。

 

それを、自分の手でやる。

 

マリベルは横から覗いて、笑わなかった。

 

「嫌そうな顔」

 

「嫌です」

 

「楽しそうにやられる方が怖いわ」

 

それは、そうかもしれない。

 

⸻

 

次の魔法講習では、木札を的にした。

 

レヴィン先生が訓練場の端に札を立てる。

 

火は札の表面を焦がした。

 

水は音を立てて弾けた。

 

風は札を揺らした。

 

カイルの水の粒は、風に支えられて中央へ当たる。

 

乾いた音がして、木札が揺れた。

 

「ヨウカ」

 

レヴィン先生が俺を見る。

 

「光を届かせろ。照らすだけで終わるな」

 

手のひらに光を作る。

 

丸く保つ。

 

指先から離す。

 

光は木札の手前でほどけた。

 

「形を捨てるのが早い」

 

もう一度。

 

木球を投げる時の感覚を借りる。

 

手だけで押さない。

 

体を固めない。

 

指先から、光が離れた。

 

木札の前で弾ける。

 

当たってはいない。

 

近くにいた男子が、反射でまばたきをした。

 

レヴィン先生が頷く。

 

「今のを覚えろ」

 

「はい」

 

「目を焼くな。瞬きで十分だ」

 

瞬き。

 

それだけで、相手の判断は切れる。

 

木札を壊す威力はない。

 

皮膚も裂けない。

 

それでも、突っ込んでくる相手の一歩が乱れれば、距離は変わる。

 

光は、傷を作らなくても使える。

 

その感覚が、手の中に残った。

 

⸻

 

放課後、教室前の廊下が騒がしくなっていた。

 

朝とは別の紙が掲示板に貼られている。

 

学年末順位戦。

 

第一試合組み合わせ。

 

レオスが自分の名前を見つけて声を上げた。

 

マリベルは相手の名前を見て、口元を引きつらせている。

 

エレシアは静かに書き写していた。

 

リーナは紙の前で固まっている。

 

俺も名前を探す。

 

一年生だけではない。

 

上級生の名前も混ざっていた。

 

ヨウカ。

 

その横に、対戦相手の名がある。

 

ガルド。

 

「槍の人ですよね」

 

リーナが小さく言った。

 

訓練場へ続く廊下の先に、槍組の生徒たちが見える。

 

その中に、背の高い男子がいた。

 

大きく話してはいない。

 

笑ってもいない。

 

訓練用の槍を持ち、足の位置を確かめている。

 

長い。

 

その一言で、目が止まった。

 

こちらが短剣で届く前に、向こうの槍が届く。

 

手元を見るには、まずその距離へ入らなければならない。

 

入る前に、穂先が来る。

 

掲示板の名前を見直す。

 

ガルド。

 

槍。

 

廊下のざわめきが遠くなった。

 

⸻

 

夜、記録板を開いた。

 

書くことは多かった。

 

背が伸びたこと。

 

視線が変わったこと。

 

光が瞬き一つで相手を乱せること。

 

短剣で見るべき場所が、刃ではなく手元だったこと。

 

けれど、全部は書かなかった。

 

今日の手首。

浅い線。

ガルド。

槍。

 

そこまで書いた時、薄い文字が浮かんだ。

 

【条件を満たしました】

 

【ノーマルスキル:短剣 LV1 を獲得しました】

 

しばらく、文字を見ていた。

 

短剣。

 

ようやく出た。

 

手の中に残っているのは、嬉しさではなかった。

 

木の刃が手首の外側をかすめた時の、嫌な感触。

 

浅ければ済む。

 

深ければ残る。

 

その違いを、自分で選ぶ武器。

 

俺は記録板に一行だけ足した。

 

短剣 LV1。

切る場所を選ぶ。

 

板を閉じても、掲示板の名前は消えなかった。

 

ガルド。

 

こちらが届く前に、槍は届く。


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