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なんか捨て子の女の子に転生したらしい  作者: ダレイワス1世
第六章 アレクシア学園一年目序列戦編
71/163

なんか順位戦は学年を選ばないらしい

順位戦の説明は、翌週の朝にあった。

 

クラリス先生が教室に入り、黒板へ文字を書く。

 

学年末順位戦。

 

その字を見た途端、教室の声が止まった。

 

レオスは背筋を伸ばし、リーナは筆記具を握り直す。マリベルは黒板を見て、エレシアはもう話を聞く姿勢になっていた。

 

俺も筆記具を持つ。

 

「説明する」

 

クラリス先生は前置きをしなかった。

 

「アレクシア学園では、学年末に順位戦を行う。一年から六年まで、参加者は学年を越えて組まれる。形式は一対一」

 

教室がざわついた。

 

一年から六年。やはり、混ざるらしい。

 

「武器、魔法、体術は使ってよい。武器は自分のものを使え。持っていない者は学園が貸す。ただし貸すのは訓練用だ」

 

手が挙がった。

 

「自分のって、本物でもいいんですか」

 

「本物でいい」

 

教室が、一度静かになった。

 

「危ないと判断したものは、こちらで止める。それ以外は使え」

 

黒板に書く。

 

降参。

場外。

戦闘不能。

教師判断。

 

「決着はこの四つだ。教師判断には、実戦なら致命傷になる攻撃が入ったと見なされる場合も含む」

 

教室が静かになる。

 

「首、頭、心臓、腹の深い位置。そこへ届いたと判断されれば、実際に傷を負わせなくても終わりだ」

 

黒板を見る顔が固くなった。

 

「殺すな。それから、悪質なことをするな。反則、暴走、教師の制止無視は失格にする。止められない力は、使わせない」

 

誰も茶化さない。

 

「怪我はする。救護所は開けておく」

 

それだけで、教室の空気が変わった。

 

「上級生は強い。体格も、魔力量も、経験も違う。勢いだけでどうにかなるものではない」

 

上がりかけていた熱が、一度落ち着く。

 

「ただし、下級生が上級生を破る年もある」

 

また顔が上がった。

 

レオスの目が変わる。

 

「珍しい。だが、不可能ではない」

 

短い説明だった。

 

それなのに、教室は授業前とは別物になっていた。

 

⸻

 

休み時間になると、レオスがすぐ来た。

 

「ヨウカ、誰と当たりたい?」

 

「気が早いです」

 

「気になるだろ」

 

「気にはなります」

 

「ほら!」

 

嬉しそうにされても困る。

 

レオスは拳を握った。

 

「俺、上級生と当たったら、一回くらい粘りたいんだよな」

 

「勝つ、ではなく?」

 

「勝てたら最高。でも、まずは一撃入れたい」

 

レオスらしい。前を見るのが早い。

 

「レオスは、剣を持ってるんですか」

 

「家のがある。使っていいって言われた」

 

そういうものか、と思った。

 

その後ろで、リーナが小さく言った。

 

「私は、怪我しないで終わりたいです」

 

「それも大事です」

 

「ですよね」

 

リーナはほっとした顔をした。

 

怖がっているだけではない。自分に必要なことを見ている。

 

エレシアは手元の紙に何かを書いていた。

 

「エレシアさんは?」

 

「余計な失敗を減らします」

 

「失敗、ですか」

 

「不用意に下がる。相手から目を切る。焦って魔力を乱す。そういうものです」

 

エレシアらしい答えだった。

 

マリベルが笑う。

 

「私は相手を見てから考えるわ」

 

「出るんですか」

 

「出るわよ。勝てる相手と勝てない相手くらい、早めに見ておきたいもの」

 

「商人ですね」

 

「学生よ」

 

本当だろうか。

 

「ヨウカは?」

 

マリベルがこちらを見る。

 

「何をするつもり?」

 

「何を」

 

「投げるのか、短剣なのか、魔法なのか」

 

「全部、中途半端です」

 

「またそういう言い方をする」

 

「足りません」

 

使ったことのあるものは増えた。胸を張れるものは少ない。

 

「まず、倒れない体力をつけます」

 

マリベルが黙った。それから笑う。

 

「そこから?」

 

「そこからです」

 

三日続けて動いただけで疲れている。順位戦どころではない。

 

⸻

 

放課後、訓練場で上級生の試合を見た。

 

説明を聞いた一年生たちが集まっている。俺も来た。見ない理由がない。

 

出てきたのは、二年生の男子と、五年生の女子だった。

 

どちらも木剣だ。二年生の方は、学園の棚から出してきたものらしい。

 

魔法はなし。

 

教師が短く合図する。

 

試合は静かに始まった。

 

二年生は速い。足も、剣も、一年生とは違う。

 

五年生は崩れなかった。

 

大きく動かない。受けて、ずらして、半歩入る。

 

木剣が二年生の肩の手前で止まった。

 

一度目。

二度目。

三度目。

 

二年生が下がる。息が乱れている。

 

五年生は、呼吸も姿勢も変わらない。

 

レオスが隣で呟いた。

 

「……強」

 

同じことを思った。

 

派手ではない。なのに、届かない。

 

二年生が踏み込んだ。今度は速い。

 

五年生の木剣が遅れたように見えた。

 

違う。誘っていた。

 

二年生の剣が空を切る。足元を崩される。

 

転ぶ前に、五年生の木剣が喉元の手前で止まった。

 

「そこまで」

 

教師の声が響く。

 

すぐには誰も声を出さなかった。遅れて、訓練場がざわめく。

 

上級生は強い。知っていたつもりだった。見た方が早い。

 

「あの人たち、木でしたね」

 

リーナが言った。

 

「持ってないんだと思います」

 

「五年生でもですか?」

 

「たぶん」

 

学園で借りられるなら、無理に買う理由もない。家にあるかどうかの話でもある。

 

そう考えると、当たる相手が何を持って出てくるかは、当日まで分からないことになる。

 

「ヨウカさん」

 

リーナが小さく言った。

 

「今、すごく考えてますね」

 

「はい」

 

「怖いですか?」

 

「怖いです」

 

「でも、嫌そうではないです」

 

返事に迷った。

 

怖い。見たい。試したい。

 

その三つが、同じところにあった。

 

「怪我しないようにはします」

 

「それは絶対です」

 

リーナが強めに言った。

 

俺は頷いた。

 

「はい」

 

⸻

 

その日から、練習の形が変わった。

 

朝は走る。速さより、続けることを優先した。

 

リーナは途中まで一緒に走り、三日目で歩きに変えた。

 

「無理しない練習です」

 

そう言って、胸を張る。

 

それでいいと思う。

 

投擲は、小さい動きほど乱れた。大きく投げれば当たる。小さくすると、左下へ落ちる。

 

投擲担当の教師は、毎回同じことを言った。

 

「手で直すな。足から」

 

短剣は速さが足りない。丁寧すぎて間に合わない。

 

セレス先生は容赦がなかった。

 

「今のは死んでいる」

 

「はい」

 

「今のは生きているが、指がなくなる」

 

「はい」

 

分かりやすい。心臓に悪い。

 

使うのは学園の木の短剣だ。自分のものは持っていない。

 

村を出る時、ヨシュアは剣を持たせなかった。学園で必要なものは学園で覚えろ、ということだったのだと思う。

 

闇の膜は、破片の代わりに軽い木片を使った。

 

大きくしない。

薄くしない。

抱え込まない。

 

カイルが水と風で木片を流す。

 

初めは抜ける。弾く。床へ転がる。

 

何度目かで、ぱた、と勢いを失って落ちた。

 

指先が冷える。

 

「持続しすぎるな」

 

レヴィン先生が言う。

 

「はい」

 

「受けたら落とす。抱えるな」

 

「はい」

 

闇は、掴むものではない。止めて、落とす。

 

今は、それだけで手いっぱいだった。

 

⸻

 

二週間が過ぎた。

 

最初に聞かれたのは、光と闇。次に、投擲。その次に、順位戦。

 

最近では、宿題の場所を聞かれることもある。

 

「ヨウカさん、ここって何を書くんですか?」

 

「王国史なら、建国年だけでなく、なぜそこに都を置いたかも書くといいと思います」

 

「ありがとう!」

 

「ただ、私も間違えるので確認してください」

 

「そこまで丁寧なんだ」

 

遠巻きに見られるだけだった頃より、声は近くなった。

 

疲れる。でも、悪くはない。

 

一か月が過ぎる頃には、朝の走り込みで息が切れるまでの時間が伸びた。

 

リーナは途中で歩く。マリベルは走る前から「私は無理をしない派」と宣言する。エレシアは姿勢よく走る。

 

カイルは涼しい顔で横を走る。

 

腹立たしい。

 

「ヨウカ、顔」

 

カイルが言った。

 

「何ですか」

 

「今、僕に腹を立ててる顔だった」

 

「していません」

 

「してたよ」

 

「少しです」

 

「正直」

 

「余裕そうなので」

 

カイルは笑った。

 

「余裕ではないよ」

 

「説得力がありません」

 

「じゃあ、順位戦で見せる」

 

「やめてください」

 

「順位戦だから」

 

「なおさらやめてください」

 

カイルは楽しそうだった。悪気はない。だから困る。

 

⸻

 

訓練場の端では、三年生が練習していた。

 

その中に、カリンがいた。

 

盾を構える。剣を振る。

 

受けるだけではない。踏み込み、切り返し、一撃を入れる。

 

盾で守り、剣で攻める。

 

周囲の三年生より、動きが静かだった。

 

弱い静けさではない。必要なところだけが動く静けさ。

 

足を止めかけた。止めなかった。ここで止まると、見入っているのがばれる。

 

「見てるね」

 

カイルが言った。

 

「見ています」

 

「素直」

 

「隠す方が不自然なので」

 

カイルは同じ方向を見る。

 

「カリン先輩、強いよね」

 

「はい」

 

「でも、あの上にもいる」

 

「分かっています」

 

四年生、五年生、六年生。この学園には、まだ上がいる。

 

カリンも強い。カイルも強い。知らない誰かも、きっと強い。

 

順位戦は、それを同じ場所に並べる。

 

俺はまだ一年生だ。勝てない相手の方が多い。

 

それでも。

 

何もできないまま終わるつもりはなかった。

 

⸻

 

夜、記録板を開いた。

 

順位戦は、一年から六年まで学年を越えて組まれる。

一対一。

武器は自分のもの。無ければ学園が貸す。

勝負は、降参、場外、戦闘不能、教師判断。

致命傷になる攻撃は、当てなくてもそこで終わり。

殺すな。悪質なことをするな。

上級生は強い。それでも、下級生が勝つ年もある。

投擲は、小さい動きで左下へ落ちる。

短剣は丁寧すぎる。

闇の膜は、受けたら落とす。

体力は足りない。

 

やることが多い。多すぎる。

 

でも、全部必要だ。

 

俺は記録板の最後に、短く書いた。

 

投げる。

外す。

止める。

落とす。

見る。

 

それだけ書いて、板を閉じた。

 

明日も走る。

 

リーナは途中から歩くだろう。マリベルは何か言う。エレシアは姿勢よく準備運動をする。カイルは普通に走れる。

 

俺は、置いていかれないように足を動かす。


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